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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
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8 国立対異世界人人材育成高校

 

 ルミーナは数時間対談したはずの俺よりも本選びに時間がかかったらしく、会話が終わった俺とメアリは書庫に向うと……眼前に広がった光景からルミーナが本探しに難航していることが良くわかった。なんたって、流石は一国を代表する城の書庫なだけあって、人工島住宅街十一区にある図書館や退治にある図書室を優に超す量の本が収納された、出入口からじゃ全貌が見えないぐらい本が棚に綺麗に敷き詰められた部屋だったからだ。しかも左に大きな階段がある辺り、数階構造みたいだ。トリニティカレッジ図書館にかなり似ている。

 メアリが早くしろとアルマを痛みつけるので、ルミーナは急遽一冊定め、それを持ち帰った訳だが……どうやらルミーナは選ぶと言いながら時間が許す限り、知らない魔法が載った古典を片っ端から暗記していたようだ。そりゃあ遅くなるわけだ。その中でも希少性が高く、複雑且つ難解な魔法が明記された辞書のような分厚い古典を持って帰ってきたのだが、この厚みとこの文章量で、片手で数えられるぐらいの魔法しか載っていないという。それ程複雑且つ難解な魔法になればなるほど文章量が多くなり、一冊に数個しか載せられなくなるらしい。

 書物や遺跡の壁などに書かれている魔法は基本的に属性合体魔法と聞いている。それは滅多に手に入らないし見ることも出来ず、お金で解決できるものじゃない。そんな貴重なものの一つ――しかも、国の書庫に保管されるレベルをタダで得たルミーナに対し、俺は王族から直々に王族の話を聞いた。メアリは側近に対してはあんな態度だが、来客には如何にも王族と言った感じの態度をとるわけで、差し障りなく会話を終えた訳だが……王族の話は貴族や平民が知れる情報が殆ど無い訳で、大した収穫は得られなかった。

 わかった事と言えば……王族は各国に居ても五人までで、デリザリン王国はトップのメアリ・デン・シャーロット、側近のアルマ・ヴィオネーゼとブランだけだという。だが実質的な王族はメアリただ一人であり、アルマとブランは王族になれないとか言っていたが、そこら辺は分からないし分からないままでも差し障りなさそうだったので、言及しなかった。

 そしてメアリとアルマとブランの武装も教わった。メアリは司令塔なので自身はほぼ動かないが、一応元剣士で今は鞭と戦扇を扱うらしい。どちらも初対面で見たアレだ。アルマは言われて納得せざるを得なかった――盾だ。それも自分の等身大ぐらい巨大な。ブランはあのスコップのような武器だが、他に相手の夢に乗り込むことができる魔法染みた魔法じゃない特技があるらしい。とまあデリザリン王国の王族は接近寄り、近接、接近の近距離特化型で魔法使いが居ない編成だ。こんなデリザリン王国は前にバレットからも聞いたが、隣国のパブルス帝国と犬猿の仲で、長きに亘る戦争を未だに続けているらしい。なので特に国境付近は紛争地帯なので近寄らない方がいいとのことだった。

 他の情報と言えば……自室では筋トレだけでは飽き足らず、わざと深い傷を負って欲求を満たしてるとか、元大金持ちのお嬢様だったくせに、自ら破綻して人生を追い込んだとか、アルマのドM情報ばかりで何も役に立ちそうになかった。楽しそうに語るから止めれねえよ。

 それらの話を共有し終えた俺とルミーナは、

「次の目的が決まったわね」

「そうなるな」

 メアリから聞いた情報は基本的にしょうもないことばかりだったが、唯一引っかかる情報があった。それは――パブルス帝国と犬猿の仲、という情報だ。長きに亘って戦争が続いているとあれば、二国間に何らかの問題があるに違いない。一般人からすればそこで終わるかもしれないが、俺とルミーナはそれで終わらない。それは、今後の活動に直接関係する問題だと厄介だからだ。その戦争に関与するつもりは皆目ないが、もしその戦争が悪化して、関係ない旅人の行き来さえ不可能になれば、俺達の収入源が何割か減る事になるだろう。だって収入源となり得る購入者が、国単位で無くなるわけだからな。それだと俺達の当面の目標である、名誉や知名度、地位なくして裕福で、静かに対異世界人活動の為の戦力を上げ、人間関係を広げて二つの世界間で起きている事象の警告が出来なくなってしまう。今の平和な日常を保つためにも、俺たちは一度パブルス帝国を偵察する必要がある。

「どっちの国が戦力的に優勢とか、どっちの国が経済的に優勢とかわからんが、もしパブルス帝国ってところの方が劣勢なら、そっちに引っ越すしかないな」

 劣勢の国に居続けないといけない理由は、劣勢になると例え無害な旅人であっても、情勢が盗まれないように入国を制限する可能性があるからだ。もしそうなったら、その国民として生活しておかないと、取引先が一つ消えることになるからな。

「もし引っ越してからデリザリン王国が戦力的に劣勢になったら、更に引っ越しを重ねることになるわね」

 最終的にこの戦争がどちらかの国が滅びる形で終結するとあれば、入国制限だけでなく滅びる方に巻き込まれないようにも意識しないといけなくなる。もし巻き込まれれば、絶対に立ち直りに難航するからな。だからもしパブルス帝国の方が劣勢で入国制限をかけそうであれば、デリザリン王国で家を購入して早々引っ越す羽目になりそうだが、今の俺達には安定した収入源がある。それが途絶えさえしなければ、底を尽きない限り何に使おうが俺とルミーナの自由だ。でももしパブルス帝国に引っ越して入国制限が始まったら、デリザリン王国に拠点を置くミミアント商会とは取引が出来なくなる。つまり実質収入源が途絶えたのと変わりない状況に陥る。そうならない為にも転居が決まれば必然的にミミアント商会にも趣旨を話して、一緒に転居してもらうか諦めるしかないが……了承してくれるだろうか。それはまたその時に考えるとするか。今は考えることが多すぎる。

 理想はそのくらいにまで過激化していないことだが、とにかく平和に、とにかく密かに暮らしたい俺とルミーナは、今回の滞在で収入源を確保し、今後の行動が決まったので……

「こっちの世界は一段落ついたし、地球に行くか。いつまでもこの地に居る訳にもいかねえし」

「次は私の学習ターンね」

 俺には帰る世界がある。やるべきことがある。行くべき場所がある。それは――地球。転移者を元居た地に戻す。学校。ルミーナが母国――というか母世界で一時暮らしたとあれば、次は俺が母世界で一時暮らす出番だ。

 今日は何かと忙しかったが、異世界では地球からの転移者が来ない。つまり当然転移翌日からずっとクールタイム外な訳で、いつでも使おうと思えば使える。転移支度を済ませ、≪エル・ダブル・ユニバース≫で地球に向う事にする。


 異世界での時間帯は確実に午後で、まだ夕焼け時ではなかったので、地球は今朝方だろう。転移し終えるとぼちぼち登校準備を行い、一日寝もせずに勉学に励むわけだが、もう何回か転移を経験したので十二時間の時差は平気になりつつある。ある……はずだったが――

 地球では節約しないとヤバい上に異世界のような収入源がなければ方法も無い惨状を伝えると、今日から貧乏生活が始まる覚悟が出来たらしく、本来なら言語が通じない異世界人のルミーナの表情が変わったので、それを確認してから電気を消した。たかが電気ぐらいの光熱費も、地球の俺には痛手だ。

 外も室内も真っ暗な中ルミーナと洗濯物を畳んでいると……その最中に寝落ちした。

 そして再び目を覚ましたのは、ルミーナが動く気配を感じて勝手に目が覚めた――朝、六時半。

 今時計を確認して判明したが、今はもう七月の下旬。夜は暑くなかったので気にならなかったが、この時間帯から太陽が見れるのは、季節がずっと春で止まっている異世界で過ごしてた身からすれば異常でしかない。

 畳む途中だったシーツを毛布代わりに被って床で寝ていたらしく、隣に居るルミーナがシーツを引っ張るようにして反対を向いていることを確認する。ただ寝返りを打っただけなのに目が覚めるって、危機察知能力、ちょっと過敏すぎないか? 確かにヤツに怯えるのはわかるが。

 何時間寝たか分からないが、もうすっかり目が覚めてしまった。唯一あったカップ麺という食料を朝から食らうことにし、明らか俺が寝落ちした後に寝落ちしたはずのルミーナを起こし――

「俺はこれから学校という教育施設に行ってくる」

 いつの間にか≪リフレッシュ≫を使っていたらしく、寝起きとは思えないぐらいスッキリしているルミーナは、立ち上がりつつ俺にも≪リフレッシュ≫を使ってくれる。

「そこは強制参加なの?」

「ああ、この世界だと俺ぐらいの年齢まではな」

 進学しなければもっと早くしてフリーにはなるが、そこまで複雑な制度を言う気にはならなかった。

「なら今までサボってたのは――」

「――ああそこは大丈夫だ。色々制度があってだな……まあ落ち着いた頃に話す。とりあえず今は早くしないと遅刻する可能性があるからな」

 一般的な学校だと六時半の時点で遅刻する可能性があるとは相当家が離れてない限りあり得ないと思うが、俺が通う学校は国立対異世界人人材育成高校とあって、校則から何もかもが一般校と全く違う。例えば登校時間が七時から七時半だという事とか。なら同じ島内にあるし、一時間も前から焦る必要はないと考えるのが普通だが、朝は必ずヤツがやってくるんだ――石塚愛奈が。アイツは俺が家にいろうがいなかろうが、居留守だろうが、きっと異世界にいようが、毎朝インターフォンを一回は押しているだろう。そのぐらい世話焼きのクソ野郎だ。そのせいで警報役のインターフォンの電源を切ることが出来ない。電気代がもったいねえ。

 まだここまで聞かされた段階だとありがたいじゃないかと思う人も僅かながらいるだろうが、ヤツはデ――まあちょっとアレがアレで足が遅く、更に友達と一緒だと更に遅く、普通ならここから鈍足でも三十分あれば着く学校なのにつかないのだ。せっかく登校する気になった日が遅刻だとか、そんな悲しい状況は嫌なので、登校する気になった日は何としてでも七時までには家を出るべきなんだ。

「嘘だろ……? ソースが無いぞ……?」

 三分経ったので湯切りを済ませ、かやくを入れてからソースを探すが……無い。まさか欠陥品が当たるとは思えん。

「ソースってあの黒い液体?」

「そうそれだ。見たか?」

「それならお湯入れる前に入れてたじゃない」

「は……っ?」

 昨晩畳んで放置した洗濯物を、置き場所が分からないので邪魔にならないところに集めておくルミーナだが……カップ麺という未知の商品が気になっていたのか、制作風景を見ていたようだ。

 まさかと思ってゴミ箱の中を覗いてみる。すると……あった。開封済みのソースが。

「ならこれただの焼きそば麺じゃねーか! ほんのり香る程度のソースとカリッカリのかやくってマジかよ……」

 どうヤツを巻くべきか、学校に行ってから今までいなかったことをどう言い訳するか、俺が学校にいる間ルミーナをどうすべきか、転移前にお世話になったし一度楓に会うべきかなど、様々な思考を同時に進行させていた為、アホな脳みそはいっぱいいっぱいになり……まさか湯を入れる前に粉を入れておくラーメンの作成と勘違いしていたっぽいな。クソが!

