27 平和ボケ
あれから表彰式は何事もなく円滑に進み……二時間程度で終わった。それからは残る人だけ残って宴会みたいなことが行われたが、俺達は軽く挨拶回りしてから帰った。
それから数日異世界に滞在していたが、石塚の件もあるし、国内の全地位者に顔が割れたのでまた何かに巻き込まれても厄介なので、早いうちに地球に戻った。
夏休みとかないくせに気分だけでも味わいたいからか、都心部は遊び呆けてる奴らで溢れていたので、巻き込まれないように買い物を済ませるのがかなり大変。この時期って頭のねじが外れる輩が多すぎないか?
「ブラがキツい……太ったかも……?」
マリアと買い出しを終えて帰宅している最中、とある洋服店から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「もうサイズ合わないの? 太ったんだ」
「成長したの!」
どれだけ水着を見て試着すれば気が済むんだろうな。強制連行だと思われる楓の表情は完全に呆れている。
「よっ、楓と人か」
「人って」
都心部四区に居るってことは今はもう帰宅途中っぽいし、同じアパートだし一緒に帰宅するか。石塚の話も一応聞きたいし。
「生きて生還したんだな」
「やっぱり沖縄で捨てられたみたいなんだけど、偶々知人が通りかかって助けてくれたみたい」
「運が良いのか悪いのかわからんな」
実質タダで沖縄旅行できた石塚は、一段と焼けて太った体で試着室から出てきて、
「わぁ! やや君だ!」
はぁ……楓と一緒で良かったな。お前一人だったら絶対近寄ってなかったぞ。
そのまま石塚が目についたところ全てに噛みついて行くので、食品を腐らせるわけには行かないので石塚をガン無視で楓と会話し、三人が進むので石塚が付いてこざるを得ない状況を作り、素早く帰宅することに成功した。
先日のお泊りの件で入室禁止令の事を忘れているのか、相変わらずインターンを押す石塚をガン無視し、『人との縁の切り方』なる物騒な本を読んでいるルミーナに苦笑いが出る。
「そんな本あるんだな。でも多分全部実行してるだろ?」
「そうね、レベルが低い間接的な言い方からレベルが高い直接的な言い方まで全部実行してるわね……」
「アイツの理解……いや、曲解力とメンタルは国宝級だな」
誰か表彰してやれ。パブルス帝国でやったみたいに大々的に。
もう縁を切ることは諦めてその辺に居る蚊やGなどの害虫同等にしか思っていない俺は、カレンダーを見て溜息を吐く。夏が終わるまでの長さに呆れたのと、転移者が居なさすぎて本当に大丈夫かよって意味で。
「……別人です」
いつもならインターフォンを一定周期で押してアピールするくせに、今日は一度押したっきりもう一度押してこない。だが、玄関前で待っている気配はある。石塚の新たな策に引っかかる訳にはいかなかったのでガン無視していたが、もしバレても家に居ても可笑しくないマリアが確認したところ、思っていた反応が返って来なかった。
「誰だよこんな暑い中にもっと暑い家に来る変態は」
最初のインターフォンから37分12秒経過しても待つヤツを覗き穴から確認し……
「あ……すまん、いつものヤベえ奴かと」
人物を確認した瞬間、速攻でチェーンと鍵を解除して扉を開け放った。
「もっとインターフォン押したり、ボイスチャットしてくれれば直ぐ出たんだけどな」
「ヤバい人が誰か知らないけれど、その人と同類にはなりたくないわ」
例を挙げたせいで結奈はそれらがヤバい奴がよくする行動と勘違いしたっぽいが、この際どうでもいい。実際インターフォン鳴りまくったら居留守かますし、ボイスチャットは基本出ないからな。
「よくも気長に待ってたもんだな」
「居留守っぽかったから……って、嘘でしょ? エアコン付けてないの⁉ 正気⁉」
「色々あってだな……」
「死ぬわよ⁉」
うるせえな、お前の熱気で死にそうだわ。
部屋と外の寒暖差が無さすぎて開けた瞬間ムワッとする事も冷気がふわっとする事も無かった悲しい俺の家に入ったはいいが、一歩足を踏み入れた瞬間Uターンして出て行った。
「外の方が風が通るし涼しいわよ。……もう、扉越しで会話しましょ」
涼みに来たような発言には多少腹が立つが、異世界人騒動が起きないと会わない結奈がわざわざうちに来たんだ。それ程重要な話があるんだろう。
だったら尚更扉越しなんかで会話すべきじゃないが、結奈はエアコンのない部屋に入ってくれそうにない。こっちもそれだけのためにエアコンをつける気はないので、扉越しの状況には多くツッコまず……
「で、何なんだ? そんな物騒な格好して」
「巡察が終わった所なのよ」
まあそんなところだろうとは思っていた。非戦闘時なので武装は展開していないようだが、この炎天下でよくその格好で熱を発する機械を動かすよな。
「ちょっと脱衣所借りれる? 着替えてもいいけど……」
「ん……? 下に服は着てんだろ?」
「まあ……」
……は? ……そういえば、フレームアーマーってどうやって変身してんだろうな? 特定の台詞を発したら成れるとか噂を聞いたことがあるが、あの反応だと普通の服と同じように着替えている説も浮上してきた。妙に言葉を濁してきたし、この件については後日関係者の結乃辺りに聞いた方がいいかもしれん。
着替えないことにしたらしく、
「話戻るけど、今月最後に大きな祭りがあるでしょ?」
「ああ、そういえばあるらしいな」
人工島にも一応イベントの類が存在し、毎年七月末に開催される。住宅街14区に位置する今は無き暁ふ頭公園が再現された海浜公園で一夜限り行われ、屋台が建ち並び十時頃には数千発の花火が上がる。EoDから一番遠い場所で開催されるとはいえ、島民以外の私利私欲での上陸は平常通り制限がかかっているし、Wアラームが鳴ったら流石に中止される。だから例年最後まで開催された試しがないし、実質学園祭に近いイベントにはなってしまう。
「その時新谷はどうするのかなーって」
いつもアンタ呼びする結奈が名字で呼んだことに対して突っかかるところはあるが……
「今のところ予定は無いな」
多分結奈がその件について態々話に来たってことは、一緒に警備でもしようかっていうお誘いだろう。だったらその誘い、乗ってもいいかもな。どうせ石塚とか面倒な奴らに絡まれるから、浪費する羽目になる祭りに連行されるより戦闘要員として連行される方がましだ。
