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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
31/32

31 狂愛の所縁戦士

 

 朝のHRに先生主導の元、転校の話をクラスメイトに知らせ、寄せ書きまで貰って送り出され……九月一日というキリの良い日付の午後、退治の授業に合流した。退治側は人が不定期に消えることなんかザラなんで、本当の新入りでない限り編入のお知らせとか一切しない。これはこれで寂しいな。

 耀傷に居た頃、結奈(ゆうな)から命令されてからは一応顔を出し、契約も断続的に成立できてはいたが、ルミーナとマリアが人工島で何をしていたのか具体的には知らない。お互いの情報共有も兼ねて聞いたところ、俺が不在になってからやけに石塚(いしづか)の襲撃頻度が増したそうで、ルミーナの発言がより鋭くなったらしい。強く言っても聞かないことはわかっていても、感情を読み取ってみると、(かえで)があくまで中立的な立場を保とうとしてるところに腹立ってるみたいだった。まあアイツはいくら悪者相手でも自分に直接的な害が無い限りは友達で居そうだもんな。なんなら害あっても寝て起きたら復縁してそう。

 その反面、俺が居ないときの楓の日常には尊敬したらしい。俺が家に居たら暇さえあれば遊びに来ている印象があったが、居ないときはほぼレッスン漬け。ダンスの練習や体力づくり、歌の練習をしこたまして、休憩で作詞作曲。それでいて美容にもとてもこだわりを持ってるという。努力量でいえば、俺達やフレームアーマー達より圧倒的に上。楓は才能があるのに、あり得ないぐらい努力家なのは知ってたが、そんな姿聞いたらちょっとは休憩した方が良いぞって思うな。それを好きでやってる人って苦と思っていないってのはあるにせよ、俺が居る時は遊んでるからまだ息抜きできてるだろう。そういう人たちって自覚しないから、過労死だけはやめてくれよ。

 そして昨日久しぶりに三人で鍛錬したが、一か月間大した鍛錬も積んでいなかったのに一切衰えが無いことに驚かれた――というより、呆れられた。そう易々と弱体化するような奴が居れる業界じゃないからな。そんなことより勉強漬けの日々が続いたせいか、行動により意味が含まれていることが多くなったようで、直感的に動いているというより倫理的に立ち回っていることが多くなり、ただでさえ実力で押されるのに攻撃も読みづらくなって寧ろパワーアップしているんじゃないかとも言われた。いやー、そんなことなら尚更勉強やらんとだな。≪エル・ズァギラス≫を反動なしで常時発動状態にできるのは流石に利点しかない。

 一応今は昼休み中なので、久しぶりに一般棟の下駄箱チェックを行っておく。

(いやもう見慣れたが……)

 なんで長期不在中ってわかってんのにどんどん入れるかね? 見かねた教師によるものか知らんが、専用ボックスに扮した焼却場直行ボックスまで設置されている。

(おいおい……金払って会おうとするな)

 会う権利を前払いで得ようとまでしてるもはやラブレターかわからん手紙まであるので、これは流石に教員棟にお渡し案件だ。この手紙が無くなった、即ち権利を取得したと認識されては困るからな。

「およー? 男のしゅうやんじゃーん」

 性別を強調してくる楓が午後からの授業のために移動するところだったのか、何気に初めての下駄箱遭遇だ。

「ごきげんよう」

「えっ、えぇーっ⁉ しゅうやん、抜けてないよ! ここ、退治だよ⁉ 合わない合わない! キモ――が冷える!」

「そこまで言ったんなら『キモい』って言えよ」

 その寸止めは寧ろ傷つく。友達相手ぐらい気軽にキモいぐらい言い合ってもいいだろうに。

「お嬢様学校病だ……」

 そりゃあ一か月も人とすれ違う度に「ごきげんよう」と言わされてれば条件反射で出てくる。

「ぜーったい石塚の前で言っちゃダメだよ? 絶対だよ? ほーんとにダメだよ?」

「こういうと余計フリに聞こえるが、アイツだけには絶対に言わねえ」

 クスクス笑ってられる楓は言う展開を期待してそうだが、言ってしまったらおよそ一週間は人生終了。そのことでからかってくる奴ではないが、何かと挨拶の件で不在時の掘り下げとか、他の女がどうのこうのとか、小癪な無益人間を爆誕させてしまう。

