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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
19/32

19 シャガル ミネヴァルト


 今年は異世界人と暮らしているので、文化のないクリスマスや正月はなかったかの如く無関心で平穏に過ごし、そろそろ春が訪れようかとしている頃。俺たち三人は未だに満足いく対異世界人活動を出来ずにいた。あれからというもの、数週間に一回のペースで転移してきてはいたが、好戦的でも人工島に被害が出ることなくあっさり終わるような奴らばかりだった。だが一応フレームアーマーとやらがどんな感じなのかマリアに見せることが出来たし、俺が普段どんな活動をしているのか見せることは出来たので、得たものはあったとポジティブに捉えている。

 数か月も戦闘が過激化しないので、退治の生徒は常に緊迫状態――を通り越して、今後異世界人が来なくなると自分らの就職先・収入源を失うので、困惑気味だ。それでも一向にヤバめの騒動は起きないし、そろそろデリザリン王国での指名手配も晴れていそうなので……久しぶりに俺は異世界に行き、ルミーナとマリアは帰ることとなった。

 そして数日自宅で過ごした後、ミミアント商会にやってきたわけだが……

「あのっ、未だに指名手配が晴れていないんです。問題なければで良いんですが、何をやらかしたんですか……?」

 一度指名手配したら見つけるまでし続けるのか、懸賞金が倍ぐらいに跳ね上がった張り紙を見て唖然とする。

「あれっ、そういや何で指名手配されてたんだ?」

「王族だけの秘密を盗み見た挙句、然るべき行為をせずに逃走したからじゃない」

「ああ、そういえばそんなことあったな……」

 数か月前のどうでもいい記憶だったので、完全に忘れていた。アイツそんなことでいつまで経っても指名手配するなんて執念深いな。

「デリザリン王国の王族は秘密が多いって噂だからね~。聞きたいけど、聞いたらうちも指名手配になっちゃうよ」

 あんなに大声で変なことやってんのに未だにバレてなく、秘密にしているような事をシェスカは教えてくるが、そんなにあの関係性を秘密にしたいならもっと裏でこっそりとやれよな。

「デリザリン王国は一度指名手配したら見つけるまで探し続けるので、もう出頭するしか手段はありませんよ」

「出頭か……」

 どうやらミミアント商会を安全な国・パブルス帝国に正式に転居させるには、出頭する必要があるみたいだ。なら出頭せざるを得ないが、まさか俺達三人があのメアリが望む謝罪方法? をやらないといけないのか? 吐き気がしてきた。

「私達ミミアント商会が王族に報告せずに転居する手もありますが、すると私達も指名手配されちゃいます」

「パブルス帝国なら捜索の手が及ばないし、それでもいいんじゃない?」

「結局取引先を一国失うことになるので、転居した意味がなくなります」

「難しいな……」

 ミミアント商会一行と、俺とルミーナとマリアは全員で悩みこみ、解決手段が一つしかないと悟り始めたので……

「よし、んじゃ城に行くか」

「そうね。そうするしかないわ」

 どうなるかは分からないが、指名手配を晴らすにはそうするしかない。最悪の場合、今後二度と俺達に手が出せなくなるぐらい戦力差を見せつければいい話だ。

「が、頑張って下さいっ!」

「おう。数時間後にはパブルス帝国に行こうな」

 ルナを始めとするミミアント商会一行にエールを送られ、満を持して城に直接乗り込むことにした。

 ――が、その前に寄るところがある。

 ミミアント商会には同じく物を売る店なので敢えてその名を出さなかったが、特に俺とルミーナにはミミアント商会並みにお世話になっているお店がある。それはバレット宿屋ではない。あのお店は一店舗だけじゃなくチェーン店みたいな感じなので、転居しようと申し出す必要はないし、収入源の関係上受け入れないだろう。装備は揃っていて、日用品は魔法で代用できる俺とルミーナに唯一足りない要素――料理、つまり飯を食べる為に今まで居酒屋に通う必要があった。拠点が決まるまでは各地を点々としていたし、マリアが味方についてからはお世話にならなくなったが、流石に飯時に毎回居酒屋を探していた日々があったので、お気に入りの店はある。

 そのお店は『シャガル ミネヴァルト』と言って、デリザリン王国の首都・デリザリンに店を構えている。デリザリンを離れ、今はメイドが居るので今後お世話になることは少ないかもしれないが、あのお店の味はどの居酒屋よりも美味しかった。メイドが居る今でもたまに恋しくなるし、気分転換に行きたくなる。しかもそんな店をたった一人の少女が切り盛りしているんだ。今までお世話になったことだし、あんな最悪の町で商売を続けてもらうより安心安全な国・パブルスに転居していただきたい。だから彼女に状況を教え、転居する意思があるか、そろそろデリザリン王国とはお別れになるこのタイミングに聞きに行く。

