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クロス・インパクト  作者: あかつきこのは
15/32

15 もう、関わりたくない

 

 今後の方針は決まったが、まだマリアが使用する銃を決めていない。Wアラーム中、シェルター外の出来事をマリアに見せることが出来たら、翌日にでも異世界に行くつもりでいるので、俺たちは対異世界人戦・対フレームアーマー戦に備えて今すぐにでもどの銃を使用するか決定しておかないといけない。銃も徒手や剣と同じく、練習が必要だからな。

 異世界では使用を制限し、フレームアーマーには及ばないというのに、何故使用する銃を一つ決定するかというと、HM社を筆頭とする異世界人保護派を謳っていながら転移者を悪用する組織や団体に対してや、音速を超えて行動する訳ではないフレームユニット相手には、ただの人間同士の戦闘が繰り広げられる。武士の時代でもなければ、技術に溢れるこのご時世では近距離戦になり辛く、遮蔽物を駆使して拳銃などの重火器に頼るケースが多く、徒手や剣の殺傷圏内に肉薄することが難しい。というか、そうなることの方が少ない。また、転移者とフレームアーマーとの三つ巴になった場合、銃弾を魔法でしか防げない転移者を牽制したり行動を制限できたり、一般人相手には口で説明するより銃口を向ける方が手っ取り早く行動を制限させられる。総じて地球上で活動しやすくする為にも携帯する必要性がある訳で……銃という存在を知らないマリアには説明を挟みつつ、どれにするか選別する。

「銃って、言わばクロスボウの強化版ってとこだな。毎回リロードしなくていいし、弾速は比にならん」

 隣で武器庫内を見渡すマリアに分類分けされた拳銃を一種類ずつ見せて説明する。

「大きさによって威力が上がるということですか?」

「一概には言えん。例えばこのハンドガンはこのサブマシンガンより威力が出る。でもこのサブマシンガンの方が一秒間により多くの弾丸を撃ち出せる。戦況にもよるが、一発に賭けるか、球数に任せるか、好きな方ってとこだな」

 銃の知識は豊富でも説明力に欠けるもんで、あやふやながらも自己流で解説する。

「マリアは剣を魔法で補助しているとしたら、俺は徒手を剣や銃で補助している。だから取り回しやすいハンドガンにしている」

 その中でも一発に賭けるのと複数に賭けるのに分けており、状況に応じて徒手と剣と銃を使い分けている。

「ルミーナの場合、異世界人だからあまり姿を現したくないのと、魔法で少し離れた場所から攻撃することになるから、スナイパーライフルと言って遠距離を狙える高威力の銃を使っている。現状近接は俺、遠距離はルミーナって立ち位置だな」

 離れた場所から攻撃することが得意なら、その長所を生かすという、俺たち三人が主軸とする戦闘方法と同じ判断方法を採用している理由は、知らない戦闘方法を学ぶことで対処できる幅が広がるかもしれないが、他の戦闘方法は得意とする仲間がちゃんといる。つまり、部門外のレンジは仲間がカバーしてくれるからだ。その仲間が未熟者なら学んだ方が良かったかもしれないが、俺たちに関してはそうはならない。後、態々慣れないレンジの武器を使うより、慣れたレンジの武器を使う方がより実力を発揮でき、成長できる。一から鍛錬を積むより、ある程度知識ある状態の鍛錬を積む方がアドバンテージがあり、結果的な実力で見ると前者は後者を上回れないからな。

「俺は近距離、ルミーナは遠距離だから、マリアは中距離でいいかもな。剣は徒手よりリーチあるし」

 俺の案にいくら自分の武器の思案中でも異議がないマリアは、リロードが手間で滅多に使うことのないコルトSAAを元置かれていた位置に寸分違わず置き、俺からアサルトライフル――AK12を受け取る。

「アサルトライフルは時々お世話になるから沢山あるぜ」

 マリアは今俺がやって見せた構え方を見様見真似で行い、AK12の外観を舐めるように見ている。口に出して感想を言ってくれないのでルミーナの反応を参考にさせてもらうが、初めて銃という武器を触れた感想は驚異に尽きるだろう。

