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悪役令嬢シリーズ

破滅フラグ持ちの悪役令嬢は殺し屋家業を始めてみました。

作者: ゅべ

 短編約6000字程度の物語です。


 どうぞよろしくお願いいたします。

 時代を語る、そんなインテリ染みたことはテレビの中だけの話だと思っていた。


 どこかのニュース番組のコメンテーターの様に気取りながら時代の流れに感動を覚えるのだ。そして言葉の何処かに己の育った時代と比較しては「すごい時代になったものだ」とか「これが今後実用化されたら」などと良く理解もせずにそれらしい言葉を述べる。



 そんなもの、クソ喰らえだ。



 私にはそんな先の未来など必要が無いからだ、私には残された時間が無いのだから。どうして私にそんな事が断言出来るかって? 医者に余命宣告でもされたのかって?



 否。



 私が悪役令嬢に転生してしまったからだ。


 一仕事を終えて深傷をおった状態でベッドで眠りに着いて気が付けば俺は豪華な屋敷の豪華な一室で公爵家の令嬢として目を覚ました。俺は寝ながらにして死んだらしい。


 私は女子高生の間で流行っていた『ラブ・ラビリンス』と言う恋愛ゲームの中にいつの間にか転生してしまったらしい。『らしい』と言って転生自体を断言出来ないのは私がそのゲームに詳しく無いからだ。



 私は殺し屋、現代日本の裏の世界で最強と謳われていた存在だからだ。



 だから恋愛ゲームなどテレビのCM程度でしか知らず、流れていようとも朝のコーヒーの片手間に「ふーん」とため息交じりに適当に聞き流すのみだった。電車の中で女子高生グループが「あの恋愛対象の攻略が大変なのよねー」と愚痴っていようとも私は鼻で笑っていた。


 お前は随分と暇だなと、平和で良いなと。私は長年連れ添った相棒の消音サプレッサー付き22口径の拳銃と共にクラシックに人を殺す。上着に拳銃を忍ばせてターゲットを殺す時にスッと取り出すだけで良かった。


 だから私は時代なんて考えない。どの様に時代が流れても私はクラシックに人を殺すからだ。そんな私が転生された異世界で初めて時代を考えてしまったのだ。


 鳴り響く銃声に蠢く怒声、私はこの異世界で悪役令嬢ながら殺し屋稼業を始めたのだ。そして初仕事にものの見事に失敗する。私はドレスの裾をあげて必死になって廊下を走っていた。


 この世界での私の名前は『シンシア・マタハリー』、最高の美貌と最悪の性格を併せ持ったこの国の第一王子の婚約者だった女だ。確か転生前に電車の中で女子高生グループは「シンシアって悪役令嬢は見てるだけで胸くそ悪くなるのよねー」と言っていたのを覚えている。


 この世界に転生してからも私は己自身をしっかりと調査してみた。確かに最悪だった、この女の周囲からの評価は最悪なのだ。公爵家の出のシンシアは身分至上主義で王子と共に入学した学園内で身分の低いものたちに威張り散らす日々を送る。


 この世界では王侯貴族は一定の年齢になると全寮制の学園に入学する事が義務付けられているのだ。


 そして王子の婚約者である彼女を取り巻く令嬢たちによって更にその傾向はエスカレートしていくのだ。身分の低いものたちをあざけ笑っては陰湿なイジメを繰り返す。終いには教師どもを金で買収して己の悪評を裏で操作するのだから最悪以外に感想は無い。


 聞いた噂によると婚約者の王子からも愛されず、その王子は心を埋めるように学園で出会った低位貴族の令嬢と心を通わせて恋愛を貪っていると言う。その令嬢に嫉妬したシンシアは犯罪紛いの嫌がらせを繰り返してはほくそ笑んでいたらしい。


 聞けばそう遠くない未来にシンシアは王子の手によって極刑か国外追放されるのが妥当だと言う、聞いていて惨めな女だと何度も思ったよ。


 だが私は私だ、如何に悪役令嬢に転生しようとも生き方は変えられない。だからこうして異世界転生しようとも殺し屋家業をするのみだ、今の私が貴族だろうとそんな生き方は今更出来ない。出来よう筈がないのだ。


 私は息切れしながら右手に紅茶のカップを握りしめて走っているのだ。どうして紅茶のカップを持ってるかって?



