ポーター体験
渡されたのは、ツナギの作業服。九璃達は、アッチの世界のお嬢様学校の制服って感じ、明るい紺のブレザーに青系のチェックのプリーツ、ブラウスの首にはスカートと共布のリボン。街に下りた時にも思ったが、コッチの女性は露出が多く、スカートは基本マイクロミニ。九璃達の場合、子供なのでそれ程違和感は無いが、街で見掛ける女性の殆どが少し動いただけで中身を披露していた。思えば師匠もヨーコもチラリ放題だった。
随分な違いと思ったが、次の修行に合わせてのチョイス。九璃達は行儀見習いとして、貴族のお嬢様達とマナーとかなんとかを習いに行くそうだ。僕は冒険者ギルドで『ポーター』の仕事をする。10歳から登録できる冒険者の荷物持ち。世間の冒険者が、どんな事をしているのか、ダンジョンや、魔物はどんなモノなのか自分の目で確かめる事が狙いだ。冒険者登録は15歳からなので、冒険者志望の子供は10歳でポーターからスタートっていうのが定番らしい。寮もあるので、そこに入るつもり。
仕度を整えて山を下りる。師匠は、危険な場所には近付くなとか、夜道だどうだとか、若い女性向けとしか思えない注意事項を繰り返した。
「そのツナギはね、魔力を込めたら、簡単には脱がされ無いから、女性冒険者に付く時には忘れずに着るんだよ。」
冗談だよね?女性に襲われる心配なんて要らないよね?一応ウンウン頷いて出発した。街まで皆んな一緒に行って、師匠は九璃達と同行、学校かな?大きな建物の前で別れた。
ギルドまでは歩いて5分程だが、途中に見えた飲食店はどこもウエイターさんばかり、ギルドの受付もお兄さんだった。ポーターの登録と寮の手続きをしていると、ほろ酔いのお姉さんがやって来て、
「坊や、いつから働けるんだい?」
「今からでも・・・」
と言いかけた所に、受付のお兄さんの声が被った。
「登録が終わってませんから、まだちょっと、数日中にはなんとかします。」
「さっさと働きな!」
捨て台詞を残して、バーコーナーに消えて行った。
「君は、山育ちなんだね?世の中の事あんまり知らないみたいだから、寮で教えてあげる、僕は住込で寮の管理人もしているから、窓口が閉まるまで、奥で待ってて!」
事務所の中には、別のお兄さんが2人デスクワーク。奥の大きな机にはオバさんが座っていて、僕に気付いて寄って来た。
「おや?新人ポーター君かな?私はギルドマスターの亜弥、可愛い男の子は大歓迎だよ!」
「セクハラですよ、ギルマス!」
書類と格闘中のお兄さんが牽制してくれた。
「三です、一三。」
漢字を解説すると、
「あら、書きやすい名前ね!ここどうぞ。」
自分が座ったソファーの向を勧めてくれた。そこに座ると、スカートの中がしっかり見えてしまった、慌てて視線を逸らすと、
「大丈夫、勤務中だから穿いてるわよ、襲ったりしないら、リラックスしてね。」
ん?勤務中じゃ無かったら穿いてないの?まあ、誂われているだけだろう。
色々聞かれ、異世界から来て、想定外に若返っちゃって、修行中と伝えた。
「じゃあ!麗先生が教えてるのってキミね!我が家は祖母から麗先生にお世話になってるわ。」
セクハラオバさんが、普通のお喋りオバさんになって少し安心した。しばらく話しを聞かされ、終業のチャイム。
「ギルマスに襲われてない?」
「まだだよ!」
ギルマスは、お兄さんにデコピンしてから自分の席に戻った。
寮に行く前に、夕食に誘われた。
「1ルナも持っていないんで、薬草を売りに行きたいんです、寮の場所は解りましたから、1人で大丈夫ですよ。」
「じゃあ、そこも付き合うよ。」
裏路地のその奥に迷わず進むと、
「き、君、こんな所、平気なの?」
「ええ、案内人に薬草はココって教わって3回目かな?別にコワイ事も無いですよ。」
落ちつかないお兄さんと店に入り、魔女風のお婆さんに、薬草を買い取って貰った。
表の街(?)に戻って、食堂に入った。思えばコッチに来てから、保存食と山で採れた物しか食べて居ない。メニューを見てもピンと来ないのでお兄さんが頼んだ定食にした。生姜焼きっぽい肉、猪系の魔物肉との事だが、ちょっとクセのある豚肉って感じ。普通のゴハンが久しぶり過ぎて、とびきりのディナーに思えた。
「案内人がいるって事は、異世界から来たんだよね?」
耳元でヒソヒソ。転移者って事は隠しておいたほうが良いらしい。
お兄さんの説明によると、転移元は幾つかの世界が有って、そこそこでルールや習慣が違うらしい。
「もしかして、君のいた世界では、男性の方が性欲があったりする?」