 ブッシュマスターACR、Cz805、AAC Honey Badger、H&K HK416と、ケースから次々とアサルトライフルを出しつつ、

「銃ってもんは極論被弾すれば何でも痛い。性能面じゃなく見た目とか取り扱い易さとかで判断してもいい」

 まだ実際に発砲もしたことがないマリアは、クロスボウを例に挙げて説明していたので反動がないものと考えている可能性が高い。そんな中、強いからとかレートが高いからといって性能でアサルトライフルを選んだところで、まず全弾を狙ったところに真っ直ぐ飛ばせるかすら分からない。最初はアサルトライフルに慣れて、性能を求めたくなったら後々交換するとして、とりあえず自分好みのアサルトライフルを一丁選んでもらう。

 マリアは出されたアサルトライフルを一丁一丁触れていくが、全て触り終えてたどり着いた結論は、今出したアサルトライフルじゃなかったようで……

「……まさかあれにする気か? やめといた方がいいぜ?」

 マリアが目を付けたのは、壁に飾られた俺の装備の色と合うように黒く塗装されたMK17 SCAR-Hなんだが……あれは普通のSCARじゃない。誰かさんのせいで、もうオリジナル銃と化しているぐらいカスタムまみれだ。

「見た感じ、一番使用感が良さそうでしたので……」

 流石は魔法戦士。一目であの銃が冠絶していると見抜いたらしい。本人がそう言うなら差し出すしかないな。普段滅多に主張しないし。

 つい鼻で笑ってしまうような原型を留めていないMK17 SCAR-Hをマリアに渡す。

 結乃(ゆうの)の野郎がふざけて中身は変えず、外見を壊す為アタッチメントをつけまくったMK17 SCAR-Hは、着脱可能なサプレッサーに、銃剣もあり、更に銃身の下にM203 グレネードランチャーが取り付けられている。対応弾種は40x46mmグレネード弾の他に、榴弾、徹甲弾、徹甲榴弾、エネルギー弾、発煙弾、HEIAP、照明弾、散弾、榴散弾、催涙弾、音爆弾、焼夷弾、炸裂弾、核砲弾、ペイント弾等々。それ自体にも改造を施している為、通常では考えられない弾だって発砲できてしまう意味不明さ。ここまで聞くと、汎用性が高く色んな場面に活躍しそうな銃だが、結乃のおふざけがこれで終わる訳がない。スコープ部分はフレームアーマーのバイザーの劣化版のような機能で、残弾数の表示や映像の録画、敵を赤く表示するサーマルサイトのような機能も兼ね備えた薄っぺらい等倍ドットサイトに、二倍サイトをブースターといって、非装着時は横に折れており、装着時に押し上げて二つのスコープを重ねるようになっている。しかも銃を傾ければオフセットサイトがあり、夜戦用にライトやレーザーサイトも取り付けられるようになっている。確かに一見カスタムの異常さ=使用感に溢れたアサルトライフルと思われても仕方ないが、重量はまっさらなMK17 SCAR-Hと比べ物にならないぐらい重たいし、ゴツゴツし過ぎていて合う収納ケースがない。更に日本には転移者がき始めても尚銃砲刀剣類所持等取締法というしょうもない法律が定められており、基本的に携帯が許されない国なので、こんなの持っていたら職質からの異世界人バレで大惨事だ。

「まーそれでいいならいいけどよ、≪スレンジ≫の容量あるのか? この世界でも向こうの世界でも流石に見せびらかせんぞ」

 ルミーナなら余裕に収納できるだろうが、これはマリアの武器でルミーナが収納すべきじゃない。それにマリアはルミーナのように魔力が無限じゃない。収納する容量はあっても、何度も出し入れできる魔力が無いと、他の武器を選択せざるを得ない。