 彼女の場合、その場所から移動しない居酒屋なのでデリザリン王国で指名手配されても問題ない――つまり、ミミアント商会より先に転居することは可能だった。だがそうしなかった理由は、カエラへの報告とか、拠点探しとか、今の俺達は契約の恩恵で意思の疎通が取れるので、俺とルミーナ分かれて同時進行で対応してあげることが出来る。だが、同じタイミングで転居しなければそうは出来ず、倍の時間消費することになるからだ。そうすると鍛錬の時間が無くなってしまうから、できれば同時進行したかったので今まで保留にしていた。

 実はそこまで高級店でも人気店でもないし、大通りには面していない店なので、昼飯頃にやってきたというのに俺達以外の客は皆無だった。だが一人で切り盛りしているのなら、このぐらい客が少ない方がやりやすいのかもな。

 まずはマリアにここの料理を味わってほしいので、腹ごしらえをしてから話を持ち出すことにしている俺たちは、入店して厨房に近い最奥の席に座るが、

「挨拶がないなんて珍しいわね」

「新しく出前でも始めたんじゃね?」

 いつもなら入店直後に「いらっしゃいませー!」などと聞こえてくるが、聞こえてこないと変な気持ちになるな。でも注文を決めて呼べば来ることだろうし、あまり気にしないでメニュー表に目を通す。

「相変わらず異世界のメニュー表は分かりづらいよなー。まあ住んでる人にとっては分かって当たり前だからいらないんだろうけど」

 日本のメニュー表は大抵写真と詳細つきだが、異世界のメニュー表はどのお店でも商品名と料金が載っているだけ。だから俺は今まで食したことのある料理名しかどういった料理なのか理解できん。例えばこの一番上に書かれている『ブラッティファスティニッキャンブガー・ギャルルンギャルン・ピーラソース』という三点セットとか『肉と野菜のドレッシング炒め』と言われないと理解できないだろう。

「確か『チャグジョリアン』はサラダで『ンヌミャピアス』はスープで……」

 久しぶりの異世界外食なので、記憶から普段地球でよく見る料理名と紐づけようとするが、七割ぐらい忘れている。『ザン』とか『ドス・ガ・デラン・ド・ヴァ・エンゴー』とか、何が言いたいのか理解できん。適当に名称決めてるだろこれ。

「どうせなら食べたことがない物にしたいわね」

 昔ずっと世間離れして暮らしていたからか、最近の料理名の知識は俺と同じく一切ないルミーナは、適当に商品を決めていく中、

「ご主人様。解読できますので、オススメの商品を選択しましょうか?」

 長らく奴隷として強制労働させられていた中で、調理することもあったからか、最近の料理名に強いマリアは上から地球にある料理名で説明し始めるので、

「いや、こういうのは適当に選ぶのが良いんだよ」

 悪しき風習と言えばそうだが、俺とルミーナは初めて居酒屋に行った日から、常にこういう選択方法を取っている。貧乏舌の俺と、食べれるものなら食べないと生きていけなかったルミーナにとって、飯は食えれば何でもいいからな。

「マリアは無難に選んでもいいんだぜ?」

 これは俺とルミーナがバカだから勝手にやっているだけで、知り合いに強制させることじゃない。だが何故か挑発的に言ってしまう。

「いえ、ご主人様にお任せします」

「ほう。知らんぞ?」

「はい、問題ありません」

「珍しいわね。面白くなってきたわ」

 念話でメイドだからそう言ったわけじゃないってことが伝わってきたので、俺とルミーナはいやらしい目つきになる。

「『ウュヴィビァゾーカッチュォインデュ』……正しい発音が分からんから却下。指差し注文はダサいからな。『チェケラ』……無駄にテンションたけえから却下」

 どんな料理か分かっちゃうマリアは目を瞑って指差して決めているが、どうせ見ても分からん俺やルミーナは意味不明な理由で商品を定める。それで決定したのは、俺は『バス・カド』と『コールスタンキンコッツイ』と『ガオガオッンチャンプ』、ルミーナは『リソードンフルーペン』と『フォガルツマッツツェ』と『ピブリピプリッティンプス』、マリアは『ランリクラリペレータバーン』と『グルギャンディ』と『ヴィギャンゾンキンカン』だ。ベストは主食、主菜、飲み物が揃う事だな。

「注文いいか?」

 異世界では注文時店員を声で呼ぶシステムなので、厨房の方に向けて声を届けるが……

「……反応がないわね」

 一向に、店員ことミネヴァルトが現れない。

「おい、生きてんのか?」

 店は開いてるのにミネヴァルトはいないなんてことはあり得ない。勝手ながら厨房に入らせてもらうと……ミネヴァルトは、いた。いたことにはいたが……壁際に蹲って、震える両手で両耳を塞いでいる。病気で苦しんでいたり、落ち込んでいるんじゃない。あれは完全に畏怖している。

