借金地獄
倒れていた護衛は4人とも、金のバッジを付けているAランカーだった。なんとかギリギリ生きているって感じ、僕のヒール技術では、どうしようもない。慌てて止血を、試みたが、負傷した場所が多くどれも深いので、ほんの数分の延命にもなるか解らない。ヒールを続けていると、三つ子達が他の負傷者を運んで来て4人並べて結界で囲い、百菜は何かを放り込んだ。ガチャンと割れる音がして、負傷者達は全く動かなくなった。
「安楽死?」
「ううん、この中だけ時間が止まっているの、助っ人を頼んだから、きっと助かるわ!」
そう言えば、戦闘開始の前に、万菜が通信用の鳥を飛ばしていた。小型の猛禽類っぽい鳥でメチャ速そうだった。
重傷者の時間を止め、他の人達の様子を見る。馬車にはエアバッグもシートベルトも無いので、魔物にこ突き回されたり、ひっくり返ったりして、ちょっとした交通事故並みのダメージはあるはずだ。中の人達は気を失っているので、ガードの結界を解除することは出来なかった。仕方がないので扉を壊して救出した。他の2台には、意識がある人もいて、中から開けて脱出、それぞれヒールして、事故の詳細を確かめた。
襲われたのは、侯爵家の御令息で第一王女に婿入りが決まっている超VIPだった。かなりの怪我でぐったり、ヒールしても殆ど効果が見られない。しないよりはマシ?こっちも時間止めなきゃダメ?百菜にヘルプを求めたが、時間を止める魔具は、5年玉のように使い切りでかなりの高額なので、1個しか持ち合わせが無いそうだ。他の人達の応急処置を終えた千菜と万菜も交代でヒール、なんとか延命させていた。
「もう少し頑張ろ、あと10分、いや5分かな?」
実際に5分ほどで使いの鳥が帰ってきてその後を馬に乗った女性が追う様にやって来た。
「姉さん、こっち!」
サトシさんが言っていた、凄い治癒師のお姉さんだろう。あざやかな緑の髪が3人とお揃いだった。
どんどん弱っていく未来のプリンスに手をかざすと、
「良く繋いだね、キミ治癒師の才能有るよ!」
パッと輝いたと思ったら、悶絶の表情が消え気持ち良さそうに寝息を立てていた。内臓破裂と折れたアバラが肺を傷付けていて、外傷があまりなかったので、重症に見えずどう対応して良いか解らず非効率なヒールだったが、一応役立っていたようだ。
瀕死の護衛もサクっと回復、日頃の鍛錬のたまものか、気がついたと思ったら回復剤を呷ってすっかり冒険者に戻っていた。
復活した皆さんに改めて経緯を聞いて今回の依頼の状況と総合してみると、ダンジョンに異常が起こり、通常深層に居る魔物が浅い階層に現れる様になり更にはダンジョンを飛び出したと思われる。
今回倒した狼頭の魔物は丁度、依頼の対象だったので、既にクリア出来ているが、ダンジョンの異常に拍車が掛かったと思われるので、ダンジョンの調査することにして、侯爵令息御一行様と別れた。
「私は、彼等と街に戻りますね、ダンジョンの異変のことはギルドに報告しておきます、無理はしないようにね。」
治癒師のお姉さんは一菜さんと言うそうだ。
「もう一人、お姉さん居る?」
「「「ううん、あとは弟だけ。」」」
声を揃えての回答だった。
狼頭の魔物の首を落として確証として回収、魔石は120万で買い取って貰った物よりも大きく、しかも輝いていた。結界にとじ込めた狼達は雷魔法で一気に感電してもらって、サクサクと魔石を集めた。たぶん7、80個?30まではしっかり数えていたけど、飽きてしまって数えなかったから、まあ、その位だろう。
ダンジョンの入口を調べると結界が機能していなかった、元々強い魔物は深層を好むので、雑魚対策。他に外に出た魔物がいるのかは不明だが、さっきの奴等の魔力なら、素通りに近い感覚で通過しただろう。
「半径10キロ内には危険な魔物は居ないよ、ダンジョン内も、2階層までは特に変わった事は無さそうだね。」
スキルを駆使して状況を確認してくれた。
「それから下は?」
「流石にムリだよ、普通は自分がいる階層だけで精一杯だからね!」
2階層に降り3階層をチェック、異変無しを確認してまた降りる。それを繰り返し10階層に到達。
「居るね、デカいの!」
11階層をチェックした三つ子達は、怯えた表情だった。
「多分、今下にいるヤツが下から登ってきて、元々居たのが押し出されるように上に逃げて、しまいには外に出ちゃったんだろうね。」
百菜の分析はきっと当たりだろう。11階層で落ち着いてくれているのなら、取り敢えず、ここまでの報告をして、戦力を整えてからの対応がベストだろう。震える3人を励まし、地上を目指した。
