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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
20/32

20 一生絶対服従


「はあっ⁉」

 メアリが前回の方法を止めにし、今回新たに提示した罰の内容は――負けた方が勝った方に一生絶対服従。それはつまり、自分にも罰が与えられる可能性がある。それなのにこの方法を提示したってことは、相当勝てる自信がある前提だろう。同時に俺たちがまた逃げないように、次は俺たちにも利点があるような内容にしたのかもしれない。

 俺たちが内に秘めている真の実力を知らないメアリからすれば、逃走しなかった俺たちに圧勝し、永遠にして最強の罰を与えられることが出来ると予想するだろうが、ちっとは自分が負けた時の事を考えて、自分は例外でアルマが対象になるみたいなことを付け足しとけばよかったのに。

 これから単なるバカだったと思い知らせてやるが、

 〔勝ちたくもないし負けたくもねえよ!〕

 口に出しては言えない本音を念話で発する。だってこれ、勝たない訳にはいかない戦闘にはなるが、勝ってしまえばメアリが俺たちに一生服従することになるんだろ? いやだよ。いらん。吐き気がしてきた。

 〔仕える者として服従って言ったのか、奴隷の身分として服従と言ったのかわからないけど、一生離れてっていう命令ぐらい通じるんじゃない?〕

 〔なるほど? そういう手があったか〕

 よくよく考えてみると、メアリが負ければ――あまりいい例えとは言えないが、昔のマリアのような立場になるということだろう。なら主の指示に従順だ。

 頭が良いルミーナのお陰で勝ってメアリが一生服従してきても対処する手段があると分かったので、

「どうやって勝敗を決めるんだよ。今からよーいドンで開戦か?」

 どうせ戦闘以外の手段を取るとは思えないが、隙を見せるためにわざと手段を問う。するとまんまと引っかかったメアリは、

「戦闘に決まっていますわ!」

 もう勝負は始まっていたと言わんばかりの先制攻撃をしかけてこようと、鞭を振るってくる。そしてそれと同時にアルマが盾を、ブランはスコップのような武器を抜刀して肉薄してくる。

 当然三人が企んでいたことなんてお見通しの俺たちは余裕綽々。先制攻撃してきたことに驚いて攻撃態勢を整えるまで数瞬遅れた素振りを演技でしたところで、まだまだ関係ない事をする余裕がある。

 俺は地球だとあまり活躍しない剣を構え、ルミーナも魔法で城を崩壊させないために剣を構え、マリアは空気を読んで剣を構え、全員剣で対抗することにした俺たちは、

「あまり戦闘する素振りがないからって、甘く見るんじゃねえぞ」

 アルマは腰に短剣を納刀しているが、盾を構えるその姿は、カウンターに連携させるものじゃなく、完全に防御に徹したものだ。ブランは見捨てられ、単騎って印象があるので、アルマが相手の攻撃を弾いたり押し返し、生じた隙にメアリが鞭でダメージを与えるという連携を取ってくるだろう。

 その読みは正しかったようで……ブランはルミーナを狙い、俺とマリアの攻撃を防ごうとアルマが立ちはだかってきた。

 これ以前に大体予想できていたが、相手の初動を見て確信した。メアリ一行はさほど強くない。それはフレームアーマーの戦力基準で、地球に訪れる転移者の戦力と比較すれば、明らかに卓越してはいる。だから罰なんか関係なしに殺ろうと思えば一瞬で片付けることが可能だが、こいつらは一国の王族なので、殺害する訳にはいかない。それは俺たちが王族殺害容疑で他国でも指名手配になる可能性があるからとかじゃなく、こんな法律だらけで、代々続く王族が落命し、デリザリン王国が王族の束縛から解き放たれると、各地の貴族や平民が頭角を現し、各々がこの国の王になろうと群雄割拠の状況に陥るからだ。そんな状況になるとそれこそ商業や冒険職に多大な影響を齎すことになるので、ミミアント商会に悪影響を及ぼすわけには行かない俺たちにはそうすることができない。