「そう……ならよかったわ」
「何がだ?」
「もしどっかに行ってれば、祭り中に転移者が来たら大惨事になるだろうけど、少しは戦力の足しになるかもなーって。別に一緒に祭りに行きたい訳じゃないんだからね⁉」
「俺を勝手にWB社の一員にするな」
口では嫌味を言っておくが、予想は正しかったみたいだな。祭りの日は結奈とEoDを巡察するか。
「あ、そういえば今週どこか開いてるか? 開いてればカフェでもデパートでもふらっと行こうぜ」
「あんたから誘うなんて珍しいわね」
俺から誘う以前に、結奈と遊びに行こうって話になったのが初めてだけどな。
「えーっと……日曜なら開いてるわ」
「そうか。追々チャットでもして集合場所決めようぜ」
「わ、わかったわ」
なんか小声で「すぐ決まったわね……」って言ったように聞こえたが、こんなもんじゃね? 楓とか事前予告なしでいきなり「遊び行こうよ!」って現れるぞ。
フレームアーマーなら空飛べるはずだが、今日は走りたい気分なのか、覗き穴から階段を下りて走り去っていく姿が見えた。ハイウエストショートパンツに袖がないタンクトップ姿という、いつの間にか私服に戻って。
7月18日、日曜日。まさか当日が空いているとは思わなかったが……今日は、結奈の誕生日だ。最近平和が続いているからショッピングセンターに行くことも多く、有り金をはたいて誕生日を迎えた人に貸しを……違う、プレゼントを渡している。見返りは俺の誕生日に来る奴だ。
祭りの日の作戦会議という名目も兼ねているので、結奈目線だと部外者のルミーナやマリアは同行させられない。今日も当日もこのツーペア行動だな。
退治には夏休みがないので当然宿題とやらも存在しないんだが、石塚ぐらいド底辺の場合、スポーツ選手になるって手段もないので、異世界人関連は諦めて一般企業の道に進まざるを得ない。そういう奴らは、祭の日とかにふざけて大体やらかすので、大量の宿題を出されて家に拘束される。一応終われば遊びに行けるという希望は与えている甘ったるさなので、最近の石塚は家でひたすら宿題を撃退しているんだろう。ありがたいことに、物音はするが、一切顔を見ない。
適当にカフェとかデパートって言ったが、今思えばそういうところでぶらつくにはいくら金を持っていればいいか分からないし、初めて遊ぶのにいきなり誕生日当日という相手と一対一で遊びに行くときの格好なんか見当もつかない。五千円と制服で家を飛び出した瞬間――楓に捕縛され、連行された。お陰で所持金が莫大に増え、まともな年相応の格好に成り代わった俺は、待ち合わせ場所――本土側の連絡橋駅に集合時間の三十分前ぐらいに到着した。
そういえば結奈の父はファースト・インパクトの時、自衛隊として転移者と対峙した時に殉職しており、警察官の母はいなくなった父の分も頑張って働かないと借金生活になるので、殆ど家に帰らなくなったと聞いたことがある。だとすれば悲しいことに、誕生日当日に予定が無くても納得できるわけなんだが……
「……遅くね?」
つい言葉が漏れてしまう程に、待たされている。今の時刻は、集合時間から凡そ二時間後。もう12時だ。
(寝坊か、ドタキャンか、急用か、事故か……)
対異世界人関係者が寝坊するとは思えない。急用があれば何か連絡を入れてくれるはず。事故る程か弱い奴ではない。となると、あり得るのはドタキャン。そもそも今日が誕生日当日なので、俺なんかどうでもいい奴と街をぶらつくより他の誰かと遊んだ方が楽しいのは確固たる事実だろうしな。
流石に腹も減ってきたしこれ以上は待てないので……
「ごごごごめん!」
「どうした、こんなに遅れて」
後はチャットを送るだけだったところに結奈が爆速で空からやってきたので、慌てて電源を切ってスマホをポケットに入れる。
「いきなりWB社から召集がかかって、連絡を入れる暇もなくて……」
(うおっ、目の前でいきなりフレームアーマーの武装を解除するなよ……)
結奈が一瞬真っ白い光で包まれたかと思うと――ミニ過ぎるスカートで片方の脹脛に巻いたベルトを見せ、肩部分についたファスナーを半分開けて露出させている着脱可能な半袖パーカーを、靡かないように止める程度に少しだけファスナーを閉め、その中のシームレスハーフトップや臍より上の素肌を丸見えにした格好になった。相変わらず結奈らしい露出具合だ。珍しくイヤリングもして、いつも以上にオシャレしているような……気がする。楓の影響で服の名称を全て言い当てたところは褒めて欲しい。
「本当にごめん!」
両手を合わせて頭をこれでもかと下げてくるが、そんなことよりこの目で見ても変身のメカニズムが分からなかった事の方がいただけないな。
「いいよそんな謝らんでも。上の指示ならしゃあねえだろ」
「いや、その……でも、アンタ暇つぶしの手段がないでしょ⁉」
素の俺でも流石に今の動揺具合だと何かを隠そうとしたことぐらいピンと来た。予想だが、WB社で突発誕生日祝いでも受けたんだろう。あまりツッコまないでおく。
「確かにないが、ここで待ち合わせる約束だったからな。当分動くつもりも無かった」
実際帰りかけてはいたが、二時間も待っていたことは感謝していただきたい。バカだから待ち合わせ時間経過後何分待ちゃいいのか知らんからな。だがこれはれっきとした貸しだ。
「一応こういうの作ってたんだけど……やっぱりやめとく。あたしが悪いし」
そう言って見せつけられたのは……うん? 『明確な理由もなく突如姿を消さず、もし消した場合は相応の見返りを用意する』……契約書? どんだけ信用されてねえんだよ……確かに今まで転移者騒動で突然姿を消してはいたが。
「何気に初めて目の前で変身するとこ見たが、掛け声とかないんだな」
「今朝戦隊モノでも見たの? そんなの言ってるの戦闘経験のない新人ぐらいよ」
まあ……確かに変身に掛け声や時間を要してる場合じゃないんで合理的、というか当然だが、上手く回答を避けやがったな。
移動しつつそんな質問をしてたが……今日カフェとデパートとは言ったものの、実際どこに行けばいいのかわからん。そもそもカフェって昼飯食ってから行くのか? それか昼を珈琲とかで済ませっていうのか? ――そういった疑問を、全て楓が解決してくれている。しかもいいお店を教えてもらっただけでなく、いつもの恰好して行こうとしたらもっとちゃんとした恰好にした方がいいと言われたので、スーツを着て……行こうとしたらテコ入れが入り、オシャレな恰好に様変わりした。ここまで気合い入れる必要があるのかは疑問だが、本当にいい友達を持ったもんだ。石塚とかいうバケモンは見習ってくれ。