「でも転校前は不貞腐れた顔してたのに今はいい表情だよね」

「普段とは違う環境で楽しかったからな」

 色々自分の中での変化も感じている。何だかんだ息抜き……というか、良い経験になった。

「表情良くなったら余計人気出そうだから、今まで通りガン飛ばし顔に戻そうね!」

「んだよ、ガン飛ばし顔って」

 つまらん学校に通ってる自覚はあるが、俺普段そんな顔して学校生活送ってんのかよ。よくこんな態度で禎樹(よしき)より人気出るわ。

「あっ! そういえば新情報あるよ!」

 靴を履き替えて外に出かけた楓はUターンして戻ってくる。

 どうせ石塚絡みのバッドニュースだろうと思って下駄箱の清掃をしていると……

「今度学園祭やるらしいよ! まだ時期は決まってないけど、11月から12月頃?」

「は……? 退治が、学園祭?」

 どうせ耀傷か剣凪の話だろうと淡い期待を胸に視線を楓に移すが、

「そう、あの退治が」

「うっそだろ」

 なんでそうなった? 確かに最近あんまりにも転移者が来ないらしいが、遂に退治の教師陣もとち狂ったのか、退治史上初の学園祭が開催予定と来た。

「教室に戻ったらその話ばっかりだと思うよ、先週発表されたからね」

「ま、どうせまたタイミング悪く転移者来て台無しだろうよ」

 雨男とか雨女と同じで、イベント事になると転移者を呼び寄せる異能持ちがこの人工島に居ることが判明したからな、前回の花火大会でも。

「ボクもあまり期待してないけど、皆その話ばっかりでさー」

「学生三大ビックイベントみたいなところあるからなー」

 実際、転移頻度が低いからこそこういうことも立案できる訳で、偶には一般的な学校のような高校生活でも送ってみるのも気分転換に良いだろう。

「さて、何人羽目を外しすぎて拘束されることやら」

 無事に幕を閉じると思ってもなければ、そもそも学園祭開催時に地球に居る確証もない身としては、後日談の面白予想でも励むことにする。

「俺からも一つ聞きたいことがあるんだが――」

「どしたのー?」

「――Wi-Fi? がないところでもスマホ使えるようにするには、毎月いくらぐらいかかるんだ?」

 最近一般人の友達ができたことにより、スマホで連絡する機会が多くなった。人工島にいればフリーWi-Fiのお陰で意識する必要はないが、今回みたいに人工島外に行ったときにフリーWi-Fiを探し回ったり、知り合いにデザリングしてもらうのが結構めんどくさい。最近はどこでもWi-Fiがあるのでホテルにもあったから良かったものの、実際あのヤクザ事件の時にスマホの充電があったところで陽菜(ひな)と連絡が取れていたかと言えばNOだ。

「うーん、別に動画とか見てなさそうだし、チャット送るぐらいだったら月千円ちょっとかなー?」

「月千円か……」

 人工島外で不自由なく使えるようにするためだけに月千円はちょっと出せんな。今は不正入手した汚金でやりくりできるが、将来を見据えると現実的じゃない。

「友達増えると忙しくなるよー?」

「厳選しろってか?」

「へ―そんな風に思ってるんだー」

 いやらしい目で見てくんじゃねえ。言わされたに近いだろ今のは。

「とりあえず楓消しとくか……」

「ボク消してもいいけど意味あるかな?」

「……ないな……」

 楓とのチャット履歴を見てみると、そこにあるのはお互いが撮った写真だけ。チャット送るよりも実際に突撃した方が早い距離感に居るので、写真共有にしか使ってなかった。うーん、カウンター不発。

「ま、追々考えとくわ。ありがとな、ごきっ……んづ」

 使いたい時だけ限定的に契約できるかは知らないが、とりあえず直近に人工島外で生活する予定はないので、その時になったらまた考えることにするか。……あと、ごきげんようキャンセルに笑うのは良いが、写真撮るのは犯罪だぞ。


 楓と別れてから午後の授業を受け終え、マリアが夕飯の支度をする中ルミーナと座学をしていると……

「来たな。いつぶりだよ」

 アトラなら何日ぶりの転移現象かカウントしてそうだが、今は一人で異世界生活を送っているので日数を聞くことはできない。

「ホント久々ね。少しは長引くといいけど」

「異世界人は血気盛んだな」

 退治のような学生は平和が長引くとボケていくが、その道の業界人は期間が開けば開くほど精錬され、より強力な存在になる。マリアが料理の手を止め、全員恰好を整え……三人揃って部屋を飛び出すまでにかかったのは、Wアラームが鳴ってからシェルターが出るまでのごく僅かな時間よりも早かった。

「お、今日はまだいねえな。いっちょ暴れるか」

 家を出るなり空を見上げ、監視役が居ないことを確認してから……軽い魔法付与状態で、飛翔する。修学旅行明けで何も起こさないだろうと踏んで監視してなかったんだろう。あと、転移者頻出の時間帯にはちょっと早いしな。

 日の入り直後の時間帯に、ルミーナとマリアは狙撃位置、俺はEoDに到着すると、

 〔どこかの騎士っぽいわ。脹脛撃ったから、少しは鈍くなってるはずよ〕

 まだフレームアーマーが接近していないからか、発砲したらしいルミーナから念話で報告が入る。騎士だから防具が分厚く、致命傷を与えられる確証がなかったからか、防具が薄い場所を撃って行動阻害に出たようだ。M82A3は対物だが、異世界の防具は魔法的要因でも保護されていることが多い。対人で撃つ場合威力的に体内で留まる可能性はほぼないので、弾かれて警戒されるよりかは確実に貫通を狙いに行ったのは英断だ。お陰で返還させるまでの時短になった。この調子ならフレームアーマーが来る前に始末できる。

 最後に射線が通った位置まで誘導してもらい、そこから周囲を探っていると……案外直ぐに見つかった。血痕があったので結構見つけやすかったな。

「よう」

 突然足を怪我したので、路地裏で応急手当をしていた騎士は……見たことないな。少なくともデリザリン王国やパブルス帝国、オルレラン公国、またこの周辺諸国の鎧ではない。肩に描かれた国の象徴か徽章らしきデザインにも見覚えが無い。

 二人からも念話で知らない国の騎士という認識が伝わってくる中、

「すまなかったな、うちの仲間が攻撃して。大きく動かれる前に先手を打たせてもらった」

 ルス語が通じるかわからんが、とりあえず日本語よりも伝わる可能性が絶対的に高い言語で会話する。

 素のままで食らっていたら足が吹っ飛んでいても可笑しくなかったが、魔法的要因で槍で突き刺されたような傷跡に落ち着いている彼は、

「どういうことだ。お前、どこの兵士だッ」

「兵士ではないが、お呼びではないことも確かだ」

 ルス語が通じるのは滅茶苦茶助かるが、槍を向けてくるのはいただけないな。

 この状況を伝えようにも理解してくれそうにないので、

「デリザリン王国ってわかるか?」

「デリザリン王国……? ああ、名前は聞いたことがある。それがどうした」

 隣国レベルだと『名前は』とはならないはずなので、余程遠く離れた国なんだろうが、俺はその地の想像ができないので、ランダムに飛ばすか想像できるところに飛ばすことしかできない。となれば、デリザリン王国にでも飛ばしてやるのが無難だろう。パブルス帝国に飛ばして敵対国でした、とか後々カエラから言われると面倒だしな。