 なら瀕死状態まで追い詰めるしかない訳で、もう俺たちがカエラと仲良しだと割れていると思うので、カエラには俺たちがついているぞと圧倒的な戦力差を見せつけることで、二国間の情勢を緩和させよう。今思ったが、メアリが俺たちに服従して追い払う前に、その辺りを制限させるような命令をしておくのもいいかもしれないな。後に服従をないものとして接するんで、しっかり守ってくれるとは思えんが。

 序にもし二国間の情勢が悪化した時に備えて、これからわざと手加減して時間を稼ぎ、デリザリン王国王族の戦闘技術を盗ませてもらう。それをカエラ達に共有しておけば、いざという時に活用できるだろう。メアリがスパルタ訓練でもさせているからか、ゆとりで鍛錬をサボっていたパブルス帝国よりデリザリン王国の戦闘員の方が強いしな。そして数も多いし。

「そんなので防げると思ってんのか?」

 アルマがガードし、メアリが攻撃をしかけるという戦闘パターン一は把握できているので、予想されるガードが間に合わず、アルマが短剣を使い、メアリが戦扇を使う戦闘パターン二を見るために、俺は盾を壊すことなく剣の威力で多少後ろに吹っ飛ばし、隙を狙って鞭を振るってきたメアリの攻撃を避けたマリアは、回避直後にメアリの目の前まで移動し、茎の部分で鞭を持つ右手を叩き付け、メアリの手から鞭を離させた。

「防御なんかしてる暇があるのか?」

 攻撃だけじゃなく、言葉でも挑発すると、

「手加減でしてよ?」

 やっぱりメアリは一方的に攻めるのが好きで、攻められるのは鬱憤が蓄積するようで、イラッとした表情で戦扇を構え直し、短剣を構えたアルマとほぼ同時に攻撃をしかけてきた。アルマは俺に、メアリはマリアに攻撃をしかけているように見えるが、あれはフェイント。実は攻撃対象は逆だ。

 迫ってきた二人は途中でクロスするように入れ替わり、アルマは相手に攻撃や防御の隙を与えないぐらいフェイントを交えた連撃を、メアリはタッチダウンライズのようなアクロバットをしつつ戦扇で回転攻撃をしかけてくる。

 アルマの剣術と、メアリのアクロバティックさは想像していた以上だが、

「まだまだだな」

「これが全力ではなくってよ」

 口ではそういうものの、体が追い付いていない。そこら辺の兵士なら圧勝できる戦力ではあるが、相手が悪かったなとしか言えない。ブランもスコップのような武器を詠唱か何かで変形させて弓型にしているが、状況は一変していない。

「王国の剣術を一瞬で見切った⁉」

「攻撃速度とか連撃方法を変えたところで状況は一緒よ」

 苦戦しているのはメアリとアルマだけじゃなく、当然ブランもだ。

 あまりに自分たちの攻撃が当たらず、明らかに手加減されていることがわかる防御一辺倒の俺たちに怒りが蓄積するが、発散できず、疲労が蓄積するペースの方が早い。そんな三人が揃って背中を合わせ、各々武器を構えたまま息を整えようとしている。

 汗で服がタイツみたいに張り付いていて、服の限界を超す角度や内部膨張があったからか、攻撃を数回しかもらっていないはずのメアリの服はボロボロに、全身タイツのアルマは余裕が無いくせに手加減をしないマリアの攻撃をわざと被っていたので至る所から出血し、ほぼ全裸状態といっても過言じゃないブランは全身が汗や血で濡れて見える。とりあえずアルマはバカだろ。

「一つだけ教えておこう。アクロバットに攻撃を交えたいなら、こうするのが得策だ」

「その剣術は攻撃直後に隙が一瞬だけ生じるわ。こうする方がいいわよ」

 マリアは何も言わなかったが、俺たちは各々が対峙した相手の攻撃方法の上位互換を見せつけ、振る舞い、寸止めを繰り返す。こうすることでより対抗心を燃やして今後強くなる可能性はあるが、この戦いの条件は負けた方が一生絶対服従。そうはならない。