 それはコレが暗殺の武器だからだよ!!



 ふっざけんなよ!! どこの世界の暗殺者が紅茶のカップを暗殺の武器に選ぶんだって話だ、どこぞの色香を使ってベッドの中で男を殺す女スパイじゃあるまいし。この異世界の武器概念ってどうなってるのよ!!


 この世界は何か強制力の様なもの働くのだ、銃に剣、そして槍に斧など私はこれまでにいくつもの武器を手に取って試してきた。それらを所持は出来るのだ、だが絶対に使用することだけは出来ない。


「くっそ、くそくそ!! どうして銃のトリガーが引けないんよ」

「コッチにいたぞー!! 王子の命を狙ったテロリストを追い詰めるんだ!!」

「くそ、コッチにも追手が回ってきやがった!!」


 私は念のためにと持ってきた拳銃のトリガーを走りながら力一杯引いてみた。だが何度試しても引けない、私は悔しさで表情を歪ませながら逃走経路を走っていた。


 暗殺の計画を立てたのだから、失敗した際のそれも事前に決めておくのは当然の流れだ。私は王宮に忍び込んで王子の暗殺に失敗した。そしてそれがバレて王子の周囲にいた護衛に追われているのだ。


 そして護衛によって王宮内の騎士どもが私を追い詰めようと血相を変えてドタバタと慌ただしく動き回るのだ。



 そもそもどうして私なんかに王子の暗殺が舞い込んできたのやら。悪役令嬢の初仕事が婚約者の暗殺だなんて、皮肉にも程があった。だが主だった武器が使えないのならば他にもやりようがあろうと思いついて私は婚約者とのお茶会を扮してターゲットを暗殺しようとしたのだ。



 それならば紅茶のカップも立派な武器となる。



 幸いにも私は王子の婚約者、ならばお茶会をする事自体に違和感は存在しない。王子へお茶会の誘いをしたところ、すぐさま了承されて私は王宮に出向いて彼を接待した。



 そして事前に給仕室で使用予定のカップに毒を塗ろうとしたのだ。そしたら毒もまさかの武器扱い、俺は事前の確認を怠って犯行に及ぶ前に犯行現場を給仕の侍女に目撃されてしまったのだ。



 そして今に至るわけだ。



 毒すらも武器扱いなんて思いつく訳がないだろう!! まったく、この世界は本当に狂っている。私は自分らしさを貫くべく殺し屋になろうと思った矢先に現実を突きつけられるとは。


 最悪なのは毒を盛った現場を侍女に見られてしまったこと、おそらく今頃は私が王子の暗殺を図ったことがターゲット自身にもバレている筈だ。私は己の未来を想像して容易にその結末に辿り着いた。



 そして走りながらにソレを口にした。



「……極刑だろうな。どんなに良くても国外追放だろうが王族の命を狙った輩を野に放つなどあるまいよ」



 この異世界はどう言うわけか罪を犯したものの末路は三パターンしか存在しない。ソレが実刑に国外追放に無罪放免。どう言うわけかこの世界の裁判は賠償金や執行猶予と言った類の判決が存在しないのだ。



 それもゲームの世界だからかな?



 私はこれを武器の所持と同様にゲーム内の強制力だと考えている。この世界にも犯罪は存在する、大小数えればキリは無いが人殺しから銀行強盗に万引きなど当然ながら現実世界と同様に多くの種類の犯罪が存在するわけだが。


 子供が万引きした程度で国外追放だなんて絶対におかしいよね!! 酔っ払いが大通りの裏路地で立ちションしただけで極刑とかありえないでしょ!!



 だから私は絶対に捕まるわけにはいかないのだ。



 そしてこの仕事を始める直前に思い付いて実家を出る前に咄嗟に詰め込んだ武器を鞄から取り出す。そしてソレを見つめて私はゴクリと唾を飲んだ。ある種の確信があった、おそらく私が扱えない武器には共通点があるのだと思う。


 私は悪役令嬢だから転生前に比べて力も腕力も無い、私は非力なのだ。だが不幸中の幸いで、走力だけはあった。これは転生前の私と遜色ないレベルのもので、だからこそ私は追手に捕まる事なく逃走出来ている。