「お前と戦闘する気はない。デリザリン王国で良ければ、今から帰してやる」

「どういう立場の人間だ」

 相手視点そう思っても仕方ない。殺すわけじゃないので敵ではないが、知らない人から転移させられるという安全の保証が無く味方かもわからない。でも一から説明してやる暇もない。そうこうしている間にタイムリミットが近づいて――

 〔全然フレームアーマー来ないわよ。どうなってるの?〕

 大抵転移現象が発見されれば、フレームアーマーが前線に到着するのは五分以内。そろそろ転移現象から五分は経とうというのに、そんなはずはない。

 〔最近の空きでステルス機能でも搭載されたんじゃねえのか?〕

 フレームアーマーが来なければこの世界の平和は保障されない。例えHM社と抗争していたとしても、転移現象の方にリソースを割くはずだ。いや、裂かなければならない。それなのにまだ来ないというのは、異常――というより、違法に近い。

 そんなことはありえないので、≪エル・ダブル・ユニバース≫を展開し、

「そこに入ればデリザリン王国だ。適当にシークでも拾って送ってもらえ」

 自発的に帰郷することを催促する。強引に押し込んだりすると、これから向こうで何起こすかわかったもんじゃない。話が通じるようになってしまい、向こうでも人のつながりがたくさんできてしまった以上、転移者を返す時に意識しなければいけない要因が増えてしまったのは良くも悪くもだな。

「入らないなら、ここで始末する。確かに安全が保障されてないように見えるかもしれないが、ここで交戦するより英断だとは思わんか?」

 葛藤の末、騎士は舌打ちしながらも時空の裂け目に触れてくれて……裂け目が縮んでいく。

 〔転移者は還らせた。フレームアーマーはどうなってんだ?〕

 〔ようやく散らばり始めたわ〕

 〔どうなってんだよ……〕

 とりあえずステルス機能とかじゃなかったようだが……そこまで魔法で暴れている景色が無かったから急行しなかったとは思えないし、俺達の対処が早くなったと捉えていいのかも怪しい。正直、最近転移現象が無さ過ぎてフレームアーマー最新情報が無く、正確な判断ができない。

 〔ちょっと結奈と話してから帰る。そっちは見つかる前に帰っててくれ〕

 結局フレームアーマー視点だと転移現象が起きたのに転移者が姿を消している事態には変わりないので、数時間の捜索が開始することだろう。何はともあれ、ルミーナとマリアはここでお役御免となる。

「おっと……」

 そう甘くはなかったな。EoDってんのに、目の前に何の脈略もなく突然人が現れやがった。

 ルミーナとマリアが撤収しかけていたのを止めて再びポジションに着いたことが伝わってきつつ、

「ここは関係者以外立ち入り禁止区域だぞ。それに、今はWアラーム中だ」

 多分コイツ視点人のこと言えないだろって感じだろうが、知ったこっちゃねえ。

 目の前に立つ人物は、身長150cmという小柄な女性。体型に起伏は少なく、筋肉質とも言えない。髪の毛はインナーカラーで赤やら紫やらカオスな配色だが、ただ伸ばしてるだけの興味なさそうなロングヘア。なぜか水着のような恰好だが、全身にある古傷や醸し出す覇気からその道の人であることは直ぐにわかる。

(フレームユニット、か……?)

 背後に不可解にも浮遊する剛腕が二つあるが、今回の転移現象は同時多発や複数人転移ではない。少なくとも、異世界人には見えない。消去法的にフレームユニットが有力候補だが、魔法も激化していない単一転移の対処にフレームユニットが出動するとは思えない。確実に俺に用があるといえる構図だ。一体何だ。ただの対談とは思えない、並々ならぬ殺意すらも伝わってくる。

「私の愛しき転移者を奪う人、ようやく会うことができましたァ……」

 なんだぁ……? この薄気味悪さは。触れられていないのに、今体に手を巻き付けられているような束縛感がある。

「あぁ、貴方が苦しむ姿を見ることをどれだけ愉しみにしていたか……考えるだけでもゾクゾクしてきますわァ……」

 出会って早々何が言いたいのか全く理解できんが……

「見つけ次第殺してる奴らに参画してるてめーが何言ってんだ」

 フレームユニット前提で話したが、俺を『愛しき転移者を奪う人』と言うのは相当無理があるだろう。確かに転移者が失踪した時には高確率で俺の行動がある訳だが、今までに一部始終を見られたことはない。奪うっていう言葉も違う気がするが、とにかく転移者の邪魔はしても奪っていると決めつけるのは良くないな。

 〔言っても無駄よ。ああいう人は好きが高じて殺してしまって悲しむ質よ〕

 〔上手いように使われてんだな、WB社に〕

 転移者活動に熱心なのは良いことだ。でも、対戦相手を間違えられちゃ困る。

「さぁ、貴方の悪行も今宵で終わりにしましょう」

(フレームユニットはまともな人間居らんのか?)