「わたしは魔力吸収速度が早く、魔力保有容量が少ないです。なので、このぐらいの重量だと魔力が少ないこの世界でも何度も出し入れできます」

「あっそうなのか。なら発注ミスしたな」

 戦闘服を結乃に注文した時、露出度や通気性の高さは任せると言っている。ルミーナが無限なのでそれに引っ張られてどうするべきか本人に聞くのを忘れていた。

「お嬢様から戦闘服はご主人様のでも変わらず魔力吸収がしやすいとお聞きしておりますので、問題ないかと思います」

 透明になってついてきていたマリアは庇うような発言をしているが、ルミーナまさか裏で俺の服を着たのか? 別に構わんが、色々仕掛けられすぎてるから何か欠けてないか心配になるな。

 結乃は一度製作を開始すると完成まで一気に作っちゃいたい人なので、今から追加注文しに行ったところで対応してくれないだろう。魔力吸収効率が高いかどうかは、俺の運を祈るしかないな。

「んじゃそれで決定だな」


 遂にマリアが使用する銃も決まったことだし、後はフレームアーマーを見るか実戦が訪れるかで、今の地球はどういう状況で、対異世界人関係の戦闘はどのような惨状か実際に見てほしいが……最近は転移者が一切来ない。だから当然フレームアーマーも出ない。

 マリア初地球での料理は、異世界で作る料理過程をそのまま行えば同じ物が作れると考えたらしく――例えば異世界にある赤い大根のような野菜を、人参と同じと思って購入している――異世界で作る時と変わらず調達・調理したところ、想像していた味とはかけ離れた爆弾料理が出来上がったが、それも滞在時間が長いのでいつの間にか改善している。今じゃ普通の家庭料理だ。

 ルミーナも辞書の内容を殆ど覚えてしまい……それぐらい転移者が来ない日々が続いたので、しびれを切らした俺はとうとう最終手段の、フレームアーマーの知り合いを直接呼び出すという暴挙に出た。

 天を仰げば俺の監視役を請け負っている結奈(ゆうな)が居ると思ったが、最近は顔を出していないからか、外出中だと思われてそこにはおらず……結奈に電話して、住宅街十区にある公園に来るよう伝えておいた。

 この公園は別称パルクール公園とも言われる、よくお世話になる例の公園だ。俺達がのんびり歩いて来るよりフレームアーマーでひとっ飛びの結奈はもうついていると思ったので、着くなりパルクールすることなく周囲を見渡すが……

「来てないな」

 特に上空を見渡し、結奈がまだ到着していないことを確認したんで、ルミーナとマリアとパルクールでもして待とうとしたが……その必要はなかったようだ。

「電話とか滅多にしないのにどうしたのよ」

   今日はサイドテールにしているらしい結奈は、フレームアーマーらしくなく一般人の格好で、普通に地上を歩いてきた。知らない人間――ルミーナとマリアにガン飛ばしながら。

「何? 二人の紹介?」

「いや違う」

 動き回るのが趣味でもあり生業でもある結奈は、フレームアーマー以外だとクール系かスポーツ系のファッションをしている。それは今日も変わらず、フリルで段々構造のようになっているチューブトップは胸下で生地が尽きており、綺麗に縦線が入ったお腹が丸見えになっている。両肩に細い紐がかかっているだけで、鎖骨や腕も丸見えで、ミニスカみたいなGパンみたいなホットパンツとニーハイを履いている結奈の見た目をまとめると、チューブトップの生地、露出した腹部、ホットパンツの丈、絶対領域の範囲が全て同じ幅で、見た目の印象は悪くない。問題点とすれば、こんな格好他にするヤツ居るのかって点ぐらいだ。

 東京に出れば服装なんか人の数だけ個性豊かなんで気にせず、事前にルミーナとマリアには結奈の事を話しているので、何も知らない結奈に二人の説明をする。

「こいつらは俺の姉と妹だ。WB社志望じゃないが、ゆくゆくそっち関係の職には就く予定だ」

萩耶(しゅうや)って一人っ子だと思ってたわ」

 長らく監視した中で姉や妹と一緒にいる光景を見たことからか、少し驚いたような表情をしている。捏造話なんでバレなきゃなんでもいいと思って言ったが、もっと考えてから喋ればよかったな。