「昨日ちゃんと寝たか?」
「何でそんなこと聞くのよ⁉ 別にもしもの場合に備えて受け止める準備とかその……!」
楓から言葉に困ったら聞けばいいと言われたことを聞いたのに、滅茶苦茶動揺されたが……タイミングよく目的地に着いた。
「――あ、ここだ」
楓が考えてくれたプランに沿うと、まずは雑誌で見たと雑談を挟みつつ、雰囲気が良さそうなカフェ……は俺にはわからんので、場所を叩きこまれた洒落たカフェに入店するとのことだ。
「へっ、へぇ、こんなところ知ってるのね」
「知ってるだけで行ったこと無いけどな」
知ってるのは俺というか、楓だが。
「そうなの?」
「こんな洒落た店雰囲気きつくて一人だったら絶対入らんな。なんか行き慣れてないと摘まみだされる雰囲気あるっつーか」
実際のところは無駄に高くて吐き気を催すだけ。別に利用客に男の姿がなかろうが、人工島が女だらけのせいで気にならない。
「珍しいわね、ネガティブ思考のオンパレードじゃない」
「まあ、こうして行く機会生まれてよかったわ」
「そ、そう……」
店内の雰囲気はとても良い。仄かに珈琲の匂いがして、小声で喋るぐらいの音量でジャズが流れている。店内は木造建築で、観葉植物やドライフラワーが点在していて、山奥でひっそり佇んでいる図書館の雰囲気を都会で再現している。こんな最高のカフェなのにメディア出演は完全NGらしく、客入りはそう多くない。見た感じ夫婦で営んでいるようだし、このぐらいの人気度が仕事量的にも丁度いいのかもしれない。
「今日は俺が誘ったし、好きなの選んでくれ」
もう実質俺は楓と言っても過言じゃないが、誕生日の結奈には名目上は俺の金で奢るので、何でも好きな物を頼んでもらいたい。
「別にいいわよ、自分で払うわよ。アンタと違ってあたしらはお金貰ってるのよ? 寧ろあたしが還元してあげたいわ」
「んじゃ一つ聞きたいことがある。それで勘弁してくれ」
結奈が支払うという事態だけは避けようとする一心で話を逸らしたので、特に聞きたいこととか思いついてなく……
「お前一体WB社からいくら貰ってんだよ」
今までの話の流れから適当に質問文を考えるぐらいしか、雑魚い脳にはできなかった。自分でもそうじゃないだろとツッコミたくなるレベルのバカげた質問を飛ばした自覚があるし、微かに頬を赤らめていたような気がする結奈も、地味に上がっていた口角がいつも通りに戻ってしまったぞ。
「明確な数字は言えないけど、国民の命を守ってるんだからそれなりに貰ってるわよ。こっちも命がけだし」
当然っちゃ当然の返答が来た。みんなその知識があるからWB社就職に向けてまずは退治とか異世界人関連の学校に進学してくる。
「転移者を始末した数が給料に直結するって噂はどうなんだ?」
注文をし終え、この話はするべきじゃないと分かっていても、代案が見つからないので続けて質問する。
「んー、相手がアンタだろうと、なんとも言えないわね。誤解されてるなら誤解されたままでいいけれど、完全に否定はしない、みたいな?」
「んだよそれ」
多分俺が頭良くても意味わからんことを言っていると思われる結奈は、この話にあまり触れたくないからか、本棚から一冊の本を持ってきたぞ。それ読み始めたら俺の印象は完全にアウトだな。機嫌は地に落ちたと言える。
よくよく見ると、読んでいた本は夏に向けて刊行されたお祭り特集の特別号で、俺にも見えるように机に横向きで置き、画集を見るスピード感でページをめくって行く。
「もし異世界人が転移してくるのに条件があるとしたら、どういうのが当てはまると思う?」
思っていた以上にスピーディーに珈琲が提供されたので、一口飲んでニッコリ顔になった結奈は、妙な質問をしてくる。
「ファースト・インパクトはごく普通の日に訪れたからなぁ……」
それは単純にディズニーランドが通常通り営業していたとか、爆心地付近でイベントが行われなかったという訳ではなく、国会で何かやっていたとか、他国の重鎮が来日していたとか、そういった政治や国防面に変化が起きていなかったという意味だ。だから余計大事にならず、自衛隊などが総力を尽くして対峙でき、東京周辺が消え去るだけで落ち着いているのも事実だ。
「どこかで祭りがある日って、今まで一度も転移現象が確認されて無いのよね。世界的に見てもね」
「最近転移者が全然いないのって……」
「この時期、特に日本は祭りが豊富よね」
祭り規模になると、母数もかなり多い。祭りがある日を完全に把握している訳ではないので、結奈が開いた日本の祭りスケジュール表のページを見ると……確かに、殆どが祭りで埋め尽くされている。しかもいやらしいことに、柳瀬が暴走した日を含む転移現象発生の日は、全て空白になっている。
「感想に困る一説だな……」
もしそうだとすれば、毎日祭りを開催してしまえばいい。だが、そういうわけにはいかないだろうし、こういうのは意図的になった瞬間崩れるもんだ。きっと偶然の産物だろう。まず、んじゃ巡察止めて祭り行くか! とはならんしな。
オムライスがオススメと聞いているので、それぞれ珈琲とオムライスを頼んだんだが……昼飯に3600円はマジでやべえな。一桁間違ってても普段の一食より高い。まあ、その価値以上の美味しさが提供されはしたけどな。量は少なかったが。
少しのんびり雑談して二時過ぎに店を出た俺と結奈は、楓のプラン通りに商業施設を回って行く。服に興味がないので結奈の付き添いみたいになってしまったが、何着か気に入った服があったようで何よりだ。
その後はゲーセンに入り、レースゲームやエアホッケーで遊び、クレーンゲームに1000円吸い取られ、プリクラを取った。クレーンゲームは必要な悪だとしても、プリクラは今の時代スマホで同じことできるんじゃねえの? 俺にはよくわからん。
「退治って夏休みがないから宿題もないんだが、耀傷ってどんな感じなんだ?」