 思わずため息が出てしまったが……これは、戦闘不可避だろう。突拍子もなく戦う羽目になったが、何だかんだ戦闘ってこういうもんか。

 寄りにもよってフレームユニット関連の事前情報は柳瀬麗華絡みしかなく、何一つ役に立たないが……この際ちょうどいい。いずれありふれてくるであろうフレームユニットの情報は、こちらとしても得ておきたい。

「愛は、愛は………愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛は‼」

 気が狂うほどに取り乱した女は、徐々に声量を上げていき――

「――儚く散るもの」

 ボソッとギリギリ聞こえる程度で呟いたかと思えば――目の1センチ先に、出血しそうなほどに血走った目があった。

「カッ――」

 ボルテージを上げていくので予備動作とみて≪エル・アテシレンド≫の出力を十まで出していたのに、諸に攻撃を食らった。早すぎて、何をされたのかもわからない。片影すら見えなかった。できることはただ、血を吐くだけ。

 〔萩耶(しゅうや)ッ!〕

 交戦している場所は狙撃場所から射線が通らないからか、念話で伝わってくる感情を元に感じたことのない声量で呼びかけられるが、そんなの聞いてられるのは隣にいるマリアだけだろう。

 〔待ちなさい! ここで様子を伺うわよ! 今向かっても全滅するだけよ!〕

 実際に声を出すと周辺にいる人に位置が割れてしまう可能性もあるからか、身を案じてメイドらしく超特急で援護に出かけたマリアの衝動を念話で制している。

 〔今は……それでいい……〕

 受けた攻撃は、多分ただの正拳突き。刺しや穿ちだったら一発アウトだったな。これなら、まだ立ち上がれる。いや、立ち上がらないといけない。

「はー……調子あがんねぇなぁ……」

 赤く染まった唾を吐きながら、そんなこと呟く余裕は実際ない。でも、調子が上がらないのも事実。

「恨みもねえ奴を痛みつけてもなぁ?」

 明確な理由もなく殴られたらそりゃ殴り返す気にもならん。殴られたんでそこんとこよろしく、みたいな感じでWB社に連行した方がこっちとしては有益だろうしな。あーあ、耀傷とか行って勉強したせいで、普段なら速攻で殴り返してやったかもしれないのに、その気力が半分ぐらいしか湧いていない。

 かろうじて立ち上がった姿を見て、すぐさま次の攻撃をぶち込めば容易く沈められるはずなのに、痛みに苦しむ姿を見てとても愉快そうにしている。どんだけ苦しむ姿みたいんだよ。フレームユニットの使用用途間違えすぎだ。

 ……とはいえフレームアーマーの連中は武装に使われてることが多いので相手取るのは簡単だが、こういう武装を使いこなせている連中を相手するのはかなり厄介。攻撃を捌ききれない以上、真っ先にこっちから仕掛けて片付けてしまおうという思考と、攻撃を受けたら一発で沈む以上、最善の防御手段を練った方がいいという思考が入り混じる。

 口角が上がりまくって愉悦している女に睨みを利かせることしかできずにいると……

「やっと会えたわ……」

「いいご身分だな」

 慌てた様子で急行してきた結奈と、腕組んでにやけている拓海(たくみ)が降下してきた。周辺にも、複数のフレームアーマーを連れて。いつの間にか、ここを始めとしてフレームアーマーが蔓延っていやがる。殴られた後意識が飛んでいた時間があった可能性があるな。

「アンタ何言ってんのよ! 今回萩耶は悪くないでしょ!」

「監視役のお前の不覚だ。私が加勢する義理はない。元より、活動の邪魔をするアウトサイダーに手助けする必要も無い」

 何か上空で二人が言い争っているが……なにこれ、WB社のイザコザにでも巻き込まれたんか? 俺。

「貴様が嫌がることなら、私は全力で賛成に回る」

 俺の脳内を読み取ったかの如く、結奈ではなく俺に向けて発言してきた。

「あれでも一般人よ⁉」

「監視役の不覚。活動の邪魔。何度言ったらわかる」

 あれでもってところには突っかかるが……拓海には、微塵も助ける気が無い。

「あーもう! 全然話通じないんだからっ!」

 立場の差で拓海をただ睨むことしかできていない。もし同じ立場なら、俺と女の戦いの他に、結奈と拓海の戦いが同時開催されるレベルで苛立っている。

「監視活動に於いて好意でも抱いたとでも言うのか? フッ、滑稽だな」

「別にそういうわけじゃないんだから!」

 少し顔を赤く染めた結奈は地面があれば地団駄を踏んでそうだ。

「なんなのよアイツ……ッ」

 どこかに離れていく拓海が聞こえる距離感でもお構いなしで不満を漏らしている。

「……話は、済んだかっ?」

「済んだわ! 絶対にあんな奴なんかの上に立つんだから!」

 おっ、その意気だ。とりあえずお前の不覚でこの事態に発展したのかだけでも端的に教えてくれないか? どういう関係性なのかは知らんが、監視下に居ればこうならないならいつでも監視されてやるぞ?

 ふざけるにしてもそんな言葉を口に出す余裕はなく……

「フレームアーマー同士で言い争い。非常にお見苦しいですねェ……」

 女は、不敵な笑みを浮かべている。来るぞ……次の攻撃が。

「お前とフレームアーマーの位置関係はどうなってんだよ」

「どうなんでしょうねェ……」

 隠したいのか、自分でも理解していないのか、わからない返事が返ってきたかと思えば……

「ハハハハ! アハハハハハ!」

 いきなり仕掛けてきた。――早い。でも、さっきよりはまだ見える。

 鳥が急降下して獲物を捕らえる時のような連撃なので、いくら高速移動だろうが予備動作が長い。あくまで攻撃自体は単調なので、背中から抜刀した剣でギリギリのところで捌き続けられる。

