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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
25/32

25 四勢力

 

 アトラがもし地球に来たら。まず石塚(いしづか)からヘイトを買う。次に俺が至急偽名を捏造する。そして石塚を説得する。最後に地球での立ち位置を確立させる。このような流れになるはずだ。つまり、地球に来る可能性がゼロではない以上、偽名の部分は決めておかないとそろそろ変に過敏な石塚が察しかねない。ということで、アトラは俺の姉設定で、『十彩』に決定しよう。

 ……などと考えていたら、いつの間にか地球の自宅のリビングに転移できていた。日時は6月10日午後6時。もう梅雨だな。外もかなり薄暗く、小雨が降っている。

「流石に明日は私も附属中に登校しておかないとまずいわね」

 カレンダーを見て空白の期間を認識したルミーナは、早速キッチンに付いたマリアの方に寄り、

「買い出しじゃんけんだわ」

 突如そんなことを言い出したもんで、咄嗟に出た手は当然グーで……

 家に食べ物を備蓄していても異世界に行っている間に全て腐るし、異世界から食べ物を持ち込むのはなんか違う気がする。そもそも備蓄できる程金がない地球の俺は、料理担当でじゃんけんするまでも無く行くことが決定しているマリアと共に買い出しに行くことになったが、

「……チクショウ、なんか忘れもんしてんなと思ったら鍵を忘れたか……」

 どうやら地球の自宅の鍵を異世界に置き忘れたみたいだ。バカだなー、俺。

 〔これ、聞こえていますか?〕

「うおっ」

 いきなりこの世界に居るはずがない人物から念話が聞こえてきたので、びっくりして声が出てしまったぞ。

 〔聞こえてるぞ。契約が続いているうちは、世界またいでも念話できるのか〕

 〔そうみたいですね〕

 どの道契約が一日しか続かない以上、短期的すぎて有用とは言えないが……やっぱり魔法の概念は複雑で理解しがたいな。

 〔鍵だろ?〕

 〔はい〕

 〔今それで苦戦してたところだ〕

 届けてくれと言って届けられるものでもないので、多分その辺に落ちていたはずの鍵はアトラに任せておく。

「施錠する魔法とかないのか?」

「異世界の鍵と形式が異なるはずなので、使用できません」

「ふむ……」

 自分が形式を理解してないと使えないなら、石塚の侵入を防ぐために施錠は絶対に必要なので、残された手段はピッキングするしかなく……

「何故自分ちに犯罪者みたいな行為かましてんだ」

 泣く泣くピッキングすることになったんだが……施錠してから気付いた。

「私の存在忘れてない?」

 多分念話で伝わってきた内容に我慢できなくなったんだろう、鍵を閉めた途端鍵を開けて中からルミーナが顔を出してきた。

「あ、ああ、俺も今思った」

「怯えすぎでしょ。らしくないわよ」

「正直異世界人やフレームアーマーより会いたくないからな……」

「気持ちは分かるけど」

 まだ大きな音はたててないからバレてないが、今石塚の家は明かりがついている。微かに水の音が聞こえてくるあたり、入浴中か調理中だろう。今のうちに逃げておこう。どうせ長期不在になったら定期的に俺ん家を巡回しているんだろうしな。ルミーナだけがいる状況に出くわして、今日は諦めてしまえ。

 値段を追求する都合上、人工島で買い物を済ませたくないので、本土に足を延ばし……格安業務スーパーで会計を済ませた時にはもう七時半だった。道中目につくものを解説しながら移動してたからしょうがない。

 来た道にまだ解説が必要な物が残っているとは思えないので、時間も時間だし急いで帰ろうかとしていたら……ああ、嫌らしい声が聞こえてきた。

「あれはメイド喫茶だ」

 流石に街中をあの格好で歩かせるのは俺も嫌なんで今は二人ともごく普通の服装なんだが、同じ系統の服装を着た女性がこんな時間なのに売り込みなんかしてやがる。もっと闇方面の運営でもしてんのか?

「この世界のメイドはこのようなこともするのですか?」

「知らんけど絶対してない。ビジネス行為だろ」

 無感情でもリピートしたくない台詞を日常的に聞いてたら俺なら吐瀉るぞ。幸いマリアはノリがいい方じゃないので、ふざけて言ってきたりはしないが。

「おっと、それはこの世界の服装カタログじゃないぞ。俺ら健全……な、人が読むもんじゃねえ」

 銃なり剣なり携帯している俺は自分の一部発言に自信が持てなかったが、店頭に飾られた明らかエロ本と思わしき露出が多い女性がずらっと並んだ本は物色しなくていい。確かに都合上露出過多な異世界人からしてみれば興味を惹くのもわかるが、それとこれとは意味合いが違いすぎる。クソッ、効率を求めすぎた結果、夜は新兵の類が御用達のゾーンを通っていたことを完全に忘れていた。

「時間がない。行くぞ」

 強めにと言ってこの場を立ち去る。この場にルミーナがいなくてよかった。二人が興味を持つと大変なことになるところだったな。


 この前早めの梅雨入りが発表されたこともあり、今日は朝から土砂降りだ。

 ルミーナは附属中に、マリアは自宅で家事を、俺は偽善行為で通常通りの登校をしていると……

「すまん(かえで)、長くなりそうだ。先に登校しといてくれ」

「うん、じゃあまた後でねー」

 石塚の野郎はまだ寝てるっぽくてストーカーされずに済んだ俺は、楓と登校していたが……見知った顔が居たのでそいつの元に行く。

「よっ、久しぶりだな」

 傘すらケチって買ってないので、次は茅穂(ちほ)のビニール傘に入らせてもらう。

「先輩、お久しぶりです」

 今日は帰国初日だからか、編入手続きだけやりに来たようで、服装は完全に私服。抜け穴みたいな手段を利用して楽しめているようで何よりだ。

「随分と探し回ってたようだな」

「はい、今回はオランダを探してきました」

 オランダか……これまた大誤算だな。確かに俺が当時ヒントとして方角を指差した先にはオランダがあるが、誰も海外に行けとは言ってない。

「なんだこの白い塊」

「メレンゲです」

「メレンゲってこの状態で売られてんのか……」

 オランダの写真をスマホで見せてくれるんだが、料理に疎い俺にはよくわからんぞ。河川を挟んで木や自動車が乱雑に並び、レンガが特徴的な建物がずっと並んでる風景は確かに素晴らしいけど。

「先輩今お時間ありますか?」

「午後まではフケても問題ない」

「でしたらうちに来てください」

 ……ということで手続きを済ませた後、都心部4区のマンションの一室に一人暮らしをしている茅穂の家に行くことになった。

 長らく学校をフケているのでそろそろ顔を出した方が良いのは事実なんだが、ある程度周りの人に俺が登校再会したって実態を見せることが出来たし、今は先生達に拘束されている設定でどうにかなるだろう。俺からすれば、各国の情報を握っている茅穂と会話する方がとても有意義だし、つまらん授業受けるより話題が尽きなくて楽しいからな。

