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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
28/32

28 六人で守るために


「陛下、我々に直接このようなご依頼が……」

 パブルス帝国第一都市・パブルスの王城、その中でも玉座の間と表現するのが正しい部屋で寛いでいたカエラは、薔薇の三銃士の内一人、マリウォントから紙を受け取る。

「ふむ、突然変異で巨大化・獰猛化した獣の討伐依頼か」

「興味深い現象が起きたとギルド職員の間で注目を浴びていました」

 ギルドで発行される討伐依頼の用紙は、対象レートに応じて色分けされており、非常に視認性が高い。しかし今回マリウォントが渡してきた紙は、ギルド内で掲示される用紙の全種類に該当しない。それもそのはず、ギルド内で手に負えなかったからか……ギルド長・スターリィーから薔薇の三銃士宛に直接依頼されている。右下には、スターリィーによる本物の証明が魔法を用いて成されている。コメントも付いているが、『現地に赴きたいが時間を割くことができない』というような文言が書かれているとしか読み取れない。あまりに興奮しすぎて字体が達人の域だ。

「近頃カータレット家のご活躍もあり、パブルス帝国の私達側近の信頼度は減少傾向に見受けられます。これを機に我が国の強さを知らしめ、勇敢な厚意も証明し、デリザリン王国を牽制しませんか?」

 マリウォントが主導になって薔薇の三銃士がやる気に満ち溢れているのは、前回模擬戦を行ったことで自分たちの改善点を初めて知ることができ、毎日勤勉に鍛錬を積むようになってから、自分たちでも目に分かるレベルで成長しているからだ。特にエイラなんか、全身に食い込んでいた戦闘服が痩せたことによってズレ落ちるようになり、再び食い込ませて安定させるためにかなりの長さを切除したレベルだ。

「それはいい案なのじゃが……対象レートが15000じゃぞ? 10000以上が国家騎士だったはずじゃ。成長途中の三人が勝てる相手とは思いにくいのじゃが……」

 カエラの意識がより優秀な戦乱の戦乙女の方に少し向いたのを察知したか、ミザエリーから出てくる覇気が強くなる。模擬戦を行ったことで、対抗意識が芽生えてきたんだろう。

「お任せください陛下。我々薔薇の三銃士は陛下のご命令とあれば忠実に完遂させてみせます」

 いくら薔薇の三銃士宛に依頼が来ていようと、王族をたった六人で守っている以上、カエラの指示がない限りは討伐に向えない。薔薇の三銃士は揃って首を垂らし、カエラの判断を待つ。

「最近の成長具合は目を見張るものがあるからの、別に負けそうだからダメじゃと思っているわけじゃないのじゃが……パブルス帝国の平和の為に、そこまで無理しなくても良いと思うのじゃ」

 カエラは薔薇の三銃士の誠意を無碍にしたくはない。だが、カエラにとって側近――薔薇の三銃士の存在は、誰よりも大切な存在だ。これまで何があろうとずっとこの六人だけは着いてきてくれて、支えてくれた。そう思うと、脳が悪さして万が一のことを考慮し、別行動はしたくないという意思が強く芽生える。

「もしもの時は、あの方々が助けてくれます」

「危機感の無さはそういうことじゃったのか……」

 これまで名誉なんか気にせず側近宛の物は即却下していた。最近鍛錬に励んでいて自分たちの実力を試してみたいとはいえ、まだ甘えている部分が見えたカエラは溜息を漏らしてしまう。

「しゅーやは旅行好きだからの、不在な時が多いのじゃ。昨日アトラと会ったのじゃが、今も旅に出ているらしいの」

「そう、でしたか……」

 返事に頼る気満々じゃないと出ないような悲しみがあり、カエラは思わず苦笑いが出る。

「頼るのもいいんじゃが、折角鍛錬しているのじゃから、自分たちだけで解決しないとただの恥晒しじゃぞ。もう少し自信を持てるようになってから行くと良い」

 とはいうものの、薔薇の三銃士がこうして自発的に用件を提示してきたのはこれが初めてだったりする。戦乱の戦乙女みたいに非の打ち所がない提案をし、予想外の事態にも最適解で行動できるようになるゴール地点にはまだほど遠いとしても、ようやく日陰者から脱出する最初の一歩を踏み出したような感じがして、これだけでもう最初の一歩としては十分すぎる発言だ。その意志を垣間見れただけでカエラは満足なんだ。

「カータレット家に頼らないと何もできないようじゃ、時期にこの国も滅ぶ。しゅーやはエルフでも魔族でもないからの、あともって100年ぐらいじゃろう。じゃが、彼は戦闘が好きじゃからの……」

 笑えない話だからとかではなく、単純に薔薇の三銃士は感情に乏しいので反応して欲しい話題でも反応がなく……

「やはり陛下のお考えは常に完璧ですね。すみません、出しゃばった事申し付けて……」

「我に作戦を提案するのは千年早いのじゃ。今以上側近や兵士を増やすつもりはないからの、今まで通り接してくれるだけで我は満足じゃ~」

 持ち上げられて少し気分が良くなったカエラは、玉座から立ち上がる。

「とりあえず、文面だけでは強さが分からないからの、下見に行くだけなら翌日行っても良いぞ」

「本当ですか? 感謝します」

「よーく寝ておくんじゃぞ」

 最初はこの依頼を流すつもりでいたので、偵察にすら行かせない予定だったが……今は気分が良い。薔薇の三銃士が現状どれだけの自己判断ができるか試す為にも行かせることにした。