 一瞬で致命傷を負わせることができるはずなのにそれをしない女は、相当俺に対して恨みがあるんだろうな。じっくり痛めつけたいんだろう。防御が追い付かなくなってきて、次の攻撃は諸に当たるってタイミングで急に攻撃を止めやがった。舐められたもんだが、助かりもした。

「四足歩行はできても、二足飛行はできないでしょ! 一般人相手にやりすぎよ!」

「結奈さん、うるさいですねぇ。今貴方は関係ない。邪魔しないでいただけます?」

「うるさいわね……!」

 フレームアーマーよりフレームユニットの方が強いから結奈は武力行使できず、自分の方が立場が下だから女は武力行使できない、って構図だろうか。お互い牽制しあうだけで実際に手を動かしていない現状に違和感しかない。

「おい、ちっとは情報を寄越せ」

 結奈は、情報を共有するか少し悩んだ末、

麻比奈(あさひな)帆由(ほゆ)。昔っから愛する者の為なら我が身の犠牲も厭わない戦闘スタイルだから、邪魔してる萩耶にだけは合わせないようにしてたの! それだけ!」

 へぇ、面白れぇ。合わせるとどちらかが滅んでしまうから、意図的に合わせないようにしてたんだな。それで今回、帆由と言った女が動き出したのでフレームアーマーの出動が遅れ、位が上がって最近前線に滅多に顔を出さなくなった拓海まで出動したと考えれば、割と理にかなっている。それほどまで危惧されてる人相手となると、戦闘狂としては体の底からこれでもかと力が湧いてくる。

「フレームユニットに打ってつけの人材だな」

「面白いですねェ……先ほどとは、別人のような覇気を感じます」

 こんなにも口角が上がったのは久しぶりだ。コイツ、一発ぶん殴って分からせてやらねえと気が済まなくなってきた。

「な、なによあれ、ほんとに萩耶なの……?」

 普段俺の全力とか見る機会が無かった結奈は二人の覇気を見て怖気づいているが、拓海の上に立ちたいんなら、このぐらいの覇気を出せるようになってもらいたいもんだな。

「命が恋しいなら離れなさい! 私言ったからね⁉」

 二人の戦いを止めたいというより、私は何も関与してなくて抑制したというWB社用の既成事実を作り、今後の監視活動も円滑に行えるように立ち回っているように見える老獪な結奈は、少し距離を取り出した。

「あくまで会社の人間、か」

 耀傷で生徒同士の付き合いがあったせいで勘違いしてたな。結奈は、WB社所属の戦闘要員。俺を助けるために現れた友達でもなく、助けるために監視しているんじゃない。

「かわいそうですねぇ、友達にも見捨てられて」

「元から友達って印象はねえよ」

 帆由は技巧な攻撃は仕掛けてこず、真正面から殴りに来る。≪エル・アテシレンド≫の出力九で逃げても、例えるなら十二ぐらいで迫り来る攻撃が当たるのは時間の問題なので、当たる瞬間に出力を十にし、寸での回避を続ける。EoDにある周辺の仮想ビルを駆使してピンボールの要領で左右を行き来しているうちに、周辺の仮想ビルもどんどん倒壊していく。

「踏み台が無くなりましたねェ」

 突然≪エル・アテシレンド≫の十五ぐらいで真横に密着してきた帆由は、高速移動する俺の背中に拳を叩きおろし、音速で地面にめり込ませやがった。衝撃波で、周辺の地形も凹ませつつ。

「……」

 声なんか出るわけない。受け身なんか取る余裕もなく、もはやなんでまだ生きているのかすら怪しいレベル。

「萩耶……」

 上空から結奈の捻りだしたような悲痛な声が聞こえてくる中……

「あらあらァ、この程度ですかァ……」

 チクショウ、フレームユニットともなれば、使用者が吹っ切れればここまで強大な相手になるのか。侮っていた訳ではないが、ここまで技術が発展していた事実を受け止められない。この調子だと、あと数年で俺なんかお役御免だぞ。とっととこっちの活動を進めないとマズい。

 〔萩耶今死んでもおかしくなかったわよ。慌てて回復したけど、まだ念話が続いてて良かったわ〕

 死人とは契約が継続されない。遠隔から生存確認してくるルミーナのお陰で、今生きて居られているらしい。契約の恩恵でお互いの位置がすぐわかるので、一歩も動かずに回復魔法を俺に撃つことができたんだろう。

 〔助かった……〕

 ルミーナが居なかったら死んでいた。これは間違いない。身体能力を強化したり思考能力を強化することはできるが、死を免れることや、蘇生する力何か持っていない。魔法を極めまくった異世界人だからこそ取れた冷静な判断だろう。今この瞬間が、人生で一番魔法使いを仲間に付けてよかったと実感できた。

 ついさっきまで地面にめり込んでいたはずなのに、急に背中にあり得ない圧力がかかり、帆由の眼前まで引っ張られる。透明なので予想だが、ナタのような武器もあるんだろう、危うく脊髄が折れかけた。

「おやおやァ……? 遂に言葉も出なくなりましたかァ……」

 同じく透明の攻撃手段を流用したのか、ピアノ線のような細い何かが首を圧迫していて、喉が動けば即時に斬撃を食らう状況を作られてしまう。手で千切ろうにもあまりに密着しているせいで結局やられる。もう言語野は奪われたと言っても過言じゃない。