「相変わらず私生活感がないな」

「何か置いた方が良いでしょうか?」

「いや、茅穂らしくて良いと思うぞ」

 あまり家にいないのに無暗に動植物を買ったって損するだけだ。節約王の俺からすればこのぐらい質素の方が見る度脳裏に金額が過らなくて過ごしやすい。

 オランダってビールの印象が強いが、チョコレートの飲み物も有名らしく、それをお裾分けしてもらいつつ、

「最近の海外の情勢ってどうなんだ?」

 スマホに慣れないせいで世界情勢の入手限は茅穂だ。話す度必ず聞く話題を振る。

「HM社が新たな実験に着手したみたいです」

「またかよ」

 いつもヤバいことばっかりやってるせいでその具合がハッキリとしないが、研究に火をつけてしまったのは絶対俺達がやったHM社支部爆破騒動がキッカケだろう。

 ――今考えれば浅慮だったな、悪しき新芽を摘むために爆破って。向こうは市民にまだ何にも危害を加えていない。表向きの事業を行っていたら突如爆破されている。法律的には、多分百ゼロでこっちが悪い。バレたらどうなるんだろうな? 今のうちにGBU28でも手配しておくのも手かもしれない。

「次は一体何作るんだろうな。そのうち瞬間移動する拠点でも作りそうだ」

「大変ですね」

「大変で済めばいいけどなー」

 どうせ対象は俺に復讐か異世界人かWB社だ。他人事のように返答したが、フラグにならないことをとにかく祈る。

「最近日本の転移現象が全く起きていないとお聞きしましたが……」

「ああ、そうなんだよ。俺も最近遠くに行ってたから直近は知らねえけど、マジで来ないんだよ」

 そのせいでか石塚以外にも少しふっくらしたか? って思う人と数人すれ違ったし、道端ですっ転んだり、スケート気分でバカやってた奴とか複数いた。全員一年だが。平和が続くせいで体力と知能が共に低下してそうだ。

「そのせいで他のEoDに影響が出てたりしたのか?」

「いえ、全くですね。減少も増加もしていません」

「はぁ……」

 こればっかりは考えても何も分からんのでしょうがないが、そうも言われると俺の転移行為が作用してる予感が助長するからメンタル的によろしくないな。まあ探偵とかスパイじゃないからヤベえ止まりの情報とはいえ、最近の情勢を知れて良かった。

「私も暫くの間日本で暮らそうと思います」

 茅穂は今三年生だ。優秀な生徒なんだしそろそろ本腰入れて対異世界人活動しているアピールをしておかないと、ランクのお陰で強制的に内定が確定しているWB社とか、ほぼ顔パスで入れる他の会社の信頼を損ねて一から面接する羽目になってしまう。

「そういえばどこに就職するんだ?」

新谷(あらや)家に入る予定なので、就職はしません。もし今年中に見つけられなかったら、二週目をする予定です。それでも見つけられなかったら、待機に行きます」

 ……愚問だったな。じゃなきゃこんなに探し回ってないか。

 待機というのは通称で、対異世界人対策機関本部は、言ってしまえば大学みたいなもんだ。退治に通って、専門学校扱いになる二週目を終えて、まだ深く異世界人関連の知識を習得したかったり、界隈の技術開発一人者になりたければ通う学校だ。正直な話Aランクもあれば行くまでも無くWB社に入れるので入社後更に学べばいいと思うし、Bランク以下やWB社に漏れた人が行く印象はある。まあ実際は敷居が世界一高く、入学したらそれ以降対異世界人関連に関り続ける限り個人情報が機密扱いになり隠蔽されるから、単なる金稼ぎでこの業界を目指した人でもとりあえず挑戦する価値はあるが。

 ある程度情報を共有できたので、茅穂は帰ってきたばっかりで放置していた荷物を解き始めた。俺も邪魔したお礼に手伝っておこう。

「……ん?」

 茅穂から頼まれた方のキャリーバッグを開けて中身を出すんだが……中から出てくる服が全て三つずつ。嫌な予感がしてどんどん取り出すと……嘘だろ……デニムショートパンツ、フード付きで袖が殆ど無く、手を上げたらお腹がチラ見えする程度に短い丈の白シャツ、茅穂の細いウエストにぴったりになりそうな黒インナー。これ以外が出てこないって事は、この格好をずっとしていた……のか?

 確かこれは俺が昔に可愛いなと言った服装なんだが、そんなことが嬉しかったのか? それとも見知らぬ地で旅をするにあたって、この服を着ている人は自分だと視認性を意識してか? 疑惑の念で茅穂の顔を伺うと……

「うおっ」

 心の声が漏れてしまうのも無理はない。意識して見ると、長旅してたのにショートヘアの長さや色白さに変化を感じないし、低めのポニテに触覚のような前髪、右目の上に前髪の分け目がある誤差の無さ。完全に覚えていた俺も可笑しいが、茅穂の狂気性を垣間見てしまった。

 すると同じ格好で過ごしていたことを察されたと気付いたらしい茅穂がガン飛ばしてきたぞ! 普段可愛くて全く怒らない人なんだが、茅穂の得意分野は無音殺傷。オーラは優しさ満点なのにその睨み顔が俺でも畏怖するレベル。

「ヤベ、午後に遅刻してしまう。また今度な」

 逃げるのはあまり好きな手段じゃないが、時間がないのも事実だ。ブッ刺さってくる視線に背を向けて学校に向かう。

 昼休み中の校内に戻ってきたので、とりあえず一般科目棟に入る。あいつらに顔出しときたいしな。

 雨が降る中強行突破で教員棟に行った連中の一部が雨に濡れた制服の下から何故か競泳水着を覗かせる謎現象に遭遇しながら階段を登ると、

「ふはははは!」

(おいおい、教室がある階に着いて最初に聞こえてくる声が新兵のゲス笑いかよ)

 相変わらず一年のこの階は動物園で、わーきゃー叫んでる奴らが居ながらも一番新兵の声が響いてきて、妙な安心感を覚えながら教室に向かう。

 教室の扉にある表記を見て思い出したが、そういえば今は一年じゃなくて二年生か。新兵の声で誘導されたから教室を間違わなかったものの、一年生の間殆ど異世界に行っていたせいで認識がおかしくなっていた。

 そうなると三年生だと思っていた茅穂も二週目が確定した訳で、手続きが長引いていたのはそれの事もあったのかと思いつつ……

「この狭い隙間を通れなかったという事は、お前のスリーサイズのうち一つは80を越していることになる! ははっ、ざまあねえぜ!」

 教室の扉でばかげたことやってる通常運転の新兵は多分小声で語っているんだろうが、俺は新兵の発言に集中していたので聞き取れてしまう。

「おい、何馬鹿なことしてんだよ」

 何も知らない女性が硬い扉を開けれなくて戸惑っていたので、俺が変わって開けてやると……

「ひゃっほー! 教室に入れたと思ったら扇風機の攻撃でスカートが舞い上が――なんだ萩耶(しゅうや)かよ。つまんねえな」

「つまんねえのはおめーだろ」

 自分の席からただ見届けていた禎樹(よしき)は俺が入ってきたことに対してお茶吹いてるしなんなん。最近異世界人が来なくて刺激がないからか、全体的に民度下がってねえか? ここ。

 片やその隣では、

「スパッツ履いてたらパンツ見えないじゃん? 新兵君みたいに頑張って覗いた男子が困るじゃん? でも逆に履いてるから見られても全然平気だよ?」

 とか言ってスカートを堂々と捲り上げる石塚だが、

「スパッツ状態なら覗いてもいい理論が理解できないし、そもそもお前スパッツ履いてねえぞ?」

 楓が俺の登場に気付き、意図的に俺の声を利用して残念な真実を告げてトイレにエスケープさせてる。ホントになんなん?

