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第9話 楽しかったです!!



由衣(ゆい)……そのまま聞いて欲しいんだけど……」

「なぁに?」

 顔を上げ、首を傾げながら俺の方へ視線を向けた由衣に対して、俺は窓の外に視線を移しながら言葉を続ける。


「俺は……由衣の事を護りたいと思っている。誰からでも……でも、その為には知らなきゃいけない事があるんだ」

「え!? 護るって、え!? 知らなきゃって……どんな事?」

 左手の人差し指で自分を指しながら目をぱちくりと(しばた)かせながら由衣が驚く。

 視線を店の外から由衣の顔に移し、そのままジィっと見つめる。由衣のホホがほんのりと赤く染まるのを見て沸き上がる気持ちをグッと堪える。


「由衣……君の事だ。俺は君の事を良く知らない……いや知らなすぎる。これから君を護るために……由衣、君の事を俺に教えてくれないか?」

「私の事を? 護る……」

「うん……だめ、かな?」

 少しの間、そのまま固まっていた由衣は、右手に持っていたフォークをケーキの乗っている皿に戻し置くと、そのまま俯きながらもじもじとしだした。

 恥ずかしながら考えているようだ。由衣の考えが纏まるまで俺はコーヒーを飲んだりしながらそのまま様子を伺う。


――突然こんな事言っても難しいかな……?

 ふと由衣に視線を戻すと、一人百面相のように表情をくるくる変えている。その様子が可笑しくて少し声に出して笑ってしまった。


「な、なんですか?」

「ううん。何でもないよ……くく……」

「もう!!」

 ホホを膨らませて怒る由衣が可愛いと思うけど、それを誤魔化すようにまた笑う。

 ちょっと笑いすぎたかなと平常心を取り戻し、由衣の方を見ると俺に向かって静かに微笑んでいるように見えた。


「やっぱり……優しいですね(ひじり)さんって」

「へ!?」

 しっかりと俺の顔を見つめ続ける由衣と視線がバチっと合った。

「私の事なんてほっといてもいいのに……自分の事みたいに考えてくれて。やっぱり優しい。どうしてそんなに優しくしてくれるの?」

「それは……」

「それは?」

 由衣の質問に言葉が詰まる。経験上、こういう場面では取り繕う事をせず、素直な気持ちを言う事が大事だと知っている。


――逃げるのは簡単だけど、由衣の質問に答えてあげたい。


「由衣の笑顔を見たいから。俺は由衣の笑顔が好きなんだ」

「す、好き……?」

 呟くように言葉にした由衣は、慌ててフォークを持ち直し、ケーキを切り刻み始めた。

「また……そう言う事言うんだもんなぁ……」

「え? 何?」

 カチャカチャと食器が鳴る音で良く聞こえずに聞き返す。


「な、何でもないよ!! ばかぁ!!」

「バカって……何で?」

 俺の質問に対する答えは返ってこなかった。代わりに帰って来た言葉。

「わ、私の事ばかりじゃ不公平だから、聖さんの事も教えてよ?」

「もちろん!!」

「じゃぁ……いいよ。教えてあげる。それと……」

「それと?」

 今度は由衣が窓から外を見るように顔を向ける。少しクチを(とが)らせながら。


「さっきみたいなのは無しね!!」

「さっきの……って?」

「また天然発言なの!?」

「何が?」

「わかんなきゃもういいよ!!」

「何だよ。俺何か言ったっけ?」

「もういいってば!!」

 この後少し、俺と由衣で押し問答が続いた。途中で二人可笑しさが込み上げてきて自然と笑顔になって楽しかった。

 




 聖さんがトイレに行く為席を外した――。

 私は一人窓の外を眺めている。先ほど聖から放たれた言葉が頭の中を行ったり来たりする。


「由衣の笑顔を見たいから。俺は由衣の笑顔が好きなんだ」


――本気……なのかなぁ……?