 俺は体操選手顔負けのアクロバット、ルミーナとマリアはデリザリン王国で代々受け継がれてきたのであろう剣術の上位互換で攻撃をしかけ――

「俺たちはお前らが今後一生服従するにあたって、手始めに攻撃の改善点を教えてやった。感謝しろよ?」

 元からないが、ここからメアリ達が逆転する展開はありえないので、台詞と共にアクロバティックな回転攻撃でメアリのまつ毛を三本精密に切ってやった。ルミーナはブランの前髪をぱっつんにしてやり、マリアは全身タイツの上からアルマの全身を束縛している縄を精密に切断した。

 防御する暇もなく高速に殺ろうと思えば殺れることを思い知らされたメアリ、アルマ、ブランは息を呑む反応すらする暇も無く……

「これでもまだ続けるか? 自分の命ぐらい大切にした方が良いぞ」

 自分が勝利するとばっかり思っていて、敗北するとは思っていなかったメアリは敗北した現実を受け止めることが出来ていないようだ。未だに諦めて武器を収めることができていない。

 そんな三人にこれ以上攻撃を与える必要はないので、俺たちは三人の反応を待っていると……

「……す、好きなようにしなさいよ」

 自分たちでは戦力が足元にも及ばないと自覚したか、持ち合わせの武器を手放し負けを認め、殺意の薄れたメアリは自分が提示した条件通りの反応を渋々見せてくる。

 するとメアリが降伏したとあってか、アルマとブランからも闘気が薄れ、自分らを従えていたメアリを従えた俺たちに従うような態度を取ってくる。一番可哀そうなのはこいつらかもな。常日頃から痛めつけられるし、今はメアリの失言のせいで知らない人に服従する羽目になってるし。

「今までの性格が嘘のようだな」

「こっちの方が似合うんじゃない?」

 どうせこいつの事だからちゃんと従う所を見せて奇襲でもするんだろうと思い、俺とルミーナが挑発的な発言をするが、一瞬イラッとした表情を見せただけ。一国の王様なだけあって自分の発言には責任を持つようで、反抗の意思はないと言える。その仕草、表情から伝わってくる。

「ほら! なんでもいいから命令なさい!」

 やられたならガツンとやられたことを実感したいのか、寧ろ命令を求めてくるという従順さのメアリは、

「あんたの奴隷になったんだからなにか命令しなさいよ! 放置はよくないですわ!」

 寧ろウザいぐらい命令を求めてくる。何なんだこいつは。Mでもあるのか?

 想像していた服従ってのは、マリアがそうしなくてもいいのにしてくるように、反抗しないってだけかと思っていたが、メアリが思っている服従ってのは、反抗しないにプラスして命令を求め、実行するってのがあるようだ。それを上手いように使えば直ぐにメアリを眼前から消すことは出来るんだろうが、それまでの過程が非常に面倒くさい。命令するのは言うだけなので簡単だが、メアリが勝手に変な話を持ち出すので、一通り聞いておきたくもあるからな。今後の対話円滑化の為にも。

「その……エッチなこと、でも……いいですわ……! 太くて長くてたくましいあれで!」

 奴隷だからといって変なこともほざきやがるメアリに唖然するのは俺だけじゃない。あのドSさを目撃していれば、ここまでも性格が変わると誰でも唖然とする。

 〔こいつは俺たちにこういう態度を求めていたのか?〕

 〔あのドSさからすれば無理もないわね〕

 変態的要素の方が痛めつけられるより上位の罪滅ぼしになるんだろうが、そんな事を求めていても本人の口から説明がない限り、俺たちがやり方に気付くわけがない。それ以前に罪滅ぼしをする気はないとはいえ、国外の人間に自国の人間しか知らんような常識を知ってて当たり前のように押し付けてくんな。

「全裸で飼い主ごっこでもよくってよ! いつもわたくしがしていることを自分で受けますわ!」

「全裸で飼い主ごっこって、お前らそんなこともやってたのかよ?」

 想像したくもない気色悪いごっこ遊びが行われていたことについてアルマとブランに真偽を問うと、アルマは首を縦に振り、ブランは首を横に振った。やはり加虐の第一対象であったアルマはよく食らっていたようだな。ブランはきっと……またどこか遠くに遠征させられていたんだろう。なにがしたいんだか。