 機械には詳しいからか、空気の循環が役割のサーキュレーターがスカート捲り機に豹変しているので、それを踏みつけて破壊する。

「……しーんーぺーいーさーん。ちょっとこっちに来てくれますか?」

「あ、うぃっす」

 どうやら顔を赤らめているこの被害者は風紀委員の人だったらしく、素に戻った新兵が連行されてる。ざまあねえぜ。

「よっ、久しぶりだな」

 なんか廊下から「他人のパンツやサイズばかり見て……なんで私の時だけ失敗するの!」とか見当違いなことに対して風紀委員からキレられている辺り、本当にこの学校はこれまで以上に地に落ちつつあるようだ。せめて俺の卒業の代までは持ってくれ。

 アニメ見ながらご飯食べてた禎樹と挨拶を交わし、このクラスで唯一まともな楓の前の席を借りる。

「なあ、この学校、どうなっちまったんだ? 夢か?」

「現実だよ。みんな頭おかしくなっちゃったみたい」

 頭おかしいのは俺だけにしてくれ、と言おうとしたが、こいつらの頭の可笑しさは俺と方向性が違うな。危ない、同類になるところだった。

「あーちゃんも最近過激化してるんだよ」

「嘘だろ……」

 刺激を求める気持ちは分かるが、変態行為に走るんじゃねえ。殴り合いしてろ。

 石塚があれ以上過激化する要素はぱっと想像つかないが……

「この前一緒に寝ることがあったんだけど、あの人寝相悪くて寝ながらボクの胸を触りまくってきたんだよ。危なかった~」

「ぜってー意図的だぞ。クソだなアイツ」

 まだ俺だけに被害が出てるならよかったものの、他にも被害者が出るのはもうお手上げかもな。さっさと捕まって更生した方が手っ取り早いかもしれん。その一緒に寝る機会が訪れた楓も楓だが。

「なあ、最近アイツがエロ本コーナーに出没しているっていう噂が出てんだが、知ってるか?」

 返ってきた新兵がいきなり聞きたくもない情報を共有してきやがった。

「しらねえよ。そういう時期なんだろきっと」

「あっ、噂をすれば胸・平らーさんが来たよー。それに安産型~」

 楓は俺にマシンガントークが仕掛けられないように気を散らす発言をしたんだろうが、なんともとんでもねえ発言だな。

「なら直接聞いてみるか」

 新兵が小声でヤベーこと言ってるが、俺も自己防衛のために聞いておきたくはあるからまだ泳がせておく。

「べべべ別にキュキュボンじゃないもん! 大器晩成型だからちゃんと毎日牛乳飲んでるもん!」

 牛乳に絶大な信頼があるらしい石塚は……あんまり格好には差が出てないなと思ったが、よく見ると制服が新調されてる。キツくなったから一回り大きいサイズを買ったらしい。痩せるという手段はなかったんだろうか。

「座るとケツだけぶりっと出てる。物があたると過剰反応。これでケツデカじゃないってか?」

 新兵がニヤニヤ顔でまずは先制攻撃をしかけている。石塚の性格分かってんなー、知らぬ間に石塚が新兵の玩具にされている。

「そう! 成長期なんだよ! ほら、きゃっ! やや君の視線だってあやの胸元に……!」

「何言ってんだコイツ?」

 まあ確かにさっき上から下まで見たが、胸部だけ凝視したかのように偏向報道するのはどうかと思うぞ。

「成長したのかな? 私」

「おう、成長したと思うぞー」

 全体的に悪化の方向で、だけどな。

「あぁー、暑いよぉ。太ももが汗だらけだよ~」

 確かに今日はジメジメしているが、あからさまに何かをアピールしようとしている。昔は辛うじて太ももの間に隙間があったのに、今は完全に密閉されてる。残念だなぁ。

 スカートの生地を激しく振ったり、胸元の生地を激しく動かすのはいいんだが、見栄を張った下着と残念な体型が露わになること。そんな変態には当然罰が下されるわけで……

「いだす!」

 教室で駆け回る男子生徒が机に衝突し、スライドして石塚の横っ腹にブッ刺さってやがる。しかも謝ったり、机を元に戻さない始末。ホントにここ高校か?

「なあ石塚。お前最近エロ本コーナーに居たという噂があるんだが……」

 とうとう切り出したにやけ顔の新兵を見上げる石塚は、突如冷や汗が溢れ出している。いくら何でも動揺しすぎだろうよ。

「うっ、あっ、あれは、そのっ……えっと……たまたまだよ! たまたま横を通りかかっただけで……」

「あれっ? しゅうっちには嘘吐かないくせに、俺には嘘吐くんだ? 悲しいなー」

 うわひでえ。新兵のやつ、周りが変態化したのをいいことにコイツの変態テクニックが向上している。世界最恐の悪循環が成り立ってやがる。

「…………そうです」

 ですよねーそりゃあ圧に負けますよねー一応一割、いや宝くじレベルの可能性で誤報を期待していたが、そんなわけがなかった。俺と楓は揃ってデカすぎる溜息が出てしまう。

「でっ、でも1時間ぐらいいただけだから! 物色してただけだから!」

「なげえわ!」

 ていうか余計なこと言ったせいで興味津々だったことも露呈してるじゃねえか。こいつ性格といい体型といい、対異世界人関連の仕事に就けんの? 無理だろ。

 その後も記憶に悪影響なじゃれ合いを見せつけられ……悪化した学校から帰宅すると、昨日買いだめた食材を使ってマリアが調理を始めるところだったらしく、まずは米を研いでいた。

日那多(ひなた)って怖いわね。附属中で会ったんだけど、ずーっと兄の話してたわよ」

「やっぱどこもバケモン化が進んでんな……」

 部屋着に着替えつつのルミーナから聞きたくなかった情報を共有されつつ、玄関を開ける。

「おい、何してんだ。お前の家はここじゃないぞ」

 俺のセンサーは敏感なもんで、久しぶりに自宅にいるから内情でも知りたいのか、帰宅早々玄関横で身を潜めている石塚の前に姿を現す。コイツの思う壺かもしれんが、こっちの会話が制限されるのも困る。念話で話してもいいが、兄妹という体なのに会話量が少ないのも異常だしな。

「見つかった⁉」

「見つかった⁉ じゃねーよ」

 風呂に入ってたら俺の帰宅を確認できたからか、濡れた髪の毛にシャツ一枚の石塚は潤んだ瞳で見上げてきて、

「一瞬だけお願い、話聞いて?」

 流石に冷たくし過ぎたのか、演技か本物か分からん涙を流しおった。でも知らん。

「どうせ構ってほしいんだろ? 俺は暇じゃないんでね」

「うっ……ち、違うもん!」

 うっ、って何だよ。肯定しているようなもんじゃねえか。

「なら何目的だ」

 この際俺をストーキングする理由も聞けると一石二鳥なんで、ここぞとばかりに質問しておく。

「それは今から考え――」

「――なら帰れ」

 デカい溜息が出てしまった。目的も無くただ遊びたいだけはよくある動機だ。が、それは友達同士で許される動機。俺とお前は友達同士になった覚えはない。寧ろ俺は犯罪者として見ている。

