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【改稿版】出逢ったあの娘は女子高生!? 恋愛しちゃってもいいですか? ~ 30男が恋をした? ~  作者: 武 頼庵(藤谷 K介)


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第7話 えへへっ


 

 開店時間と共になだれ込む人の波――


 我先にと他人(ひと)の事などお構いなしに目の前にあるものを目指していく。その姿はとても輝いて見えるけど、少し冷めた見方を敷いていた俺にはどうしてそこまで他人を振り払ったりかけ分けたり本気になれるのかと考えちゃうけど、好きな物や好きな人に本気で逢いたいと思う気持ちは本物だなと実感していた。


 流れに乗れなかった俺と由衣(ゆい)は入り口から少し入ったところで手を握られたままぼぉ~っと見続けていた。

(ひじり)さん……出遅れちゃいましたね」

 目の前の波を見ながら由衣がボソッとこぼした。

「結構人気なんだな……」

 ため息交じりに俺も小さな声が漏れた。


「な、何言ってるんですか!! あれほど凄いって言ってたじゃないですか!! 本気にしてなかったんです!?」

 クルっと俺の方に体を向けて胸の前で両手をグッと握り目を輝かせて由衣が俺に抗議してきた。

「え!? あぁ……そうだったね。ごめんごめん……」


 頭をポリポリと掻きながら、周りを見渡してみる。サインをする場所にはすでに人の列ができていて熱気が凄い。目の前の由衣の頭にポンと手を乗せて、握られた手はそのままでほんの並ぶ棚へ向けて歩いて行く。


「え!? あの聖さん?」

「今から並んでも、あの熱にやられそうだから少し落ち着くまで待とう。その前に先生の本が並ぶ棚を見に行こうよ」

「そ、そうですね!!」

 そのまま奥に進んでいった。


 店の中は結構広くてかなりの品ぞろえが有った。由衣の好きなラノベコーナーだけでも棚が二つもあってその中にぎっしり本が並べられている。由衣が立ち止まって目をキラキラさせているけど、お目当ての場所じゃないからと引っ張って後にする。凄く惜しいと思う気持ちが顔に出ている由衣を見ると、自然に笑いが込み上げてきた。


 お目当ての本が特設されているブースにたどり着くと、ラノベの棚の前で見せた以上の笑顔で由衣が食いついている。

「そんなに好き?」

 しゃがんで本を見つめる由衣に声をかけた。

「うん!! 大好き!!」

「っ!!」

 いつものキラースマイルが出てびっくりいた。


――その言葉にその笑顔は反則じゃね……?

 俺の事など気にせずに、目の前の本に夢中になっている由衣。後ろから見るその姿は本当にまだ女の子なのだと改めて思う。


 周りを見れば、少し空いたスペースからサイン会の様子が見えた。列の方は相変わらず切れる様子はないけど、先ほどまでの熱気は少し薄れたような感じがする。


「由衣」

「ん?」

 首をちょこんと曲げたまま俺の方へ顔を向ける由衣にドキッとする。

「あ、いや……そろそろ列に並ぼうぜ」

「わかった。じゃぁこれとこれを買おうかな? 聖さんはどうするの?」

「俺は……由衣と同じこれにするよ」

 そう言って棚の前に多く、つまれていた本から一冊を手に取った。そのまま二人で並んで歩いて行く。今度は手を握られていないから少し物足りなさを感じる。でもこの近さで握るのも不自然だと思いとどまり、グッと手を握る事で気持ちを落ち着かせた。


 列の近くまで来ると、サインをしてちょっとファンと見られる人と話をする先生の姿が見えた。

「かわいいね……」

 自分でも気づかないほどの小さな声が由衣から漏れた。

「あれ? 先生って女性だったのか?」


 由衣の言葉を聞いてから先生の姿を確認する。肩まで伸びた黒い髪を片方はそのまま流し、片方はよつ葉の飾りのついたヘアピンで顔にかからない様にしている。顔も小さく色も白い。目元は下を向いているからよく見えない。


 服装も上着は黒を基調としたシンプルなシャツに薄手の上着を羽織り、白いふわっとしたスカートを履いて椅子に座っている。さすがにまだ学生という事もあってかネイルなど派手なモノはしていない。それがかえって自然な清楚感を醸し出していた。


「やっぱり……聖さんもああいう女性が良いですか?」

「え!?」


 由衣が少しホホを膨らませて俺を向きながらそんな事を言う。てっきり男性が作者だと思い込んでいた俺は、ちょっとサインする姿を見過ぎていたのかもしれない。隣にいる由衣を見ながら反省した。





 完全にこちらを向くことが無く、横向きの顔ででも頬が膨らんでいるのがわかってしまう。その姿を可愛いと思ってしまう自分がいる。


――この子は知ってるんだろうか……?