「これもこれで美味しいわよ」

「正気かよ」

 箸という文化が無い世界出身のルミーナは、ほぼ真っ白な麺を手でつまんで食べているが……それが美味しいとかあり得ん。今俺も口に入れたが、何食ってんのかわからんぐらい味しないぞこれ。未知の食料補正入ってるって。

「本来は湯を注ぐだけでもっと美味い飯ができるんだよ……」

「すごい技術ね。魔法かしら」

「さあな?」

 俺の家には異世界にもあったナイフとフォーク、スプーンがなく、三食分の箸しかない。しかも箸を渡しても初見のルミーナに教える暇はないので、申し訳ないがそのまま手で食べてもらうことにする。

 適当にあり合わせのソースでもかけようと思い、冷蔵庫を開けたが……

「……水のペットボトル一本しかねーじゃねーか。つかえねーな、うちの冷蔵庫」

 そもそもコンセントに繋いでないので冷気さえ感じない。水に賞味期限があるかは知らないが、飲めるのか? これ。

 怪しいペットボトルよりルミーナが出す水の方が明らかに清潔で安全で美味なので、コップに入れてもらい……

「あれも同じ奴? だったら湯を捨てないといけないんじゃない?」

 ルミーナに言われて慌ててキッチンを見ると、もう六分ぐらい経過したカップ麺が放置されていた。

「こっちは『ソース香るノーマル極太麺~カリッカリのかやくを添えて~』かよ……」

 ソース探しに夢中になり過ぎたせいで、先にやっておけばよかった湯切りを忘れていたようだ。お陰様で妙なアレンジレシピの名称を発明してしまった。

「もちもちしてるわね」

「未知って最強だな」

 ああもう! 俺ってホントに戦闘以外なんにもできねえんだな! 久々地球に来て改めて実感したわ! 戦闘さえできればいい異世界って過ごしやすいな!!!


 ルミーナには申し訳ないが、学校が終わって帰宅するまで自宅待機してもらうことにした。その際、インターフォンが鳴ったら無視を決め込む形で。

 結局水ぐらいしか碌に食道を通らなかった俺は、通学カバン片手に楓の家に行き、二人で退治に登校することとなった。

 EoD周辺には、対異世界人人材を育成する学校が三つある。まずは耀傷学園。東京都港区南麻布にあるここは都内でも頭がいい高校の一角で、特に技術者が多く排出される。対異世界人関係の会社に就職するのが目標の学校じゃないので、全員が全員目指しているわけではないが。次に剣凪高校。東京都江東区にある、主にWB社のフレーム・ユニット就職希望者が集まる剣や徒手を教える高校だ。そして――国立対異世界人人材育成高校。通称・退治は、就職先が対異世界人関連しかない、対異世界人関連全般の技術を育成する学校だ。耀傷以外は卒業した経歴があるだけで一年間は業務独占資格を有している状態と同義になるため、対異世界人関係に携わりたい若者が選ぶ最短ルートだったりする。

 そんな退治は異世界人が不定期に来る人工島上にあり、Wアラームが鳴り次第直ちに住民をシェルターへ誘導し、シェルター内での救護や誘導活動などの任務も受け持っている。理由は簡単だ。対異世界人関連の会社に就職するには、常日頃から誠意を持たないといけないと思い知ると同時に、命を誰よりも重んじる必要があるからだ。その為このぐらい学生の頃から職業訓練として経験を積む必要がある。だから退治は部活動の概念がなければ、真夜中に来た転移者に対応できず、シェルターでの活動を怠ったら即欠点となる。最後に避難する危険な役目なのに進級の危機まで訪れるのは、きっとこの程度で対異世界人関連企業に入社できると思うなよという、高収入だから志しただけの甘い考えの奴らへの制裁だろうが、俺的には人工島住民の命――もしかすると地球人全員の命の要を担っているのに、欠点のみで済むだけましだと思う。

 まあそんな仕事に取り掛からないといけないので、学校に通う場合は絶対に人工島内に引っ越さなければいけないことになっており……人工島の住宅街には全員分の寮や賃貸、店があり、浮島から出なくても支障なく生活できるようになっている。

 退治は所謂専門校という括りの中でも特殊な学校で、四時間授業を受けてから昼休みがあり、そこから三時間専門の授業がある計七時間授業といった特殊な学校だ。また、あくまで高校という枠組みのため、転移現象によって一般科目の授業が阻害された場合は、午後の授業が潰れて一般科目に置き換わったり、休日登校になったりする。なので朝は七時半までに登校しないといけないし、家に帰りつくのは六時を過ぎる。だが、運動さえできれば最悪OKだという、卒業最低ラインの低さや、学費や住宅の安さから、特例で楓のようなアイドルとか、対異世界人会社志望じゃない人、単純に楽して高校を卒業した実績が欲しいだけの人も通っていたりする。部活が無いので個人でどこかに所属しなければスポーツ選手を目指すことは不可能だが、馬鹿でも卒業できる学校だ。逆に言えば運動できないと人生終わる学校界の終着点だ。

 これもまた一風変わった制度で、二週目――リターン制度というものがあり、もう一度退治に専門学校へ進学という形で三年間通える制度がある。失敗して就職先がない人や更なる高みを目指してリターンする生徒も多いので、案外珍しいことじゃない。しかも二週目は専門学校扱いなので、高校の授業を行う午前は全欠席でもOKだ。なのでクラス全員が揃う事は滅多になく、自分から二週目や兼業していると言わない限りは隠し通すことも可能だ。人望がなければ、二週目一年生になった瞬間に一週目二年生、一週目三年生になった奴らから広められるけどな。

 実はそのリターン制度には裏があり、定期的にある専門知識や戦力のテストを難なく通過し、一定程度の戦力を認められたら、特例でほぼ自由通学のような扱いになる。理由はそこまで優秀だと非正規雇用などがあり得るからだ。当時WB社なんかなく、ファースト・インパクトが年単位の大戦争だったせいで中3をすっぽかしてるのもあり、空白の一年があったとはいえ……こんな学校を二週目し、自由通学でもある俺は朝から登校する必要はないが、自分から言わない限りは二週目とバレないのであれば、隠さない手はないので隠している。現二、三年の奴らは人望のお陰で黙ってくれている。だからあまりに欠席が多いと怪しまれるものだ。決めた後によくよく考えたら、隠さなければ午前中堂々と欠席できていたことに気付いた時は過去一凹んだかもな。でももう引くに引けない。当時も今と変わらずバカだ。

 悪い頭を改善する為に、と思っても一切やる気が起きず……二週目を隠す選択をしてしまった俺は悲しく、一週目で兼業していることを隠している楓は楽しそうに、科ごとに棟があるので学校とは思えない規模の校内に足を踏み入れる。

 校門の隣にある石碑に刻まれた校訓の『死ぬな 生きれ』を久々見て笑いそうになりながら、俺達一年四組のクラスに向う。

 学校内でもイケてる男子・イケてる女子とされる俺と楓は、部活がない学校なのに立派なテニスコートがあり、そこで朝からテニスに励む女子たちから黄色い声が上がるので、二人揃って手を振り返す。部活がないのにテニスコートなどが立派にあるのは、自主的に運動をして体を極めてほしいからであり、厳密には七時半から八時半は自主練の時間になっている。テニスとかサッカーとか、人数や場所が限られた競技で遊びたい人たちは、こうして早起きして陣取り、スポーツに励むんだ。そりゃあジムで一人黙々と筋トレに励むより楽しいだろうしな。

「しゅうやん久しぶりの登校だから、好感度上げに励まないとね」

「励まねーよ」

 悲しいことに学校内イケメン男子&カワイイ女子ランキングトップ五に毎年ランクインし、二位と圧倒的な差をつけて一位になってしまう俺は、登校する気にならない一因にそれが挙げられたりもする。せっかく楓からもらったパン食ってんのに、しょうもない集計データのせいで美味しさ感じなくなってきたぞ。

「今年は一学期始まってからまだ合計登校日数が一か月にも満たしてないはずだ。こんな不良野郎、一年共に悪印象植え付けることに成功しただろ。勝ったな」

 実はこのランキングの一位から五位は全て知り合いだ。二位の野郎は俺よりもっとまじめなイケメンで、三位は隣に居る楓。四位はちっこくてかわいいと言われる、俺と同じく二週目一年生の女子で、五位はいないのに彼女が居ると思われて近寄られない悲しいマッチョマンだ。四位と五位はともかく、二、三位から抜かされる可能性は十分にあるはずだ。

 ていうかそもそも一週目は高校判定なんで、進学・卒業が可能になるラインが全体8割以上の出席だ。初っ端からこんなに不登校な奴なんか、もういないと思われてもおかしくないレベルだろ普通。

「負けだよ。二週目を隠してるから一年は不良だと思ってるだろうけど、二週目していると知っている二、三年からは絶対的な固定票があるからねー」

「一回考え直せよな。何で毎日登校する優等生の男子より不登校の男子がイケメンになるんだよ、頭腐ってんじゃねえのか? 人を外見で判断するなよ、クソ野郎どもが」

「そりゃーしゅうやんが内面度返しでカッコイイから仕方ないよ。それに退治の客層的に不良が永年ブームなんじゃない?」

「客層て。お前ら自分の将来ちゃんと考えろよな……」

 どうせ他の男子が青春を捨てて世のため人のためになろうとむさ苦しいから、相対的に意欲・関心が薄い俺とかの票が伸びてるんだろう。女子共の訳も分からんカッコイイ基準には毎回呆れるな。

「でも毎回『おー』とか『あざす』とか、ぶっきらぼうな返事でこっちのこととか気に留めてないんだろうなーと思わせといて、久しぶりに会ったときに『最近忙しかったか?』とか言うのが罪深いんだと思うんですよボクは」

「日常会話ぐらいは仕方ないだろ。話振られといて完全に無視はそれこそやべー奴じゃねえか」

「えぇーっ? そうかなー?」

 んだよ楓の奴。そんな表情するぐらいならバカにもわかるように小学生の漢字で言語化してくれ。

 しっかしこんな話をのんびりしている場合じゃない。例え学校の敷地内に入ったとしても、一般校舎の教室にたどり着くまでにここから三十分かかることとかざらだ。それほどこの学校は生徒数に対してもバケモン級にでかい。

「生徒は無視って教室行くぞ。せっかく来たんだし遅刻はしねえかんな」

「ういーす」

 男友達みたいな返事をする楓と共に、午前の四時間は一般科目なので、一般科目棟という所に向う。

 一般人から見れば一般棟と思われるであろう校舎が左右にあるというのに、それらに入らずに通過するのには訳がある。それは――それらが専門科目棟だからだ。同学年全員から年一ランダムにクラスが決められる、1-2とか3-4とかの一般的な振り分けが行われるのが一般科目棟で、午後の三時間は専門科目――計九科ごとの棟があり、自分の科の棟に行かないといけない。なので傍から見れば、学校が十個集合した学校ともいえる。

 専門科目は年一のクラス分けは行われないが、科ごとに分けられた1-Yとか3-Kとか――アルファベットは科のイニシャル――の銘が打たれているので、生徒は全員2クラスを掛け持つことになる。俺が名乗るときは「午前1-4、午後1-G、新谷萩耶だ」ということになる。だが、専門科目は技量に応じて四段階にランク付けされるので、例えば1-Gの後に、ランクのAやらCがついて1-GAなどとなる。よって専門科目棟は一般科目棟と同等の規模の校舎が計九棟あるのだ。とまあ先程専門科目はクラス替えがないと言ったが、ランク上下によるクラス変更はある。変わることは滅多にないが。

 一般科目は一学年に36人一クラスが五つ編成だが、専門科目はランクごとに細かく分けられるので、全学年が科ごとに分けられて60人ずつの塊になり、そこから更に平均してAランク5人、Bランク15人、Cランク25人、Dランク15人に分けられるので、専門科目は一クラス一桁台もざらにある。だが、人が少ないAランク以上は優秀な人しかいないので、社会に出て協力して立ち向かう技術を育成するために、Aランク以上の人は学科関係なく頻繁に合同訓練することが多い。因みにリターン制度の対象はCランクの上位以上だったりする。しかも物騒な話、BはJC社、AはWB社の就職が内定しているようなものだ。実際は進学・卒業にDなら午前授業内容のテスト点数が50点以上、Cなら午前午後のテスト共に点数が学校内平均割る2以上、Bなら午後のテスト点数が50点以上且つ午前のテスト点数が学校内平均割る2以上、Aなら午後のテスト点数が75点以上且つ午前のテスト点数が学校内平均割る2以上必要とされるもんで、頭が悪い奴らしかいねえこの学校では午前授業のせいで死にかける輩が毎年アホほど居る。結局のところ、高校は義務教育ではなく、退治の方針上運動さえできれば――高校修了を諦めることにはなるが――異世界人関連企業の内定をもぎ取れるわけで……Dの連中は早々に高校修了及び勉学を捨てるか、異世界人関連企業の就職を諦めて卒業が簡単な退治で勉学に注力するか、一般企業への就職を目指して退学・転校する。とはいえ九割九分が勉学を捨ててる印象がある。戦力至上の世の中になったからな。