 つまり私が非力の設定だから重量物が取り扱えないのでは、と言うのが私の出した答えだった。毒はおそらく知識が不足していたため使えなかったのではないだろうかと。となれば重量物でなく知識を充分に備えていれば武器も扱える筈だ。私が鞄から取り出したものは『爆薬』、それも私が自ら調合したばかりの試作品。



 TNT、つまり爆薬だ。



 私は助かるために必死で逃走中にそこいらにTNTを設置して逃げ回った。右手にはTNT、左には起爆用のリモコン。後ろには私を追い回す護衛の騎士ども、私は藁にもすがる想いでリモコンの起動ボタンを押した。



 ボタンはポチッとわざとらしい音を立てて沈んでいく。



 そして同時に後方から爆音と大勢の悲鳴が鳴り響くのだ。


「ぎゃああああああ!! なんだ、爆発!?」

「隊長!! あのテロリスト、どうやら爆弾を所持している模様です!!」

「ぐぬぬぬ、あの女め、殿下の命を奪おうとしただけでは飽き足らず王宮内で堂々と爆破テロだと!?」

「シンシア・マタハリーをこの国の歴史史上もっとも重い刑に処さねば示しが付きませんな!!」


 何? この国には極刑以上に重い刑が存在するとでも言うのか? 私は後ろの騎士たちの会話に思わず耳を傾けてしまった。そして廊下に立ち込める煙に乗じて再び逃走を図りながらバカげた答えに思わずズッコケそうになった。



「あの女は国外追放してから極刑だ!!」



 結局はソレしかないんかい!! 極刑と国外追放をセットにすることが国家最大の刑罰だとは流石は頭の緩い女子高生が現を抜かす恋愛ゲームだと私は辟易しながら目の前のドアに手を掛けて部屋の中に入った。


 そしてドアを閉め、勿論の事しっかりと鍵もかける。ガチャッと鍵の音がしても私は確認のために数回ドアノブを回して施錠をチェックした。そしてようやく一息付けると「ふう」とため息を吐いてから部屋の一点に視線を移した。


 

 王宮には武器庫が二箇所存在する。一箇所は騎士団の詰所にある有事の際に使用される実戦に則った武器庫で、もう一箇所は私のいるここだ。ここは王宮内を警備・護衛するための騎士たちが武器を保管する場所。


 つまり私を追ってきた騎士どもが使用する武器保管場所だ。


 俺はこの場所に逃走経路を確保しつつ悪役令嬢と言う立場にもピリオドを打つつもりだったのだ。もし王子の暗殺が成功していればもう少しだけ悪役令嬢を演じ続けても良かった。我がマタハリー公爵家はこの国の政治の舵を握る家系、ソレを隠れ蓑にしてもう少しだけ殺し屋家業を続けていたかった。


 こんな家業をしていればいずれはバレる、そうなれば国外追放などに処されなくとも自ら国外脱出を図る日はそう遠くない日にやってくる。そのためにも私は金が必要だった、つまり逃走資金の確保も私にとっては重要な事だったのだ。



 そのための殺し屋家業だった。



 だが私の存在は白日のものとなり、全てを無に帰さない限りは私の未来に安寧はない。そして調査の結果、この武器庫には悪役令嬢の私でも扱えそうなものが存在することを知った。『武器』ではなく『もの』だ、私は捲し上げていたドレスの裾を下ろしてコツコツと歩き出していた。



 その向かう先には一台の装置が設置されている。



 この王宮の『自爆装置』だ。どうやらこの国は敵国に攻め込まれた場合を想定して、王宮全てを爆破させる自爆装置を備えており、有事の際は国王の手によって作動する手筈となっているそうだ。




 アホらし。




 恋愛ゲームとはそんなものなのか? 私は恋愛ゲームなど疎いから良く分からないけど、甘い蜜のような少女の恋愛と逼迫状況にある国家の存亡がどうつながるのだろうとため息交じりに首を横に振っていた。そして件の自爆装置の前に立ってその起動ボタンを探す。


「あった。この赤いボタンだな」


 私は令嬢らしく細くしなやかな指をボタンの上に置いた。僅かだが殺し屋家業を始めるために武器の扱いに四苦八苦した証として手にはタコが出来ている。そんな令嬢らしくない手を感じて、やはり今更になって生涯令嬢を演じとなどと言われても無理だと実感してしまった。