 その姿が女性らしい仕草であるという事を。そしてそれがかわいらしいという事を……。


「あ、いや。何言ってるんだよ。ほらもうすぐ人も少なくなりそうだから早く並ぼうぜ」

「えぇ~答えになってないよぉ~……」

 頬を膨らせたままの由衣の背中をそっと前に押しながら列に向かって歩いて行く。前を向きなおした由衣が何やらごにょごにょと言っているけど聞こえないのでそのままスルーした。

 こういう時、真っすぐな感情を体と顔で表現できる年代の由衣が羨ましく見えると共に、何事にも流れに乗ることを心がけるようになってしまった自分が情けなくも思った。


 人の流れは見たところ落ち着いたようで、サインをもらいに列に並ぶ人たちもすでに数十人といったところにまで減っていた。腕時計に目を移すと、店に入ってからまだ三十分と少しの時間しか過ぎていない。


 列に並ぶ人が少なくなったとはいえ、完全になくなったわけじゃない。俺達が並んだあとからも自分たちの後ろにすでに数人が並んでいるし、先生の本が並んである場所にはまだ本を手にした人達が居る。

 改めて今日この場所に来ている先生の人気を目の当たりにして、尊敬の念を抱いた。


 そんな由衣には言えないような事を考えている間にも列は進んでいき、由衣と俺の前に数人を残すばかりとなった。


にこっ

――え!?


 ふと先生に視線を移した俺と、ちょうど顔を上げてこちらを向いた先生との視線が重なった時、先生の表情が変わった。


――俺を見て笑った……のかな?

 考えが浮かんだ瞬間に目の前の由衣を見た。

 胸の前に抱いたままの本を大切そうに持ちながら少しぴょんぴょん弾むよに先生の方を向いている由衣を見てホッと胸を撫でおろした。。


――良かった。由衣は気付いてないみたいだ。

 ひとり、また一人とサインを本に書いては一言二言ファンと語ると次の人の本へと手を指し伸ばす菜須先生。あの時の笑顔は気のせいだったと自分に言い聞かせる。


 今の人の番が終れば次は由衣に番が回ってくる。喜んでいる由衣にホホを緩ませていると視線が気になってまた顔を前に向けた。


にこにこ

――え!? え!?

 俺の視線に気づいた先生が明らかに微笑んだ。間違いなく俺を見ながら笑った。


――なぜだ? 俺何かしたっけ? どこか変かな?

「なぁ由衣……俺、どこか……」

「はい。次の方どうぞ……」

 由衣に変かな? と聞こうとした瞬間に係の人から合図の言葉がかかった。跳ねるように前に進んで行く由衣を見て言葉をかける事を諦めた。

「後ろの方もどうぞ……お嬢さんのお連れ様ですよね?」

 綺麗で澄んだ声が目の前の笑顔の女性から発せられた。先ほど感じていた視線は間違いなく俺を見ていたらしい。


「え~っと……並んでいる方に悪いので」

「えぇ構いませんよ。仲が良いご家族ですね。お嬢さんですよね、一緒で大丈夫ですよ」

 後ろに並ぶ人たちにも悪いと思い丁寧に断ろうと思ったら笑顔の主からそんな言葉がかけられた。

「あの俺たち家族じゃないんですけど……」

 家族という言葉に引っかかるけど、ここはしっかりと否定しておく。

「あらあら……それじゃぁ彼女さんかしら……」


「あの!! 私達()()()()()()()じゃありません!!」


 先生の言葉に大きな声で否定する由衣。ビックリした俺と先生が見つめる先には、耳まで真っ赤に染まった顔をして俯く由衣の姿があった。

 そのまま時間にして十秒ほど俺達の周りだけ時間も何もかもが固まったような気がした。



「ご、ごめんなさい。その……向こうに二人でいる時からなんだか仲良さそうだったから、てっきり親子か恋人同士なのかと思っていたの」

 ハッとした感じで一番初めに我に返ったのは菜須先生で、由衣の言葉を聞いて核心に触れない様に良くない方向へ流れかけた雰囲気を戻してくれた。


「え!? あ、あぁ大丈夫です。なぁ由衣?」

「…………」

 サインしてもらった本を胸の前でむぎゅ~っと抱きしめ、顔はまだ耳まで赤く俯いていることが恥ずかしがっているのか照れているのか分からない。俺が書けた声にもちょっと俺の方は見るけど、すぐに本を縦にして目をらして何も言わないままだ。係の人に今日のサイン会でもらえるグッズの入ったナイロン袋を手渡されると、スタスタと先に店の中へと消えて行ってしまった。