誕生日ぐらいお母さんが帰宅してくれるだろうから、夜ご飯前には解散した方がいいだろうと計画を立てているので、誕生日優遇として買い物袋を代わりに持ったまま人工島との連絡橋に戻りつつ、誕生日プレゼントを渡すタイミングを探る。
「宿題はかなりあるわよ。その分休みが九月中旬あたりまであるけど。あそこ普通じゃないから」
この辺のお偉いさんや金持ちの子がこぞって入学している学力も高い学校とは聞いていたが、暑い夏に登校させないような対策までされているのは意外だったな。
「宿題の進捗はどうだ?」
「宿題ならもう全部終わってるわよ」
「真面目だな」
いや、これが普通なのかもしれん。石塚も見習ってほしい。
「フレームアーマーやってるから、余裕がある時に終わらせておかないと痛い目見そうで怖いのよ」
流石にそういった場合は免除だったり何らかの配慮はしてくれるだろうが、頭が良い学校なら進路とか内申点に影響が出るんだろうか。実質WB社で働いているようなもんなのに真面目だな。
楓にいい感じの雰囲気でいい感じのタイミングに渡した方がいいとか言われたせいで、普段ならポイっと渡せるはずの誕生日プレゼントを渡すタイミングを見失い……俺と結奈は、いつの間にか連絡橋横の小さな公園に着いていた。
「荷物ありがとね」
「気にすんな」
俺は人工島に住んでいるが、結奈は品川区に住んでいる。WB社に用事があっても、改札を通ればお別れだ。
「次は祭の日ね」
袋を受け取った結奈は、俺に軽く手を振って早々に帰ろうとするので……
「渡したいものがあるんだが」
ポケットから小さな箱を取り出していると、
「な、何よ」
自分が誕生日でプレゼントが渡されるはずと思っていても可笑しくない速度で目の前に戻ってきやがった。これには流石に笑っちまう。あげるのやめようかな。
「そこまでのことじゃねえよ」
「べべ、別に期待してるわけじゃないから! 待たせるわけにはいかないからよ!」
そういえばしょうがなくはあったが、今日俺を二時間待たせた前科があったな。
「お前確か今日誕生日だろ」
それっぽい優遇具合ではあったが、実際に口に出して言ったのは今が初めてだったりする。
「なななんで知ってるのよ!」
「あー……」
そういえば……記憶上、結奈から直接誕生日を聞いた覚えはないな。そう返されるとは思ってもいなかった。
「あれだ、いつもチャットをやりとりしてるアプリがあるだろ? あそこのプロフィールに書いてあったぞ」
正直見たことがないのでギャンブルではあるが、自分のプロフィールを作成した時入力した覚えがあるので、あれが任意とか非公開設定可能とかじゃなければ問題ないだろう。
「そういえば誕生日を書いた気がするわね……」
運よく言い逃れたが、実際どうして結奈の誕生日を知ったのか記憶にないので内心ほっとしないな。
「ほらよ、プレゼントだ」
外見とても小さなプレゼントだが、中身の素晴らしさは保証しよう。あくまで俺基準ではあるが。
「……っ⁉」
そりゃあびっくりするだろう。プレゼントを渡す時、どうでもいい相手じゃないなら消耗品は避けた方がいいと経験がある。だがそれ以外の経験はなく、何を送ればいいのか見当がつかないので、とりあえず近くにある花屋に出向いて店員さんにこう相談した。「仕事以外で関りがない女性とのお近づきの証にプレゼントするのに相応しいものは何か」と。すると花屋だから薔薇を送るべきだと言われたんだが、流石に当日持ち歩けないので……他にオススメされた指輪にした。装飾品はその人と会う時は絶対に付けないといけない、みたいな縛り要素になりそうだったが、このぐらい小物なら身につけてもさほど邪魔にならないだろうし、ピンからキリまであるので見た目高そうなのに安いものはたくさんあった。ウィンウィンの関係と言えるだろう。
波音しか聞こえてこない無言の時間が続く中、不思議と結奈の顔が色付いて行くので、
「フレームアーマーに変身する時とか、邪魔になるなら捨てるなり売るなり好きにしてくれ」
結局のところ、渡す側は気持ちが籠っていればいいとは言うものの、受け取る側は貰って嬉しいプレゼントだった場合の方が少ないだろう。一応保険の言葉をかけておいたが……
「……ばーか」
長く無言が続くせいで一瞬満更でもなさそうだと思った俺が言葉通りバカだったな。素直じゃない言い回しだが、かなり響いたぞ。
「ここここんなもの捨てたりするわけないじゃない! 大切に保管するに決まってるわよ! バカ!」
……あら? 機嫌の取り方を必死に考えていたが、どうやら好印象の方だったみたいだ。バカ言ってるし分かりづらいな。
「あくまでプレゼントだもんな。言われた通りにするのは流石に不謹慎か」
さっきから何故か俺や海、人工島や連絡橋がある正面の方を見らず、右奥の方にある白い施設をちらちら見ているが、喜んでもらえたなら何よりだ。店員さんマジナイス!
「べっ、別にまさか指輪がもらえるなんて思ってた訳じゃないけど、返事はもうちょっと待ってよね! あんまり! こういうの! 慣れてないから……っ!」
年一行事なのに、慣れてもらっては渡すこっちが困る。
「おうよ、いつでも待っとくぜ」
しっかりと待つぜ。俺の誕生日まで。金持ちなんだから良いもんくれよな。できれば食いもんを。
「きょ、今日は……ありがと」
「お前も俺の知り合いだからな。誕生日祝いは当然だ」
「別に今日が初めてのデートだから余計嬉しかったとかじゃないからね⁉」
「ああ」
そんなに念押ししなくても分かっている。寧ろここまで純粋に誕生日プレゼントで喜べる人の方が珍しいもんだ。
「じゃ、じゃあ、私、この後、親と、ディナー、だから……」
「おう。気をつけてな」
相当嬉しかったんだろうな。その赤面具合と感動した表情から伝わってくる。楓みたいにひゃっほー! って狂喜乱舞する喜ばれ方も気持ちいいが、たまにはこういう喜ばれ方もいいもんだな。
あの日は祭りの日の作戦会議をてっきり忘れていた。だからか次の日から結奈が送ってくるチャットの量が増えたような気がするが……機械音痴だから事故らないようにあんまり触らないんだから、この前家に来たように直接話に来ればいいのにな。生憎今月大ピンチに陥ったので、自分から誘おうとは微塵も思わないが。
久しぶりに楓に養われる生活を送ることになり、俺に乞食して申し訳ないと思う感情が芽生えていることに驚かれつつ七月末、祭りの日を迎え……