「むーっ!」

 今日は素直に帰ってくれるようで、石塚は素直に立ち上がったんだが……

「おい、そっちは俺んちだ。お前ん家の入口は下の奥だ」

 ナチュラルに俺んちに入って行くもんで、侵入を妨害することができなかった。左腕を掴んで止めようとするが……昔は腕を掴むと親指と中指が一周してギリあたるほどの細さがあったのに、今は届かなくなっている。それにあまりの肉感があり、想像以上の重量を感じる。その衝撃で行動を阻害するつもりが意識が逸れ、リビングまで侵入させてしまった。はぁ、メアリといい世の中約束事を守れない奴多すぎだろ。

「変わらない……真っ平のまま……」

 睨むルミーナの胸を見て何故か自分の胸を持ち上げるが、ここまで太っていても胸には脂肪が回ってくれないようで、持ちあがるもんが殆ど無い。

「ねえ! ややくんってそんなに私のこと嫌いなの⁉」

 すると……遂に聞いてきたか。今まで聞きたくても勇気がわかなくて聞けなかったであろう疑問を。

「嫌いではない」

 そんな甘ったるい単語で済ませられない。俺は石塚が『無理』だ。

 だがそんなこと直接言うと余計面倒事になると分かっているんで、口に出さなかったんだが……言わなくても面倒ごとになるのは確定している訳で、

「なら好きって事……?」

 急に笑顔満面になりやがる石塚には頭を抱えるしかない。

「アピールタイム終わったか?」

 会話するだけ無駄なので、勝手に気分が良くなった今のうちに帰宅を促しておこう。

 すると石塚は体から湯気を発生させる超常現象を実現しつつ、Uターンして玄関に向ってくれるんだが……

「うおっ」

 おい……信じがたいことに、足を絡ませてゴミ箱に尻から落ちてやがる。あのゴミ箱その辺で買った安物だが、サイズがサイズなので……

「ややくん助けて! ゴミ箱にハマっちゃった!」

 そういえばこいつは今太りつつあった。そのせいでケツがはまって抜けなくなる珍事件が発生してやがる。しかも結構奥まで入り込んだせいで長座体前屈みたいな態勢になっているし、シャツが引っかかってゴミ箱を封するように脱げてやがる。ざまあねえな。

「前に見たいとか言ってた奴、一緒に見に行かないか?」

 さっき茅穂から景品で当たったけど興味が無いので、と言って渡された映画のチケットをベランダに登ってきた楓に向けて話す。

「あー先越されちゃったなー」

 どうやら楓がここにやってきた理由がこの騒がしさを見に来たんじゃなかったらしく……

「同じこと考えていたのか」

「あはは」

 背中に回していた手にはアクション映画のチケットが二枚握られていた。

「なら今日は二本立てだな」

「感情がぐちゃぐちゃになっちゃうよ」

 正直なところ、俺はあんまりこういうのには興味が湧かないから寝てそうだけどな。でも出演者にかえでがいるんなら、何が何でも目かっぴらいて見てやる。

「るみるみとまりまりは来るー?」

 笑いながらゴミ箱にハマる石塚を激写する楓は、ルミーナとマリアの新あだ名を開発しつつ……

「うちお金ないから遠慮しとくわ」

「ボクが出すから問題ないよ!」

「夕飯の支度をするところなので」

「ご飯も奢るよ!」

 俺から無料なら異世界人らしく躊躇なく喜べと言われなくても異世界人らしく行く気になった二人が服を着替え始めるもんで、

「あやは⁉ あやは⁉」

「いやー、その状態じゃ流石に行けないねー。お留守番かな?」

「いやだあー!」

 優しいお姉さん声で話しかけているが、やってることは意地悪なんだよな。

 暴れて横に倒れた石塚箱はバカみたいな衝撃音を鳴らして動かなくなったので、とりあえず石塚ん家の横に置いておくか。


 最近は本当に異世界人が転移してこない。そのせいで都心部でバカしてる生徒――九割方一年か附属中の輩だが――が多く、本土に向う手続きや審査基準も緩くなっている。といってもある程度の書類はある。が、アイドル活動中の楓と、特別扱いの俺と、その連れとなれば、学生証を提示するだけで通過できてしまう。

 実は俺と同じくマイクロチップ埋め込み型じゃなく、スマホアプリで代用している楓は、電車代も払ってくれた。

「そういやこの電車初めて乗ったな」

「夜は結構雰囲気出るよ」

 トイレ付の一両編成で、運転は完全自動。今は無きゆりかもめの車両が流用されてるとか噂もある。利用者数の都合で空調や照明は元から設置されておらず、外から差し込む光と風だけが頼りになる。しかも時刻表の概念が無く、利用者が乗ると発進し、駅に電車が来ていない場合、改札を通ればやって来る仕様だ。金がかからない歩きで渡るし、そもそも人工島の出入り自体が厳しいので、現状の利用者は楓ぐらいしかいないはずだ。この仕様も納得できる。

「ね、あれ魔法陣じゃない?」

「んー?」

 ルミーナの発言に平和ボケ中の楓はこの電車に設置されている無料の双眼鏡に目を通し、俺も指差す方向を眺める。

 久しぶりの快晴だから水面に反射する日光がとても眩しく、ただでさえ見づらい方向だが……

「何も見えないよ?」

「方向的にWB社の人工島やHM社の支部もある。なんかやってんだろ」

 俺も正直この不調の中転移者が現れたとは思い難い。誰しもがこれだけ期間が空くと滅茶苦茶強い人が来るか、どっと人が押し寄せると推理するからな。

「今日は映画を楽しもう!」

「そうだな。見えないぐらい小さな魔法陣なら損害も少ないだろ」

 折角四人揃って映画見る機会ができたんだ。しかもストーカーもいない。この流れで四人の親睦が深まり、いつか行く異世界旅行に向けて色々話を進めたいところだ。

「なによりWアラームが鳴ってな――」

 椅子に座った楓が足をぶらぶらさせながらニコニコ笑顔でそう言いかけた途端――

「――はぁ」

 なりましたよ。Wアラームが。

「きえー、また今度だね」

「誘ってくれたのに申し訳ないわ」

 Wアラームが鳴った際、電車は乗客保護のため本土と人工島、より近い方に高速で移動する仕様らしく、生憎人工島に戻り始めた車内で、俺は映画のチケットを破り割く。これ、よく見たら今日までだった。

「流石に久しぶりの転移者だ。魔法使いの懸念もあるから、俺達も現場に向かう」

 完全私服だった俺達は、各々≪スレンジ≫に収納していた武装を整える。異世界だったらこのままでいいが、この世界ではフレームアーマーと対峙する可能性がある。補正がない私服なんか着ていられない。

「うん、頑張って! ボクらのヒーロー!」

「本当のヒーローに失礼だ」

 カップ麺が完成するよりも早く人工島に到着した電車を降り、楓と俺たち三人は異なる方向を目指して駆けていく。

「転移してくる時に時々同時発生する魔法陣って、どれも形状が同じだわ」

「でも魔法に世界を渡る技はないんだろ?」

「そこが不思議なのよ」

 ルミーナはWアラームが鳴ったのでお構いなしで魔法を使い……三人の飛躍力は人類を超え、人工島一区のビルの上に一回のジャンプで登ることが出来た。人がおらず、まだこの辺りには自動警備ロボットとフレームアーマーが警戒網を展開していないからこそできる大胆行動だ。