「おいミネヴァルト。俺だ、萩耶(しゅうや)だ。大丈夫か? 何があった」

 俺の反応が予期せぬものだったからか、席に座ったままだったルミーナとマリアも駆けつけてきた頃……

「う、んゆ……」

 俺と同じく横羽が激しい金髪ショートのミネヴァルトは、販売職には向かないぐらいメンタルが弱く、怖がりで直ぐに泣く子だなとは思っていたが、今回は数分で立ち直れる度合いじゃない事が向けられた表情や、妖精族らしく小さくコミカルで可愛い天使の羽の元気がないことから伝わってくる。

「おいおい、どうしたんだよ」

 妖精族なら人間以上に生きていそうなので、低身長だからと言って子供とは判断できない。しかも着やせするタイプらしく、意外とあるらしいからな。それに背中にはちゃんと羽用の穴が開いた、胸下で止めているだけのマントみたいなベビードールを着ている為、変なところに触れたらいやなので、持ち上げて強制的に立たせるようなことが出来ない。しゃがみ込んでミネヴァルトが自発的に話してくれるのを待つ。

「おっ、おっ、おっかぁ……」

「お母さん?」

「金か?」

 両親を失っているルミーナは真っ先に母が、お金を殆ど得ていない俺は真っ先に金が類似として出てきたが、答えはお金だったらしく……

「新参者は出店代を払えって言われて、お金をぜーんぶ持っていかれたよおぉ!」

 思い返す羽目になったミネヴァルトは、色々思い出してより一層号泣する。漫画だったら目から滝レベルで。

「みかじめ料か?」

「この町にはそんな風習があるの?」

「わからないよお……」

 このお店は来た当初綺麗だなと思ったが、改めて見れば今は汚い。掃除が行き届いていない訳じゃなく、何度も襲撃された後の様な印象がある。最近できた店なのかは知らないが、最近強盗が頻繁に来ることは傷の多さが物語っている。

「明らかに弱そうな少女が一人で店を営んでいたらそりゃーいいカモだろうな」

「それに人目につきにくい場所にあるし」

 俺とルミーナの発言がより自身に刺さったらしく「うわーん!」と一層泣き叫んでしまった。申し訳ないが、こう言う事で間接的にミネヴァルトに戦力があるか確かめていたんだ。で、妖精っぽいから魔法が使えそうなのに、結局戦士でもなければ魔法使いでもない、と。

 マリアがミネヴァルトをよしよししてあげている中、

「金ぐらい俺らがいくらでも渡してやる。お気に入りの店だから無くなられると困るからな」

 いざ飯屋を始めるとなると、このような初期投資が少なそうな場所を選択するのもわかる。有名どころで修業を積んだ人が開業するなら話は別だが、一般人がいきなり大通りで開業したところで赤字で潰れるのがオチだからな。異世界人は基本的に外で飯を食うから、それこそお気に入り店があって、知らん奴の新しい店なんか中々入らんだろう。でもお陰でこれを機に転居しようと言い出しやすいし、了承してくれそうな流れが出来ている。

 だがそれより先にしたいことが一つできたので後回しにする。それは襲った奴を懲らしめる、だ。

「あ、あゆがっとーごじゃます……ひっく」

 ルミーナが≪スレンジ≫であり得ないぐらい大量の王貨を出すからか、ミネヴァルトは引き摺った悲しみとお金を渡された驚きで噛みまくり、仕舞いにはしゃっくりも出ている。なんか強制的に金を徴収するのではなく、強制的に金を渡すという、新手の悪者? 感あるな。

「けれど襲った人たちは許せないわね。どんな人だったか覚えてる?」

 俺がこれからしたいことが理解できるし、自身でもそうしたかったルミーナは特徴を聞くが……

「ひっく。顔は、悪そうでした」

「悪そうかー」

「居過ぎて困るわね」

 もっと具体的な特徴を挙げてもらわないことには人物の特定ができない。それだったら俺も悪そうな顔だからな。だがこれ以上人物の特徴は出てこなさそうだ。今回ばかしは見逃しておく。ここに強盗しに来た糞野郎、命拾いしたな。――と、思ったが。

「――ミネヴァルトォ! 話してた金額とちげえぞゴラァ!」

 ハンマーか何かを壁と衝突させた重低音と共に、筋肉隆々とした厳つい男性が三名扉を蹴り開けて『シャガル ミネヴァルト』内に入ってきたぞ?