「それでなんだが、二人がどうしてもフレームアーマーを見たいって言うからよ、ちょっと見せてやってくれないか?」

 機密事項が多い上に、Wアラーム時は人類がシェルター内にいるので写真が撮れない。その為WB社が公開した数少ないイラストや写真でしか見ることが出来ないフレームアーマーと繫がりを持っているなら、知り合いのよしみを活かして現物を見させてもらうという、私利私欲だらけの要望をお願いする。

「はあ?」

 第一声は疑問。当然の反応だ。

 ルミーナとマリアが結奈をつぶらな瞳で見つめる中、

「そんなことで呼び出したの? バカなんじゃないの? もっと大切な話かと思ってた……訳でもないけど……」

「すまん」

 なんか結奈は肯定するわけでも否定するわけでもなく、急に不貞腐れたようになったな。てか思ってたのか思ってないのかどっちだ?

「で、どうだ?」

 登場からフレームアーマーじゃない結奈に変身? 装着? 着替え? 成り方は知らんが、なってくれるのを待つが……

「『どうだ』って何よ。調べれば量産機ぐらい画像出てくるでしょ?」

「実物はやっぱちげえだろ。恥ずかしいもんでもないんだからよ、見せてくれないか?」

 こっちに交戦の意思はないし、フレームアーマーになったことでWアラームが鳴っていなければ転移者が来たと島民が怯えることもないだろう。

「アンタが最近フレームアーマー見てないから、妹とか良いように使って見たいだけでしょ。相当な変態ね」

「なぜそうなった。てか何で変態なんだ? はい?」

 話をどう読み違えて、しかも俺の事を普段からどう思ってんのか知らんが、見下すような視線を向けてくる。俺だって好き好んでフレームアーマーなんか転移者より見たくねえよ。しかも機械相手に変態らしい行動や思考を思い描いてどうすんだよ。そーゆーのは新兵の担当だ。ていうかそもそも殺人兵器・フレームアーマーに変態的要素が含まれてねえだろ。

「でもアンタの要望なら見せてあげなくもないけど……」

 〔結局どっちだよ〕

 思わず口に出かけたが、見せてもいいならそんな回りくどいこと言わずにパッと見せてくれればそれでこの話はおしまいなのにな。

 頭を抱える俺に同じくルミーナも厄介そうに珍妙な表情を浮かべている中、結奈は先程までの表情一変、悩みこむようになり……

「でも、それができないのよ」

 要望に応えられないことを、嘘でも回りくどい言い方でもなく、本当に出来ない理由があるような言い方をする。

「フレームアーマーはWアラーム時と警邏時以外に起動すると法律で罰せられるの」

 だからWアラーム時以外はフレームアーマーがそこら辺で歩き回っていないのか。

 同時にフレームアーマーは起動式だと判明し、俺も知らない法律があることが判明したが……世間的にはフレームアーマーも違法者にしか見えないんで、この一言に尽きる。

「まじめかよ」

「まじめよ!」

 うわ、即答された。俺の監視役を請け負ってるぐらいだし、コイツは不真面目で流された奴だと思ってた。声とかは甲高いくせに、見た目は男勝りもいいとこだし。

「起動したらWB社に信号が行くのよ? アンタバイザーに情報が表示されといてWB社ってオペレーターがいないとでも思ってたの?」

「そんなことはないが……」

 不真面目だと思っていたから、そんな法律無視して起動するんかと思ったんだよ。

「まあ、無理ってんなら諦めるわ。勝手に期待した俺が悪かった」

 マリアに実際にWアラーム中の出来事の一部も見せてやる事が出来なかったし、ルミーナの時もいきなり実戦からだったので、異世界人に対異世界人関係を見せる運がないってことだな。これはもう妥協するしかない。頼みの綱はもうない。

「そんなこと言わないでよ! もどかしいじゃない!」

「知るか」

 そんなことを言ったってどうせ結奈には起動する意思がない。なんで、用が済んだので結奈とお別れすることにした。


「チッ。使えねーな」

 いくら待っても転移者は訪れないし、フレームアーマーは見られないし……フルタイムの授業が続いている中、朝から三年前にも受けた同じ内容を勉強せざるを得ない状況だと、徐々にストレスが溜まるのも無理はないだろう。碌な実戦が訪れないもんで、発散する対象もないからな。