 〔でも、次から回復しないでくれ。今後魔法無しでこんな奴らと戦う羽目になるかもしれない。甘えてたらダメた〕

 血で滲んだ顔で睨みをきかせることしかできないが、悲しい事にも念話はできてしまう。泣き言を吐くならまさにここなんだろうが、そんなこと言ってられない。

 〔そんなの無理よ! いくら鍛錬積んでもたどり着ける境地じゃないわ!〕

 〔そんなこと言われなくてもわかってる。でも……だ〕

 こうも圧倒されていると、寧ろここで戦死していないのは受け入れられないってのがあるんだよ、戦闘を生業とする人間には。死に際に出る人類の底力は、散々しごかれたルミーナ、お前がよくわかっているはずだ。

 どうにかしてでも対抗しなければならない。まずは極限まで命を落とさないように立ち回り、相手の情報を収集し、身を引く。そして――次会ったときにぶち殺す。今取れる行動は、ただそれだけ。一度の敗戦なんか、殺してしまえば無に帰す。

 〔ホントまともな人間いないんだからッ〕

 俺からすりゃ、異世界も同じぐらいまともな人間いねえけどな。

 〔≪エル・アテシレンド≫が上限20でも出せるようにならないと……!〕

 〔はは。これは新谷(あらや)家に要相談だな〕

 魔王戦で≪エル・アテシレンド≫10に数多の魔法使いから数多の魔法効果が付与されたあの状態を仮に数値化するならば――15。二度と再現性のない話ですら15止まりで、体感今15出せたとしてもコイツに勝てる確証は持てない。どうやら遊ばれているようだからな、まだ出していない力があるはずだ。

 多分、今の俺には回復魔法以外にも勝手に付与され、11か12ぐらいの力があるらしいが……もう、ルミーナがやってくれるならやってもらうしかない。実際魔法支援が無ければ既に死んでいるし、更なる収穫を得るためには地球人ではありえない未知の能力――魔法を併用せざるを得ない。

「そろそろ……おしまい、ですかねェ……? 私をもっともっと! 愉しませてくださいよ⁉」

 ありえん。目を赤く輝かせたかと思えば、今度は17ぐらいで来やがったぞッ! ルミーナがいう通り、20まで出せるようにならないと対抗できる気がしない。相手の情報を収集するどころか、今すぐ逃げ出さないと命を落とさないように立ち回ることすら儘ならない。

「不思議ですねェ、変な力が加わっているようです」

 これまたルミーナが遠隔で魔法を付与してきて、いきなり地面に倒れ込むようにして帆由の横凪を回避した。いくら広範囲で高速の攻撃と言っても、不可知のあり得ない重力とあり得ない引張力が同時に発生し、もはや計測不可能な速度で地面に埋められたら当たりやしない。

 攻撃がクリティカルヒットしなければ、人間本来の自然治癒力では考えられない速度で傷が癒えている姿に疑問を持たれるのは今更感あるが……それを考えるために立ち止まってくれたので、こっちの態勢を整える時間が十分に確保できた。

 〔地球だから雑だけど救うためよ〕

 〔た、助かった……〕

 全身に土がめり込むような感覚を味わう羽目になったが、どれだけ痛くても帆由の攻撃よりかはマシだ。アイツの攻撃は、痛覚を抱く暇なく死が訪れてるからな。

「……貴方、邪魔してます?」

 周辺に一般人の存在が無ければ、魔法が使える転移者なんか見つかっていないので、向けられるのは上空を飛び交うフレームアーマーの中でも、唯一落ち着かない様子でこっちを眺めている結奈になるわけで……

「フレームアーマーがそんなことできるわけないわよ!」

「あぁ、実に愚か……」

「はぁ⁉」

 WB社の中で、フレームアーマー使いよりフレームユニット使いの方が上に立ってるんだろうな。口調的に地位は結奈の方が高そうだが、舐められ具合は誰かさん級。

 確かにフレームアーマー――厳密にはフレームシリーズ全般に該当するが――機械で自身の能力を増長させるようなものなので、≪エル・アテシレンド≫と似たような認識だ。つまり物理的な影響の変化は可能でも、間接的に何かに影響を及ぼす魔法的なことはできない。少なくとも、フレームアーマーにはオペレーターありきでも。

「確かにさっきから変ね。萩耶って、そういう特殊能力でもあるの?」

「ねえよ」

 上手いこと躱してんだよって言いたいが、そういうと帆由の攻撃がより不可避になりそうなので言えない。

 結奈まで俺の身に関して疑問を持たれると厄介だったが、そんなことよりもフレームアーマーをバカにされたことを根に持っているようで、

「あーもうあったま来たわ! ――萩耶!」

「なんだ」

「有益な情報を教えたげる」

 そう言って降下しだしたルミーナは、俺の真横に着陸した。帆由に聞かせないためなんだろうが、このタイミングで仕掛ければいいはずの帆由は「どうぞご自由に」なんて言いつつ、どうせ勝てないから勝手にどうぞと言わんばかりに何もしてこない。俺だけじゃなく結奈までも舐められたもんだな。

「フレームユニットはそう長続きしないはずよ。自分の精神を顕現化しているようなものだから、そろそろ負荷がかかりすぎて肉体に限界が来るはずだわ。もう少し、耐えれば……」

「それが出来たら苦労しねえよ」

 小声で本当に有益な情報を教えてきやがったが、結局耐えろってんなら情報が何も活きない。

「最終手段は、あるけど……オペレーターに確認中よ」

 強制帰還装置でもあんのか知らんが、どうも言いにくそうにしている辺り、結奈に判断権が無いか、オペレーターでもない社員にまで具体的な手段は知らされていないんだろう。とにかく、希望が見えてないよりはましだ。

「……お話終わりましたかねェ?」

 結奈が離れていくからか、帆由はこっちに向かって歩き出した。

「ごめんね、こんなの巻き込んじゃって」

 離れ際にギリギリ聞こえる声量で、ぼそっと呟かれたが……

(らしくねえ台詞呟いてんじゃねーよ)