「あ、あの人たちでしゅ……」

「だろうな」

 マリアのメイド服をギュッと握りしめ、背後に隠れたミネヴァルトは、意外と根性あるらしく、店の収益を全額渡していなかったようだ。だが金額を極端に少なくし過ぎたんだろう、より奴らを触発させてしまった。

 まだ机上に大量の硬貨が置かれていなければいい訳が出来たものの、ルミーナが≪スレンジ≫で出したせいでこれらがミネヴァルトの金だと思われて、より一層四人の殺意が増す。

「誰だテメェ。知り合いか?」

 ミネヴァルトを守るように俺たち三人が立ちはだかっているからか、四人のリーダーらしき人物が俺に近づいてくる。

「まあそんなところだ」

 男性四人は俺より身長が高い。それでいて鎧もかなりの強度を誇っていることが見て取れる。そしてその見た目通りの攻撃力があることも、この室内の惨状や、壁を凹ませた威力から判断がつく。デリザリン王国の兵士であってもおかしくない戦力を誇るこいつらが地球に転移すれば、フレームアーマーや島民共の間で騒ぎになるだろうが……相手が悪かったな。

「そこの女はな、出店代と土地代を払っていねえんだよ。知り合いなら守りたいだろ? なら代わりに金を出せよ」

 俺達からも金を取れると思ったからか、対象はミネヴァルトだけじゃなく、この場に居る全員になったらしく……机や椅子をなぎ倒しながら厨房の方に向ってくる。

「言っとくが渡す気はないぞ。金も、ミネヴァルトもな」

 俺たちの戦力を知らないのでそこまで安心していない模様のミネヴァルトは、恐怖で寧ろ引いてた涙が今にも零れそうだが、泣き出すと黙らせるために攻撃されかねないと思っているからか、寸でのところで堪えている。

「そもそも出店してもそんな代金は発生しないわ。出鱈目言ってお金を得られるとでも思ってる訳?」

 今の俺たちは指名手配中とあって、デリザリン王国内であまり大きな騒ぎを起こせない。例え俺たちが正義の立場であれど、事態が収拾すれば次は俺たちの捕縛が始まる事だろう。誰だって金は欲しいからな。

 存在が割れる相手はこの四人に止まらせ、可能であれば会話で事を済ませたい俺たちは手を出さないが……

「あんたらどうせ冒険職に向いてなくて、収入減がなかったからひ弱なミネヴァルトに目を付けて、こういう形でお金を得ているんでしょ?」

 痛い指摘はガン無視するらしく、図星のくせにやけに知らん顔する四人は、

「ん? こいつらの顔、あの指名手配と似てないか?」

「そういわれれば……そうだな……」

 こいつらは一度上からお咎めがあったのか、直ぐに手を出してこず、同じく会話で事を済ませようとしていたらしいが、話を逸らすネタとして目を付けた指名手配書を読み、今更俺たちが指名手配中の人物と一致していることに気付いたらしい。こんなにも国中に貼られているのに今更気付くってどんだけ節穴なんだろうな。金が欲しいのか欲しくないのか分からん。

「金の徴収。そして指名手配犯発見の報酬。こりゃあ一攫千金だな」

「また怒られるかもしれねェが、いっちょかますしかねェなァ」

「……殺り合うしかなさそうだな」

 各々武器を取り出したところを見て、俺とルミーナも戦闘態勢を整えてやる。といっても、壁を攻撃されて家が崩壊しないように部屋の中央に立ってあげるだけだが。

 マリアはミネヴァルトに抱きつかれているし、別に一人でも事足りる相手なので戦闘には加勢せず、厨房の奥に逃げていく。

「おい、逃げるんじゃねえよ」

「おめーが逃げんじゃねーよ」

 四人の内一人がマリアの後を追おうとするので、蹴飛ばされた椅子を持ち上げて投擲してやった。多少やり手なだけあって、接近する椅子に反応し、防御態勢をとることは出来ているが、追うのを諦めて仲間の元へ戻った所を見るに、今の攻撃で俺がただ者じゃないと判断がついたようだ。察知能力は意外とあるっぽいな。

「金を出すから許せと言っても無駄だからなッ!」

 刃渡り一メートルはあろうかという長剣、自分の身長と同等の長さはある斧、百キロはありそうな槌、フレイルのような武器を露わにした四人は、しっかりとした連携で俺とルミーナに肉薄してくる。

 〔なるべく静かに片付けるぞ〕

 〔当たり前よ〕

 俺とルミーナは念話で作戦を共有し、俺は拳で二人を、ルミーナは魔法で二人を相手取る。

「テメェふざけやがって!」

「ふざけてんのは不当な請求をしてるおめーらの方だろーが」

 顔をみるなり何もしてないのにいきなりキレてきた斧を使う男は、確かに手練れだ。斧の使い方をマスターしているし、次なる攻撃に繋がるような立ち回りをしている。そして逃げ道を塞ぐかのように、槌を使う男が背後から叩き下ろそうと槌を背後まで振りかぶっている最中だ。二人とも十分な攻撃力、攻撃速度、連携力を誇っているので、平均より多少優れたぐらいの人間であれば瞬殺されるだろうが、何度も言うが――相手が悪かったな。