 思い出しては考えて、そのたびに私の顔が熱くなっていくことを感じた。一人の格闘が聖さんが戻ってくる間しばらく続いた。






 

 いつもと変わらない誕生日だと思っていた。

 自分の隣で並びながら歩く女の子がいる。周りからどう見られているのかなんて今は関係ない。俺の隣には女の子が並んで歩いている。ただそれだけで……いつもと同じじゃない時間が流れていると感じていた。


 喫茶店から出て目的もなくただ歩いている現在――。


――そんな事を想ってもいいんだろうか……?

 彼女の隣にはもっと別な誰かが相応しいんじゃないか……? もっと……歳の近い男の子なら話も合うだろうし……。

 彼女の話を聞きながら、頭の中では別な事を考えてしまっている自分。彼女はたぶん……今、この時間を楽しんでいると思うのに。自分はどうなんだろう……?

 どうしても由衣との歳の差の事を考えてしまう。


「あの……聖さん」

「え!?」

 隣を歩いていた由衣が立ち止まる。呼ばれた声にびっくりして由衣の方を向いた。

「聖さんは楽しくないですか?」

「え? いや、楽しい……よ?」

 少し前に考えていた事を由衣の方から聞かれてドキッとした。


――まさか心を読まれたのか?


「そうですか……でも、残念です」

「ざ、残念?」

 何がどのように残念なのかまったくわからず首を傾げる。

「はい!! すみませんもう駅なんです……」

 由衣は言いながら、右腕をスッと伸ばして人差し指を前に伸ばした。目の前には、今朝自分たちが降りた駅から一つ分隣の駅の看板を付けた建物が建っていた。


「え!? そんなに歩いたのか……そうか、どうしよう? これから時間あるなら夕ご飯とか……」

「ごめんなさい!! 今日はそんなに遅くならないって言ってあるので両親が待ってると思うんです!!」

 横にいた由衣が俺の前にスッと移動して、顔の前で両手を合わせて目をバッテンにしていた。


――ああ……これは()()()()()って事だよな……。


「あ、もちろん。うん分かった。じゃぁ帰ろうか……」

「はい!!」

 俺からの返事と共にまた二人で歩き出す。目の前の建物の中に入って改札を抜けてホームへ向かい電車を待った。残念ながら俺と由衣は方向が違うらしい。でも最低限のマナーとして彼女の使うホームで一緒に電車を待った。

 数分おきに来る電車だから間もなく次の電車も来るはず。ホームに並んで立って待っている二人。


「あの……」

「ん?」

 小さな声で呼びかけられて隣を見る。由衣は下を向いているようでその顔は見えなかった。


『〇〇番ホームに〇〇行の電車が間もなく到着しま~す』

 構内に流れるアナウンスと共に左右を確認する。するともうすぐそこまで電車が来ていた。

 そのまま二人の前を流れるように電車が滑り込んでくる。

「あの!!」

「ん? なに?」

 停まったと同時にドアが開いて人が乗り降りする。そして由衣もまたその電車に乗り込んで行った。


『ドアが閉まりま~す』

 アナウンスの後にドアが閉まり始める。


 クルっとこっちを向いた由衣。


「楽しかったです!! また誘ってくださいね?」

 由衣の言葉と同時に閉まったドア。


 目の前にはあの笑顔をした由衣がいた。


――え!?