「ならお望み通り命令してやんよ」

 これ以上メアリが過去にしてきた加虐行為を聞いているとドSが感染しそうで嫌なので、俺たちがメアリたちに求める唯一にして最大の命令を下す。

「今後俺たちに一生関わるな。パブルス帝国にもな」

 こんな奴らとは会いたくないので、会うなという手段もあったが、それだと何らかの形で俺たちに悪影響を及ぼす可能性がある。会いさえしなければ他は可能な訳だからな。それなら関わるなといい、悪影響を及ぼす可能性を皆無にした。そうすることでこれから転居する、俺たちが関わっているミミアント商会や『シャガル ミネヴァルト』はきっと厄介な王族の審査的な奴を無視できるし、特にメアリはデリザリン王国の王族なので、嫌でも今後顔を見る機会が訪れるかもしれない。会うなという命令だと、そういう時に傍から見ても明らかに顔を背け合う仲だと分かれば変な風に思われるからな。

 パブルス帝国にも関わるなっていうのはおまけ程度で、パブルス帝国は帝王が変わってもう交戦の意思が霧散している。だがこの争いの発端はパブルス帝国側なので、デリザリン王国は防戦一方になったデリザリン王国を今も尚攻めてくる。つまりデリザリン王国が侵攻を止めさえすればこの長きに亘る領土争いに終止符が打たれるわけで。となればデリザリン王国の王族・メアリが俺たちに服従した今、それが序で感覚でできるのであれば、しない手はない。自分が住まう国が危険に晒されているのと晒されていないのとでは生き心地が違うからな。人工島に住み、対異世界人戦の最前線で活動する身としては平和の大切さが人一倍わかる。

「ちょっと! それはどういうことでして⁉」

 奴隷は普通主の思うがままに扱われるものだというゴミみてーな認識があるからか、俺の口から「王位を俺に継承しろ」や「家事全般を担当しろ」などと出ず、見捨てるような命令が下されたので、メアリは思考が追い付いていない模様。メアリは負けた方が勝った方に服従するとは言ったが、命令内容の制限は掛けなかったからな。こういう命令も不可能ではない。

「んじゃまたな」

 要望はこれからメアリ達が行動を共にするような事じゃなく、離れることで徐々に実感してくるような事だ。というか関わるなと言っておいてメアリ達の近くに居てもただの嫌がらせでしかないし、時間の浪費でしかないので、俺たちはデリザリン王国からサヨナラとする。

「ちょっとーー‼」

 命令が納得できないからか、ルミーナが俺たちを転移させようと≪レベレント≫を使っていて、膝辺りまで透明になっている中、メアリはいつものドS的な眼光で俺たちに迫ってくる。

「どういうことでして⁉ もっとしっかりした命令を下しなさい!」

「命令は命令だ。服従したんじゃなかったのか?」

 俺たちはメアリにとって大打撃になりかけない命令を下したというのにもっとしっかりした命令を求めるって、メアリって本性はドMなのか?

「もっと物理的な攻撃をしてきなさいよ!」

「おめーは何を望んでんだよッ!」

 色々履き違えているような気がするメアリが命令を求めようと迫ってくるので、俺たちは下半身が透明なまま逃走する。普通俺たちが命令に従わなかったメアリ達を追うもんだと思うんだけどな。命令の内容に満足できなかった奴隷が命令を求めて追いかけるってなんだよ。