「しゅうやんあの祭りまだ一回も行ったことないんだよね?」
「ああ。でも今年も行く気はない」
人工島設立年は開催されていないので、今年で五回目の開催ということになるが、最近が平和だろうと予定が無かろうと端から行く気はない。良くも悪くも学校で顔と名が知られているからな。
「えー、最近平和なんだからそう気張んなくてもいいんじゃない?」
「最近何もかもやってもらっているから楓の要望通りに動きたいところだが、異世界人関連になると流石に譲れん。すまん」
そういう気の緩みから大惨事ってのは起きるもんだ。退治の連中がアホ化しても、俺は永遠と意識し続ける。
「ヒーローは忙しくなきゃだもんね!」
「ヒーローになったつもりはねえけどな」
というか、≪エル・ダブル・ユニバース≫の邪な使用用途を提案してきたのはアンタ、楓だろうが。
「もし祭りに行くなら、浴衣とか着ない方がいいぞ。動きやすい格好で行った方がいい」
石塚ならここで駄々こねるだろうが、楓は俺を信頼している。何なら命を救った仲だ。
「らじゃー! しゅうやん、今日も町の平和をおねげーしゃす!」
「ういー」
俺の活動や秘密を全て把握している楓は、異世界人関連で自分だけが優遇――救われるような立ち振る舞いはしない。今の発言のように、沢山の人が救われるようなお願い事をしてくる。こういう人だからこそ、世界一のアイドルになれるんだろうな。
きっと愼平や禎樹あたりと行くんだろう、身支度を済ませるために家に戻って行った。
「私達はフレームアーマーが来る前にポイントについておくわ」
「もし見つかったら直ぐに念話してくれ」
ルミーナとマリアはギターケースとキャリーバッグでカモフラージュした銃のケースを≪スレンジ≫に入れ、俺より先に家を出る。
「やや君! 祭りだよ祭り! 早く行こ!」
扉を開けた瞬間、待ち伏せしていた石塚が二人を押しのけて部屋に土足のまま上がってきやがった。
「先約がある。他と行け」
目で向っていいと指示し、自宅に一人で居ると予定が無いと思われて付き纏われるので、俺の家集合だったが家を出ることにする。結奈はフレームアーマーで俺の監視役だから、どこにいろうがWアラーム中や変身している最中は位置情報を不正入手することだろう。確か、そういう場合は法に問われないらしいからな。
「えーっ! 誰⁉ 名前は⁉」
「うっせえな……お前が宿題早く片付ければよかった話だろうがバーカ」
自宅の施錠を済ませ、浴衣に着替えて行く気満々の石塚を押しのけて階段を下りる。
「今回ばかりはごめんだ、あばよ」
今日暇でもお前と行く気はねえけどな。
アパート前の通りも、浴衣を着た沢山の男女が祭りが行われている海浜公園に向って歩いている。例年同じ光景ではあるが、最近は転移現象が少ないからか、例年通り浴衣の冒涜のようなミニスカタイプの輩は少なく、ガッツリとした浴衣を着こなす人が多い。どうせ転移者が来ないから、って高を括って機動力を捨てているんだろう。
「今年はかなり浮かれた奴が多いな……」
「⁉ べっ、別に浮かれてなんかいないんだから!」
俺の家に来る途中だったのか、EoDに向って数分歩いたところで結奈とばったり会った。
「別にいいだろお前は、一瞬であの姿になるんだからよ」
こういう時はフレームアーマーのような変身する奴は得をする。
「それじゃ行くか」
やけに露出面積が多い浴衣だが、いつものことなので敢えてまでツッコまず……俺は人の流れに逆行し、結奈は人の流れに沿った。
「おい、どこ行くんだよ。向こうじゃないのか?」
お互いに違う方に進みだすと、明らかに可笑しいので俺と結奈は五歩も歩かず立ち止まる。
「アンタこそどこ行ってんのよ。祭りは向こうよ?」
「祭り……? 何言ってんだよ。誰があんなとこ行くか」
これからやることは転移者の監視だろ。俺は祭りに行かずに済み、結奈は俺を監視できて楽という、利害が一致しているからこそ今日は集まることにしたはずだ。
「え⁉ ならどこに行こうとしてるのよ!」
「は? 大丈夫かよ、疲れてんじゃねえのか? 普通EoDだろ」
確かに都心部一区や例の地下通路を探す手もあるが、まずは転移現象を確認しないことにはそこを警戒する必要はないはずだ。
「何でEoDに行くのよ。今行ったって何もないわよ」
「何もなくていいんだよ。ていうか何かあったら一大事だろ」
それこそWアラーム案件で、祭りどころの騒ぎじゃない。
「お前なあ……お前が祭りの日にEoDに行こうって言ってんのに、忘れたっていうのか?」
「はあ⁉ そんなこと一言も言ってないわよ! 勘違いしてんのはアンタの方よ!」
「バカ言うな」
あの時の発言を一言一句覚えてる――『もしどっかに行ってれば、祭り中に転移者が来たら大惨事になるだろうけど、少しは戦力の足しになるかもなーって。別に一緒に祭りに行きたい訳じゃないんだからね⁉』だ。この発言以外にも当日の誘い文句っぽい台詞はあったが、具体例を述べたのはこの発言だけだ。確かにEoDに行こうとは直接言ってないが、祭りに行くつもりはなく、俺を捕まえて戦力の足しにする。これは間違いないので、必然的にEoDに行くはずだが。
「バカはアンタよ! だったらこんな格好するわけないじゃない!」
確かに結奈は和服より洋服の方が似合うなとは思うが……
「あーあー、わかったわかった。俺の記憶が間違ってた」
こういう時、先に折れた方がいいのは確実に俺だ。相手が石塚なら口論を続けるが、相手はフレームアーマーだ。言語道断! 武力行使! みたいな展開になったら、分が悪すぎる。
「人混みに紛れて潜伏異世界人が居る可能性も無くはない。少しだけなら祭りに行ってもいいぞ」
とはいえ楓にあんな大口を叩いている。おいそれと行くのは面目が立たん。
「だが一つ条件がある。それをのんでくれたら一周分だけ付き合う」
結奈は祭りに行けるならそれでいいのか、あれ以上否定してくることはない。ないんだが……納得いかねえなあ。あの日、聞き間違えたか、聞き落としたか?
提示した条件は、せめて部屋を貸すからスポーティーな格好に着替えろ、というものだ。島民がほぼ全員行くような祭りに、俺達が浮かれた格好してたら示しがつかんからな。後、楓とかの知り合いに会った時、俺と結奈が交戦を考慮した格好をしていれば、まだ言い訳の考えようがあるからな。