 攻撃が仕掛けられているのにも関わらず、二人の武器の殺傷圏内で溜息を吐き、俺が直接手を下すまでもなく、仲間討ちさせるように近寄ってくる二人の行動を弄らせてもらう。

「死ねェ!」

「金だけは持って帰ってやんよッ!」

 ほぼ同時に俺へ直撃するようにしかけた攻撃は、実は誰もいない虚空目掛けて放たれていて……二人が意識できない程コンマ以下の世界で攻撃先を変更させてもらい、お互いがお互いを攻撃したことに気付いたのは、致命傷を被った二人が苦痛の声を漏らした数秒後の出来事だった。

 魔法は本当に何でもありで、二人に攻撃させる隙も与えず死んだように沈めたルミーナを一瞥し、

「おい、こいつらどーすりゃーいいんだ?」

「ここに放置したままなのは嫌でしょ?」

 俺たちは戦闘が終結したことをミネヴァルトに伝える為、厨房の奥の方に声を届けると……ミネヴァルトはマリア先導の元恐る恐る姿を現し……

「え……殺ったの……?」

 憎たらしい男四人が倒れたことに嬉しくなる半面、目の前――それも自分が経営する居酒屋の室内で死亡者が出たかもしれないとあって、発狂しそうでもある。

「人聞きわりぃな。殺ってねーよ、失神してるだけだ」

 正直俺が相手した二人は死んでもおかしくなさそうだが、どうせこういう奴らに限ってタフだから、数週間後には反省もせずケロッとしてるだろ。

「な、なら……どこか、知らない場所へ……」

「簡単な話ね」

 するとルミーナは彼ら四人の真下に各々囲うぐらいの大きさがある魔法陣を浮かべ、穴に落とすように四人を落っことした。どういう名称なのかは知らないが、多分ランダムに転移させる類の魔法なんだろう。

「あ、ありがとうございます……まさか、復讐してくださるとは……」

 騒動を収束に導くにあたって、多大な貢献をした俺たちを、神を崇め讃えるかの如くミネヴァルトは感謝してくる。

「目の前に蚊……あ、いや、進む先に邪魔な物があったら退かすだろ? 俺たちはそれをしたまでだ」

 地球でしか見られない生物名を挙げたところでミネヴァルトが分かるはずもなく、急遽例を変えた俺はミネヴァルトに過大に感謝される前に今日ここに来た本題に戻る。最近気づいたが、俺って感謝されること苦手だしな。

「それとこれが関係ありそうだから今言うけどよ、ミネヴァルトお前、移転する意思はねえか?」

「勿論私達が持ち出した話だし、全額負担するわよ」

「い、移転……?」

 最近姿を見せなかった俺たちが久しぶりにやってきた理由を遂に述べると、ミネヴァルトはもう溢れ出てはいないようだが、涙で濡れまくった顔を向けてくる。その表情には、どこか希望の光が差し込んでいるような雰囲気がある。実際は今後ここで続けて行けるか不安だったのかもな。

「実はこの国・デリザリン王国は超過激派でな、知ってると思うが俺たちを調教したいが為に永遠と指名手配してやがる」

 この店には俺たちの指名手配書が貼られていない。だが厨房には置いてある。あの男たちも一時期厨房まで接近していたので気付いたからな。つまり、俺たちが指名手配されるようなことをしたと認めたくなかった説がある。それぐらいにはミネヴァルトと良好な関係性を築けている。

「しかもこの店を襲うような不届き者も居る訳だし、こんな国、こんな町に居られないでしょ?」

「んゆ……」

 ミネヴァルトが言う「んゆ」とは、所謂「うん」なので、本人もこんなところに居られないと思っている訳で……

「でな、隣国にパブルス帝国ってとこがあってだな。俺らはそこの王族と知り合いっつーか友達なんだ。だから優遇できる。しかもパブルスは町民全員が友達みたいで、争い事があったら助け合うんだ」

「もしあれなら私達や、ミネヴァルトからしたら友達の友達だけど、そう伝えておくから王族にも助けを求めることも可能よ」

 外堀を埋めるようになってしまったが、本人に検討する意思があるなら、利点を挙げるほかない。というか、欠点を挙げる方が難しいけどな、あの町。

「どうだ。この店に思い入れがあるか知らんが、移転する意思はないか?」

 かかる費用は全額負担するし、行き先は俺たちも住む安心安全な土地とも伝えた。俺達から言えることは以上だ。

「なんか悪徳商法みたいだが、俺らが悪じゃないことは分かってるだろ?」

 前に異世界ならチップの文化がありそうだったので、机にかなり大金を置いて行ったが、翌日忘れ物かと思われたぐらいミネヴァルトは良い子だし、俺達は無防備にお金を置き去るのでバカではあっても悪じゃないと理解しているはずだ。それに、ついさっき起きたバカ野郎四人の件もあるしな。