目印を付けた登り口に近付くと、グラリ地震だろうか?足元が揺れた様に思えた。少し急ぎ足で進むと、更に揺れて、地面が崩れ落ちた。
奇跡的に、岩の下敷きになったりせず、ヒールで何とかなる程度の怪我だけで崩落の危機を回避出来た。さてと上をと思ったが、狼頭の上位種と思われる魔物と対峙してしまっていた。
逃げるには距離は近いし、仲良くなれそうもない。戦うしか選択肢は無いだろう。ハラを決めて、風・雷・炎を重ね掛した矢を撃ち込んだ。一応ダメージは有るようだが、然程気にもせずに近付いてきた。闇雲に撃っても効かないだろうな、弱点はどこだ?観察していると、一瞬天井が光り、魔物の上に崩れた天井が降り注いだ。デカい岩の直撃はないようだが、脚が嵌って、身動きがとれなくなっていた。苦しそうに脱出を試みるが土煙に咽て苦戦していた。ここは攻め時と踏み込もうとしたが、結界に阻まれていた。屈強な魔物が、割とセコい技でしかも軽く蹴散らせる強度だった。魔力刃を飛ばしながら間を詰めて、満身創痍の魔物にトドメ!と思ったら、思ったより効いていない。至近距離で炎魔法を目一杯の魔力で撃ち込んだ。今度は効いた様で視界を奪えたと思われるが、文字通り、盲滅法血の刃を飛ばして来た。間を保ちつつ、遠距離攻撃のバリエーション豊かを確かめるように攻め続けた。中々攻めきれずにいると、
「後頭部に氷!」
その通りに狙うがそうカンタンには当たらない、背後に回っても、気配を感じるのか、こっちを向いていた。
「移動の時は攻撃を止めて!」
なるほど、目が見えなくてもこっちに刃を飛ばしてくるカラクリを理解して、そっと背後をとって、渾身の氷魔法をブチ込み、なんとか動きを止める事が出来た。氷魔法を連発して全身を凍らせた。
「融けないうちに首を落して!」
ポーチに仕舞いっぱなしの大剣を取り出し、風魔法を纏わせて力一杯に振り下ろした。大木を伐り倒した時の数倍の手応えでなんとか斬り落とした。
落とした首は確証に持ち帰る、ポーチに重ねてスッと収納。胸の部分を解凍して魔石もゲット。一応、下の階層をチェックしてから地上に戻った。階層を登りながらお喋り。
「天井壊しての攻めは頭脳プレイだったね、でも僕も結構ギリで落ちてきたからちょっとビビったよ。」
「でも、結界でガードしてたでしょ?」
ん?アレ?ああ、魔物の仕業じゃなかったんだ、凶暴な魔物のにしてはセコい作戦出し、襖程度の強度なので不思議に思っていたが、なるほどそれなら納得出来る。邪魔に思って蹴散らした事はナイショにしておいた。
ダンジョン出ると、丁度正式に調査をする騎士隊が到着、11階層で遭遇した魔物の説明をして、持ち帰った首を見せると、隊長は馬から飛び降りて、
「最下層の魔物だ!君達で倒したのか?」
かなり驚いた様子だった。
最強を倒したので安心かと思ったが、なぜ上層に居たのかがわからないと、異変の詳細は解らず、対策も出来ないとの事で、騎士隊の皆さんは、調査に降りて行った。
ギルドに戻り、依頼完了の報告をした。依頼の成果はパーティーに入り、僕は日当だけ。修行の一貫だし、当面必要なお金はキープしているので気にしない。ポーチに入れていた魔石を三つ子に渡そうとしたら、
「アタシ達は成果の分で良いから、アンタそれ、借金払いに使いな!」
遠慮なく受け取り、買取りの店に直行した。
外で倒した3体や雑魚は、ほぼ想定の金額、最強から奪った、特大魔石はなんと6千万。現金で貰う額じゃないので、役場に行って、借金払いに充てる方法を教えても貰った。
早速手続きをして、借り入れ総額が1億4千万ルナ。7千万近く返したが、利息で借金が増えていたので、ガッツリ減った雰囲気ではなかった。
まあそれなりに減ったので、少しは喜んで寮に帰った。早速サトシさんに借金返済の話をすると、
「そりゃ拙いな、今は返済能力のない子供だからって優遇されているけど、1ルナでも返したら、普通の借入れと同じ扱いになっちゃうんだ。」
寮費の優遇とかも無くなり、前金での支払いが必要になった。
「今夜は聞かなかった事にして、そのまま部屋を使うと良いけど、こうなったら、『専属』になるしか無いよ!」
住むところと食事は確保出来て、日当の25日分が基本的に貰える。その他はパーティーとの交渉だが、誘われた時のザックリした数字では、まあまあの条件だったと思う。取り敢えず明日も付く事になっているので、相談してみよう。