 ランクの話に戻るが、Aランクとして活動するが、個人の評価書類上では例外としてSランクも存在する。Aのトップ層以上だと極秘部という、国からアラーム中に戦場へ赴く許可と、アサルトライフルのような重火器の武装許可も下ろされている人が秘密裏に所属する科もある。勿論俺は四年間表の顔は迎撃科のAランク、裏の顔は極秘部のSランクだ。

 科の内訳だが、G――迎撃科は、シェルターが開いて島民が避難し終わるまで周辺を警備し、転移者がいれば殺人権利はないので追い払う室外活動の科だ。Y――避難部誘導科は、シェルター内で人々を最も安全地帯に誘導する、シェルター内の活動科だ。シェルターは地上の過激さから解放される層が上下するので、案外重要な役目でもある。S――避難部送迎科は、乗り物で破壊されたシェルター付近で彷徨う人々を運送する室外活動の科だ。Z――拷問科は、地上解放後に弱った転移者がまだいれば、身柄を拘束して情報を聞きだす室外活動の科だ。基本的に死んでいるか転移されているかで、居ても言語が通じないことが多い。その為名目上は転移者相手だが、実際には転移者を拉致して悪さしようと企んでいる人に対して拷問する活動を行っている。T――偵察科は、無抵抗でWアラームが鳴らなかったり、逃走した異世界人を、追跡したり出現ポイントの特定を行ったり、迎撃科の出撃指示を出したりもする室外活動の科だ。B――武装科は、対魔法防壁や対魔法ガラスなどの制作・整備・修理をPC社の後援として室内活動している科だ。対魔法といえど、結局は防弾・防刃なんだけどな。K――救護科は、シェルター内に来るまでに負傷した人を手当てするシェルター内活動科だ。R――研究科は、異世界人の魔法や能力、容姿、行動傾向を記録・分析し、結果をWB社に提供する、室内活動の科だ。I――諜報科は、EoD以外の異世界人出現地点予想や異世界人疑惑人物の特定、出現時にPC社の保険として瞬時報告補佐、自動警備ロボ配置指示補佐を行う室内活動科だ。

 こんなにも細かく分けられるとなると、科章と言ったちんけな物では、ぱっと見でどこのだれか分からない。なので制服の特徴が細かく分けられている。まあ、悲しいことにそれは制服に応用が利くし業界への適性率が高い女子の話で、制服に応用が利きづらく、業界に需要が乏しい男子は科章で我慢している。唯一機能面で内ポケットから物を出しやすいと、学ランじゃなくブレザーになっている点ぐらいだ。この学校に進学する女子生徒が多い理由の一つとして、制服の多種多様さも挙げられるだろうな。

 まず基本形として、夏は半袖、冬は長袖のセーラー服に、ニーソックス――ガーターベルトは自主性で、冬はストッキング率が高いらしい。例外として、夏はお腹を丸々出した水着のようなバージョンも解禁されるが、校内でも人気な人が着始めないと――パンチラに加えてブラチラの可能性も上がるので――ブームが訪れないらしい。因みに去年は訪れなかった。といっても極限まで短いスカートに半袖、背伸びすればお腹が見えるぐらいの夏制服や、それこそ水着のような特殊な制服はBランク以下が動きやすさを求めて使うもので、Aランクともなると長袖の方が防御面積が大きいとか言って半袖は滅多に着なくなる。俺もブレザーがパラシュートになる仕様なので、その例外ではない。この学校では夏でも気温度外視で案外長袖がいるもんだ。

 女子制服の首周りにある――止血用にも使えるように機能面にも長けた通常より長めの――スカーフみたいな奴は、ネクタイ寄りの奴が一年生、見た目×印みたいな奴が二年生、リボン結びしている奴が三年生と、まずスカーフで学年分けがされている。

 そしてクラス分けだ。白基調のセーラー服に、黒色のスカート、白ラインが入った黒色の襟、赤――迎撃科、紫――避難部送迎科、薄い緑――拷問科、薄い青――偵察科、のそれぞれの色のスカーフ。残りの五科は少し変わっており、白基調なのは変わりないが、黄――避難部誘導科、朱――救護科、薄い緑――研究科、薄い青――武装科、紫――諜報科、のそれぞれの色のスカートに、白ラインが入った同じ色分けの襟だ。スカーフは一律赤とされる。今隣に居る楓を例に挙げると、一年の偵察科なので、白基調のセーラー服に、黒色のスカート、白ラインが入った黒色の襟に、薄い青のスカーフをネクタイのようにしている。水着タイプがある時点でお察しだろうが、学校内の身分が見て分かれば改造は自由なので、楓のセーラー服はフリルマシマシで袖が必要以上に長くなっている。

 例外にシェルター外活動の科には黒服といって、スカート、白いライン入りの襟などほぼ全てが黒のセーラー服――スカーフだけは赤――迎撃科、紫――避難部送迎科、薄い緑――拷問科、薄い青――偵察科、と分けられている――がある。これは活動で汚れたり解れた時に代用として着る予備制服だ。一般校でいう体操服に近い。

 話は戻るが、これらでわかる分類は学年と専門科目だ。一般科目のクラス分けや専門科目のランク分けは……されていない。ここまで装飾を変えているので、他に変えるところがなかったんだろう。なのでローファーとかいう見づらい部分にインナーカラーを入れるように五色でクラス分けが、襟にあるラインの数が少ないほど優秀だとランク分けがわかるようになっている。

 知名度が高い俺と楓は行き交う人々と挨拶を交わしつつ、WB社の雇用条件の関係上女子率が七割を超すこの学校の生徒達が着る様々なセーラー服を見つつ、一般科目棟に向かう。

 対異世界人関連の組織の中でも特にWB社は、技術者でさえ一度フレーム経験がないと成れないレベルだ。その謎のしきたりみたいなのが無ければまだ男が介入する部分もあったかもしれないが、フレームシリーズはなぜか女性専用に作られているから仕方がない。近い未来この学校は女子高になるだろうな。やけに制服に力注ぐし。

 昔は花屋とかカフェには基本的に女性店員ばかりだったが、今じゃ男性がやってる。フレーム経験のない女はデブかクズかバカと揶揄されるほどだ。男の人権はなく、女は徴兵行きみたいな世の中になったもんだ。

「んじゃ俺は校長のところへ行くんで」

 ようやく一般科目棟に着いたが、楓が下駄箱に近寄ろうとしない俺を不思議そうに見返してくるところ、俺が長期欠席してたことを忘れているのか疑わしくなるな。

「えー、ジョギングでもしようよー」

「他の友達としておけ。待ってると放課後補習になるぞ」

「へーい」

 登校完了後からある一時間の自主練を俺と走ることで過ごすのは構わないが、校長との話が数分で終わるかは分からない。もし一時間かかったとしたら、俺は二週目なので午前欠席は確実に補習にはならないが、一週目でサボった判定になる楓は一時間補習確定になるのだ。

 実は二人の間に三年もの差があることをヒシヒシと感じた楓は、スキップして教室に向って行ったが――実は四年の差があるんだけどな。今七月だから俺はもう二十歳だし。

 流石にややこしくて楓にも言えない過去を抱え……教員棟に向うことにした。悲しいことに、普通に歩いてここから五分はかかるところにある場所へ。


 退治の校長先生は、知り合いだ。というか実際のところ、俺の方が校長先生より立場が上だ。それは――校長先生が新谷家の人間だからだ。

 この学校が創立される前の話になるが、対異世界人に特化した人材を育成する学校を設立するにあたって、校長先生及びに専門科目の教員はそれなりに経験や戦力がある人間でなければいけなくなる。ともなれば国が教員として依頼する相手は――現役は無理があるので――WB社の最終試験で漏れた優秀な人材や、年齢的・能力的にWB社を退社せざるを得なくなった人材、古代から名高い武士の家系で優秀な人材などに依頼を送るしかなく、その例外でない古代から名高い武士の家系――新谷家にも依頼が来たのだ。新谷家が目指すのは生身でフレームアーマーを越す戦力なので、将来の道的には俺のように対異世界人関連の活動を無償で暗躍するか、新谷家で一生過ごすか、WB社に入社するかになる訳で、対異世界人関連の人材を育成する学校の教師になる道はないし、なるつもりもなかったのだが……新谷千穂――旧名・水野千穂は自らその道を選択した。彼女は新谷家でも四式の座があるかなり上位の実力者で、辞退したらしいがWB社の採用試験に、試験初の一発合格且つ歴代ナンバー1の成績優秀者だ。なので教師選抜試験を最優秀で通過して校長の座を勝ち取ったらしいが……その道を選んだ理由は俺にもよくわかっていない。教育方針や入学条件等は基本的に国が定めるらしく、ただ役職として取り繕っておいてくれればそれで政府は満足とのようなことが書かれており、学校が襲撃に遭ったら防衛に有効活用しようとしているのがバレバレな概要が書かれていたのに、だ。名前の『千穂』の由来が、千もの穂が実っていれば、そこは豊かな土地だろうという意味で、心も沢山の穂を実らせて豊かな人になろうという、両親がよく考えられている名前なので、自らだけでなく、沢山の人々に秘められた対異世界人能力を出穂させようという気持ちでその依頼を受けたんだろうと勝手に解釈している。まあ今はWB社のお陰で戦闘能力は機械で底上げされるし、まだ機械の生産に関わる資源問題にそこまで直面していないし……一人一人の質より人間の量って感じだが、それ故にかもしれないな。

 本殿は東京だが、今は全焼して神奈川分社が本殿として使われているので……横浜の新谷家分社から毎日通勤している校長先生は、実際の関係上は俺の方が上の立場ではあるが、学校では俺の方が下の立場でいないと違和感でしかないので、学校ではありふれた生徒校長先生関係でいる。なので長期休暇していた俺が校長室にいないのはあり得ない話なので……誰も見ていないし、二週目な上に授業免除されているし、校長先生は俺の方が立場が上だということを引き摺って強く出れないし……特に叱られる内容もなく、世間話をしていただけで、自主練が終わる時間帯まで校長室に留められただけで終わった。嬉しかったことと言えば、不在で電気を使わなかった間に発電された電気が全て売電し続けられた結果、溜まりに溜まった金を受け取れたことだな。お陰様で当分飯抜きにならずに済んだ。

 細かく分けられた専門科目が九科もあるせいで教員が多く、一般科目棟並みにでかい教員棟から出ると……久しぶりに見た時間ギリギリまで自主練する生徒達の光景を見て、またこの毎日が始まるのかという倦怠感と、友達とふざけ合うあの日常がまた始まるのかという期待感が同時にこみあげてくる。

 そんな俺が一人この時間帯で鞄を持って一般科目棟に向うという――最新の機器を導入しているので、校内であれば生徒が今どこで何をしているか把握できるシステムが教員棟にあるくせに、出席確認は教室に入ったかどうかでカウントするらしい――俺が二週目中と知らない人が見ると、遅刻扱い確定な行為をかましていると……野球ボールが足元に転がってきた。遠くから男女混合マッチをしている人たちから「先輩とってくださいー!」って聞こえるのでとってやるが……さてはホームランだから俺がいなかったらそのままにしようとしてたな? 一時間補習になっちまえ。

 彼らに特に悪い印象を抱いていないが、このままじゃ治安の悪さが軽減されないので……一番舐めた顔してる男子に向って――二百キロぐらいの速度で送球してやった。すると――まあ取るわな。そのぐらいで投げれなくたって、あれも取れなくて対異世界人関連に目指すような奴はいないだろう。