「友達減るわよ?」

「いーよ、どーせアイツは敵対組織の人間だ。友達には慣れんだろ」

「そうでもなさそうだったけど……」

「バカなこというなよ」

 自宅に帰る途中、ルミーナが変なことを言うが、転移者を抹殺するWB社の社員とコンタクトしたとあって、未だに怯えているとでもいうのか? わけ分からん事言わないでいただきたい。

 ともあれ、地球に滞在しても何故か全然転移者が来やがらないし、マリアによる調理が始まったため出費が嵩張り、溜まっていたはずの売電で得た収入源も遂に底を尽きそうなので……俺たちは金もあり鍛錬する場所もある異世界に現実逃――いや、転移することにした。

「それじゃデリザリン王国最後の訪問とするか」

 自宅に転移して早々、王族が異常で、且つパブルス帝国との交戦状態は優勢とあったので、今後行くことがなければ見ることもないデリザリン王国に≪レベレント≫で赴くことにする。数か月も経っていないので、ミミアント商会の準備は終わっていないかもしれない。だから実際には最後じゃないかもしれないが……ミミアント商会の転移ぐらい一瞬だ。今回が最後ということでもいいだろう。

 デリザリン王国は人種差別があるので、エルフや魔族などの異種族が一切いない城下町を散策し始めるが……

「どこだ? ここ」

 最近はパブルス帝国第一首都・パブルスばっかり歩くもんだからか、他の町の記憶は薄れており……デリザリンの街中は昔に数回散策しただけで、ミミアント商会とバレット宿屋、行きつけの居酒屋の周辺以外は一切覚えていない。その為大通りから一本入っただけなのに、急に別の町に転移したかの如く周辺の景色が見覚えない。

「この道は通った事ないわよ。でも、あれが城だから、あっちに向う方が良いと思うわ」

「もう一回更地にしてくれ……」

 確かにルミーナが指差す方向を見上げると、町の中央だと思われる位置に聳える城が見えるので、あれを軸に動けば見覚えある場所に出れるのかもしれないが、パブルスのように区画整備されていないので、住んでいる人でもぽけーっとしてれば迷子になるんじゃないか? 渋谷とか新宿とかでも思うが、滞在していないので分からない上に、行く度景観が変わって見えると疎い者は困るんだよ。

 結局は意識すれば迷わない訳で、無心で歩くことは止めにする。するとしっかりバレット宿屋に到着したので、パブルス帝国に引っ越すことを伝えた。今回は珍しく筋トレじゃなく宿泊履歴を記録していたが、引っ越すと聞いて驚いていたな。パブルスにも店があるらしいので、バレットに会える確率は低くなっても気分転換に宿泊するもの良いかもしれない。

 他に思い入れがある場所は行きつけの居酒屋『シャガル ミネヴァルト』という店だが、そこには案があるので今は訪問しない。すると残すはミミアント商会しかなくなったので、最後に王族――の側近の、唯一正常で話が一番通じるブランに、本当にデリザリン王国が優勢なのか聞きにでも行く。カエラを信用していないわけじゃないが、流れでそう言ってたりしないか気になったからな。

 ここでデリザリン王国が劣勢とか言い出したらややこしくなるが……パブルス帝国の方の王族と仲良しなので、もうそうだったら聞かなかったことにして、俺たちは門番の前に姿を現す。

「王国第一新鋭騎士団長、ザリアス・デッパレンだ。そこのお三方、このお城に何か用かい?」

 全身金色の鎧を身に纏った、これまた金髪のザリアスと名乗ったこの男は……なんというか……

「キモっ」

 癖のある喋り方の時点で薄々分かっちゃいたが、関わっちゃいけんタイプの奴だ。ありえんぐらいの反応速度でルミーナの口から二度と聞けないような台詞出たぞ。透明になって侵入する方が良かったかもだ。