「少し強力な魔法使いかもしれないわね……」

 魔法の影響か、快晴だった青空が紫色に染まっていき、薄暗い雲が自然発生している。この色に天候を操作するって事は、雷の可能性が高い。そしてこの辺りは水ばかりだ。合理的な判断ができる程には冷静な奴の可能性がある。

「どういう形だろうがこれが初の実戦だな。前話した作戦通りに進行するぞ」

 前々から考えていた編制は――俺は色んな奴に目を付けられているので、一緒に行動するのはリスクが高すぎる。その上ルミーナやマリアは≪エル・アテシレンド≫を使えないので、前線に出るために必要な戦力が足りない。魔法で補えば同等になる事ができても、ここは地球でWアラーム環境下だし、魔力が薄いからな。異世界らしく豪快に使っていられない。その為に今はルミーナが遠距離から狙えるスナイパーライフルを覚え、マリアが様々な場面で応用が利くアサルトライフルを覚えた。なので、地球での戦闘は基本的に二手に分かれて行動する。俺が前線で異世界人やフレームアーマーの相手をし、ルミーナが遠距離から密かにアシスト。ルミーナと共に行動するマリアが寄ってきた相手の対応や、撤退時のアシストを行う。今はお互いの居場所がわかるので異世界人二人を狙撃ポイントに待機させることができるし、もし二人の状況が悪化したらWアラーム度返しで自宅にワープすることもできる。

 俺はEoDに、ルミーナとマリアは狙撃ポイントを探す為、俺は跳躍力の恩恵を魔法から自身の≪エル・アテシレンド≫の力に切り替え……

「もう向こうにはいないわ」

 他のビルに飛び移った直後、上空から聞きなれた音と共に声がしてきた――結奈(ゆうな)だ。

「流石俺の監視役なだけあって異世界人より会うのが早いな」

「何よ今更。最近アンタが全然姿を晦まさないからじゃない」

 晦ましてほしいみたいな言い方には引っかかるところがあるが、確かに最近は隠密行動することが少なくなった。それも俺が私利私欲で≪エル・ダブル・ユニバース≫を使うようになり、クールタイム中に転移者が来る出来事が多くなったからで、今回はそもそも転移者の居場所が大体の方角しか分からないから、敢えて見つかるような大胆な行動をしているだけだ。その気になれば情報を聞き出してから姿を晦ますことだってできる。……とは口が裂けても言えないんで、

「久しぶりの転移現象なのに全然騒がしくないな」

 普通転移者が現れたら陸海空どこからともなくフレームアーマーが湧いてきて、至る所から爆発や魔法陣がお出まししているはずだ。しかも最近の転移現象はあり得ない程に減少しており、歩合制とも噂されるフレームアーマー共はここぞとばかりに殺しにかかると思ったが、空を見上げても飛んでいるのは結奈が率いる第五分隊の連中だけだ。

「転移者が逃げたのよ」

 ……そう来たか。第五分隊の時点で察してはいたが、今回の転移者は稀に見る頭がいいタイプの奴か。雷を出しそうな雲を展開していた辺りからいつもと違う面倒くささを感じていたが、的中してしまった。念話でルミーナとマリアに激化しそうにないから疑われないように帰宅してもいい、と伝えておこう。

「今回の転移は魔法陣が発生してたんだろ? ぱっと見だが、海上っぽかったが」

 EoDには日本初の転移現象が発生した場所に記念碑的な石碑が造られている。潮風公園の噴水広場をパクったような見た目のそこは、ある種のパワースポットとなっていて、EoDの中でも高確率でそこ付近で転移現象が起きるわけだが、今回は例に漏れている。

「遊びに行くところだったみたいだし知らないだろうけど、魔法技術で雲の滑り台みたいなのを作って上陸してから、EoDの仮想ビルを貫通するように突き進んで行ったから、今の居場所がわからないのよ」

 いつから監視してたんだ? 気持ち悪。……まあ、実際は島民専用の――俺の場合アプリだが――位置情報が本土に向っていたり、橋を管理する人工島管理公社に外出記録が残っていたからなんだろうが。

「容姿は?」

「あたしぐらいのふつーの女性よ」

 転移者が使用した魔法の影響かは分からないが、突然降り出した雨を無視して地上の方を眺めていると……

「……あんなのか?」

 ちらほらフレームアーマーが捜索している様子が見える中、EoD内にそれっぽい女性が居たので指差すと、

「あれよ!」

「は?」

 いきなり隣で大声を出すなよ。ていうか……あれが転移者なのかよ。運が良いのか悪いのか。

「でかしたわ! 行くわよ!」

「お、おう……」

 標的が見つかったと分かったからか、結奈含む数名がいきなり武装をフル展開して、あり得ん高速度でロケットスタートしやがった。

「おい、目の前に金が転がってるからって突貫するなよ、バカの所業すぎる」

 どうせ喋ったって聞こえないのをいいことに、呆れる俺は転移者に急接近するフレームアーマーを見届ける。

 残り二メートルあたりまで接近した頃に転移者は敵意にようやく気付き、慌てる素振りが見えるが……俺のスーパースローの世界で転移者が慌てる素振りを見せているってことは、ヤツはそれなりに動くことができるわけで……

 通常の転移者ならパニくって自分に危害が加わりそうになった瞬間に全力全開で魔法を放つ。そのためその一発で魔力は尽き、大気中に魔力が全然溢れていない地球ではそれ以降過激な魔法を使用されることが少ない。だが、奴の場合はここが何らかの要因で魔力が薄い事も感じ取れていて、逃走に特化した低燃費の魔法を連発・相乗させていると、当然奴の行動速度がフレームアーマー同等となっていても可笑しくはない。だが、それを実現してしまうとそれ以降や、それ以外の魔法使用はほぼ不可能と言っていいはずだ。でも今自分を襲う危機を逃れられるならそれでも十分な訳で――

「おい……さっきの自分の発言忘れたのかよ……」

 転移者は壁を貫通して姿を消したが、残り二メートル未満の距離でマッハのスピードが急停止することなんかできるはずもなく……フレームアーマー数名はビルと完全衝突し、失速するまで突き進んだ影響でビルが倒壊してきた。

「忘れてないわよ。どうせこれは仮想なんだから、こうでもして相手を疲弊させてるの」

 建っている状態では当たり判定があり、崩れる時は周辺の環境にもしっかりと作用していくのに、崩れ落ちる瓦礫には押しつぶされないし、痛みも感じない。それはいいんだが、フレームアーマーの機体差か単純な技量の差かは知らんが、先頭に居た結奈が衝突せずに立っているこの状況はなんか可哀そうに思えてくるな。勿論結奈じゃなく、衝突した隊員たちが。

 するとさっきまでパラパラと振っていた雨が止んだ。梅雨なのでゲリラ豪雨もありえるが……雲を操る転移者を直視していた時だけ雨が降るなんて、そんな摩訶不思議がおきるわけがない。

「アイツの周りは常に小雨が降っている可能性があるな。情報共有しといたらどうだ?」

「そうね。今目撃情報があった所からも、雨が降っている情報が来たわ」

 また目撃情報があったってことは、また逃走もしたはずだ。そうなるとさっきの回避が全力だと思っていたが、そうでもないのかもしれない。妙に知識を習得すると思考の幅が増える訳で……魔力を感じ取れない以上、魔力が尽きたタイミングが見分け付かないのは不便だな。思考の邪魔過ぎる。

「今回は手分けした方がいいと思うぞ」

「最近のアンタは怪しい行動してないし……そうするわ」

 いくら監視役とはいえ、転移者を逃す方が大事態だと理解しているようで……結奈は自分たち第五分隊の担当――住宅街五区に向って飛んでいった。

 さてと、最近クールタイムと被ってばっかりでサボっていた甲斐あって離れてくれたが、ここからどうしようか。今は≪エル・ダブル・ユニバース≫を使用できる条件が整っているが、如何せんフレームアーマーの量がおかしい。いざEoDを歩き回ってみると、各通路に最低一人は居やがる。俺に無詠唱が分かる技術や、楓みたいに雨の匂いを嗅ぎ分けれたら話は変わったんだがな。

(性格を読むしかないのか……?)