「移転したい気持ちは山々ですが……ほ、本当にいいんですか? 私、一方的に良い事しかされていませんよ……?」

「俺たちがそうしたいから勝手にしてるだけだ」

「そうよ、気にすることはないわ。それに私達、お金なら有り余り過ぎて使い道に困っていたところよ」

「はうぅ~」

 どうやら……ミネヴァルトは移転する決意をしたようだな。ミミアント商会みたく大企業じゃないと日常生活に差し障り無い最低限の収入源すら確立していないからか、客からのありがたい話にあまり遠慮してこなかった。まあミネヴァルトだけの話かもしれないし、相手が俺たちだからかもしれないが、会話がスムーズに進んでよかった。

「もし感謝したくなったら、料理の腕前でお返ししてくれ」

「現金渡されたらその場で消し去るわよ」

 これ以上お金をもらうと貧乏な地球生活に支障をきたす可能性がある。だから最近の俺たちはミミアント商会に専属の銀行的な役割も担ってもらい、手元にはあまり持っていない。と言っても全財産持っていないだけで、パブルス帝国に新しく『シャガル ミネヴァルト』を設立する為に必要な金は余裕である。

「これから俺たちは用があるから、後でパブルスに転移させるが、そこからはパブルス帝国の王族と話を進めてくれ」

「ありがとうございます!」

 もう泣き止んで素直に喜び出したミネヴァルトは、八重歯をちらつかせながら両手を上げてぴょんぴょん跳ねている。滞空時間なげぇー。

「それと有名になったらどうせいるだろうし、身の安全の為にも、引っ越し先を決めるのと同時進行でギルドとかに従業員募集の紙を貼っとけよ」

「条件は……そうね、ある程度戦闘が出来て料理ができることね」

「で、ですが……」

 俺達が移転先の店舗購入にかかる費用以外にも負担してくれると言い出すからか、流石にミネヴァルトでも気が引けているようだ。そんなことじゃカエラに購入費用を渡してお願いしといた俺達の家の真隣の、自宅の無料プレゼントの時に失神するぞ。

「心配すんな。金はいくらでもある。俺はミネヴァルトが作る料理の味を失いたくないって言ったろ? 辞められちゃあ困るから、最良の状態で店を構えてくれ」

 飯って案外大切なんだ。地球だと貧乏人で、美味しい料理を碌に食えていない俺は毎日といっていいほどそう実感している。そんな飯を提供する店で、しかも美味いし知り合いなら、安全な地で多くの人にその料理を振る舞っていただきたい。

 嬉しすぎて違う意味でまた泣き出しちゃったミネヴァルトは、

「お、おい? 大丈夫かよ……」

 先程から揺さぶっても反応がない。あまりに衝撃的な出来事、それこそ本人にとってはこの上ない幸運が訪れたからか、感極まって失神しているようだ。さっきは想像内で大袈裟に失神とか言っていたが、ミネヴァルトは本当にうれしくなると失神する人なのかもしれない。

 また金を出すと失神されそうだったので、カエラに渡しておくことにして、

「それじゃこの店舗最後の飯でも作ってくれないか?」

 マリアがミネヴァルトを揺すると徐々に意識を取り戻してきたので、そう申し出ると……

「んゆ! 料理で感謝を伝えるよお!」

 願った通りの返し方をしてくれるそうなので、俺たちは事前に決めていた商品を頼んだ。

 順番的にはミネヴァルトの転移より先にデリザリン王国の王族と会う。もしかすると指名手配が晴れ、ミネヴァルトも安全に転居できるかもしれないからな。だから店仕舞いする時間はある訳だが、俺たちから申し出た話なので、手伝わないと面目が立たない。料理が完成するまでの間、できる範囲内で勝手に奥の部屋の整理をさせてもらった。

 俺が頼んだ商品の内一つには、トゲトゲした吹き出し付きの物も含まれている。それが俺が思っていたのとは違う意味でヤバい商品だったのか、注文時にミネヴァルトが絶望の眼差しを向けてきた。まあ食えるものなら構わない。きもちわるい虫の料理とかでも頑張って食うさ。