 実はヤツは知り合いなのでそうしたのだが、彼はプレイに戻っているので……俺は一人下駄箱に向った。

 下駄箱なのに『ラブレターやプレゼントの投函禁止』の張り紙が多い理由は、俺が先生にそうするように申し出たからだ。俺や楓といった入学初日から称賛される美形の男子や女子には、この学校ではいつの間にか下駄箱をプレゼント箱として投函する悪しき風習が勝手にできているのだ。流石無能が集まる学校だな。そのせいで俺の下駄箱はいつもゴミ箱のようにラブレターやプレゼントの類が詰まっている。そんなのが毎日も続いていりゃあイライラも蓄積する。そもそも俺は自分の性格や自分がやっていることから、内面を知れば嫌がられることぐらい知っているし、外面だけで判断されたこの類の贈り物を受け取る程お人好しじゃない。それに全てを知っていても彼女を求めない。行動の邪魔でしかないからな。

 プレゼントには食べれる物も時々入っており、金欠なので乞食にでもなろうかと思ったが、時々恨みを持つ男や女がヤバい殺戮菓子を入れてるので食べない。全部即刻処分している。

 それでもこの学校の生徒はバカ野郎の巣窟なので、ダメだと言われても続けるわけで……

 自分の下駄箱を開けると流れ出てきたラブレターやプレゼントの類を見て溜息を吐く。

(燃やしてやろうか……)

 俺はルミーナのように魔法が使えない。もし使えて適性属性に火があれば、下駄箱内に炎をぶち込んで全て焼き尽くすところだった。だが、今回ばかりは俺のような悲しき人向けに設置された専用ゴミ箱にぶっこんでやろう……と思ったところでやめた。そういえば教員棟に提出すれば、送った人を片っ端から減点してくれるとか言っていたな。大抵の人は処理が面倒でゴミ箱にぶっこむが、俺は午前の授業に出る必要がない。また教員棟に戻るのは面倒だが、ダメだというのに送ってきた奴らへの制裁として行くしかなさそうだ。

 減点は二回で一回ジムにトレーナー付きで二時間拘束される。退治、耀傷、剣凪、どの学校も対異世界人関係に就職する道があるので、細身又は筋肉質な子が多いが……退治は三校の中でもずば抜けて筋肉質な女子率が高い。水泳の時とか、殆ど全員の女子が腹筋六つに割れててヒト科の動物園だとか、揶揄する男子からの噂で聞いたことある。そうなる理由は、こういった投函物による減点や、遅刻や自主練のサボりなどから拘束される生徒が多いのも一因だろうな。それも自分がダイエットしたい時とか、もっと体力や筋力を極めたいとか、強制的に運動する羽目になるのでわざとしてくるアホな野郎だっているぐらいだ。もうホントにバカとアホしかいないんだよ、この学校は。それに加え、戦闘には不必要として化粧する文化も忘れ、女子らしさが皆無な奴らの巣窟な訳で――減点対象は主に女子が対象で、男子は減点になりにくく不平等かと思いきや、女子率が七割を超すことから、大体の男子が変態行為に走り、減点を食らう。当人ら、特に愼平(しんぺい)によると、可愛ければ他はどうでもいいらしい。結局男子も女子も減点される量は変わらず、バカさアホさも男女変わらん。俺が一学期早々不登校染みた不良行為かましているのにイケメンランキング一位に君臨する理由は、バカアホ行為で減点されたことが無いから消去法的に一位なんじゃないかと不安になってくるレベルだ。まあこの学校での色恋沙汰はこうして投函される風習が出来たおかげで、毎時間毎時間わーきゃーわーきゃー言ってて授業が進まない最悪な事態は訪れなくなったわけで、先生的にはそれでありがたいんだろうが……被害者から届けられる数多のラブレターやプレゼントの贈り主を確認する為に一つ一つ開封してキモい文章読む方が辛くねえか?

 実はこの制度が出来てから律儀に守る輩も少しはいて、そういう奴らは送り方を変え……直接俺のスマホにチャットを送ってくるようになっている。いつどうやって流出したのかしらんが、そのせいでいつもチャットが上限突破している。チャットを滅多に見ない俺が本当に一切見なくなった元凶はこいつらだ。

 そんなバカとアホしかいない悲しい学校に通っている俺は、体操服やジャージを着た生徒たちがなだれ込んでくる中、一般科目を受ける1-4に入って一時間目の授業・英語を受ける準備をする。二週目なので、午前の授業は置き勉したって問題ない。全教科詰まった引き出しから英語を出して先生の到着をだらしなく待つことにする。

 自主練終了から一時間目開始までには十分しか休憩が設けられていない。広大な敷地から一般科目棟に戻るだけでなく、汗は掻いているし、服は着替えないといけないし、授業の準備はしないといけないし……それなのにこんな少しの時間しか設けられていないのは、異世界人が転移してくると一秒も無駄にできないからだ。その練習として少しの時間しか設けられていないが、三年にもなると一分あれば済ませられる内容になる。だが、俺は二週目でも1-4のほとんどの生徒は一週目。これだけの行為を十分で済ませるのは至難の業。

 ここが三年の教室なら確実に俺は囲まれて話しかけられていたが、一年の教室なので皆一時間目に備えて済ませることをこなすので精一杯。久しぶりに登校した俺に話す内容は友達でさえ「久しぶりだな」止まりだった。

 制汗剤と柔軟剤と香水と体臭が激しく入り混じった教室内で、とある人は下半身がブルマのまま、とある人は汗で濡れたまま、とある人は疲労で睡眠学習になっている状況でも通常通り授業が始まったが……この光景・刺激臭は懐かしいな。後数か月すれば余裕ができるし、数年すればなくなってしまう。四月から特に午前中は碌に登校していなかったので、二週目しているってのを今更ものすごく感じる。先生も授業を受ける態度じゃないこの光景を止めはしない。二年生でこうなれば確実に叱られるが、一般科目を担当する戦力が何もない先生でさえ、ここが対異世界人の人材を育成する学校だと把握し、最初の頃は慣れるまで辛い状況が続くことを理解しているからだ。それに最悪勉強できなくても卒業できる学校だから、勉強を無理強いする一般科目の先生自体少ない。

「誰も答えられないのかー……? なら新谷。――ってお前久しぶりだな。とまあ答えてくれ」

「俺!?」

 ほとんどがグロッキーな状態で指名する先を戸惑った先生は、頬杖をついてうとうとしていた俺に当ててきやがった。久しぶりって、俺が二週目していて午前中は登校しなくていいと知っていながら。

「勿論簡単だよなあ。答えてくれ」

 奴め……一度習ったことがある内容だからって調子に乗りやがって……

 戦闘しか能がない。だから英語が分かる訳ない。日本語だって怪しいのに。――とでも思ってんだろう。だが生憎英語は喋れるんだよ。しかしここで流暢にしゃべるのは得策じゃない。だからバカを装う。

 助けを求めようと左の席に座っている楓に視線だけを向けるが……頭を横に振りやがった。お前ッ! 普段散々英語三昧の曲も歌っといてそれかよ! 嫌みか! そしてグッとかガッツポーズしてきやがる。舐めてやがる。俺が英語喋れるからって。

 次は右隣りにいる同じくイケメン極まりない金髪男子に助けを求めるが……『今回は異例だね ちょっと時間稼いで 今から解読するから』と書き記した紙を回してきやがった。んだそれ。お前も授業聞いてなかったのかよ。学校内一位の頭脳のくせに。

 とまあ教えてくれない楓よりありがたいので……

「お母さ――先生!」

 わざとらしく時間稼ぎに出る。うっわ恥ずかし。女子共の視線がカワイイ満載で気持ちわりいんだが。

「えーっと何ページです?」

「15だ」

「苺?」

「じゅうご、だ」

 今思えば英語で15と言ったとしてもどう聞き間違えれば苺になるのかわからんな。一同は社交辞令かの如く「あはは」と笑ってくれちゃいるが。

「お前なあ、例えAランクでも英語ぐらい使えんとこのご時世不便だぞ」

「日本語すらあやふやな俺に外国語だって? ふっ、笑わせる」

「そこ誇らしくいう所じゃないと思うぞ」

 こんなところで無駄に楓から植え付けられた変声技術を活用することになるとは思ってもいなかったが、時間稼ぎは出来ているはずだ。

 校内で頭脳一番ならそろそろ答えが導き出されただろうと思って右隣りのイケメンを見やると……ホントにコイツは頭いいのか甚だ疑問になってきた。問題文の最初から翻訳してやがる。流石バカとアホが集まる学校。問題として問われていない部分まで翻訳するバカまでいたか。こういうのをバカと天才は紙一重っていうのか? とりあえずそういうことだ。

「ごめんな、英語の先生よ。俺は英語より必要な言語が存在してな」

「日本語だろ?」

 違うんだけどな。ていうか名前を憶えられていないところからツッコんでくれよな? 時間稼ぎが出来ないだろ。

「あっちには学校すらねぇんだよ。戦えれば食っていけるんだよ」

 英語より必要な言語は実際存在する。それは異世界語だ。そして戦えれば食っていけるっていう話も本当だ。依頼を納品して稼ぐ手もあるし、剥ぎ取った素材を買い取ってもらう手すらある。

「ゲームのやりすぎだ」

 確かに傍から見ればゲームみたいなシステムを語っているが、これは現実なんだよな。

「なんだそのだるそうな目つきは。いいから答えなさい」

「は? だるいからこんな目付きしてんだろ。じゃなかったらこんな目つきしねーよ」

「だからさっきから威張るところがちがーう!」

 時間稼ぎをするのが下手な自覚はある。せめて言葉じゃないやり方で時間稼ぎさせてほしい。

 話しが下手な奴は直ぐ喧嘩する方向に向かってしまうので、先生と口喧嘩になっちまい……先に呆れた先生が隣のイケメンを当て、丁度解き終わったらしくすぐ回答して正解した。結局なんだったんだよこの時間。


 ただ頭が悪いと広まっただけで、デメリットしか生まれなかった英語の授業が終わり……十分休みになった瞬間、一部の人は自主練後の済ませることを済ませ、一部の人は俺の周りに集まる両極端になってしまった。分かっちゃいたことだが、一時間遅れで来るもんだから、言い訳の案も忘れてしまった。

 中でも接近してきた四人は……1-4の中で最も絡みが多い所謂イツメンって奴らだ。

 まずは石塚。楓の椅子をくるっとこっちに向けて寄せ、ニコニコしてやがる。次に楓。俺の机にべったり顔面と上半身を付けて、両手両足をぶらんぶらんさせている。なにそれ。そして左に立つのは、授業中に役に立たなかった男子だが……戸賀(とが)禎樹(よしき)という、身長170センチ、俺と同じく迎撃科で総合Aランクだが、一般で俺が下位互換なら、専門ではこいつは俺の下位互換のような人物だ。最後に正面の女子の席に堂々と座って俺と正対する、ボディビルダーぐらいの筋肉量を誇るはり山のようなツンツン黒髪頭の男子は、加戸(かど)愼平だ。座っている今は俺と身長がそう大差なさそうだが、立つと192センチもある巨体だ。そんなコイツはランボルギーニとNinja H2Rを合法的に乗り回す避難部送迎科だが、何故か総合だとCランク。迎撃部に転科した方がいいぐらいの筋肉量だが、それでも送迎科を続けている。

「しゅうっちよっす! さっきはいい球投げてくれたな」

「お前が舐めた目つきしてたからな」

 挨拶を交わしてくるコイツは、目つきが悪く、巨体でムキムキなので相手にしたら負けると見た目判断されがちだが、話すと意外といい奴だ。そんなこいつが居てくれるお陰で、内面を知らない女子が怖がって遠ざかり、正面から人の顔を盗み見る糞野郎が減って助かるぜ。

「そういや一時みかけなかったけど、またどっか行ってたのか?」

「ああ、ちょっとな」

 四人は気付いてないだろうが、実は周りの女子の殆どが例の如く早く立ち去って私と話す時間をくれオーラを出しているので、殺意に気付ける俺は内心焦りながら会話を続ける。事実こいつらと話す方が気軽で楽しいからな。机は占領されるが。