 不得意な分野なので≪エル・ズァギラス≫を頼ることになるが――見つかりたくない転移者は、大通りを避けるだろう。それを読んで敢えて大通りで行動する可能性もあるが、俺が発見したように周辺から見つかりやすいのでほぼゼロと言ってもいいだろう。今のところ透明になる魔法は確認されてなく、周辺には魔法の副作用らしき雨があり、移動手段は雲の上か物体の貫通魔法。透視ができたらアトラが使っていたWB社製の通路や、シェルターに繋がる通路を発見して利用しているはずなので、まだ目撃情報が相次いでる以上使えないと判断してもいいだろう。そしてさっきの接敵の件もあって、一時的に高速移動が可能だとしても、雲を使って大胆に海上を逃げ回るとは思えない。本土まではキロ単位で離れているからな。

 となると導き出した結論は、貫通魔法で姿を晦ましやすい入り組んだ通路で、最終的には本土に繋がる橋を目指して行動している、だ。

「チッ……」

≪エル・ズァギラス≫の反動でキレやすいパターンになったせいで、EoDの入り組んだ場所を探しても転移者が見つからない現状に毎分舌打ちが出る。

(次の角を曲がって見つからなかったら一度ルミーナ達と合流するか……)

 使用時間は長くなかったはずだが、かなり濃い内容を推理したからか、今は転移者を助けるどころか八つ当たりで殺してしまいそうだ。そんな状態で遭遇しても元も子もないので、最後の曲がり角を曲がると……

「はぁ……」

 何でだよ。今日はとことんついてないな。何で居んだよ、コイツが。

「こんなとこで何してんだ」

 六階の高さで腕組んだまま滞空する拓海に話しかけてやる。素通りするのも可笑しいからな。

「お前には関係ない」

「俺の妨害か? WB社らしく転移者を倒してこいよ」

「お前には関係ない」

 何だコイツ。ムカついてきたから一発殴っていいか?

 ここで仕掛けるのは愚行だが、この際頑張れって視線を一瞬だけ向けてきた拓海に対してボロクソ言うだけ言って帰るとするか。今のこいつは上には上のやることがある的な感じで行動しそうにないからな。こういう時に言いたい放題言っとかないと、技の反動で余計キレやすくなってる短気な俺は手が飛び出しかねん。

「お前が頑張ってって視線送んじゃねーよ、おめーも頑張るんだよ! それでもWB社員かよ! 人間より優れた戦闘能力持ってんだろ? なら戦えよ! それ着たおめーらが頑張れよ! 大概にしろ! そんな奴はWB社に入んな! クソが!」

 至って冷静を装っていたんだろうが……あーあ、拓海さん煽り耐性ないですね。肩震えてますよ?

 〔最高の一日だ……〕

 〔心の声漏れてるわよ〕

 いくら煽られてムカついても今日は言い返せない理由があるらしく、何もして来ないので……清々しい気分で次の交差点を曲がる。なんかルミーナっぽい声が聞こえたが、どうでもいいな。

 ……って、何で倒れてんだよ、しかもフレームアーマーが。キレが収まりつつあったのに、この意味わからん状況に遭遇したせいでまたムカついてきたぞ。

「何があった。今すぐ言え!」

 キレた口調でフレームアーマーに話しかけるが、返事がない。ただ至る箇所にあるスレ傷から鮮血が流れ出るだけだ。

(拓海の奴、生体反応が鈍くなったコイツでも探してたんか……?)

 頭の片隅で邪推しながら、倒れている女性を凝視する。

 身長151センチで、WB社の人間らしからぬ筋肉の無さで、殆ど膨らみの無い胸元を囲うようにプロテクターがあるだけで、フレームアーマーらしい格好ではない。だがプロテクターの一部に『WBFU:ZL-025mk』と機体番号が書かれているあたり、フレームアーマーであることは間違いない。でもなぜか私服が確かバニーガールの奴を着ていやがる。よくよく見れば髪型も変だ。極小のサイドテールがあるショートヘアなのはいいんだが、髪の毛が毛先にかけて青色から紫色に変化していってる。それも、カツラじゃないのに、人工物のような光沢感がある。

 気絶している可能性が高いので、一発太ももを蹴ってみたが……

「おい」

 それでも反応がない。こうなったら、態々しゃがみ込んでまでして、ほっぺをビシビシ叩いてやる。すると――

「て、転移者……」

「だろうな」

 死んだ目のまま助けが来たことに口元だけ希望を見せてきたが、基本的にチームで行動し、それぞれにオペレーターがついているはずのフレームアーマーが単独でここにいるってことは、見捨てられてる哀れな奴か、指示が待てなくて勝手に行動してる愚かな奴だな。

「どうしてこうなった。事の経緯を教えろ」

「…………」

 おい……朴念仁だなー、指示待ち人間だった昔のマリアより酷いぞ。

 俺がキレてるから話さないだけかもしれない。そうなるといつまで経っても話さないだろうな。流石に待ってられん。

「おっと……」

 立ち上がってこいつの武器らしき剣を拝借して返り血を見ていると……アホらしい現実を目の当たりにしてしまう。やけに全身に受けた傷口が限定的なのと、返り血の具合を見るに、これは剣の扱いが下手すぎて自傷してしまってないか……? いや、そんなバカげた話がある訳ないと思いたいが、残念なことに服の裂け目や、スレ傷の位置が全て自分に向けて剣を振るった位置にある。素人ならこうなっても信じ難いがまだわかる。だがフレームアーマーの人間がこうなっていやがる。意味が分からない。

 こんなFランク以下の奴と会話しても微塵も有意義じゃないので、適当に剣を捨ててその場を立ち去ろうとするが――

(次は何だよ)

 剣が着地するのと同時に苦痛の声を漏らすフレームアーマーに気を取られていたら、俺と倒れたフレームアーマーを見つけた一隊がこちらに向かって次々と着陸し始めていた。

「そこの君。確か新谷って人だよね。転移者ハンターって聞いたけど……へぇ、そんなこともしてるんだね」

 リーダーらしき女性が俺に向って嫌味を吐いてくるが……おっと、そうなったか。冤罪もいいとこだ。

 でも少し前から監視していたとしたら、コイツに対して蹴ったり叩いたりして、謎行為ではあるが拾い上げた剣も投げ捨てたわけで、そう見られても可笑しくはない。

「私達に勝てるはずないのに、弱いCランクを倒してどこかで誇ってるんでしょ? バッカじゃないの?」

 今はブチギレやすい状態なのでその発言に対してキレても可笑しくなかったが、この倒れたフレームアーマーがCランクだった事実に驚きすぎてキレる気が失せた。

「これは犯罪よ。相応の罰が必要になるわ」

「そうね。代わりに私達がボコボコにしてやるわ!」

「おいおいおい!」

 いくら何でも話が速すぎるだろッ!