「酷いっ! 見てくれたまえこの自慢の筋肉ちゃんを! どんな攻撃でも通用しなさそうだろう? あぁ! 素晴らしい!」

 いきなり複数のポージングを決めるこいつは……何なんだ? 接する事でバカが移らないように、門番という城から離れた位置に飛ばされてんのか? ナルシストなのか何なのか知らんが、気持ち悪い他ない。

 続けて自身をイケメンやら格好いいやら大金持ちやら抱かれたい男ランキングナンバー1とか色々ほざき続けるので、話を聞いちゃいれん。横を素通りする。

「おっとっと。まだ話は終わってないぜ?」

「うっせえ黙れ」

 案外楽に撒ける貧弱門番なのかと思っていたら、後からドスドス駆け寄ってきて肩に手を置かれた。

 この人的には友好的に事を進めたいんだろうが、この接し方に耐えられない俺は反射的にボディーブローをかましてしまった。あーあ、できれば平和的に行きたかったな。拒否反応が出た。

「お……う……き、きもちいパンチだっ、な……っ」

 コイツ、軽く殴ったといえど、倒れはすると思っていた。でも腹を押さえてたったままで、寧ろ快感だったみたいな発言をしてやがる。いやー、キモい。

「おいまさかこの城ってメアリがSだからMが蔓延ってたりしないよな?」

「さあ? そんな気もしてきたわね」

 MはMでもドが付くほどじゃないと激痛には流石に耐えきれないらしく、腹を抱えたまま倒れ込んだザリアス片目に、再びデリザリン城を見上げると……晴天のはずなのに、何故か邪悪なオーラで包まれているように周囲が暗く見えてきたぞ。この国は奇想天外だな。

 この国のヤバさをより垣間見てしまった俺たちは、門番を一人ノックアウトしてしまったので、魔法で気配を消して城内に侵入し、一度通ったのでわかる……今王族がいるであろう部屋に接近する。

「ほーら、こっちですわ~。とってみなさーい」

「わう、わうぅー!」

「は……?」

「うわぁ……」

 室内をどこから覗き、どのタイミングで突入しようかなど、突入方法を考えていると……室内から不気味な声が二つしたんだが? まさか今日も例のアレ、やってんのか?

 引き攣った笑みで固まるルミーナと、過去の自分を思い出してどこかが違う所に疑問を浮かべるマリアと一緒に、俺たち三人は一旦隣の部屋から覗き込むことにした。もしアレがアレ系だったら、突撃するタイミングが分からなくて侵入者として仕えている人に見つかるからな。

 隣の部屋は丁度誰もいない寝室だったので、扉を魔法で施錠し、魔法で壁を透過すれば……即席隣の部屋シアターの完成だ。

 壁一面が一方的に透ける形となり、奥の部屋が露わになったそこには……四つん這いのアルマに跨り、紐の先端に付けた食べ物を振り回しているメアリと、それを必死に食べようと奮闘する縛り上げられた状態のアルマが居た。あまりの状況に、あの二人を呼び捨てにしてしまったが……もういいだろ。こいつらを敬ってさん付けするのはバカバカしい。寧ろ蔑称を考えてやりたい。

「やっぱ改めてみるとここの国王はダメだな」

「これでよく国が回ってるわ」

 俺達目線からするとお互いアレの何が楽しいのか見当もつかないが、二人はいたって幸せそうだ。これで悲しむやつは見る方だけってことか。はぁ、バカバカしい。

「どうするよ、アレ」

 挨拶をしに来たのは良いが、ブランはいないし二人は楽しんでいる。この中に足を踏み入れる気には早々ならないが……

「それでも行くしかないわよ。二人が激化しないとブランは咎めに来ないだろうし」

「はあ……」

 ルミーナがそういうなら、この周辺にブランっぽい気配は一切ないんだろう。ブランって二人が激化したら来る存在なのかは知らないが、そうであるなら二人の前に現れて、何とかして激化させないといけない訳か。気が進まないが、情報を聞き出す為には……背に腹は代えられん。 

「失礼するぞ」

 部屋に乱入するしかない俺たちは、どんな瞬間でもお構いなしで扉を押し開け、メアリの前に姿を現す。

「このバカ犬ぅぅぅ!」

「失礼しました~」

 ヤベっ。完全に入るタイミングを間違えた。適当に入るつもりではいたが、丁度メアリが至福そうにアルマを叱るところだったじゃないか。急に会話が止まったので終わったかと思っていたが、制裁の準備段階だったのかよ。分かるか!