「好きだよなーお前。それでどこ行ってたのか?」

「実家の方だ。相変わらずド田舎だったわ」

 俺のじゃなくルミーナの母世界だけどな。最終的には都会に赴いているが、全体的に見ると田舎だ、あの世界は。

「自由人で専門優秀勢は羨ましいぜ、学年一のイケメンさんよぉ」

「教科書にエロ本を重ねて見てる新兵に劣るほどこの学校も腐っちゃいねえぜ」

 愼平から「それは言うなよ」ってその筋肉による強力なダル絡みを受けるが、コイツはとんでもないぐらいの変態だ。それは本を見たりして済むことならいいのだが、現実の女子たちにもいつも変な事してやがる本当の変態で糞野郎だ。しかもこんな悪い事ばかりするのに欠点は食らわないし、一目置かれる存在だし、バチが帰ってこない強運の持ち主だったりする。

 コイツのヤバさを解説するとすれば、普段は一人称が『俺』のくせに、女性に対しては一人称が『僕』になり、ため口から「~っス」と強引な敬語にして性格をよく見せることで、イケメンカワイイランキング五位に君臨している時点でヤバいのに、本当の性格は強い方の味方をし、少しでもいいことされると直ぐそいつの言いなりになるし、自分が有利な立場だとボロクソ言うし、人を馬鹿にする時とてもいきいきしている糞野郎具合。しかも大きい声で気持ち悪い発言するし、バレないように本来なら減点を食らうような変態行動するし……唯一悪運な点と言えば、一応モテるけど連れがいそうで告白されない現実は非情系男子に分類されている所ぐらいか。俺や禎樹が『人気』だとすれば、コイツは『認知』が正しい表現だろう。

 それに加えて乗り物なら原付から戦艦でも何でも運転・整備・修理できるので車両はSランクで、未成年だが唯一乗り物系全般の運転許可が国から下りている。そのくせ総合ランクはCと悲惨なことから、俺がさっきコイツをそう呼称したように、本性を知っている一部男子からは「新兵」とディスられている。その印象が強すぎて、他の個性といえば音痴のくせに意外とラップは出来たり、七時に待ち合わせなのに十二時に来るぐらい朝に弱く寝坊することぐらいしか印象にない。それぐらい変態で都合がいい男の印象が強い。

 そんなヤツとは普通付き合わないのが吉だが、俺が付き合っているのは乗り物の技術は確かだからだ。そこだけの為にって言えば聞こえが悪いが、乗り物がSで国から許可されている人材って、知る限り愼平以外に存在しない。だから泣く泣くだ。

「しゅーくん、さっきはゴメンね。ちょっと考え事してた」

「ああ、別にいい。もう終わった事だしな」

 何故かクロールしている楓の上で、左腕を石塚に引っ張られながら愼平と指相撲をし、俺が圧勝したタイミングで禎樹が話しかけてくる。あの――禎樹が。

「しゅーくんが居ない間にジャブ16回、溜め4回。いずれも殲滅済みだよ」

「最近は少ないな」

「誘拐犯や違反者の報道も無いね」

 俺と禎樹だけが分かる隠語で会話を交わしたが、要は転移者が来た回数の情報共有をしただけだ。ジャブは弱い転生者、溜めは強い転生者って事だ。なんたってコイツは俺が転移者が出現した際に、地上で何らかの活動をしていることを、俺から聞かずに自ら目撃している唯一の人間だからな。

 Wアラーム中に地上に出ることは対異世界人対処条約という法律で禁止行為とされており、違法となれば当然罰せられるが、転移者を見たすぎて出てしまっているコイツは、転移者は――昔は光学迷彩か何かだと思われていたが、今は魔法だと断定されている――普通見えないはずなので、カメラで撮ったところで映らないはずだが、禎樹は特注のフレームアーマーのバイザーと一部同じ技術を用いた特殊なカメラを使っており、映らないはずの異世界人を撮影できるそのカメラで異世界人を撮りまくっているらしい。なのでもしもの戦闘に備えて自宅でも体を鍛えているらしい。それは置いて置き、そのカメラの写真に……ビルとビルの間を飛び越える俺の姿が映りこんだ写真があったらしい。そのせいで翌日質問攻めに遭い、WB社の一員だという嘘で話が完結している。入院しても双眼鏡で転移者を見るレベルだと前から聞いていた要注意人物だったが、バレてからは俺が秘密裏に活動していることと禎樹が違法行為をしていることをお互いの人質とし、誰にもバラすことなく転移者情報を日々共有している仲だ。

「真夜中の上空に箒に乗って飛ぶみたいな魔法少女の異世界人っていると思うー?」

「見たことないから見てみたいな」

「そもそも見れねえしな」

「そんな魔法使いいねえだろ。もっと効率よく飛んでそうだ。羽とかで」

 バタ足だけになった楓の素朴な疑問に、嘘はついていない禎樹と正論を言う愼平だが、実際に異世界に赴いて異世界人をみたことがある俺が具体的な特徴を言うもんで……固まった二人が視線を向けてくる。楓も静止して地面と平行になり、言っちゃうの? って疑問顔を向けてくる。

「いや、あの……あれだ」

「前にニュースになってたよねー。あの子、羽生えてた!」

「ほ、ほらな?」

 今更法を犯してまで報じようとするメディアもいないんで、事実かどうかは知らないが、まさか石塚から救いの手が伸びるとは思っていなかったな。少し驚いて自分もそのニュースを知らなかったかのような反応を示してしまう。だが、禎樹と愼平は……「ふーん」と呟き、異世界人の容姿を想像してるようなので一安心だ。

「しゅーくん今日の投函数いくつだった?」

「確か17」

「わお、僕なんか11だよ」

「ヤベーなお前ら。俺は2だぞ2。少し分けろ」

 結局全部届けたんだが、同じくランキングに名を連ねる愼平も少なからず届いていたようだ。楓も指で12個だとアピールしてくる。

「僕的には17より2の方が本命感あって大切にすべきだと思うけどね」

「でもこれファンの文化だろ? なら大いに越したことはねえだろ」

「数を意識してるだけ偉いよ~」

 楓のいう通り、愼平はその先に待ち受ける地獄を知らないだけだ。まだ1、2個なら見てやろうかなって気持ちにもなるもんだ。でも連日パンパンになるまで送られてみろ。もはや迷惑行為だ。

「実際要らないんだよな」

「それなんだよねー……」

「えっ!? 貰ったら嬉しいよ!?」

 俺と禎樹が呆れ顔をするもんで、人生で一つももらったことがない石塚がなんかほざいてるが……

「ほんっと外だけで判断して内を知らんやつらばっかなんだよ、ああいうのは大抵」

「だよねー」

「それな!」

 ラブレターというかファンレターのような、外見だけで判断した情報をただ綴っただけの手紙を何度も読んだことがある俺と禎樹と楓は揃って呆れ顔になる。受け取った事がない石塚には分からないだろうが、現実はそう甘くないんだよ。

 だが、俺や楓はそう言う存在を求めていないのに対し、禎樹は他の理由でラブレターの類が嬉しくない。それは――

「どうせ中身を知ったらドン引きして離れるのに」

「いやー、案外好きになったらオタクとか関係ないとか言ってくるかもだぜ?」

「やめてほしいなぁー……」

 愼平が言った通り、禎樹は実は超が付くほど重度の二次元大好きオタク。この美貌と肉体と頭脳で、だ。主にアニメを好むらしいが、それ以外にもイラストや漫画、ライトノベルや声優……と、二次元に関連することなら全般的に好む人で、自分の趣味を語るときはとことん饒舌になり、一気に喋りすぎて息つぎしてるのか分からない。御経唱えているような喋り方になる。そのぐらい好んでおり、三次元を超嫌う男だ。俺並みにイケメン要素をドブに捨てている男だ。そんな禎樹は時々本性を現し「爆ぜろリアル。愛すべきは二次元と異世界人のみ」とか絶叫するレベルで思考回路がいかれている。これはコイツの名言と言えるだろう。ここまで二次元が好きだと、そりゃ勿論その中で出てくるような容姿の異世界人を好むわけで、転移者の盗撮活動を行っている所に繋がる。実は運動を頑張っている理由は自衛の為だというのは表向きで、本来の目的はいつ自身が向こうの世界に行ってもいいように運動と勉強を頑張っているんだろうしな、どうせ。異世界に行けたらハーレムになるとか言っていたが、その過程で磨きがかかり過ぎて地球でもハーレムみたいな状況になっているかわいそうな野郎だ。三次元には興味がないからさぞ苦労していることだろう。

 愼平が三次元の女が好きだとすれば、禎樹は二次元の女が好き。ここだけ聞くとまだ愼平の方が健全そうだが、実際愼平は三次元の女を性的対象としか見ていないだろう。なのでよっぽど存在しない女を愛している禎樹の方がキモくはない。一度愼平に禎樹みたいに二次元に走れば警察沙汰になるピンチも訪れないのではないかと聞いたことがあるが、現実に勝てる物はないとかほざいていた。逆に禎樹に愼平みたいに三次元が好きにならないか聞いたことがあるが、例え何でも言う事を聞いてくれても二次元に勝る相手はいないとかほざいていた。つまりどちらにも止める気はなく、一生そうして過ごしていくらしい。ある種趣味があって日常生活は充実していそうだが、世間的に暮らしにくそうだ。秘密裏に転移者を元居た地に戻す無償の活動をしている俺並みにとは言わないが、俺達男三人プラスアイドルを隠す楓は、そういう似た者同士で入学初日に直ぐ意気投合した。余談だが、石塚は俺についてきていつの間にか、って感じだ。

「無遅刻、無欠席、忘れ物無し。更に一般科目は学年一位、専門科目は俺を除くとAランクのトップ。それなのによしPはなんで不登校で頭が悪い俺より人気がねえんだよ。女子ってのは分からん」

 禎樹は重度な二次元オタクだ。それも、プロデューサーが知っていそうな知識を超えるレベルで。なのでこうして『禎樹プロデューサー』、略して『よしP』と呼ばれることもある。

「不登校の方がかっこいいとか?」

「ここマッチョガール多いし、ヤンキー流行ってんじゃね?」

「楓と同じこと言うなぁ」

「それか僕が猫被っているのがバレてるとか?」

 俺の皮肉に禎樹と愼平も分からないなりに説をいくつか挙げるが、女子の楓と石塚が反応しないので正しい説なのか分からない。てかそもそもこのメンツに聞くのが間違えかもしれん。

「そんなことより無遅刻、無欠席、忘れ物無しでバカなコイツの方が気の毒だぜ」

「愼平君気にしてること言わないでよぉ!」

「その発音止めろぉ! それだと『新兵』じゃねえか!」

 グイグイ意地悪に石塚をバカにする愼平はポカポカ殴られているが、そのぐらい痛くも痒くもない本人は欠伸しながら反論している。普通キレる時に欠伸でるかよ。

「机でよくあんなにも気持ちよさそうに涎垂らしながら寝れるよな」

「え!?」

「自覚ないのかよ……」

 目が覚めたら机が濡れてることすら気付かないとか……コイツはホントに対異世界人関連に入社できるのか甚だ疑問だな。行けてシェルター内の清掃とかじゃね?