浴衣を脱ぐのが少し不服そうな結奈は俺の家で服を着替え、ほぼ水着のようなスポーツウエア姿になった。黒いスパッツは何故か『U』字に生地がなく、内腿や腰回りが露わになっているが、スポーツウエアを着ているので気にするだけ無駄だ。肌寒くなった時用に長袖をファスナー閉めずに羽織ってもいて、戦闘服っていうよりかは運動服っぽいが……まあ動き回れる格好には違いないので大丈夫だろう。
「フレームアーマーの連中は仕事してんのに、お前だけ楽しんでて恨まれないのか?」
「あたしが担っている最重要の役目は、アンタを見張ることよ。アンタが祭りに行くから同行するだけで、遊びに行く訳じゃないのよ」
いつの間にか俺主動で行くことになったと書き換えられているが、俺の監視役って都合がいい役割だな。しかも最近異世界人と暮らしているから、私情を詮索されないように昔みたく大胆に暴れないよう、言動を自制しているから尚更だろう。
俺がプレゼントした指輪をおずおず薬指に付け直す結奈を片目に、遂に祭り会場に到着した。人工島には退治の生徒とその保護者、店や会社の関係者ぐらいしかいないので、人口密度でいうと意外と低いんだが……この瞬間のこの場所は、人口密度が世界トップクラスだろうな。容易く本土に出られない都合上、この祭りにはこぞって人が集まりやがる。
「あーあ、転移者が来てみんな帰ってくんねえかな……」
不吉な事を呟きつつ、通り道が無ければ人の流れも自己中で形成された民度が終わっている祭りに突入する。
「えっ⁉」
「こうでもしねえと一生会えんぞ。俺に逃げられたくないなら掴み返せ」
海浜公園は満員電車状態で出店に並んでいる列すらも判断がつかない惨状だ。手をつなぐだけじゃ間に人が差し込んできて痛い思いをするので、ようやく掴み返してきた結奈の手を引っ張って俺の真横にほぼ密着させる。愼平がよくしてくる肩組みの優しいバージョンだ。
「ちっ、近いわよ……」
「全員思ってることだ。ったく……毎年こんなゴミイベントやってんのか」
インフルエンザとかが流行ってたらどうするんだろうな? 呆気なく全滅だろうよ。
グレネードが炸裂したらどうなるんだろうな? 呆気なく全滅だろうよ。
祭りに来る連中が多いから海浜公園の入り口付近が窮屈になっていただけみたいで……少し進んだ先では全員に最低でも一メートル四方の余裕があり、さらに進むと人混みをあまり感じないレベルにまで落ち着いた。寧ろ外周にあるランニングコース沿いの方が沢山のグループが花火目当てに陣取っていて人が多いぐらいだな。
「……いつまでこの状態続けてんだ?」
「あああアンタが握ってるからじゃない!」
いつまでも真横に居て手をしっかりと握り続けていた結奈は、指摘された瞬間手を離して距離を取る。俺みたいに人混みに意識を持って行かれすぎて忘れていたんだろう。
様々な香水の匂いがして気分が悪かったのか、やけに呼吸が荒れていて腕や腹の筋肉がくっきり見える。流石に放ってはおけないので、飲み物でも買ってやろうかとこの辺にあったはずの自販機を探していると……
「うおっ、しゅうっちがカノジョ連れてやがる」
居たよ。ヤベー奴が。
避難部送迎科の連中か、筋トレ仲間と焼き鳥を販売していた愼平は、その体つきにタンクトップと捩じったタオルを頭に巻く姿がとても似合っている。
「カノっ⁉」
「何でそうなるんだよ。俺達は警備を担当しているだけだ」
愼平の腕にあるように、何か見た目だけでも警備員と分かるような腕章や名札を適当に付けておけばよかったかもしれんな。今思えば役割を象徴するものがないのに浴衣だらけの祭りでこの格好の二人組は異彩過ぎた。
「飲み物は売ってねえのか?」
自販機を遠目で見ると全て売り切れの文字が見えたので、焼き鳥なんか買わずに飲み物を要求する。
「特別に知り合い価格で100円で売ってやるぜ」
「助かる」
ということは、ただのお茶でも自販機以上の値段を取る店があるのか。本当に普通に楽しみに来なくてよかったわ。借金額が増えちまう。
「どこも屋台価格で採算取ろうとしてるから気を付けろよ」
「安心しろ。警備員だから買う予定はねえ」
そもそも買ってられる程金に余裕がない。流石に水道水や海水を飲ませるわけにはいかなかったから泣く泣く買ったんだ。
「あっ、花火見るならここに来るといい。いいとこに出店を構えたから、この辺の一等地は俺達の陣地なんだぜ」
色んな出店は出入口付近に軒を連ねて金を儲けようとしているが、愼平は敢えて他と離れて海岸沿いに陣取った。その理由は花火の見やすさと、花火を見ている連中が買いに来やすいからか。考えたもんだな。
〔どうせ見るなら、人混みがあるところで見たいわね〕
〔あの喧騒は祭りならではだもんな〕
まだ祭り経験が浅い人にとっては特等席のような優越感よりこういうイベント事ならではの貴重な経験をしたいんだろう。確かにこれでは家で中継を見ているのと変わらないような状況だ。
「それも安心しろ。警備員だから見る予定もねえ」
「そんなこと言うなよ。カノジョが可哀想だろ?」
「だからカノジョじゃねえっつってんだろ筋肉ゴリラが。仕事仲間だ」
この理解力が乏しい男の傍に居続けると愼平の連れに誤解されて妙な噂が広がりかねん。用が済んだのでもっと人混みがなさそうな方目指して歩き始める。
「変わった友達ね」
「俺もそう思う」
良くも悪くも俺の友達はああいった個性の強い奴しかいない。退治に通ったことがない結奈からしたら濃い性格だったかもな。
「せっかく祭りに来たのに、花火見ないって正気?」
特に違和感は無かったのでEoDにでも行こうかとしていると、結奈は突如立ち止まった。少し……イラっと来たような表情で。
「一周分だけ付き合うって言っただろ? このまま進めば一周だ。そろそろEoDに行くぞ」
石塚や楓と遭遇しなかったのは偶々だ。俺は退治で有名なので、噂が広まって二人の耳に入る前にこの場をおさらばしておきたい。
「それとこれは別よ。お祭りに来たんだから、花火もしっかり見ていくわよ」
「あのなぁ……これじゃあ警戒もクソもねえよ。俺達が浮かれてどうすんだよ」
「別に浮かれてないわよ! 勘違いしないでよね!」
「ならいいじゃねえか。行くぞ」
結局何が言いたいのかわからん。いつの間にか今日の目的が転移者の警戒から祭りをエンジョイすることにすり替わってないか?