 勉学で全国トップランカーを誇っているだけでなく、武力でもWB社で上位に君臨する拓海レベルになるとフレームアーマーの出力を効率よく管理して立ち回っているが、こいつらはとりあえず全速力を出せば勝てると思っている無能野郎の集団。俺を処す判断を下す速さと、最高速を出す速さが類を見ない。悪い意味で。

 無能とはいえいきなり五メートル先から全速力で攻撃をしかけられたらこっちも≪エル・アテシレンド≫を最大まで出さないと捌ききれない。しかも状況は一対多。≪エル・ズァギラス≫の併用も求められる。無能でありながらも無意識のうちに短期決戦なら最善で最強の手を選びやがって!

 流石は戦闘集団なだけあって、五人の連携には欠点を見つけ出す方が困難だ。でも俺が使っている技は神の技。人工の技術が、神の技を継承した最強の一族に勝る訳がない。

 とりあえず最初の攻撃と思わしき攻撃を全て交わし、回避し続けても決着がつきそうにないので、

「そっちがその気なら俺もやるからな」

 攻撃する意思を発言してやったんだが……何故だ。何故か、視界が勝手に下がって行くぞ……?

「何してんの?」

 闘気を出した人間がいきなり倒れたとあって、フレームアーマーの野郎も混乱している。俺だって混乱している。だって体中どこも傷んでいないし、誰かに触れられたわけでもなく、いきなり地に縫い付けられているからな。しかもさっきまで遠いビルの上から様子見をしている二人の気配を感じていたが、今はそれと念話さえも阻害されている意味不明さだ。

「――危ないッ!」

 するとフレームアーマーの一人が声を荒げ、俺を中心にそれぞれが散開すると――

(何が起きてんだ……ッ)

 声さえも封じられている俺の頭上では、紫色の気体が異音と共に弾け散っていた。

 理解しがたい展開に俺を無視することにしたらしいフレームアーマーどもは、周囲を索敵しているが……見るべきは、そんなところじゃないだろ。倒れていたはずのフレームアーマーが、いきなり壁に向って頭突きし始めている。もう訳が分からない。

「何が起きてるのよ!」

 そんな姿に気を奪われていると、次は周辺のビルが一斉に倒壊し始めた。俺だってその台詞言いたい。

「あそこよ!」

 先程からの判断能力的にもリーダーと断定してもよさそうな人が指差した先には、今回転移してきた転移者が立っていた。

「このビルは仮想よ! 大人しく投降しなさい!」

 彼女が言う通り、EoDのビルは全て仮想。これらを利用して狭い範囲に固まっていた俺達を一掃しようと思ったんだろうが、生憎その作戦は失敗だ。

 この大チャンスを逃したので、もうしびれを切らしたのか、転移者は魔法陣から剣を顕現化させつつこっちに向って歩みつつある。やけに魔法が使えて頭が良いなとは思っていたが、それの究極系ともいえる魔法剣士だとは思いもしなかったな。

 有難いことに原因不明の束縛に悩まされる俺は、便乗する形で死んだふりでこの場を凌ぐことにして……≪エル・アテシレンド≫や≪エル・ズァギラス≫の併用で、傍からみると完全に死んでいるのに意識はある意味不明な状態を可能にする。

 周辺のビルを一斉に倒壊させた後に実態を現し、剣を顕現化したという事は、もう殆ど魔力を使い果たしたからで、転移者の周囲に居るのに今は雨が降っていない。

「きえええぇ!」

 ここまでされると転移者がどのような行動に出るか分からない。そのため迂闊に攻められないフレームアーマーが陣形を整えていると、目の色を変えた負傷していたはずのフレームアーマーが叫び声を上げ、その身に被った惨状が嘘のように欠点が見つからない剣の構えで突撃しだした。

 構える剣がやけに光り輝いている所を見るに、ようやくわかった……あれは対異世界人精神武装化兵器――フレームユニットだ。それでやけに軽装だし、剣の扱いが下手くそだったのか。あれは意識がリンクしてるから、初心者なら制御できなくてもおかしくない。

 フレームユニットは、フレームアーマーの次に強力で、使用人口が少ない兵器だ。使用者の命を武器に宿すので、もし武器が壊れれば使用者も死ぬ。非常に強力とはいえ、扱いが難しく使用者がほぼいない代物だ。

 武装量から分かるように、何でもドーピングされるフレームアーマーと違ってフレームアーマーの恩恵を行動速度ぐらいしか受けないので、例えばこの人みたいに剣の場合は、剣術の技量が戦力に直結するが……まだ自分の命でもある剣の扱いを恐れる傾向がある上に、自我を失ったといっても過言じゃない状態での戦闘は、無謀に近い。

 言葉で言い表せないような、機械音にも近しい叫び声を上げながらフレームユニットの人は剣を振るう。その衝撃波は自身の生命活動を託しているだけあって、周辺一帯も切り刻む勢いでEoDを荒らしていく。正直WB社の人間じゃない俺から見れば、適当に振るだけでも勝てるんじゃねえのかと思うレベルだ。

「ちょっと柳瀬(やなせ)麗華(らいか)! 普段大人しいくせに、こういう時だけ大胆に行動しないでよ!」

「しょうがないよ。どうせまた機械の力を頼ってるだけ」

 フルネームで呼ばれた可哀そうな柳瀬の攻撃は、俺含む周辺のフレームアーマーへの被弾をお構いなしで攻撃するので、フレームアーマーはそれぞれシールドを展開している。俺は擬死状態だから、攻撃が当たっても痛くないね。

 機械に頼ってるのはフレームアーマーの方で、柳瀬は自分の命を捧げてまで転移者と対峙しているわけだが……超次元の行動速度で一般人を卓越する攻撃を仕掛ける柳瀬でも、常日頃から戦闘を行っていて、更に魔法で能力を上昇させている転移者には少し劣るらしい。

「……ッ」

 口からも血を垂らしだした柳瀬は、コアだと察されたプロテクターが大破して途中から玄人レベルの行動速度に落ちた。しかしそれと同時に転移者の魔力も底を尽きたようで、今は二人とも外的要因での強化なしの自力勝負。そうなると基礎能力が高い転移者に軍配が上がるので、柳瀬は全身に傷が更に増え、剣にも複数の損傷が見受けられる。あくまで俺の予想だが、あの損傷具合なら……全身骨折に近い状態だと思うが、それでも立っていられる柳瀬は只者じゃなさそうだ。

 正直俺が拘束されてて第三陣営――いや、第四陣営として戦闘に参入できなかったのは運が良かったかもしれないな。この感じだと環境への損害や負傷者がどれだけ出てたか想像つかん。