「ていうかあのー……何だっけ?」

「学園内イケメン男子&カワイイ女子ランキング?」

「そうそれだ。あれは誰が作ってんだよ。投函物の数を集計した結果から先生らが発表してんのか?」

 どこかに張り出されている訳でもないのに、いつの間にか生徒中に行き渡り、全員が内容を把握しているランキングだ。そんなに影響力がある作り元は先生としか思えん。

「そういえば誰なんだろ」

「ボクもしらなーい」

「ていうか四位の女は誰だ? カワイイか?」

「話を逸らすな」

 石塚も首を横に振ったし、とりあえずこの場に知っている人は誰もいないらしい。謎過ぎるランキングだな。

「リアルのヒロインはいらないんだけどねぇ、妹萌えもね」

「なあ、どんな女なんだ?」

 禎樹が妹を強調して否定した理由は、実の妹が超が付くほどのブラコンらしく、お兄ちゃんと結婚しようとしているぐらいヤバいヤツらしい。住宅街第七区にある附属中学校に通っているらしいが、一度見てみたい。

「どんなに酷いか知らんけど、少しは相手してやれよ。いつも妹の話題になると愚痴しか言ってねえぞ」

「で、どんな女なんだ?」

「妹という立ち位置は好きなんだけど、それは二次元限定であり、三次元の妹とかクソだよ。それもブラコンとか……現実ではありえないはずだから、一度病院に連れて行った方がいいよね?」

「かわいいのか?」

「そういう妹もいるんじゃない? 知らないけどー」

「巨乳なのか?」

 俺と禎樹と楓が愼平の話をガン無視して話す理由は、ただ一つ。愼平とそいつ――ゆのは絶対に混ぜるな危険だからだ。愼平が車両運転なのに対し、ゆのは機械生産・改造系。だからどんな爆弾を生むかわからん。ありがたいことにあの二人はまだそれほど親しい仲じゃない。二人が仲良しになる前に……双方とつながりがある俺達が阻止するべきなんだ。

 因みにゆの――唯月(いつき)結乃(ゆうの)という人物は、俺と同じく二週目一年生で、俺に銃砲刀剣類を卸してくれている人でもあり、俺が鍛錬できる耐久性・隠匿性のある場所を提供してくれる人でもあり、よくお世話になっている友達だ。

「そうはいうけどさ、お前の妹めっちゃ可愛くて性格もいいって評判だぞ?」

「可愛いのか!? そこんとこ、詳しく教えろ」

 いつか聞いたことがある噂を問うと、『カワイイ』という単語に瞬時に反応した愼平が話に食いついてきたぞ。あまりの変態さに楓はドン引きだ。

「確かになんか僕に好かれようとしてくる二次元から出てきたかのようななんでもできちゃう天使の妹みたいな子なんだけどさ、僕は二次元だから好きであり、三次元のいも――」

「――なあ新兵」

「何だ?」

「あそこにカワイイ人いるぞ」

「どれだ!?」

「ちょっと話聞いてくれる!?」

 趣味語りの饒舌モードになってしまったので、逃げる為に適当に愼平を誘導し、この場から立ち去ろうとするが……流石に気付かれた。話さえ中断されればよかったので、気付かれる気満々だったが。

「何でこんな奴がイケメンなんだろうな」

「しゅーくんもね」

「は?」

「え?」

 溜息を吐く俺が同類扱いされたので、二次元好きでイケメンが勿体ないことを伝えるために否定したが、禎樹は俺が同じく二次元好きでイケメンが台無しになっていると思っていたらしい。お前は今まで何を聞いていたんだ。ずっと俺の席に人が居なかったことに違和感ないんか。

「なら逆に三次元だったら誰が良い」

「強いて言うなら、アニメの曲やら声を吹きこんでる声優さんかな。それと異世界人」

 昔は声優でもダメというぐらい重度な二次元オタクだったが、最近は少し緩和してきている。妹の影響か、楓と絡むようになってからかは知らないが。

「ラブじゃなくてライクもカウントするんだったら、アイドルのかえでちゃんと配信者のnof_nalkofかな」

「音楽関係の世界記録を一生塗り替えれないレベルで軒並み更新してる奴と、三年前から年中無休でゲーム配信してるとか噂の変人か」

 前者は自分の事を言われているのに動揺すらしない今目の前にいる楓なんだが、後者の配信者とやらは知らない。というか、そもそもテレビすら見ない人間なので、知っている訳がない。

「確かにゲーム配信が主なんだけど、あの方はコスプレイヤーでもあるんだよ。僕が唯一好きになったコスプレイヤーだね」

「へー、今は色んな職種があるんだな」

 ゲームを配信して食っていける職種ってのはどんなもんか気になるが、人のを見るより自分がやった方が楽しくないか? プレイを参考にでもするのだろうか。リアクションを見て楽しむんだろうか。それこそオセロぐらいしか知らない俺には分からないことだ。

「家族でもダメなのか?」

「境目。ギリギリアウトかな?」

「家族でもか」

 今まで聞いたことがなかったので知らなかったが、家族もダメとかよっぽどだな。こいつの三次元嫌いは。

「そして妹は一番クソ」

「自分の妹に向ってそれはねえだろ。クソ言うなクソ」

 例え二次元が大好きで三次元が大っ嫌いでも、家族だけはバカにするもんじゃない。禎樹の場合は尽くしてくれる優しい妹なんだし。

「わかる。俺にも姉がいるが、ホント性格クソだぞ。エロボディなんだから少しは見せて触らせてくれたっていいだろ、姉弟なんだし」

「それは自業自得だな」

「だね」

「はぁー?」

 俺と禎樹が冷たい視線を向けて頷くので、自分が犯した罪に自覚がないらしい愼平は納得がいかない様子。兄弟姉妹がいないから知り得ない苦労かもしれないが、本当は兄弟姉妹って存在はクソなのかもな。

「ちっとはいいとこあんだろ。飯作ってくれたりとかさ、傍から見たらいい妹そうだぞ?」

「知らないからそう言えるんだよ……あいつの本質を」

 あーあ。よしPさん、遂に実の妹の事をアイツ呼ばわりしましたよ。そう呼ぶのは石塚だけにしましょうや。

「盗撮でも盗聴でも何でもしていいから一度見てほしいよ……」

 正直一度会ってみたい気持ちはあるが……

「そこまでしてみねーよ。何の恨みもねえのに何で知り合いん家覗かねえといけねえんだ よ、ヤツかよ」

 最後にボソッとつい漏らしてしまった苦悩を聞き取っていた三人は、

「え!? ヤツそんなことしてるの!?」

「石塚さんってしゅーくんのストーカー?」

「ヤベえな。俺の姉が優しく思えて来たぜ」

「だからお前のは自業自得だって」

 三人揃ってさっきトイレに行った石塚の本性を聞いてドン引きしている。愼平に至っては姉と比較するレベルで。

 とまあこのタイミングで休み時間終了のチャイムが鳴り……イツメン以外と話すこともなく、二時間目の授業へ突入した。


 正直イツメン以外と話したくない。話す会話も無いし、会話を合わせるのがだるいし、一人一人いなかった理由を言っていくのが面倒だからな。その点俺がいなかったことをどうでもよかったかのように流し、自分たちの本性や投函物の数など、他愛ない会話を交わせる友達という存在は偉大なものだ。ともあれ、俺と同じく禎樹は女子と会話したくないので、愼平は十分で女子に攻撃を仕掛けられないので、楓は日々の苦労からだらけるのを邪魔されない為に、石塚はストーカーなのでいつの間にか、休み時間は毎回俺の元にみんな集まっている。なのでめんどくさい会話を交わす必要が自然と無くなっていた。本当にありがたい。こいつらは無意識なんだろうけど。

 久しぶりに友達と会えたとあって、気分上々で……

 普段碌に午前の授業は受けないくせに、今日は珍しく殆ど起きているので、愼平から休み時間に「今日は雨が降るかもな」とかバカにされた。俺だってそういう気分もある。

 席が遠い愼平と石塚はやっていないが、三時間目は楓と禎樹と絵しりとりをして過ごし、四時間目は椅子の前足を浮かせてぽけーっと黒板を眺めていたら……

 なんか目の前の空間が歪んで見えた。不思議に思って左右をチラ見するが、二人とも気付いている素振りは無い。俺にだけ見えた現象みたいだ。

(気のせいか……?)

 あまりに普段しない学生らしい行為をするもんで、見えちゃいけないものまで見えたのかと思って忘れようとしていた頃……

 目の前に両頬に手をついてあたかも椅子に座っているような恰好で、うっすらとルミーナが出現したがな。

「ブッ」

 いきなりこの場にいないはずの人間が現れたせいで、吹きかけて後ろに倒れかけるが……なんとか持ち堪える。

「しゅうやんどうしたの? かっくんかっくんしてた?」

「あ、ああ……寝落ちしかけてた……」

 流石に隣の席の人が音を立てると振り返るもんで、楓が心配そうに見てくるが……視線は俺の方にしか向いていない。ルミーナ今、俺にしか見えない状況みたいだ。

「不意打ちにも程があるだろ! これだから気配を感じない魔法は嫌いなんだよッ!」

 小声で傍から見たら誰にともなく、ルミーナに訴えかけるようにつぶやく。

「どのぐらいの魔法だったらWアラーム鳴らないか試してたら、≪トライペンツ≫が使えたのよ。暇だったし気配を追って覗きに来たわ」

「来るのは好きにしていいが、もし鳴ったらどうするつもりだったんだよ……」

 流石に数か月も鍛錬を積んできたので後先考えずにチキンレースに挑んだとは思えないが、突然Wアラームが鳴ったら俺が学校からルミーナの居場所を探り当てるよりフレームアーマーが抹殺する方が明らかに速い。そのぐらいこの世界では魔法の使用が危険で、異世界人は抹殺される。

「鳴ったら≪トライペンツ≫するだけよ。今もこうして誰にも見えていない訳だし」

「なら今俺に見えるのはどうしてだ。効力が落ちて顕現化してきてんじゃねえのか?」

 逃げる方法は分かった。だが、≪トライペンツ≫は姿だけでなく気配も消すことが出来る魔法。ずっと目の前にいたルミーナに気付けなかったのは当たり前だが、いきなり見えるようになったっていう事は、地球の魔力が少なくて異世界では無双できるルミーナでも底を尽きたっていう事じゃないだろうか。

「魔法は応用が利くわ。一人だけ見えるようになってもおかしくないわ」

「これだから魔法は嫌なんだよな……」

 想像の遥か上をいく回答が返ってきて、一つ溜息を吐く。

「因みに今は≪ラスペリファンス≫っていう、対象相手とだけ会話ができる魔法も併用しているわ。小声じゃなくても聞こえないし、口元動かしても問題ないわよ」

 それを先に言えよと思いつつ……

「なら今は三つの魔法を併用している訳か。魔力は足りるのか?」

「この前デリザリン王国の書庫で、≪スレンジ≫の魔力版・≪ズグジス≫っていう、自身の魔力容量の半分を貯蔵できる魔法が記されていた書物があったの。それを家で溜めて、今そこからも使ってるから、後……もって一時間ね」

「その感じ、あまりチャージできなかったみたいだな」

 上限がないともいえる魔力容量を誇るルミーナの半分が一時間分とは思えないので、やはり地球は魔力が少ないんだろう。俺が家を出てから四時間は経過したというのにな。

 書庫でこっそり知らない魔法の本を暗記していたとは言っていたものの、それがちゃんと実戦で活きる魔法で、しっかり覚え、使用できる状態になっているかは分からない。だが今回普段使いできるレベルで習得していることを証明してきた。頭脳の分野に長けたルミーナは、

「ここが学校という施設なのね。萩耶の邪魔しないように、少し見学してから帰るわ」

 ルミーナの存在は俺以外誰にも見えていなくても、俺は何もない虚空を見つめ、異様に口を閉ざしている異彩な光景が続いてしまう。休み時間も見ていたのか、学校で孤立しておらず、そうなると友達からからかわれると判断したのかもしれないな。

「見学するならあっちの方向にある図書館に行くといい。対異世界人人材を育成する学校の図書館とあって、とても広いぞ」

 退治には一般科目棟や専門科目棟の他に、教員棟や図書館もある。体育館やグラウンドなんか数えるのが面倒なぐらい沢山ある。なので一時間で見て回れるとは思えないが、飽きた時用に図書館の位置を教えておいた。あそこに行けばこの世界の全てを把握できるからな。

 魔力吸収速度を上げるためか、初めて転移してきた時と同じ薄いぼろ布のような服を着ていたルミーナは、教室の壁を幽霊が貫通するように出て行った。


 やはり俺の声は聞こえていなくとも、何か徐に隠しているかの如く口元が動かなかったようで……かっくんかっくんしていると見間違えた時から気にしていた楓がずっと見つめてくるので、禎樹や愼平が近づいて話が広がる前にルミーナがいたことを耳打ちしておいた。

 聞いて当然驚く楓だが、それを構っている暇はない。それは――このままここで駄弁っていると、昼飯抜きになるからな!