「ルミーナ、早く転移しろよ。今まで一秒足らずで転移できてたじゃねーか」

 この状況を楽しんでいるのか、まさか魔法技術が衰えたのかわからないルミーナが≪レベレント≫を進行しないので、鞭を振り回しながら追いかけるメアリから逃げつつ問うと、

「これだと前と状況が変わらないわよ。しっかりと宣言してから逃走しないと」

 確かに毎回話が確定しない内に逃走しているから長引いている訳で……

「でもちゃんと命令したぞ? あれで宣言判定にならないのかよ?」

 これから逃げても問題ないはずだ。ルミーナの発言を不思議に思うが、

「知らないわよ。ただこのまま逃走したら、前と状況が変わらない気がするのよ」

 ルミーナからは何とも言えない返答が返ってくる。でも確かにこのままだと状況が変わらない気はしてる。メアリは命令の内容が簡単すぎるって意味で満足してなかったしな。

 ならどうしろよって話だが……何もいい案が思いつかないまま逃走していると、いつの間にか崖に追い詰められていた。ていうか何で崖なんだよ。

「いつの間にこんなところに崖作ったんだ」

 魔法で見せられている幻想であればルミーナがいるので一瞬で破れるだろうが、破れないって事は属性魔法か何かで物理的に人工生成された崖だ。

「愚民共の自首用ですわ」

「つまり私達もここで罪滅ぼしさせるつもりだった訳ね」

「そうですわ。手段の一つでしてよ」

 デリザリン城からそう遠く離れていない場所に位置するこの人工崖は、落差百メートルは優に超す。崖下を覗くと、物凄く鋭利な岩石が針山の如く牙を剥いている。ここから落下すれば、誰でも確実に即死。

 デリザリンの街中を歩かずに、主要場所を≪レベレント≫で点々と移動していたので気付かなかったが、ここから周囲を見渡すと、かなり街並みに変更が施されている。昔であればこの周辺は平屋が軒を連ねていたはずだが、それらが全て無くなっており、周辺の土地が滑らかに隆起し、崖となっている。あまり坂を登っていた感覚がなかった辺り、落下地点の方をかなり地盤沈下させていそうだ。

 スペインのタホ渓谷を彷彿とさせる人工物に町の三分の一が支配されたとあって、デリザリンは相当小さな町になった……訳はなく、城の方へ視線を向けると、寧ろ前より町が大きくなっているように見える。どうやら崖とは反対側の方向に都市開発を進めたようだ。昔この辺りに広がっていた家々が邪魔にならない付近に押し出されたかの如くまだ健在している所を見るに、魔法があればこの程度の地殻変動や街並み変更ぐらい、ゲームみたいに自由自在ってことみたいだな。ルミーナ並みの大魔法使いがいなくとも、数か月もデリザリンから姿を消していれば、こうなっていてもあり得なくはない。

 〔家や城の建築、土地の開拓などは、通常であれば魔法は使われず、人の手で長い時間をかけて製造されます。作業が円滑化する程の強力な魔法使いはまず見つかりませんし、見つかっても相当な依頼金が必要となります〕

 〔これほどまでの変更を短期間でしたって事は、私達の為に莫大な資金を消費しているってことね〕

 〔金持ちだな、デリザリン王国は〕

 元パブルス帝国帝王・イカロスの奴隷なだけあって、一般人では知り得ない資金面の話を教えてくれた。

 身近に魔法使いが多いせいで薄れていたが、この世界には魔法という概念があっても、その人口は少なく、居てもその中でも吸収速度、保有容量、属性などと色々条件があり、優れている者は極僅か。まず銭湯が高くても一回につき銀貨五枚に対し、魔法使いに回復系統の魔法や≪リフレッシュ≫をたった一回使ってもらうだけでも、安くても銭湯の十倍は下らんらしいしな。それ程魔法使いに適性がある者は諦めずに努力すれば、人生勝ち組になれる。