 私はボタンを押した。


 すると王宮内に緊急警報が鳴り響きゴゴゴゴと誰もが容易に想像が出来る音を響かせて、まるで大震災の如く王宮全体が揺れ始めた。部屋の外では護衛の騎士どもが騒ぎ出して、その原因だろうこの部屋のドアをドンドンと叩いてきた。


「テロリストめ!! 王宮の破壊まで目論むとは絶対に許せん!! 貴様には国外追放してから極刑など生ぬるい、引っ捕らえて極刑にしてから国外追放してやるぞ!!」



 刑罰の順番が変わっただけ!? そんな事で刑の重さが変わるのかよ!!



 だが私にはまだやる事がある、無論王宮からの脱出だ。これも調査済みで武器庫には外に繋がる道がある。だがそれは王宮内でも公式のものとはされておらず、私がたまたま発見したものだった。


 王子を暗殺するのならばその殺害現場である王宮の全てを把握するなど殺し屋からすれば当たり前の事だ。私は事前に王宮の設計図に目を通して、その隅々まで目を通したのだ。その結果、王宮内の武器庫にはどう言うわけか暖炉が設置されている。


 電車の中で女子高生グループが「王宮の武器庫にある暖炉が王子ルート攻略の鍵なんだよねー」と言っていたことを思い出して、私は閃いたのだ。それを使えば失敗した時にも闘争に使えるのではないかと。


 そしてその感は当たっていたらしく王宮の設計図で確認した時にこの暖炉が城下町の外にまで繋がっている事に気付いたのだ。内部はスラロープ式に設計された滑り台となっていた。おそらく初代の国王が王族の逃げ道として設計したのではと私は推測した。


 だが時代と共にその存在が忘れられ、気が付けばこの滑り台も平和な世の中と共にお役御免となったのだろう。




 私はまたしても時代を考えていた。




 と言うよりも憂いて私と同じ様な存在だと感じ、滑り台に一種の共感さえ感じていたのだ。私はクラシックな殺し屋だ、日本にいた時でさえ銃など時代遅れだとバカにされて、毒でも使えばもっとスマートに仕事が出来るだろうにとロートル扱いされてきた。


 今回は苦渋の決断で毒に手を初めてみたが、結果失敗。やはり俺はこう言ったことは向いていないらしい。


 時代は人の命を奪わなくとも社会的に抹殺出来れば暗殺と同義だとパソコンからターゲットのそれに侵入して新世代の殺し屋だとハッカー紛いの事をする連中さえいた。私はどこまで行っても銃と共に生きて銃と共に死ぬしか考えられなかった男。


 そんな一つの事しか出来ない私は目の前の暖炉にニコリと微笑んでから同族嫌悪して中に飛び込んだ。


「お前は私だ、一つの事の拘ってその結果死ぬ。愚直とは皮肉だな」


 そこからはあまり覚えていない、暖炉から続く坂道は城下町の外にまで続いていたため長い時間をかけて私は滑り台を滑ったのだ。それ故に一日かけて脱出を果たす事となり、気が付けば寝てしまっていた。


 そして滑り台を滑り終えても私は起きなかったが、登る朝日と共に私は目を覚ました。こんな日はコーヒーでも飲みながらテレビのニュースを流し聞いていたものだと転生前の己の生活を思い出して深くため息を吐いてしまった。


 そしてもはやこの国に私の居場所はない、それが今の現実なわけで私は逃走でボロボロになったドレスの汚れを手で払い歩き出した。



 私はコレから隣国に向かう、この国にいてもロクな未来が私には想像出来ないからだ。私は私だ、己の道と生き様に抱かれて野垂れ死するのみ。それが私の望みであって私にはそれ以外に生き方を知らないのだから。




 私の人生と生き方は決して明るいものではない、寧ろ日の光を浴びない道だった。朝日は眩し過ぎる、その見た目とは裏腹にまるで私を非難するように神々しさを併せ持っていた。その存在感に私は一種の確信を持って隣国へと流れていくのだった。



「まともな死に方は出来んな」



 この後、私は周辺国家でもその名を聞くだけで恐れられる殺し屋となるのだが、それはまた数年先の話だ。

 評価や感想などして頂ければ執筆の糧となり励みになりますので、

宜しければどうぞよろしくお願いします。

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