 開いた口と立ち去る時の愛想笑いが保たれたままの俺は、続く声に焦りを浮かべる。

「ちょ、ちょっとまってくださいまし! 誤解ですわー! ……あ、さっさと捕まえに行きなさい! 死刑にするわよ!」

「かしこまりました」

 大声で俺たちに向けた偽善発言をするが、こっちは全員耳が良い。例え野太い小声でアルマを命令していようと、聞き取れてしまう。

「SM関係って奴隷契約を超越すんのか!」

 今見た光景や前に見た時に分かっているが、二人は指輪や首輪をつけていない。魔法かもしれないが、それはあり得ない。魔法だと、あそこまで服従しないからな。だが、現実は非常に奇妙で、自由の身のはずのアルマは、首輪をつけていないと可笑しいぐらいの体罰を与え続けられているのに喜んでいるのだ。身近にMがいないのでどれ程の者かわからないが、Mとはそういう奴みたいだ。

 小悪魔どころじゃない大悪魔は、追っ手を手配している訳で……

「立ち去る?」

 早めの判断を求めるルミーナは、立ち去るなら立ち去る用の、立ち向かうなら立ち向かう用の魔法詠唱する気満々だ。

「いや、見つかろう。立ち去るのは目標を達成してからだ」

 ここまで来て聞きただすチャンスを捨てるのは勿体ない。永年指名手配されるより、S的攻撃をされる方がまだましだ。俺たちはMとは違った意味で耐えられるからな。

「早く探しに行き――あっ、ここにいらしていたんですの」

「もう無理あるだろ」

 鬼の形相で扉を蹴り開けたメアリは、目の前に立っていた俺たち三人を見て急に応接モードになるが、こちとらアンタの本性何度も見た。今更取り繕っても意味がない。

「そうですわね。でしたら記憶を消去してもらうか、口止めしますわ」

「はあ?」

 初めてあった時には既にその日常を披露していたというのに、今回は罰するのか。よくわからんが、メアリにもメアリなりの隠したい基準があるっぽいな。

「ほら、然るべき行為を行いなさい。そしたら気分で許しますわ」

 まず然るべき行為ってのがどんなものか分かっていないし、気分で許すならそれって絶対許さないよな? 黙っていれば見た目は整っているから好まれるだろうに、中身があまりにもクソすぎる。

 俺達がその然るべき行為を一向に行わないからか、

「ギロチンとアイアンメイデン、どっちが良くって?」

 笑顔でいるが、こめかみあたりに怒りマークが浮かんで見えるようなメアリの発言で知ったが、そんなもんこの世界にも存在していたらしい。

「なら然るべき行為ってのを教えろよ。こっちは冒険者で、上流階級のやり方なんか知らんぞ」

「今回が初だから特別に教えてあげますわ」

 家名が付いている時点で貴族と判断がつき、上流階級のやり方を知らない訳がないと言われれば困ったが、怒りのお陰でそこまで思考が回っていない様子。それに関しては何もツッコんで来ない。

 やはり応接時には正常を装うからか、Sのメアリが快く説明してくれるらしいので、やるかやらないかは別として、然るべき行為ってのは今後他の人に対しても有効的な知識となりえる可能性がある。ここは黙って耳を澄ます。

「人間たるもの、人の失敗や痛む姿を見て悦び、物に八つ当たりしてストレスを解消してゆく生物ですの」

 いきなり私見を語りだしたメアリにツッコミたい気分は満載だが、ここは黙って最後まで話を聞く。

「つまり、わたくしにストレスを与えた罪滅ぼしとして、萩耶新谷(あらや)もストレス解消に使われるだけのモノになりなさい」

 どうやらこのメアリは、応接相手も気に食わなかったら途中から本性を現し、自身に服従させ、自分の思い通りにしているんだろうな。如何にも言いなれている感じがあるし、脚を舐めろと言わんばかりに差し出す仕草が今回初のものとは思えない。何食ったらそんなひん曲がった性格になれるんだよ。