「さてと、答え合わせといくか」

 計九品の商品を持って来られたので、俺たちはまず飲み物から飲もうとするが……飲み物が届いたのは俺だけだ。しかも確実に酒。

「これから正念場なのに酒か……」

 すぐ酔っぱらうがルミーナが魔法で正常に戻してくれるはずなので、『バス・カド』というお酒を飲んだ。うん、数分後に出来上がったな、これ。

 どうやらマリアは一番まともみたいで、注文順に魚料理、デザート、麺と米がごちゃ混ぜになった炒飯のようなものだった。見た目は普通だし、主食主菜揃ってて良さそうだ。問題は俺とルミーナ。俺は見るからに辛そうなスープの類とよくわからん枝。ルミーナは食虫植物みたいな奴と、クソグロい麻婆豆腐みたいな奴と、唯一まともな骨付き肉。ミネヴァルトは俺が選んだ吹き出し付き商品の時だけ死んだような目つきをしたが、俺からしたらマリア以外殆ど考えられない料理だし、どれ見ても死んだような目つきになるんだが?

「本当に美味いとは思えんな……」

 見た目に圧倒されつつとりあえず枝みたいな『コールスタンキンコッツイ』に噛みついたが、

「何これサトウキビか? 俺はサトウキビに齧り付いているのか?」

 完全に木の枝の見た目だし硬さなのに、いざ頬張ると想像以上に柔らかく、味はサトウキビと筍を足したような未知の味。これは料理として色々手が込んでいるので美味しいが、それだけ単品で食べると、美味いか不味いかで言えば、やや美味いよりの普通に分類される食べ物だ。いかに味付けが活きてるかわかる一品だな。

「私のなんか全身が痺れるような感覚がするわ」

「それ食べて大丈夫なのか?」

 俺も一口貰うが、酸味が強いって訳でもなく、電気風呂みたいな感覚でもなく、静電気って感じでもなく、正座で痺れた感じでもない変な痺れ方をする。不愉快ではあるが、不意に痒くなったところを掻いた時みたいに快感がある。

「んゆ、大丈夫だお~。その感覚を楽しむ料理だお」

「変わったもんもあるんだな」

 地球では絶対に食べることが出来ないし見ることも出来ない食材に触れて知見を得るってのは異世界の楽しみ方の一つかもしれないな。悲しいことに俺は味音痴だし、ろくに食えない生活で少食なので例外だが。

 冒険するまでも無かったマリアがもう七割ぐらい食したところ、俺はようやく例の赤いスープ、ルミーナは麻婆豆腐のようなものに手を付ける。

 俺の料理は食べるのに勇気がいるので、先に頬張ったルミーナは、

「見た目終わってるけど味は良いわね」

 どんな例え方をしてもグロい表現にしかならない『フォガルツマッツツェ』はいざ食えば美味だったらしい。ああいうのって見た目が無理だから諦めて、一生味を知らないまま終わる類なので、こういう機会に食べることが出来て良かったと思う。現に俺は分けて貰おうと思わないし。

「よし……」

 作ってもらったからには残すわけにはいかないので、真っ赤なスープをスプーンで救い、口の中に放り込んだ。瞬間。

「かっ、らああああああああああああああ゛あ゛ッ!!!」

 は? は? はあっ? ニッコリ笑顔で口の中に放り込んだんだが、一瞬にして口内で手榴弾が炸裂したかの如く頬が爆発的に膨らんだんだが? ていうかハバネロより一億倍は辛い! んだよこれ! 億とかいうバカげた数字も今なら納得できる。

「マジで口から火ぃ噴くぞこれェ!」

「それ人種向けじゃなくて、魔族向けの料理だお……」

「『魔族はこんなもん食ってんのかッ!』だってよ」

 あまりに辛すぎて喋れなくなった俺から念話で伝わってきた発言を代弁するルミーナはケラケラ笑っていやがる。いいよなそっちは見た目が終わってるだけで!

 今まで食してきた辛味って類の奴は、基本的に清涼感を伴う奴、鼻とか舌にツーンとくる奴、痛い奴、痺れる奴、発汗する奴とあったが、どれもその中から一つだけが突出したものだった。だがこれは違う。それらが全て同時に限界突破した威力でやってくる。もうカオスとしか形容できない。コイツが通った臓器は全部死滅したんじゃねえかってぐらい強力だ。バケモンだ。食糧兵器だ。

「人種には一滴でも絶叫する辛さだから、拷問にも使われているんだお~」

「『お前なんちゅーもん提供してんだよ! 魔族向けなら言ってくれ!』ってさ」

 まさかこんなもんがメニュー表に含まれているとは……軽率に知らない料理を攻めるんじゃなかった。ていうか移転する序にメニュー表も一新しろ! 写真を付けて、詳細を載せて、種族による専門料理があるならページ分けろ! 吹き出しがあったら食いたくなるだろ!