結奈がムカついている理由が分からんし、寧ろ俺の方がムカついている自信はあるが――
「……愚図愚図してっから転移者が来ただろ」
んだよコイツ。Wアラームが鳴ったと思えば条件反射で変身してやがる。その意志があるなら最初っから祭りなんか来るなよ。
結局祭りの日は転移者が来ないとかいう法則性は崩れ去り、Wアラームの音と連動して祭りに来ていた島民が、特に叫ぶことも無く速やかにシェルター内に避難していく。一応習慣付いているから冷静に対応できているが、せっかくの祭りを妨害されたのでシェルター内で不満爆発しているだろうな。
何がしたくて何が言いたかったのか分からん結奈は、
「直ぐに向うわよ! ったく、うまくいかないんだから……!」
「あぁ?」
今日は祭りなんか来るはずはなかった。上手くいかないと思ってるのはこっちもなんで、小声のつぶやきに対して反応するが、オペレーターと交信しているのか、結奈からは返事がない。俺を雑につかみ上げて運搬するあたり、一応監視役としての使命を果たしてはいるが、ムカついている理由を教えてくれ。俺目線からすると、過去の発言を否定した挙句今日の行動に対して不満があるヤバイ奴だぞ。
〔今回も呆気なさそうだわ。木刀を持った少年が転移してきたわ〕
フレームアーマーがあり得ない移動速度を誇っていても、先に転移現象を確認して念話を送る方が速く、ルミーナから転移者の情報が伝わってくる。
〔祭りを邪魔しに来ただけだな。不憫な奴め〕
統計でみると、転移者は大抵夕方以降に来ている。昔はこの時間帯に散歩がてらEoDをぶらついていると、転移現象と遭遇できてフレームアーマーよりも早く行動を起こせ、無難に転移者を異世界に送り戻すことができた。ルミーナやアトラなんかがその実例だ。しかし最近は結奈の監視が手厚く、既に監視下の場合が多い。その気になればできるので、≪エル・ダブル・ユニバース≫を私利私欲で使いたくて温存気味になった俺の誠意にも問題はあるが、今回みたく脱走できる状況が既に訪れないことが確定されている事が多い。……こうなることが事前に予知できていたら、そもそもあの日祭りの日に巡察しようって話にのっていなかったかもしれない。俺にも転移者が来ないだろうという浮かれた気持ちがあったのかもしれないな。
〔また見逃すの? 子供で無害そうだし、返してあげた方が人としていいわよ〕
〔それはそうなんだが……少し考えさせてくれ〕
私利私欲で使うとしても、現状異世界に用事がないのに温存したり、救える命を見逃すのは、それはまた意味が違ってくる。それは重々理解している。ただ、初っ端から監視されているこの状況から、どう脱するべきか。これが今の俺には考えきれない。
フレームアーマーは、転移者が攻撃的であろうと、平和的であろうと、老若男女問わず片っ端から殺戮していく。二度と、同じ悲劇を繰り返さない為に、妥当な判断を下しているまでだ。
「なあ結奈。お前本当は祭りを楽しみたいんだろ」
「な何言ってんの⁉ 別にそんなことわよっ!」
「んじゃ何で転移現象が起きたらこっちに速攻で駆け付けたんだ? フレームアーマーは、チーム行動をするはずだ。なのに俺を連れてEoDに誰よりも早く駆け付けた。いくら俺の監視役だろうが、Wアラームが鳴っている時はいつも近くに仲間がいただろ?」
過去にチーム行動をしなかった例外はいるが……まだこの周辺には、俺と結奈しかいない。WB社の人工島の方から無数の黒点が高速で近づいてきているのが見えるが、それも全ていくつかの塊で行動している。過去の記憶と、今見て取れる状況が、結奈がとった行動と一致していない。
「WB社に勤めていると、私利私欲を捨てないといけない。そんな中で、監視役という立場を利用して娯楽を楽しめる瞬間が訪れた。だから俺と共闘して、転移者を素早く始末して、今後行けるか分からない祭りを楽しみたいんだろ?」
結奈は戦力で見ると、確かに強い。それもフレームアーマー使いでかなり上位につくレベルだろう。お互い外的要因での身体強化を禁じれば、俺とタメ張るレベルであることも認識し、一応危惧している。だが、それでも拓海のような上の立場に付けず、第七連隊では副隊長を務めている原因は、こういう所なんだろうな。
「……違うわよっ!」
「えっ」
まさかと思ってつい口に出てしまったが……うっそだろ。違うのかよ。≪エル・ズァギラス≫の名推理が初めて外れたかもしれん。これでようやく今日祭りに行きたがっていたことと、もし転移者が来た際に俺が戦力の足しになると言っていた昨日の発言とが、何とか辻褄が合っていたんだが。
「なら何なんだよ」
「……ッ!」
理由を求められると同時に、第七連隊の面々が結奈の元に集まってきて……閉じた唇を震えさせるだけで、何も言わない結奈は隊員と共に爆速で飛び去って行った。
〔萩耶はいつも大変ね。少年は今怯えながらEoDを散策中だわ〕
〔分かった。具体的な場所の誘導を頼む〕
喋ってくれないと何も伝わらない。疑問が残るが、逃げるように転移者の捜索に向かったのは不幸中の幸いだ。監視の目がない今のうちに、転移者を返還させることができる。
ルミーナとマリアは都心部にある高いビルの屋上に居ても、普通はビル群のEoDをうろつく人の様子は物理的に伺えない。だが、二人は異世界人。Wアラームは現状魔法が使用された場所を特定する機能なんて持ち合わせていないので、一度鳴り続けば魔力が許す限り魔法を使いたい放題。≪サーペンター≫か≪レヅベクト≫辺りを使っているルミーナは、俺を転移者の元に的確に誘導してくれる。
〔発煙弾を撃ち込むから、その隙に転移させて。後は任せたわ!〕
〔転移者がいるところには撃ち込むな。あいつらはサーマルの機能も持ち合わせている。ミスリードするような位置に撃ってくれ〕
もうEoD内には数多くのフレームアーマーが巡回している。何かの発生を知らせるような事を起こすようなら、転移させる隙を失う。本来なら今まで通り一人で転移者を対処した方が立ち回りやすいが、それだとルミーナ達の活躍の場面が無いし、経験にも繋がらない。あの時ルミーナを味方として招き入れ、今後チームで行動すると決めたからには、チームとして活動する利点――より安全に立ち回れるように行動してもらう。
単純に煙を立たせるだけでは、サーマル機能付きのフレームアーマーは直ぐにブラフだと判断でき、より警戒心を高めてしまう。しかしどの道煙を出すなら警戒心は上がる。なら少しでも時間稼ぎに繋がるように、人間と誤認しそうなサーマルに引っかかるものがあるところに撃つのが得策だ。
実際のところフレームアーマーのサーマルがどれ程の精度を誇っているか知らないが、何となく近くにフレームアーマーが居ない気配がするんで、
「よっ、剣士」
怯えさせるわけにはいかないので、曲がり角からふらっと通りかかり、転移者に話しかける。
「誰だっ!」
「安心しろ、俺は敵じゃない」
俺のルス語はかなり成長したもんで、最近では定型文以外の日常会話もある程度なら可能だ。
震える腕で木刀を向けてくる少年に苦笑いし、
「ここから先は大人にならないと来ちゃダメなんだ。申し訳ないが、自宅に帰ってもらうよ」
「嫌だ! 僕は……僕は、もっと強くなるんだっ!」
少年の背後で≪エル・ダブル・ユニバース≫を展開しつつ、素晴らしい向上心を持つ少年の向く方向を真逆に変える。その木刀、練習用だからか尖っていないので、少年程度の筋力じゃ傷すら与えられないだろうよ。
「そうだな……まずは大きな町にあるギルドっていう所に行って、ある程度の基礎知識を教えてもらおうか。場所は親か身近な人が教えてくれるはずだ」
そう言いつつ、少年の背中を押して時空の裂け目に触れさせる。軽く触れる程度じゃ転移しないと分かっているので、自分の腕が裂け目に触れることを厭わずに。