 久しぶりに登校したせいで、昼飯持参か昼飯購入する必要があることをすっかり忘れていた。合計して数か月いなかった期間がある訳で……今はその期間売電した分のちょっとした金を持っている。節約は変わらずするが、激安パン一つぐらい売店で買える余裕がある。

 一般科目棟は四階建てで、一階は講堂や下駄箱、売店などといった授業に関係ないものがあり、二階に三年の教室、三階に二年の教室、四階に一年の教室がある。なぜ一年が最上階の四階に教室があるのかというと、最初の頃はとにかく体力や筋力を付けないといけない時期ってのが大きな理由だが、小さな理由で言うと、三年があまり一般科目棟に長居しないからだ。ともあれ四階分の階段を降りるとなると、今からだともう手遅れだ。一年より有利な二、三年が蔓延っており、完売のプラカードを見るだけだろう。だったら――窓から飛び降りる。勿論二階とかじゃないので、ベルトのワイヤーを四階にひっかけてはいるが。

 やろうとする奴はいないが、別に驚かれる世界線の学校じゃないので、円滑に降下することができ……かなりの時短になった。ワイヤーとか大衆向けの行為をかまさなければもっと早かっただろうな。とまあ……売店の前にたどり着き、人がごった返す中壁沿いに立つ。

 売店は学食に行く前に一応寄って行く、的な存在だ。なぜかというと、学食の最安値はうどん100円だが、人が多くて出てくるまでに手間がかかり、やるべきことがある人には不向きな昼食だからだ。でもこの売店には最安値50円で意外と大きいパンが食えるのだ。買って即食える上に、ゴミが袋しか出ない。これ程忙しい人向けの商品は無い。なので主に時間に余裕がない一年ややる事が多すぎる三年が集まる。そんな中、多分唯一の金欠という理由で並んでいるが……バーゲンセールのようにごった返すところに突っ込まずに律儀に待つせいで、いつ自分の番が来るか分からない。

「しゅうっちそんなところに居たらいつまでたっても買えんぞ?」

 丁度学食かどこかに向う所だったらしい愼平が通りかかり、ただひたすら順番を待つ俺の背中をバシバシ叩いて笑っていやがる。

「お前なあ……俺はこれを正す為にここに立って並んでいるんだぞ? こんなしょーもない争い事ですら生まれる学校で誰がWB社に就職できるかっつーの」

「そんな偽善行為すっからいつも変なパンしか残ってないんじゃねーのか?」

「うっせえなあ……」

 せっかく列を作る為に並んでいたのにそんなことを言われるとバーゲンセールに突入する気持ちになってくるだろ。

「そういうお前はなんで俺の後ろに居るんだ?」

「いや、なんとなく……並んでたら並ぶじゃん?」

「そう、それが俺の狙いなんだよ。お前が第一被害者だな」

「被害者言うな」

 俺と愼平が並んだからか、争う人たちが自分たちの醜さに気付いて虚しくなってきたのか、自然と売店から離れて列の最後尾に並び始める。

「ほー……好感度ってこうやって上げるんだな」

「上げたつもり無いんだが?」

 確かにさっきから「新谷さん一人真面目に並んでらっしゃる……! ステキ……!」とかキラキラした目で複数の女子から見つめられるが、当然の行為をしたまでに尽きないんだが。あんな争い事、何も生まれんだろ。ちっとは考えろ。

「てか何で並んでんだ? お前も金欠か?」

「俺はただ自販機には売ってないプロテインを買いに来ただけだ」

 そういえば……前にもそんなことがあったな。学校が運動ばかりやらせるところなだけあって、売っているプロテインも種類豊富とか。俺は飲んだことすらないぞ。金があってもあんな粉飲む気にならんが。

「休み時間はジムか。ホント昔とは変わってマッチョになったよな」

「最近は乗り物以外だとエロか筋トレ一筋だからな」

 写真で見て話を聞いただけだが、実は愼平は昔、かなり太っていたらしい。それも三桁級の。乗り物は退治に来るまでは趣味の範囲で、あまり重労働になることはなかった。だが、退治に来て運動が日課となり、趣味が仕事みたくなった途端、みるみるシルエットに凹凸が目立つようになっていき……いつの間にか三桁の体重の原因が脂肪から筋肉に変換されていた。すると趣味の一つに専門科目を円滑にこなす為に筋トレが追加される訳で、今はボディビルにも出場するぐらいの筋骨隆々さを誇っている。腕なんか俺の腕の二、三倍以上太い。

「それじゃ俺はみんなと食ってくるんで」

 俺が列の先頭だったこともあり、バーゲンセールが治まってすぐ番が訪れた。校内にある、学生ならいつでも使い放題のジムに行くらしい愼平とはお別れし、イツメンが待つ教室へ戻る。今度は階段で。


 やはりみんなが並ぶようになったおかげで、今回は殆どの商品が残っており……150円の焼きそばパンを買えた。自販機で買った100円のイチゴミルクの紙パックと合わせて250円の出費。そういやルミーナがいないので飲み物を購入する必要があったことに気付き、パンを一つ諦める羽目になってしまった。(……て、水はタダだったじゃねーか)

 人工島には電気や水、宅配、ゴミ、建設など、全てを管理する人工島管理公社なる企業が存在する。そのお陰で売電でき、水道水はいくら飲んでも人体に害が及ばないミネラルウォーターと同等の品質なんだが……そのせいで水道代が高いもんで、水道を直飲みできることを完全に忘れていた。もったいな。

 普段動き回ってしかいないのに小食な理由は金欠で多く食べれないからで、裕福じゃない地球に戻ってきて、久しぶりに添加物満載で不摂生な満腹にならない飯になる悲しさよ。

「ややくーん、ゲットしたよー! 一日五個限定のDXパン!」

 石塚が購入したらしい味を一言でいうとカオスな500円もするパンですら食いたくなってくるな。ヤバいぞ、腹いっぱい食べれる環境に慣れ過ぎた。

 そんな状況に追い打ちをかけるかの如く、弁当持参していた楓と禎樹の話題は昨日の夕飯だったらしく、俺より少し早く戻ってきた石塚が回答する番になっていた。

「昨日の晩御飯はー……ラーメンとー、餃子とー、チャーハンとー、寿司とー、ステーキとー、ハンバーグとー、塩焼き食べた!」

「バイキング?」

「ううん、作った!」

「あちゃぁー……」

 あまりの食事量に禎樹はバイキングと勘違いし、楓は石塚が動かないくせに食う一方の現状を悲しそうに眺めることしか出来ずにいる。そんな最悪のタイミングで帰宅したんで……正直殺意しか湧かないな。今俺の目の前で鱈腹食ったアピールすんじゃねえ、殺すぞ。

 俺が戻ってきたことを確認した禎樹は、四人揃うまで食べるのを待っていてくれたらしく、ようやく弁当を開け――た瞬間速攻で閉めた。そして……何故か弁当を思いっきりシェイクしているぞ?

「どうしたんだ? 新手の弁当か?」

「そう。どうやら今日はセルフ混ぜご飯だったみたいなんだ」

「へぇー」

 超焦り顔の禎樹は本気で弁当を振っていて、あまり気にしてない感じの楓はどこかで買ったらしい市販の弁当を開けて食べているが、俺には見えた。常人には見えない一瞬の出来事でも、見えてしまう。

 禎樹は再び弁当開けると、ケチャップで書かれていたはずの『お兄ちゃん大好き♡』の文字は消え去っており、血で染ったかのように悲惨なお弁当に成り果てていた。本人はこれでよかったらしく安堵しているが、本来の姿を目撃したんで……やはり禎樹が言う通り、妹さんは度を越したブラコンなのかと疑問に思ってくるな。確かに弁当にアレは、行き過ぎだな。ていうかよく文字が崩れずにキープされたまま昼休みまで持ったな。愛の力って奴か? 怖すぎな。

 グロッキー状態になる前の姿を目撃しているので、禎樹が「これなんだと思う?」って聞いてくるオカズを「トマトじゃね?」って感じに全問正解するわけだが、凄いってだけで終わるだけなのでつい調子に乗ってしまいそうになるな。

「ねえねえ、これ新商品らしいよ」

「おっ、ちょっと一口くれないか?」

「いーよー」

 俺と楓は普段の晩飯時にもしているようなオカズ交換を目の前に危険人物が常にいる学校でも普通にしてしまい……

「きゃーーー‼」

 石塚から叫ばれたがな。俺と禎樹と楓が揃って「何で!?」って驚いたぞ。

「男女であーんって……! ダメだよ!」

「はあ?」

 今までこの仲間内でそういう話は一度も浮上しなかったっていうのに、いきなり俺と楓をカレシカノジョ認定した石塚は顔真っ赤にしてやがるぞ。いくらなんでも過剰反応しすぎだろ。

「いや、ならどうしろと」

「手で摘むと汚れるしね」

「オカズ交換ぐらいするよ……?」

 俺と禎樹と楓は何も可笑しな行為をしたとは思っていないので、ただ一人悲鳴を上げて顔を赤くする石塚を不思議そうに眺めるしかできない。

「かっ、かっ、かんっ!」

「かん?」

「なんだそれ」

 頭が悪いくせに遂に日本語でもない言語を喋りだしたか、意味不明な発言をする石塚は……

「はっ、箸を逆に! せめて!」

「あー……汚れる、とか?」

「違う! でも! そう!」

「はぁ?」

 言ってることが意味不明な石塚は普段から可笑しい人間なので、これも正常運転だという事で三人は納得し、俺と楓がオカズ交換し、貰ってばかりじゃアレなので俺も焼きそばパンを少しあげて食事の時間は終わった。ただ、石塚の悲鳴という効果音は響き続けたが。


 食事の時間を終え、90分間の昼休みが終わり……各科に分かれて三時間の専門科目を受けた。迎撃科Aランクの授業内容は、強化ガラスの破壊練習だった。迎撃時に使う可能性がある技術でもあるので的を得ている授業内容ではあるが、俺は力任せに破壊してしまうので……次の時間からは、迎撃科Bランクの授業――人工島と本土をノンストップ遠泳に途中参加することにした。なんかBランクなのにDランクみたいな内容だなと思っていたが、どうやら教員が欠席だったからこうなったらしい。まあ夏の海は気持ちよくて楽しかったので結果的にはこれで良かったなと思っている。

 専門科目の三時間が終わると、休み時間挟まずに掃除含む自主練の時間に突入する。もうみんなヘトヘトなのにここから更に追い込む時間が一時間あるわけで、一年生だと大体の人が運動は諦めて座学に逃げる。そうなったら校庭の空き率は高いので、体力自慢でもある石塚を除くイツメンで水着になってビーチバレーに励んだ。人工島というぐらいなので、校内にも人口海浜は多いからな。

 自主練の時間が終わり、六時になった頃、退治はようやく下校時間になる。開始が七時半で終わりが六時なのは、授業中に転移者が来たらシェルター活動をしないといけなくなり、授業を中断せざるを得なくなるからだ。活動で失った時間を取り戻す為に学校の時間が多く設けられている。一応高校なので、一般科目をしっかり修めないといけないらしいからな。よって今日みたいな授業中に転移してくることがなかった日は、完全予定通りの日程が送られるわけで……下校時間になってもヘトヘトで専門科目の自分の席から動けない生徒が多くいる。これは一年だけじゃないだろう。去年三年の時にも見た光景だしな。