 心の中で嘆き続ける俺はそろそろ限界で、体が拒否反応を起こして口からあらゆるものが放出されかねない状態になってきた。トイレに駆け込んでリバースしてこよう。


 結局その後数時間トイレに籠っていたわけだが、ルミーナに魔法をかけてもらうことで解決させた。あのままじゃ最低でも一年は排出できないでいたな。魔法万歳。

「まだデリザリンに用があるから後の話だが、パブルスに着いたら王族にこれを渡してくれ。そしたら対応してくれるさ」

 ミネヴァルト以外にもミミアント商会の転移も済ませないといけない。生憎一度見た場所且つ長距離移動且つ大人数での移動となれば、マリアの≪レベレント≫は使用不可なので、どちらも転移が終わるまでは同時進行出来ないからな。

 事前にこの紙の半分を持ってきた人が俺達の知人だとカエラに伝えておいた紙切れをミネヴァルトに渡して『シャガル ミネヴァルト』を後にする。今渡す必要はなかった気がするが、後で渡しそびれたら大変だからな。

「さてと、もう見つかってるようだし、堂々と行ってやるか」

『シャガル ミネヴァルト』を出ると、遅くても三時だというのに辺り一面は暗闇に包まれている。それでいて城に向う道だけ晴れていて、道の両サイドに等間隔で光が灯っていれば、俺達を城へ案内していることぐらい理解できる。流石にあんなに巨額の懸賞金がかけられているのにも関わらず、無防備にも魔障壁無しでデリザリン王国内に居て、男四人組と戦闘になっていれば見つかるってもんだ。まだ誰かに捕まって王族に届けられ、得する人が居なかっただけましか。そんなことは絶対ないとは思うが。

 どうしても俺たちを城に導きたいからか、道を逸れることが出来ないようにもなっているが、この魔法空間はあくまで俺たちを導くだけで、脅威じゃないので壊さず進む。どうせ今から何らかの形で城に行く予定だったしな。

 近づくにつれて邪悪なオーラが伝わってくる不気味なデリザリン城に入り、誘導された先の扉が自動で開くと、その先には当然メアリとアルマ、そしてブランが居る訳で……

「萩耶新谷(あらや)、ルミーナ・エスレイン、マリア・クァイエ。あなた達の顔を見るのは何日ぶりでしょうね。お陰で手を洗う回数が異常に多くなりましたわ」

 いつまで経っても現れなかったから相当鬱憤が溜まっていたのか、やっと会えた今は超不気味な笑みを浮かべていやがる。というか手を洗う回数が多く――つまり、血で汚れたということで、発散対象になっていたのであろうアルマはえげつないぐらいに全身傷だらけになっている。よくあれで今も尚嬉しそうに鞭を受けるよな、凄いわ。アンタ向いてるよ。

 いつも以上に痛めつけられる日々が続いたからか、前に見た時よりも耐え抜く為に筋肉量が増加したのはアルマだけでなく、日々鞭を振るうからか腕力が増しているメアリは、

「覗き見したのにも関わらず、罰も受けずに逃走するなんていい度胸ですわね。でも抵抗なく自首してきたことには褒めてあげますわ」

 相変わらずの悪役感で、無駄に妖艶に舌で唇を半周舐めた。

「しょうもない所を覗き見しただけでそんなにも根に持たんでいいだろ」

「しょうもない、ですって……? あれのどこがしょうもないと言えますの?」

 どうやら言葉のチョイスをミスったらしく、ピキッと来たらしいメアリは理由を求めてくるが……すまん。昔過ぎてその時の光景覚えてねえ。マジで。

 どうせSMの事だろうと思うが、間違っていたら嫌だし面倒なので、

「全てだろ」

 その時がどんな状況であろうと対応できる発言をした。お陰でどう見ても真面目な会議だったとしてもしょうもないって事になったが。

 結局何を見たのか思い出せないし、メアリは当時の状況について語らないので分からないでいると、ルミーナとマリアからなぜこうなったか情報が伝わってきた。

 もうデリザリン王国が優勢かどうかなど聞くことは出来ない状況下になっているから、確認を取るのは諦めるとして……俺の発言は更にメアリの怒りを掻き立たせる発言だったらしく、

「言ってくれましたわね。今回こそ正式に罰を受けてもらいますわ!」

 これから俺たちに罰を下すからか、遂にメアリは鞭をこっちに向けて立ち上がる。だが、一向に攻撃をしかけてこない。罰を下すっていうから、てっきり今から戦闘が繰り広げられるのかと思っていた。

「罰ってどんな奴だ?」

 普段行っているような戦闘じゃないって事は、それこそギロチンでもするのか?

「前回の方法は止めにしますわ」

 一般人からすれば十分に惨かったが、然るべき行為よりもっと激しいのを思いついたらしく「うふふ」と笑いながらにやけるメアリは、俺とルミーナとマリアにこう告げる。

「これから戦闘を行って、負けた方が勝った方に一生絶対服従ですわ!」

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