 そのまま電車は由衣を乗せて走り出す。俺は視線だけその様子を追いかけた。彼女は笑顔のまま右手をブンブンと振ってくれていた。









「で? どうすんのお前?」

 目の前にむさい男と顔を合わせながら缶ビールを飲んでいる――。

 由衣を駅で見送ってから自分の住むアパートへ帰る途中で電話がかかって来た。相手はもちろん栄太(えいた)で、誕生日を祝ってやるとか言いながら家まで来いと誘ってきたのだ。先ほどまでの余韻(よいん)を感じるべく一度目の電話は拒否して切った。ヤツはそんなに甘くなかった。


 二度目も三度目も電話はかかってきて、四度目からは無視していたけど、なんとヤツは奥さんの奈緒(なお)からも誘いの電話をよこすという強硬手段にまで出て来て、断り切れずにとうとう来てしまったのである。


「で、どうなのよ?」

「どうなのって……」

 ビールを片手に持ちながらニヤニヤとしている栄太の顔にムッとしながらも、自分から何も言葉が出てこない事に驚いた。自分でもこれからどうしたいのか具体的に考えていないのだ。


「なになに? 何の話?」

 おつまみをトレーに乗せてエプロンをしたまま栄太の奥さん奈緒が入って来て、テーブルの真ん中に置いた。そしてそのまま栄太の隣に座る。

 ぼーっとしたままその様子を見ていた。


 奈緒――。

 大学時代に強く()かれていた女の子。大きな黒い瞳に黒いサラサラな長い髪。色白で顔も小さい。顔がギュッとつまっているというか……(まと)まってる感じ。かわいいというより、綺麗なお姉さん系の美人だった。

 それは栄太と結婚して子供が出来た今も変わっていない。大学生時代のまま……あのままの彼女が目の前にいた。


「いや、前に話したろ? 聖の今の彼女の女子高生の話さ」

「え? なに? もう手を出しちゃったの? 通報案件かしら?」

 そう言ってスマホを取り出す菜緒。

「いやいや違うから!!」

「あ、もしもし?」

「だぁ~!! 本当に電話すんな!! 菜緒スマホよこせ!!」

「冗談よ」

 べ~っと舌を出しながら笑う。顔はあの当時のままだ。


――けどさ……心臓(しんぞう)に悪い……やっぱり来なきゃよかったな……。

 そう思いながら二人から顔を隠すように横を向いてぐびぐびとノドを鳴らしながらビールを飲み込む。


「でもな聖……」

「ん?」

 真面目な声を出した栄太に視線だけを向ける。


「女子高生と付き合うって事は……()()()()()なんだぞ?」

 口に残っていたビールがすごい音を立ててノドを通って行った。

「いやだからまだそういう……」

 缶をダンッと勢い付けてテーブルにおいてから大声を出してしまった事にしまったっと思う。部屋は違うけど子供が寝ているのだ。

「そうねぇ……今は何でも通報とか簡単にできちゃうし、相手の関係なんて通報する方からしたら関係ないもんね」

「そうそう……二人がどう思っているかなんて周りは関係ない。いや面白ければいいなんて思う連中だっているんだ。だから……本気じゃないなら、今のうちに止めちまった方が、お前の為にも、彼女の為にもいいと思う」

 奈緒と栄太の言葉はまったくその通りだと思う。


――でも……さ。


「会ったことあるんでしょ? どんな()?」

「うん? すごく良い子だったよ……」

「そっかぁ……それじゃぁ聖も辛いね……」

 無言で聞いている俺の向こう側で夫婦の会話は続いて行く。


――そう……良い子なんだよ!! だから……だから俺は!! だから……?

 二人の会話を聞きながら今日起きたことを思い出していた。


「お前次第だな、聖」

「最後はそうなっちゃうよねぇ……」

 いつの間にか奈緒までビールを飲んでいて、二人そろってニヤニヤと俺の方を見て笑っていた。



 



 福島夫婦と誕生日を祝うという建前の飲み会を開いている時、俺達の知らないところで、また別の思惑が動きだしていた。


「聖……見つけたわよ……」

スーツを身に纏った、見た目にもキャリアウーマンと思われる女性が家の外から、獲物を見つけたかのような視線を向けつつ(にら)みつけてでいた。




 そんな事も知らず、俺は栄太と奈緒と共に朝までバカ騒ぎを続けるのだった。




お読み頂いた皆様に感謝を!!

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