どうも、性の立場が逆転している様だ、アッチでは男性が客として払って楽しむサービスも、コッチでは仕事に出来る様だ。ただコッチの貞操観では、最下級奴隷ってイメージらしい。勿論そんな希望は一切無い(と思う)。でカウンターで話し掛けてきた女性冒険者は『千本おろしの聖子』と呼ばれている人で、新人ポーター等の若い男性を誘って、『筆おろし』するのが趣味との事。かなりの美人さんなので、それはそれで良かったかもと思っていると、顔に出ていたようで、またまた注意された。
食事の間に2度逆ナン、あっコッチでは逆じゃないか、ナンパされた。お兄さんが、上手くあしらって店を出た。
「ちょっとキケンな通りだから、声掛けられても、返事しちゃ駄目だよ!」
若いお兄さん達が、塀際に並んでいた。『立ちん坊』という人達で、買ってくれる女性を待っているらしい。
「あら、坊や達、なんでもご馳走するから、私の部屋に来ない?」
1万ルナ札を数枚チラつかせて、腕を掴んだ。
「約束ありますから!」
ダッシュで逃げて、普通の路地に辿り着いた。逃げられる程度のキケンを体験させてくれたようだ。
寮に着いて部屋を案内して貰った。ポーターの部屋は、二段ベッドが2つの4人部屋。稼ぎに合わせた質素な部屋で僕が入って丁度4人埋まった所。挨拶をすると、2人は応えてくれたが、一人はベッドのカーテンを閉めたまま、声を抑えて泣いているようだった。
「風呂場とか案内するね。」
お兄さんは、長居したくない様子だったので、直ぐに部屋を出た。
一通り寮を見せて貰い、お兄さんの部屋に行った。
「さっき、カーテンのままだった彼、今日、聖子さんのパーティーに付いていたんだ。下層で狩った魔物の肉を途中別の魔物に奪われたってオケラで帰ってきたんだよ。きっとその責任を取れって・・・うん、確か彼まだ童貞だった筈だからな・・・。」
勿論ルール違反だが、ポーターとしては、ミッション失敗が表沙汰になると、使ってもらえなくなるので、揉み消して貰うのはメリットだが、見返りは彼の身体だったと思われる。性の立場が逆で、アッチの世界から来た男にとってはヤリ放題のパラダイスだと正直思っていたが、少しずつ、コッチの感覚に同調してきた様な気がする。
部屋に帰ってこっそりルームメイトのステータスをチェック。普通は出来ないし、お行儀の悪いことなんだけどね。僕を含めて3人は童貞、カーテンの彼にはその表示は無かった。
翌朝、部屋の4人で食堂に行き、ギルドへも同行した。顔見知りらしい冒険者さんが来て、ほかの3人は仕事をゲットして出かけて行った。
残っているのは、僕と他の部屋の人が3人。やはり顔見知りに仕事を貰って減って行き、僕だけになってしまった。
「あら、新人さんしか居ないの?仕方がないわね。」
聖子さんのパーティーに付く事になった。昨日失敗した依頼を再チャレンジするそうだ。
15階層までサクサク下りて、猪系の魔物を狩った。その場で解体して食べられる部位を残して焼却、肉は氷の魔法で冷凍して、専用のリュックに詰める。そのリュックを運ぶのがポーターの役目。ポーチがあれば、手ブラなんだが、駆け出しポーターが持っていては不自然なので山に置いてきている。かなりの重さだが身体強化しているので大丈夫。その後、立て続けに2頭仕留め、リュックはパンパンになった。
「昼にしようか!」
聖子の掛け声て、下の階層に降りた。
18階層にあるセーフティーエリアで、狩った魔物の肉を炙り焼き。味もボリュームも満点、女性4人のパーティーメンバーもチヤホヤしてくれて、一昨日迄の僕なら、ハーレム気分で浮かれていただろう。
「もう少し降りて、ウサギ狩ってこう。」
凶暴だが、毛皮が高く売れる、角ウサギを目指して、更に降りる。20階層辺りがポイントの筈だが、
「全然居ないな、もう少し潜ろうか。」
そんなやり取りが繰り返され24階層。地響きと共に現れたのは、身の丈3メートルは有りそうな牛頭の魔物。
「こりゃ、逃げるしか無いね!」
バタバタとスロープを駆け上がり23階層に逃げ込んだ。
「えっ?リュック背負ったまま走って来たの?」
あからさまにガッカリした様子だった。
「で、ソレは?」
「さっきの魔物の角です、逃げるとは思わなかったから、魔力刃を飛ばしたんです。売れるかも知れないから拾って来ました。」
「えっ?あぁ。高価なモノだよ、削って薬にするんだ、あんたのモンだ。」
思い切り不機嫌な様子で角を返して寄越した。
その後は静まり返ったままギルドに戻り、ポーターの日当、千5百ルナを貰って、角を持って、魔女風のお婆さんの店に売りに行った。10万ルナで買い取って貰えた。たぶん3頭分の肉より高額だろう。聖子達の不機嫌の訳が良く解った。