 当然言われても行動を起こさないので……

「ここまで言われてわからないかしら。お手本をお見せしますわ」

 お手本と聞いた途端、小声で「ありがとうございます」とか言いつつメアリの元へ四つん這いの状態で現れるアルマ。コイツぁ本当にMだな。エグい。

 〔この城に仕えている人は全員Mなんじゃないか?〕

 〔マゾヒズム、面白い略語ね〕

 〔面白くねえよ〕

 この世界にSとMの概念がないみたいな反応はよしてくれ。

 ルミーナのせいも相まって顰蹙しながら二人のお手本を眺める。

 椅子に座っているメアリは、四つん這いのアルマの背中にパンツ丸見えお構いなしで片足を置き、

「要件があるなら跪いて脚を舐めなさい」

「はっ、はい!」

 とても嬉しそうに返事をしたアルマは、メアリの靴を脱がし、網タイツの脚に顔を近づけ、網の隙間を広げてから舌を伸ばすが……

「こんな愚民に舐めさせるほどわたくしの足は安くありませんわ! 靴でも舐めて磨きなさい!」

 最初から足を舐めさせる気はなかったようで、丁度いいポジションにきたアルマの顔面を蹴り上げた。アルマは舌を出しているので、顎の他にも絶対に流血した舌も痛んだだろう。

「わかりました」

 アルマは蹲ることなく寧ろ快感だったかの如く表情を綻ばせ、血で滲んだ唾液で靴を磨いでいくが……

「アホゥ! 磨くアホがどこにいるんですの⁉ 汚い唾液が付着する上に、赤く染まりますわ!」

 結局何をやらせたいのかわからんメアリは、四つん這いのアルマに踵落としする。

「全裸になって首輪を繋ぎ、わたくしを乗せて町内一周なさい! 今までは調教、これからは褒美ですわ!」

 これが本当の要望と言わんばかりにアルマの全身タイツのような服を破り捨て――中は下着じゃなく、何故か縄で縛り上げているが――息が出来なくなる程強力に首輪を細く結んだ。

 〔……なんか集中してるというか、もういつも通り楽しんでるようだし……帰るか〕

 〔もうきっと私達の事なんか忘れているわ〕

 廊下に向って進み始めた二人を眺める俺たちは、正直言って何を見せられてんのか分からないし、不愉快でしかない。しかもこんなのが上流階級間で行われる然るべき行為な訳がない。メアリが楽しみたいがために嘘を吐いて要望しているだけだろう。

 これを本性を盗み見た罪滅ぼしとして俺たちにやらせるのが本来の目的だったはずなのに、途中から俺達が居る事すら忘れて楽しそうにしているので……本当にこいつらは何がしたいのか理解できん。ので、しれっと≪レベレント≫で逃走する。

「あーあ、収穫ゼロか」

「寧ろマイナスよ」

 勝手に消えると文句言われそうなんで、適当に声出して会話し……

「――逃走していますわ! 指名手配を出しなさい! 褒美はアルマを嬲る権利よ!」

 去り際、面倒くさくなりそうなことを叫んでいたような気がするが、そんな事よりも発言の途中から出せない声や真似できない声がない(かえで)でも吃驚するぐらい、実は男でしたとか言われないと理解できないレベルで野太い声に変わっていたような気がする事に驚愕だ。

 まだまだ闇な一面が沢山ありそうなデリザリン城から離れ、結局二カ国間の情勢確認は出来なかったが……カエラが言っていたのを信じればいいだけの話だ。嘘吐くような人じゃないし、信用していい相手だしな。

「よし、デリザリン王国とは一生縁を切ろう。そして記憶からも消し去ろう」

「あんなのは見ていなかったわ……ただの夢よ……」

 テレビとかで衝撃映像として取り上げられるものを卓越した衝撃映像を目撃した俺たちは、記憶を忘れるように自分に言い聞かせ、自宅で各々頭を抱える羽目になった。

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