転移者は魔法に溢れる世界なので、目の前に時空の裂け目を展開したところで疑問に思われることはない。それはいくら子供相手だろうと変わらない事実だ。地球人に見られさえしなければ、言語も通じるし相手を不快な思いのまま転移させずに済む。
〔これで終わりかは分からんが、発砲したから一旦自宅に戻るぞ〕
あくまで統計からの推理だが、転移現象は≪エル・ダブル・ユニバース≫と似たようなクールタイムが存在している。同時多発や連続多発ではない以上、あの少年以外の転移者が居る可能性は極めて少ないだろう。潜伏中の異世界人はそのまま潜伏を続けるだろうし、魔法陣を伴わない転移者が居た場合、暴れる奴だったら今頃暴れているはずだからな。この調子だと結奈は戻ってきそうにないし、祭りも中止になるか過疎化するだろう。この際、ルミーナとマリアに祭りの姿を見せてあげてもいいかもな。
転移者が突如として姿を消したことで数時間にわたる捜索が行われ、それでも発見できないので例の如く厳重警戒のままWアラームは鳴り止み、シェルター内の人々は解放された。
「確かに学生は楽しめそうなイベントね」
「大人はこの雰囲気とか、それこそ花火を楽しむんだろうよ」
射的、くじ引き、金魚すくいなどの娯楽の他に、フライドポテト、かき氷、ポップコーンなどの食べ物系。改めてみると二十代を超えてくるとこれらでは騒げんな。人の目も気になり過ぎる。
何か一つだけでも買おうとしても、店員がいなければお金と置き換える訳にもいかないので……
「……帰るか」
やっぱり、祭りってもんは人がたくさんいないと始まんねえな。絶対に楽しい環境に人が居なければ、悲壮感が半端じゃない。とはいえ身動きが封じられるレベルの人混みは論外だが。
シェルター内から人が出てきてこの海浜公園にもぼちぼち人だかりができてきているが、Wアラーム前の活気は取り戻せない。出店を閉め始めているところもちらほら見える。本日の目玉の花火が言われなくても中止になるような展開が起きてしまったから、気分が冷めるのも無理はない。
「……ん?」
「結局上がるんだな……」
すると……年に数回聞く爆音と共に、俺達三人の背後が激しく発光した。
「あれが花火?」
「そうだ。要はスーパーに売ってる奴の究極系だな」
例の辞書に載っていない情報でも、これだけ長く日本で暮らしていれば現地民同等の知識を持ち合わせていても可笑しくなく……事実確認をしてきたルミーナは、感動というか関心するような表情で激しく打ち上がり始めた花火を見る。
「花火は魔法ではなく、火薬を包んだ球体のようですが、炸裂した後はどうなるのでしょうか」
祭りの感想すら言わなかったマリアが遂に喋ったかと思えば、考えたこともなかった質問で……
「炸裂して散り散りになったか、空中で燃え尽きたか、落ちて海の藻屑にでもなってんじゃねえか?」
普通そんなところ着眼するかね? こういう色鮮やかな爆発は魔法で見慣れているからそっちに興味が向かないんだろうか。
「あ、しゅうやん達じゃん! 花火だけは見に来たんだ」
「せっかくいいとこ陣取ったんだが、こんなことなら意味ねえな」
シェルターから解放された楓と愼平に見つかってしまったが、この際一緒に見てもいいかもな。愼平のとこには食いもんがあるし、序にタダ飯食い漁ってやろう。
人工島に纏わる情報が増えてきたので、これまでに判明している人工島についてまとめます。
【基本情報】
安全が保障されてない代わりに家賃や物価が安い
本土の都心部に近く日本で最も発展しているので、自衛できる人は挙って引っ越しを申請してくる
対異世界人活動に関わっていない人は住むことができない
人工島の面積は約15平方キロメートル WB社は約16平方キロメートル
WB社内の比較的人工島寄りの位置からEoDまで 約5km 100km/hで所要3分
人工島は一つの町として成形されているため形状に丸みを帯びていて島っぽい雰囲気
WB社は企業の島なので丸みを帯びることはなく建築効率を重視した角張った状態
完全キャッシュレスで島内は全域フリーWi-Fiが利用可能
島民は体内にマイクロチップを埋め込めることが義務付けられている(例外あり)
いつ死んでも可笑しくない島のため、位置情報と生体反応を元に生存確認をしている
マイクロチップのお陰でコンビニ等販売店からは商品を取り出すだけで自動的に支払われる
都合上経営者は店長のただ一人だけという状況が多々ある
品出しや仕入れ、在庫管理と掃除をするだけなので雇う必要性がない そもそも求人したところでここの学生は暇が無いので来ない
人工島内にはバスや地下鉄などの交通機関がない 自転車がたまに通る程度
自販機も殆どなく、自分の脚で歩いて体力をつけるような構造になっている
本土との連絡橋は車/電車/徒歩の三段構造
本土側は大井付近と繋がっている 距離は片道3.5km
郵便番号は存在しない
住所は東京都第一人工島(都心部か住宅街)(〇区)〇-〇(〇番ビル、〇番アパート 等)(部屋番号三桁、〇階〇〇株式会社、スーパー名 等)
学校宛ての場合 東京都第一人工島国立対異世界人人材育成高校
もし人工島内で転移者を対処できなければこの島ごと破壊することで対応するため、泳いで逃げられても見つけ出せるぐらいの距離は開けられている
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【EoD(死の地)】
earth of death(死の地)通称EoD
世界各地に3か所存在する その中でも最も酷いのは日本
ただの枠だけで中身は何も詰まってない仮想都市部地区
転移者多発ポイントの真横にあり、この区画内で始末させる
都市の見た目をしているのは転移者も人の容姿をしているので襲う先として定めるのではないかという憶測の元
仮想上の存在なので破壊されても直ぐに再建可能
平常時でも関係者以外立ち入り禁止
初の転移者出現ポイントには記念碑がある
円形に段々凹んだ構造になっており、その中央に石碑がある
潮風公園の噴水広場をパクったような見た目
【都心部】
都市部のマンションには企業だけでなく住居としても利用可能
高層階だと即座にシェルターに避難することが困難となるが、減額制度が適応されるので低予算で済む
ビルの階数は13階までと制限されている 階数決定は実験に基づく
学校の設備も然り
〇1区
銀座や渋谷のような見た目
2区
企業が多いオフィス街
3区
医療機関が多い
4区
チェーン店が多い
茅穂が住んでいる
5区
専門店が多い
【住宅街】
〇1区
APやシェアハウスが多い地区
足湯がある
藍奈と万莉奈がシェアハウスしている
〇2区
工房付き物件が多い地区
一般的な公園がある
〇3区
工房付き物件が多い地区
愼平が住んでいる
〇4区
APやシェアハウスが多い地区
〇5区
APやシェアハウスが多い地区
萩耶、楓、雫瑚、石塚が住んでいるアパートがある
〇6区
商業地区
コンビニやスーパー、商店街、家電、家具など
〇7区
一軒家が多い地区
附属中学校がある
〇8区
工房付き物件が多い地区
筋トレができる遊具で溢れた公園がある
ストリートアークアウトも
結乃が住んでいる
〇9区
一軒家が多い地区
附属小学校がある
〇10区
APやシェアハウスが多い地区
パルクールに特化した配置をしている公園がある
〇11区
工房付き物件が多い地区
図書館がある
〇12区
一軒家が多い地区
戸賀家が住んでいる
〇13区
一軒家が多い地区
~中学生向けのアスレチックができる公園がある
〇14区
APやシェアハウス、一軒家が多い地区
暁ふ頭公園が再現された海浜公園がある