 修学旅行があったからか知らんが、最近の結奈は丸くなってる気がする。この頃悪させずにすぐ顔を出してくれるってのもあるかもしれないが、昔はもっと刺々しかったはずだ。こういう戦闘時にあんなこと言われると、認識違いで調子が狂う。そもそも帆由がWB社内でどういう存在なのか知らんが、結奈のせいで交戦することになったってのは拓海の言いがかりだろ。……ていうか知らん情報だらけすぎる。帆由の情報はわかったから、もうちょっとフレームユニットについての情報を寄越せ。

「そろそろ終わりにしましょうか」

 来る。来るぞ……奴から出るオーラが、何倍にも跳ね上がった。

「ん……?」

 ついに動いたんだが、遅い。今までの比にならんぐらい遅い。≪エル・アテシレンド≫の6ぐらいだろうか。とはいっても、俺は減速せずに行動を取らないと、顕現化された拳の攻撃を避け切れない。

 〔私は何もしてないわよ。限界が来たんじゃない?〕

 ルミーナがそんなこと言った途端――

 右足の感覚が消えた。

 見ればそこには足がある。だが、動かそうともできないし、元から右足の機能が無かったかのように脱力しきっている。形からして、握りつぶされたとかじゃない。例えようがない速度で攻撃され……神経諸共、破壊されたんだろう。そんなことがあるのか……? 血が出てなければ左足で蹴っても痛覚はなく、ただ無抵抗に飛ばされるだけの体にまとわりつく余計な物体と化した。

「動きが鈍くなりましたねェ……どうされましたァ……?」

 にやけた帆由は、≪エル・アテシレンド≫の十なら普通に見えるシンプルな連続パンチをお見舞いしてくる。その程度の攻撃ならいつも躱せるはずなのに、右足が使えなくて感覚が狂い、上手く防御ができない。殴りを全て、防御無しで受け止める形になってしまう。

 〔どうなってんのよ! 魔法で治らないわよ⁉〕

 〔一旦魔法は止めましょう。反応がでたのか、こちらに大勢のフレームアーマーが向かってきています〕

 〔ああもう!〕

 二人の念話が届いてくるが……魔法で治せない損傷だと? 何をほざいてやがる。地球だから全力が出せず、このあり得ない状態を回復させることができないだけだと信じたい。

 左足は使えるので、片足立ちの要領で立ち回ろうとしても、やけに上手く体が動かせない。邪魔になるならいっそのこと切り落としてやってもいいが、からくりが分かったときに大損だし、多分出血でそれどころじゃなくなる。

「チッ……」

 一先ずこの状態でも防御態勢が取れるようにしたいが、≪エル・ズァギラス≫を使っても手段が見つからない。何なら今も無防備な状態で攻撃を受け続けているわけで、体の節々から徐々に正常な動作を損なう致命傷が積み重なっていく。さっきは舌打ちできたが、今はもう顎が砕けてまともに喋れる気がしない。

「どうしたのよ……」

 ルミーナやマリアには契約の恩恵で右足が原因不明の大打撃を食らったと伝わるが、視覚情報しかない結奈にはいきなりやる気をなくして攻撃を受け続けるようになっただけとしか映らない。そこはしょうがないんだが……なんで、目を潤ませてるんだよ。お前、WB社の人間だろ。不届き者相手にゲインロス効果でも起きたというのか?

 フレームユニットは対異世界人精神武装化兵器。転移者が利用する魔法技術を流用して造られたと言われている。この右足に起きた現象が、仮に魔法による影響だとすれば、それは意外と直ぐに飲み込める状況になるわけだが……いかんせん、魔法が使えるルミーナとマリアがピンと来ていない。魔法文化が地球独自に発展した影響が齎したと言えば話が早いが、これが可能になるならフレームユニットという一長一短な兵器を産む必要はない。そんな精神を捧げてまで攻撃しなくても、様々な独自魔法で対応できるはずだから。つまり、要因は魔法というより、精神を武装として顕現化させるフレームユニットの方にありそうだが……フレームユニットの存在がマイナーすぎて、WB社の結奈ですら知り得ない。そんなの、機械にすら詳しくない俺ごときがいくら≪エル・ズァギラス≫を使ってもわかるわけがない。

「転移者の痛みを味わっていただけましたァ……?」

(痛みなんかより、このカラクリを考えるのに必死だ)

 喋りたくても、声が出ない。喉や口の感覚は失っていないので、暫くすれば魔法が飛んできて治るんだろうが、今は無理だな。

 喋れない事実をとても悦ぶ狂った帆由は……

「死んで詫びなさい――」

 顕現化された拳の形状が手刀になり、大仰に振り上げて……下ろしてきた。速度は、≪エル・アテシレンド≫の二十。どうやら帆由、またはフレームユニットの最高速なんだろう。これ以上なく気持ち悪いほどに全身の血管が浮き出ている。

 〔楓によろしく頼む〕

 〔……〕

 こんなこと言いたくなかったが、もう死ぬことは確定。ルミーナが大暴れして魔法を際限なしに使いだしたとしても、避けられないし、生き返らない。死ぬことがわかっても、みっともなさが死後にも残る気がして遺言を残したくなかったが……ここで命を落とすと、異世界人を地球にほっぽりだすことになる。だったら今後見つからないようにも新谷家の所在地でも共有しとけばよかったが、知り合い――特に、楓の悲しむ姿が脳裏をよぎったら、それ以外何にも考えられなくなった。あの時はふざけて言ってたんだろうけど……友達って、おいそれと増やすべきじゃないのかもな。