「ご、ごめんなさい。そういうつもりじゃなかったんだけど、邪魔しちゃったみたい」

 菜須先生が俺の本にサインを書きながら、凄く沈んだような声で謝罪してくれた。

「いえ。確かに彼女の言うように俺達は()()そういう関係にはなってません。たぶん俺が意気地がないヘタレだからなんだと思うんですよ」

 自分で言いながらちょっと凹んだ。


「そうかなぁ……でもあなたからの気持はなんとなくでも伝わってるような気がしますよ? だからちょっとした勇気をもってみたらいかがですか?」

「勇気……ですか……」

「えぇ……これをどうぞ……」

 そう言うと自分の机の下から何かを取り出して俺の前へと見せた。

「次回のサイン会の優先権です。これをあの子と一緒にお越しください。ちなみにお名前を伺ってもよろしいですか?」

「宮城……聖です」

 先生にお礼を言ってすぐ脇に逸れ、係員からのグッズを貰って一足先に中に戻って行った由衣の姿を探した。

 遠目に「きっと来てくださいねぇ」と言っているのが聞こえるけど、今の俺には由衣を探す方が大事に思えた。だから心のままに行動した。


――由衣はどこだ? 

 辺りをきょろきょろと見回すけどそれらしき姿が見当たらない。仕方なく店の外に出た可能性も考慮して出入り口から一旦外へ出た。そこでもまたきょろきょろとする。


――良かった!! いた!!

 隣のビルの玄関先で日の当たらない壁に背中を預けたまま俯いて立っていた。急いで由衣の元へと駆けていく。






由衣ゆいどうした?」

 俯いていた由衣がちょっと顔を上げた時に一瞬だけど俺の顔を見た。その瞳に溢れそうになっていた涙に気付いた。急いで駆け寄って声を掛ける。

「ううん……何でもないよ」

 首を左右に振り胸の前で両手も振りながら否定する由衣のホホに、一筋の綺麗な雫がこぼれ落ちた。


「何でもないって……何で泣いてるの?」

「何で? 何でだろう? えへへっ……」

 言いながら雫をハンカチでふき取る由衣の姿に心の奥がぎゅ~っとめ付けられた。

「と、とりあえず落ち着く場所に移動しようか」

「う、うん……」

 その場で由衣を隠すように立つと辺りをきょろきょろと見渡す。


――本屋に入る前にも少し確認したけど確か……。


「あった!! あそこに行こう!!」

 立っている場所から道路を挟んで反対側のビルの一階に喫茶店きっさてんらしき店を発見した。後ろを振り向いて由衣の同意を得るように発見した店に向かって指をさした。その仕草に対して由衣からコクンと一つうなずくことを確認して同意を得る。


――とりあえずここを離れよう。

 泣いている女の子をどうしたらいいのか分からずパニックになる。

 仕事で身に着けた[周りの環境を眼に焼き付けておく]事が変な場面で役に立ったと会社に心の中で感謝した。

 由衣の手首を遠慮がちにそっと握り、ゆっくりと喫茶店らしきお店に向かって歩き出した。由衣は何も言わずに俺の後ろをついて歩いてくれる。それだけでもちょっと嬉しくなる自分がいる。


――でも……さっきの涙は何だったんだろう……?

 チラッと後ろを振り向きながら歩く。


「ん?」

「あ、いや……」

 首をちょっと傾げて俺の方を見返す由衣の顔に、先ほどのような涙は見られない。ホッとした以上に首をかしげる由衣の顔にドキッとしてしまう自分が恥ずかしい。



 それから数分してお目当ての店の前にたどり着いた。

「いいかい? 入るよ?」

 一呼吸置くように深呼吸してから隣に並ぶ由衣に声を掛けた。

「うん……」

 そう言うとなぜか恥ずかしそうにホホをほんのり赤く染める。

「どうした?」

「あの……腕を……」

 そう言われて彼女の腕を掴みっぱなしだったことに気付いた。

「え!? あ!! ご、ごめん!!」

 勢いよく振り払うように手を離した。


「ふふふ……」

 ちょっと目を見開いてビックリしたような表情だった由衣が、肩を揺らしながら小さく声を出して笑い始めた。


――なんだこれ……とてつもなく恥ずかしいんだけど、でも……。

 肩を揺らす由衣の笑顔を見ることが出来た。


――そう……この笑顔が見たかったんだよな……



「さ、さぁ……ふふ……入りましょう聖さん」

 その笑顔を俺に向けてくれている。それだけで今の俺には嬉しかった。今度は由衣に手を握られながら二人並んで店のドアを開けた。



お読み頂いた皆様に感謝を!!

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