「カッ……」

 俺も殆ど知らない話だが、WB社が所有するusp‐iカプセルって奴が実際一番ヤバイらしく、それがあるからこそここまで吹っ切れて戦ってられるんだろうが……その状態だと素人相手にも勝てない。

 転移者から無慈悲にも心臓に剣をブッ刺され、脱力した柳瀬を必要以上に切りつけ始める。異世界人は日頃から何かを殺す行為を行っているから、こういうことに対して躊躇いが無いんだよな。戦闘民族としては同情の概念が無くてうってつけと言える。

 フレームアーマーの装甲は一種の呪いなのか、大破した状態でも体から取れず、攻撃を受ける度に機械的な損傷音を響かせる中、

「一時撤退――ッ!」

 フレームアーマーの一人が、今まであり得なかった判断を下しやがった。あの不服そうな表情や、柳瀬を回収してそそくさと立ち去る姿を見ると、オペレーターの指示がなければ攻撃を仕掛ける気満々だったようだが。

 事実俺は何らかの要因で身柄を拘束され、転移者は遂に姿を現して行動パターンを変えた。負傷者も出た今、合理的な判断と言える。俺だったら転移者の魔力が尽きたなと判断ついて今が攻め時だと分かるが、まだ魔法概念について一割程度しか知れていない人たちからすればこれが妥当だ。だがWB社が転移者に対して悠長な空白の時間を作るとは思えない。柳瀬が生命危機に陥ったからこのチームが引いただけで、すぐさま他の連中がやってくるはずだ。そもそも柳瀬が暴走しなかったら確実に勝てる相手だからな。

 〔――今よ!〕

 するといきなり拘束が解け、ルミーナからの念話が伝わってきた。

 〔そういうことかよ……ッ!〕

 ルミーナとマリアの気配がずっとビルの上のままだと拘束される直前まで感じていたが、あの距離からこっちの様子を窺って仕掛けていたとはな。

「異世界だと相当な身分であるはずだ。殺すのは惜しい。お前に判断の権利はねえ、じゃあな」

 一分もしないうちにフレームアーマー――特に俺絡みとなると結奈のチームがやってくることは目に見えている。速攻で≪エル・ダブル・ユニバース≫を展開し、≪エル・アテシレンド≫の力で転移者の背後に回り、裂け目に押し飛ばした。一応エルフの言語で喋ってはいたが、別に聞かれて無くてもいい。

 〔上手いこといったわね〕

 〔なんとかな〕

 いい作戦かは置いておき、この状況からでも転移者を返還できるとは思わなかったな。

 〔お嬢様の拘束魔法≪アリスベリン≫と、わたしの遮断魔法≪マーカッツベルス≫の併用です〕

 〔Wアラームに引っかからないように簡易的なものにしてたから、萩耶が魔法使えたら意味なかったけれど〕

 縮む裂け目を見ながら二人の魔法解説を聞いていると――

「チッ」

 転移者の名残で小雨が降り、そよ風に煽られつつ青から橙や紫がかる夕焼け空の中、一つの黒点が徐々に大きくなりながら爆速で俺目掛けて飛来してくる。

 Wアラーム中、EoD内、これ以上に危険な状況下は存在しない。いつも以上に気を張っていたが、≪エル・アテシレンド≫を咄嗟に7出したのに数メートル後方に押された。

「おい、興奮しすぎて全員敵とでも見做してんのか?」

 フレームアーマーの最高速を越して突進してきた柳瀬は、そのまま続けて剣戟をしかけてくる。負傷具合がさっきと変わってないのに戦闘力が明らか高くなっているあたり、まだ実力を隠していたのか、第三形態にでもなったんだろう。

 〔撃たなくていい。穏便にやるから、消えた転移者の捜索が始まる前に帰宅しておけ〕

 ルミーナから狙撃する意識が伝わってきたので、念話で二人の行動を指示する。この複雑な状況に加えて狙撃者が現れるのは厄介すぎる。

「WB社に入ったら自分の命を枯らしてでも国を救うべきだが、それ以前に善悪の判断もつかないようじゃ、お前が必要とされる場所はないんじゃないか? 今この場で息の根絶やしてやってもいいんだぞ」

 柳瀬はずっと人の話を聞いていないので話しかけたところで無駄だろう。でもこうでもして煽らないと――

「――何してんのよ!」

 駆け付けているはずの結奈が全速力で急いでくれないからな。

 別に端から殺す気なんてなく、早く結奈を引き付けてコイツをさっさと回復してやりたかっただけで、読みが正しくなかったら柳瀬の腕を切り落とすところだった剣を納刀する。

「転移者はどこに行ったのよ」

「俺が片付けた」

 柳瀬の対応は部下に任せ、話が通じてこの状況に一番詳しい俺に質問を投げてくるが、嘘偽りなく返答する。

「嘘吐かなくていいわよ。いつでも引かないアンタがずっと気絶してたのぐらい知ってるわ」

 流石にそうか。フレームアーマーを通じて情報は伝達していただろう。となると俺が対処したと言ったところで気絶していたのと辻褄が合わない。

「でもなんで今日は死んだふりなの? ぶざっ……かっこ悪いわよ!」

 おい今コイツ無様って言いかけんかったか? どっちにしろマイナスイメージを払拭できてないが。

「あれは俺の分身、残像といったところだな。本体は転移者と対峙していた。はぁ、まだまだだな、WB社は」

「はあ?」

「……あの一対多、四陣営の戦況で交戦する程バカじゃねえからな」

 気絶すると思われないし、分身や残像能力までは持ってないと決めつけられているのは正直悲しくもあるが、実際はルミーナとマリアの判断で動けなくなったんだよな。でもそんなことは言えない。

「あのー……柳瀬だったか? あいつは一体何もんなんだ?」

 折角結奈と会ったんだし、今後の為に奴の情報を仕入れておく。拓海程位は高くないが、信頼度があるから知ってる限りは教えてくれるだろう。

「あー……あの子はね、死にかけてた時にHM社に誘拐されて、人体改造されたのよ。フレームアーマー状態のまま改造されちゃったから、感情どころか機械の体にフレームアーマーも同居しちゃってるけど」

「ちょ、ちょっと待て。色々意味が分からん」

 HM社、前々からヤバいなとは思っていたが、そんなこともやってたのかよ。ていうか人体改造って何だよ。通常時がフレームアーマー状態みたいな人間ってことなんだろうが、それ法律的に大丈夫なのかよ。いや、法律以外にも色々問題がありそうだが……

「あたしも良く分からないわよ。彼女そもそもフレームユニットだし、第一二分隊と第一一連隊の隊員だから接点ないし」

「そういう奴っていう認識でまかり通ってる感じか」

「そうね。血が暴走化のトリガーっぽいから、そこだけ気を付けるようにはしてるわ」

 思い返してみれば、連隊員が機械だからーと愚痴ってはいたが、致命傷を与えたと推理した俺を懲らしめようとした辺り、他の人と同じ扱いをしているような気がする。HM社に改造されたのになんやかんや今WB社にいる辺り、WB社にとって必要な存在であることには変わりなくて、ただああいう狂った時の対処に苦悩しているって感じだろうか。知ってしまったが故に今後の面倒事が増えてしまったな。

「それじゃあたしは逃げた転移者の捜索に行くわ」

「頑張れよ」

 一生見つからんと思うけどな。

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