「――そっちが終わりよッ!」

 ああ、なんか結奈の勝ち誇った威勢のいい声が聞こえる。

「があああああああああああああああああッ‼」

 ……なぜか、帆由が激痛に苛まれる断末魔を上げた。俺に魔法を付与しても何も変わらず、帆由に仕掛けても攻撃が止まらないなら、何かを起こしえる可能性がある結奈に魔法を付与してやれと、機転を利かせたルミーナが活躍したのかと思えば――

「急にどうしたんだ……」

 迫っていた手刀は消えていて、帆由の体は電気にやられているような身震いが伺える。でも結奈の立ち位置は変わって無く、何か攻撃を仕掛けたようにも見えない。

「オペレーターがプログラムを突破して体を乗っ取ったみたいよ。今全身に強力な電流が流れてるはずだわ」

 言われてみれば、確かに帆由の体が焼き焦げているようにも見える。次第に人間が焼けているときに発する覚えるべきではない異臭もしてくる。

 フレームシリーズは、所詮機械。自力で能力を強化する俺や魔法を駆使する異世界人と違い、様々なパーツを電気やガソリンなどの動力源を元に駆動させ、電子的に行動の制御や支援が行われている。ということはセキュリティーを突破すれば、本人が意図しない動作を制御することもできる。よくそんなことできる奴がいたなと思う反面、そんなことできていいのかよって感じだが……救われたな。まさかのWB社、フレームアーマー……それも、結奈に。張本人は、さっきから発揮される謎の生命力で俺が死に際だったと思ってなかったのか、してやったり顔だが。

 〔楓は俺が守る〕

 〔あの状況ならそう言っても無理ないわよ〕

 慌てて念話で補足できるほどには余裕がある中……

「あは、ふふふ、ふふふふははは……」

 ただ電撃を与えるだけしかできなかったのか、その他の乗っ取り行動はできてないみたいだ。お陰で、余力がある帆由が不気味な笑い声を漏らしてくる。

「はああああ⁉」

 叫んだのは俺じゃない、結奈だ。その状態になっても尚、今までの二倍の大きさで顕現化させた拳で突撃してきた。早い。早すぎる。もう当たり前だが、≪エル・アテシレンド≫の最大出力でも見えない速度で被弾した。ただ、今までと違うところは確実にある。

 俺は即死攻撃を受けずに済んだ瞬間から既に防御態勢を取っていた。片足しか使えないので、両手で拳を抑えて押し込まれた先の壁を利用して威力を減衰させる前提で。衝突した場所から穿つような衝撃波が加わる特殊攻撃だが、背後に壁があればその衝撃波を受け流すことができる。ちゃんと苦しむ顔を見て懲らしめたかった帆由の立ち回りのお陰で、背中はほぼ無傷。上手いこと態勢を整えれば、例え壁をぶち破るような攻撃を受けても、死ぬところまではいかずに耐えることができた。

 〔私たちは逃げるわ! 逃げつつ適宜回復するわ!〕

 最悪≪レベレント≫で家まで飛べばいい。でも使わずに自力で逃走するってことは、俺の為に魔力を温存しようとしているんだろう。

 〔俺が無事でもお前らが無事じゃなかったら意味ない。回復より帰還に専念しろ。アイツらに見つかると惨殺されるだけだ。そんなの、誰も望んでない〕

 フレームアーマーがルミーナとマリアのいる地点に十人程向かっていく光景が視界の端で見えた中、傷が癒えて何とか立ち上がることができた。俺も、ルミーナ・マリアも、マズい状況になってきた。

「嘘でしょ……それ以上はやめるのよ! 自分の身を削ってるだけよ!」

 結奈のいう通り、帆由の体からは今も燃え続けているような臭いがする。フレームアーマーみたいに目に見えてわかる装甲を着ていないので、機械的に熱暴走している様子が伝わって来づらいが、オーバーヒート目前といったところか。

「あァ……あァ……!」

 帆由も、遂に攻撃をしてられる余裕がなくなってきたのか、憎悪の表情に潤ませた瞳というアンバランスさで体中を見渡し――

「クフッ」

 これが最後と言わんばかりに、殴って来やがった。既に加速中の拳を顕現化させるという、節約させるためかここにきて新たな手法で。

 攻撃は予測できなくても、ただの正拳突き。節約気味なので、速度も≪エル・アテシレンド≫で対応できる。見た目通りに単純だったら防御の逆算は簡単だったが……そうもいかなかったな。

「ガ……」

 突如飛来してきた指先がパーの形に変わり……そのお陰で致命傷の一撃を貰うことはなかったにしろ、両腕と右足、腹部に指をぶっ刺された。小指が外れているにしろ、4つが貫通状態。

 両腕は肩辺りに刺されたので、今にもちぎれ落ちそうだし、左の脇腹にも刺されたせいで態勢の変更すらも禁じられた。帆由にも刺した手を引き抜くまでの余力が残っていないからか、刺されたままなのでまだマシ。引き抜くか、刺し切られていたら、最後の行動すらも取れなかっただろうな。

「はっはは……死ね」

 右足は感覚がないが、左足は辛うじて動かせる。足先で右腿の拳銃を掴み……史上最高の憎しみを乗せて、帆由の心臓めがけて発砲した。あの疲弊具合だと、被弾は確実だろう。フレームアーマーじゃないんで、装甲もなく.45ACP弾でも仕留めたはずだ。

「萩、耶……?」

 〔え……?〕

 上空から眺める結奈の声と、念話で伝わってくるルミーナの声がほぼ同時に聞こえてきたが……二人とも、あり得ない状況を受け止められない反応だった。

 ――さてと、目覚めは天国じゃなく、地球上のどこかだといいな。

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