 数日後、薔薇の三銃士は下見を終えて帰ってきたんだが……

「なっ、何があったんじゃ⁉」

 ボロボロのラジアシークを城内に止めた薔薇の三銃士は、倒れるようにして原っぱの上に座り込んだ。

「あまりにも警戒心が高く、敵の姿が確認できた直後、いきなりこちらに向かって攻撃してきまして……」

「獰猛化しているからのぅ……大きな怪我はないかの?」

「大丈夫です」

 いくら獰猛化していようと、遠くから一方的に視認するだけならこうはならないはずだ。つまり、薔薇の三銃士は誤って奴の縄張り内に侵入してしまったということだろう。縄張りなんか線が可視化されている訳でもないので、無理もない惨状だ。

「全身かすり傷のどこが軽傷じゃ! 治療に励むのじゃ」

 こっちの様子を見ていた戦乱の戦乙女は城壁から下り、薔薇の三銃士を城内へ持ち運んでいく。

「受諾したからには討伐しないといけませんよね。私達が向かいましょうか?」

 戦乱の戦乙女の内一人、ベリーヌが自信を持って提案してくる。

「そうじゃな……頼むのじゃ」

「ですが陛下……!」

「その意志だけで十分じゃ」

 ベリーヌに運ばれる中、一人残ったエイラにカエラは微笑みかけ、ラジアシークを魔法で修理し始めた。


 ミネヴァルトから世界樹の葉から滴る水滴が世界一貴重で美味らしく、飲むと体中の不純物や邪念が全て浄化されるだけでなく、体内から要素が全て抜け去るまで毒だったり痺れだったりの異常感覚を無効化できると聞いた俺達は、ミネヴァルトにプレゼントしたらどんな反応を示すのか気になって採取に出かけていた。

「まずは世界樹の森ってところに行けばいいんだろ?」

「そうですね」

「安直なネーミングセンスよね」

 久しぶりに高原に来た俺達は、アトラが地図を片手に先導してくれる。この辺りは地球人からしたら何の変哲もないただの草原にしか見えないが、地面にはシークの跡や人によって押しつぶされた道が何もなく、ギルドでは割と高レートに分類されている地帯だ。時々草むらから蛇が現れたり、上空から鷹が振ってくることがあるが、気にするほどでもない。餌を食べに来た鳩や、その辺に居る野良猫のような感覚で接していても俺達に危害はない。

「何だあのライオンと熊の中間みたいなバケモンは」

 辺りは草原から雑木林に変わり、徐々に見晴らしが悪くなってきたところ、ここから凡そ150メートル先にでかい魔物が居た。

「見たことないわね」

「ギャーバズンに似ています」

「そうですね……多分突然変異したものだと思います」

「誰も正確な名前が分からんって相当だな」

 今までずっと山奥で生活してきたルミーナ、メイドとして知識が豊富なマリアとアトラが分からんなら、それなりに警戒すべき存在ではあるが、ヤツは呑気にラフレシアのような植物を食べている。好物なのか知らんが、食べるのに夢中になり過ぎて殺意すら出すことを忘れている。

「アイツ今晩のメインディッシュにでもするか?」

「知らない魔物の肉とか絶対不味いでしょ」

「面白そうですけどね」

「俺からしたら大体の物が知らねえから大差ないな」

 人以上に恐ろしい存在ってもんは存在しない。それは初見にして頂点ともいえるエルドギラノスを討伐した時に分かっている。この旅が日が暮れる前に終わろうと、家の敷地内にコイツを転移したり、≪スレンジ≫から取り出す余裕はあるので、久しぶりに冒険者らしいワイルドディナーでも楽しむことにするか。

「わたしは周辺の警戒をしておきます。魔物の縄張り内なので」

「私は……応援します!」

 それぞれの役割が決まったので、俺とルミーナは魔物に向って駆けだした。

 魔物は人間と似ているのか、三大欲求を満たしている時は判断力が鈍く、そこまで素早く動いたわけでもない俺達が殺傷圏内に近づいた頃にようやく気が付いた。そこから慌てて腕を振り回し始めるが、もう遅い。

「毛はないけど、皮が厚いわね」

「パリッと焼けそうだな」

 どこが急所か分からないので、とりあえず今晩の手間を減らす為に捌くことで攻撃とする。そうこうしていると……横に倒れてきた。死んだな。

「大したことねえな」

「私達が強すぎるのよ」

≪スレンジ≫に魔物を収納するルミーナは、通常時の俺とほぼ互角の剣戟をできるように成長した。ここまでくると速度や威力は立ち回りで解決するので、一人前になったといっていいだろう。

「町の方からシークです。パブルス帝国王族のシークだと見受けられます」

「パブルス帝国……?」

 ルミーナのあまりにも早い習得に感心していると、ラジアシーク特有の駆動音と、地形の影響でガタガタ鳴らす音が聞こえ始めた。

「奇遇ですね」

 ラジアシークから一人下りたカーラントは、俺達に一礼してくる。

「そっちも世界樹の雫採取か?」

 この辺りの魔物のレベルは高いみたいだし、態々ここに来る人は世界樹関連の人しかいないだろう。そう思って聞いたが……

「いえ、この辺りで魔物が暴れていると聞きつけ、討伐に来ました」

「ギルドで手に負えなかったのね」

 お仕事でここに来ていたようだ。側近が六人しかいないので、こういう移動の必要性がある時はどうしているのか疑問だったが、見た感じ第一部隊と第二部隊で作業分担しているようだ。

「この辺りで大きな獣を見ませんでした?」

「大きな獣……?」

 俺達はついさっき大きな獣を倒したところだ。俺とルミーナとアトラは顔を見合わせてしまう。

「もしかすると、もう討伐したかもしれません……」

「……?」

 まだ俺達が倒した獣と戦乱の戦乙女が討伐予定の獣が一致している訳でもないのに、アトラは気まずそうにルミーナに視線を送る。え……まさかだが、また俺達魔物関連でやらかしたのか?

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