「もう逃げ道はなくってよ。さあ、思う存分に命令を下すのですわ!」

 寧ろ負けたのなら王族として一生の恥ぐらいの命令を下されないと未練が残り、また復讐心に燃えるのか、負けたくせに胸を張って命令を貰おうと近寄ってくる。

「命令しただろ! あれで満足できないのかよ⁉」

 俺とメアリで命令度数の認識が多少異なっていようと、あの命令がメアリにとって優しい内容とは思えない。

「あれは命令ではなくってよ。萩耶(しゅうや)新谷(あらや)達に服従することになった今、前提条件ですわ」

「なら今関わってるのはどうしてよ」

「まだ命令を受けてないからですわ」

「はあ?」

 表向きの口調はお嬢様って感じなのに子供みたいな屁理屈言いやがる。このしつこさには呆れと怒りが同時にこみあげてくる。

「それが命令でいい。ダメなら何も命令しないってのが命令な」

 そっちが屁理屈言うならこっちも屁理屈で対抗してやろうってことで、命令内容を伝え終わった俺たちは彼女らの前から立ち去ることにする。

「どこに行くんですの?」

「さあな。自宅じゃね?」

 俺たち三人が歩みを進める先が崖とあって、その行動が理解できないメアリ達は何もできずにいる。これは逃げるという行為に同義と言っても過言じゃないが、歩みを拒んでこない辺り、仮に自分たちも落ちた時に対処法がないと取れる。

 普通この崖から落ちれば行き先はあの世だろうが、俺が自宅と指定したことでより困惑しているメアリ達を見て一瞬にやけ――

「――じゃあな、俺達の奴隷ことデリザリン王国の王女、メアリさんよ」

 後半歩で落下する位置で振り返っていた俺は、背中から倒れるようにして崖から身を乗り出し、地面とほぼ平行になり、頭から落下していく。倒れている最中に見えたが、まさか背中から行くとは思っていなかったらしいメアリが目を見開き、こちらに駆け寄ってきていた。今崖上を見ると、うつぶせの状態で特に俺にガンを飛ばしてきてる。

「さてと、飛び降りたはいいが、この後どうするんだ?」

 最悪パラシュートを展開すればいい話なので何も対処法が無い訳じゃないが、メアリが地獄耳だったりしそうなので、徐に無計画だったような発言をかます。

 俺の右隣りでバンジージャンプみたく飛びだったルミーナと、左隣で最後に一人律儀にメアリ達に向けて一礼してから飛び立ったマリアは、

「ないわよ」

「ありません」

「……ん? やけに真剣な眼差しだな」

 パラシュートは置いておき、ルミーナなら風魔法でも無属性魔法でも、マリアなら魔族特有の翼で落下死することはないはずだ。それなのに何故そこまで偵察していなかった自分に対して怒りを覚え、まじまじと周囲を見渡しているんだ。

「ここって自首用の崖よ?」

「それがどうした」

「生き残る可能性がある魔法ぐらい当然阻害されてるってことよ」

「お嬢様が全力で取り組んでも、着地までに魔障壁の解除は不可能でしょう」

 俺には感じ取れない魔法という異世界特有の概念に、ルミーナとマリアは感じ取れる。それも魔法使いでもあるので、異世界人の中でも卓越して。内一人類を見ない魔法使いがいる中、そんな事を言われたら……流石に顔が青ざめる。言われてみれば、確かに可笑しい。仮に俺が装備込みで70キロだとして、この崖が高さ200mだとすると、経過時間的に既に着地しているはずだ。弄ぶために魔法で実際の距離や空気抵抗あたりを改変してんだろう。

「ごっ、ごっしゅじんさまーぁ? だいじょうぶですのーぉ?」

 すると崖上から俺たちの様子を窺っていたメアリは、俺たちが崖では魔法が使えないことに感付き、青ざめている姿を見て抱腹絶倒してやがる。それも、如何にも奴隷っぽい発言をするという煽りを混ぜて。

「煽られたじゃねーか。パラシュートでも展開するぞ」

 魔法が使えないってのは想定内。青ざめたのは演技なので、別に焦ってもない俺は冷静にパラシュートを展開しようと試みるが……その手をルミーナが止めてくる。

「止めた方が良いわよ。パラシュートに十分な性能や耐性があったとしても、ここはメアリ達の所有物。自分たちだけは魔法が使えるわ」

「そこまで殺意高くねえだろ」

「一応私達はメアリ達の裏事情を握ってるのよ。服従したと言ってても状況次第では記憶を消すか、相応の罰を与えるまで復讐を諦めるはずがないわ」

「結局は一生絶対服従も自分達が負けた場合無効、か」

 未だ一度も自分たちが勝ったと言える展開になっていないので、この関係性が終了するとは思っていなかったが……少しはパラシュートを展開して夢を見させてほしかった。でもルミーナの判断は間違っちゃいない。パラシュートを壊されても対処法があるのでやろうとしただけで、俺たちが生き残りそうな行動を起こしそうになれば――魔力的に自分たちが落ちるのは危険だが、迎撃するのは可能らしく――メアリが迎撃する気満々なのは前から察している。ちっとはメアリにも良心があるかと思っていたのにな。