「そういやあの異世界人向けの辞書って今どうなってんだ?」

 前に楓と話したことがあるが、禎樹は異世界人に地球を知ってもらうために、これさえ読めば信号機などの小さなことから空に見える星の事まで、異世界になくて地球にあるであろう物や事が全てわかる地球の攻略本のような辞書をネット上に自作している。実は今日登校前にルミーナに退治に進学が内定したら配布される、対異世界人関連の専門用語がびっしり載った辞書を読むように渡しておいたが、それだと対異世界人関連の知識はついても、地球の知識は一切つかない。なので禎樹作の辞書も渡しておく予定だったが……そういえば異世界人とつながりができるとは思っていなかったので、いつも貰うのを拒否していた。持ってたって、箪笥の肥やしになるしな。だが、今後は必要となるので、貰わざるを得なくなった。

 因みにその『対異世界人についての基本知識』と題された――学校出版で入学しないと配布されないし、紛失したら再版してくれない――辞書は、配布されたら内容を入学までに全暗記する必要があり、言わば入学後の第一関門として存在している。入学初日にいきなりこの本の内容についてのテストが行われ、それに満点を取れなければ対異世界人活動に於いての意志や資格が無いと見做し、入学初日で即退学処分となる。俺はそもそも既知の内容ばかりだったので楽勝だったが、今年も確か数名落ちたはずだ。そもそも入試の時点で最低5つは世界記録を更新しろとかいう、判断基準がおかしい卓越した才能テストが行われた上でこれだ。生半可な気持ちで志願した人は確実に挫折するし、相応の覚悟がいるのが対異世界人関係の仕事だ。それなのに入学希望者が後絶えないのは、やはり絶対に無くならない職業であり、命を落としやすくはあるが国民及びに地球を守る立場なので高収入だからだろう。

「暇な時に色々更新してるよ。もしかして遂に欲しくなった?」

「まあ……その……俺がこの世界を知らない異世界人並みに頭がわりぃからさ、ちっとは勉強しようと思ってだな……」

 流石に異世界人とつながりができたとは言えないので、自身の頭の悪さを都合よく言い訳に利用して何とか誤魔化す。

「なんだ、異世界人用じゃないのか……」

 キラキラした目を一気にしょんぼりしたものに変えるが、

「そもそも異世界人と暮らせるわけないだろ」

「それもそうだけどさ……宇宙人とかもそうだけど、存在して分かり合えると思って想像を膨らませるのが面白いと思わない……?」

「まあなー」

 地球が異世界人を迎えるムードじゃないことを、異世界人の態度や被害を受けている現状から誰もが把握しているので、例外でなく勿論知っている禎樹は、自分の幻想が本当に手の届きにくいことだということを再認識したかのようにしかめっ面になるが、言ってることが理解できない訳じゃない。確かに居るとかいないとか、合成だとか言うより、居ると仮定して想像する方が絶対に面白い。

「それだったら一度内容見直して再版するから、また今度会った時に渡すね」

「ああ、頼む」

 無料で貰う立場なので、今すぐにくれとは強く出れない。貰えるだけありがたい事だ。完成を気長に待つとするか。

 禎樹は叶わない話はこれ以上語らず、これからアニメショップに行くらしいので、教室でお別れし……未だにグロッキーな教室の中、普段の鍛錬の方がキツく、唯一終始元気なので……偵察科Aクラスにいるはずの楓は、学校が終わったら仕事なのでお迎えを待つと昼休みに言っていたので、一人真っ先に教室を立ち去った。家には俺の帰り待っている人が居て、教室でのんびりしてる暇はないからな。

 久しぶりの登校で一日が長く感じたが、たまには午前からも登校するのもいいな。なんて思いつつ、玄関の鍵というものを覚えたらしく、自宅のドアが開かないのでインターフォンを押してルミーナに開けてもらう。

「大変だったわ。まさかあの女性が来るなんて……」

「ヤツが襲来してたのか」

「私がいたから帰ってったけど」

 どうやら先回りして俺の帰りを家に不法侵入して待つつもりだったらしいな、石塚の野郎は。そりゃあ家にいるルミーナは慌て、鍵という概念を知る羽目になる。

「一日フリーだったから、ある程度この世界で使える魔法の程度を把握できたわ。それと、専門用語の本と、王国で貰った本の内容もね」

「ルミーナもルミーナなりにできることやってたんだな」

 正直あの後も俺に気付かれないように尾行していたんじゃないかと思っていたが、他にも色んな収穫があったような話をするのでそれは無さそうだ。

「でもすげえな。俺は専門用語の本を覚えるの、二週間ぐらいかかったぞ。大半は知ってたのに」

「萩耶は勉強以外とことんダメね」

「うっせえ」

 バレると抹殺される死地で半日一人で暮らしていたからか、笑うルミーナは俺が帰ってきてとても安心したような雰囲気がある。

「俺は地球だといつもこの後は鍛錬しに行くんだが、ついてくるか?」

「勿論よ。今日は魔法や勉強ばかりしてたから、そろそろ体を動かしたいところね」

 制服から軽装備に着替えている所を見て、何らかの行為は起こすんだろうと推理していたらしく、ルミーナもラフな格好から軽装備に着替えつつ回答してきた。

 普段異世界に持ち運ぶものは主に装備、弾薬、貴重品ぐらいだ。それは異世界だから特別とかじゃなく、地球で活動する時も――転移者が来た時は服が除外されるが――常にこの持ち物だ。なので異世界に向う時と全く同じ準備を済ませ、本二冊を≪スレンジ≫で収納し、M82A3が分解収納されたケースを持ったルミーナも準備が終わったことを確認し……鍛錬しに知り合い――ゆのん家の地下へ向かう。

 その知り合いは、俺の装備を製作・提供している唯月結乃という人で、前にも話したが同じく二週目一年生の女性だ。彼女はその技術の高さや発明の素晴らしさからフレームアーマーやフレームデバイスなどを扱うWB社の製造班補佐でもあるので、家にいることが少ないと思われがちだが、基本的に自分の家か工房に入り浸っており、依頼が来たらそれをWB社に出向かず自宅でこなす自営業のような形態をとっている人だ。なので訪問すると大抵いる。だが、思いついたら完成まで一気に作りたい人なので、製作中に来ても相手してくれない。だから俺は地下だけ出入り自由の権限を貰っている。きっと今日もゆのの顔を見ることはないだろう。

 俺が帰宅したのは六時過ぎとあって、もう暗くなりつつある人工島は――今日は平和だ。禎樹も言っていたが、最近は転移者が少ないらしく、日々怯えて暮らしていたはずの行き交う人々が束の間の休息のお陰で活き活きしているように感じる。

 そんな中、俺とルミーナは退治を偵察してみてどう思ったかの会話になっており、俺が何故あそこまでモテるのかの話になっていた。

「知らんけど、いつも間にかあの惨状になってたんだよな」

「不思議よね、私にも容姿からあそこまで熱心に思う気持ちが芽生えることに理解できなかったわ」

 実は俺が投函物を処分してからルミーナが俺の下駄箱を発見して中身を覗くまでの短期間でさえ容量ギリギリまで溜まっていたらしく、驚いたルミーナは≪トラスネス≫を使って状況を判断し、これらがゴミだと判断してゴミ箱に捨てていてくれたらしい。それでも俺が午前を終えて一般科目棟を出る時の下駄箱は投函物が入っていたし、迎撃科棟の俺の下駄箱も入る時、出る時も絶対投函されていた。この学校の女子は俺の下駄箱を郵便ポストだと勘違いしている疑惑さえある。

「あいつらはどこで書いてるんだろうな。家で書きだめてんのか?」

「多分そうね。≪トライペンツ≫のままキョロキョロしてたら、一人の女子が投函してるのを見たわ。それも、ファイルの中から選んで取り出しつつ」

「対象は俺だけじゃないってのか。アイドルへのファンレター感覚なんだろうな、そいつは」

 いくら手紙を出すなと先生が言ったり貼り紙をしたって終わらない風習なので、俺ももう靴を履き替えなくても校内なら歩き回ってもいいようにしてほしいぐらいうんざりしている。減点されても投函し、読まれないと分かってても投函するその熱意はどうして生まれるのか知りたい。

「地球では可愛さやカッコよさから好きな相手を決めるのが普通って感じ?」

「そうなんじゃねえか? 後は性格とか価値観、持ってる金だろうよ。……ってことは異世界は基準が違うのか?」

 よくよく考えてみると、地球でこの容姿からモテているのであれば、異世界でも特段素顔を隠している訳でもないので、不本意ながらモテない訳はない。だが、バレットやミミアント商会、ギルドなどと、いろんな人と接触してきたというのに……未だに一度もモテた試しはない。寧ろそれでいいんだが、逆にそうなり過ぎると不思議に思ってくる。

「あの世界は基本的に戦えないと生きていけないから、強い人じゃないと人気にならないんじゃない?」

「確かに俺やルミーナは実力を公に知らしめてないな」

 ルミーナは俺に味方するという形で行動を共にしているので除外とし、あまり好意を抱かれない原因はそれかもしれない。エルドギラノスだって、実際に討伐シーンをお見せした訳じゃないので、死んでいたのを運良く見つけたってパターンもあり得るだろうしな。

「なら商会で活躍しつつある俺らは――」

「――もうミミアント商会からは好意を抱かれているわね。一泊させてもらったんだし」

 地球では――退治に限った話かもしれないが――イケメンだったりキュートだったり、人を外見で判断する。だが異世界は、高い戦闘力を誇っていたり、生産職・販売職での実績――つまり中身で判断する、か。どちらにせよ人気者になり得る可能性を秘める俺とルミーナは、もう付き物だと腹を括るしかなさそうだ。

「まだ異世界は進行速度が遅いだけありがたく思うか」

 何れ何らかの拍子で俺とルミーナが強力な戦力を有していることが露呈したり、商社でも成功していることが漏れるんだろうし、動きやすい今のうちにやりたいことは済ませておくべきかもしれない。……かと言ってやりたいことは現状裕福な生活と妨害なき鍛錬だけで、その為の資金や場所はもう確保しているんだけどな。

「さてと、そろそろ相手するか」

「そうね」

 話が一段落ついたところで、さっきからずっと下手な尾行をしてくる人を対処することにする。

 勿論尾行する気配に気付いており、誰が尾行しているのかルミーナも分かっている――石塚だ。俺が妹と二人っきりでどこかに向っているのがそんなに気になるか。そんなに怪しいか。

「流石にアイツを連れて鍛錬場所には行けん」

 俺とルミーナは通路を曲がった瞬間にブロック塀を登り、少しの間だけ誰かの敷地に入らせてもらうことにする。それから少しすると……

「……あれ? ややくんは……?」

 確実に追えるはずだと思っていたのに突然消えたからか、ヤツは通路のど真ん中で立ち往生する。どんな目的で追っているのかは不明だが……趣味が悪いな。

「いつまでも追ってくるなら最終手段として≪エル・ダブル・ユニバース≫で地球外に逃げようかとも思ったが……そういやクールタイム中か」

 あまりに一日の内容が濃いので、てっきりもう24時間は経過していると思っていた。

「≪トライペンツ≫で行くしかないわね」

 ルミーナが無詠唱で使ったらしく、透明になった感覚が一切なくて未だに慣れないが……堂々と道に出て、周囲を見渡す石塚をそのままにして――ゆのの家目指して歩き始めた。




本文で公開予定のない設定をここで紹介しておきます


○国立対異世界人人材育成高校 時間割

登校時間 7:00~7:30

自主練 7:30~8:30

1 8:40~9:30

2 9:40~10:30

3 10:40~11:30

4 11:40~12:30

昼休み(完全自由) 12:30~2:00

5 2:00~2:50

6 3:00~3:50

7 4:00~4:50

掃除含む自主練 4:50~6:00


自主練は対異世界人に関する勉強か運動のみとされています

1~4は一般科目 5~7は専門科目



○対異世界人対処条約

・どんなやり方でも地球を占領されなければよい

・もしもの時の対応

・異世界人への対応方法

・アラーム中は出ない

・シェルター内に入る

・アラーム中に出れる人の条件と特別権利及び特別法律

・各組織との提携関連

といった対異世界人関連の抽象的・大々的なことを書いている

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