「こんなにも長く険悪な関係が続くのは頂けないな。ミミアント商会と『シャガル ミネヴァルト』の移転はいつになることやら」

 もう地面が近いというのに余裕ぶっこいて溜息を吐く。

「まさか転移するつもり?」

「だってそれしか選択肢ねえよ」

「そうだけど……」

 俺にもルミーナにもマリアにもよくわからないことだが、どうやら≪エル≫シリーズは魔法とはまた異なった概念の術らしい。最近自分の中では≪エル≫シリーズは神から授かった技なので、神技と勝手に呼称しているが。つまりこの魔法が使えない空間内でも使用が可能だ。

「こんなところで命を落とすなんて笑止千万、無様ですわ〜」

 あの顔、額縁に飾ってやってくれ。とても愉悦に浸っていて欺瞞の象徴になるぞ。

「問題点は、落下しながら目の前に出したことなんかねえから、できるかわからん」

「どうせ萩耶の事だから失敗して地面と衝突しても生きてるんでしょ?」

「バカ言うな。流石に死ぬわ」

 そのにやけ顔からふざけて言っていることぐらい理解できるが、もしそうだったら対異世界人活動が楽になるんだろうな。まあそこまで新谷家に与えるんなら、もういっそこの事神が直接手を下せよって話だ。

「私は自身だけなら翼で安全に飛行できますので、ミミアント商会様と『シャガル ミネヴァルト』様の面々をパブルス帝国に案内しておきます」

「それはありがたいな」

「いい判断ね。関係性が柔和するまで待ってるといつになるかわかんないわ」

≪エル・ダブル・ユニバース≫以外に生存方法があり、メアリの迎撃に対抗できる十分な戦力を有していて、今後の行動が円滑化する行動を起こしてくれるというので、俺とルミーナは当然否定しない。序に世界間で契約の恩恵を得られるかのテストもできるからな。一石二鳥だ。

「数日後迎えに行くから家で待ってろよ」

「あの家無駄に大きいから、私達が来るまで皆で寝泊まりしておくといいわ」

 もうこの際あの二つの店が顔を合わせたっていい。どうせどっちの店も俺達が関与している影響で王族に優遇されることになるし、地球から勝手に輸入したあっと驚く名案を提供しているから、ぼろ儲け同士何れ商売相手として知ることになるだろうしな。

「承知しました」

 俺とルミーナ、そしてマリアの行動が決定したところで、俺は出せる限界まで遠い距離に≪エル・ダブル・ユニバース≫を発動し、マリアは背中から翼を現した。

「またな、マリア。あばよ、メアリ」

 初めての試みだったが、高速落下中に使用することもできるようだ。問題は、魔法という概念がなく、人前で使用すると今後の人生が危うくなる地球では、落下死対策の一案には成り得ないってことだが、今までこの方法がなくても何とかなってきているので大したことじゃないだろう。

 黙々と住宅街の方に飛んでいくマリアと、崖上から一瞬落っこちそうになって助けてもらいつつ悔しそうに見下ろすメアリに向けて別れの挨拶を済ませ……体勢を変えてルミーナと同時に歪んだ空間に足先から触れる。立ち止まった状態や歩いて近づいた時の転移は徐々に視界が発光するようにして転移していったが、このような場合は、触れた部分から消えて行くんだな。俺とルミーナの体は足から頭まですっと消えて行った。

 その最中、崖上から「覚えておきなさいよー!」なんて聞こえた気がするが……もしあれが空耳だとしても、どうせ奴らが復讐してこないとは思えないので、今後はデリザリン王国に近づかず、ずっとパブルス帝国に滞在しておくことにするよ。

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