秋葉原でなにか
以前の仕事は、千代田区内を自転車で走り回っていた。
それは、クレーム処理での移動手段だったが、住所は神田でもほぼ御徒町からお茶の水近くを走り回っていた。
ある日のことだ。
その日も自転車で走っていた。
場所は秋葉原。時間は午前の遅い時間。ひたすらに明るい時間帯で、天気だった。
秋葉原駅から少しお茶の水側に万世橋という橋があった。
神田川の上にかかる橋ではあったが、何の風情もなく周囲はコンクリートで固められているし、少し高級の肉の万世のハンバーグが食べたいと思っていたくらいの場所だった。
そこで、自転車で橋を通る間の10秒弱。いや5秒くらいかな幅はあっても短い橋だったし。
その間に、妙な物を見た。
坂になっているので立ち漕ぎをしていた。
すると、立ち漕ぎをした頭の左側30センチくらいの場所に、灰色のひし形の何かが浮いていた。
それは、中央の暗闇が瞬いていると思ったら、唇が開いたり閉じたりしているのだ。
青い唇はパクパクとしている。音を発している?嫌でも気になり耳を澄ますと
「おーん。おん。おーむ。おーむ。あーむ。おーん。あむ」
と繰り返している。
青い唇の奥の白い歯が覚えているが、舌とか口腔内とかは分からない。
そして、ひし形だったのは、鼻の下を頂点に唇の少し横まで、下は顎の下首に少しかかる位。
唇の周りの皮をはいだようで、ひし形の周辺は黒い部分があったので血の固まった後だろうか。
ぴろぴろと風を受けて翻る喉の皮。真皮の白い部分と肉の赤黒いのが観察できる。
いや、観察したくないのだが目が離せないのだ。
それが、橋の上を私と共に並走して、橋が終わるところで消えた。
唇の形やなんとなくの周辺の肉付きから、女性か細い男性かな?
そこの橋は何十何百も往復している。
クレーム処理が終わり、15分後に再度、同じ橋を今度は反対側を通ったが何も無し。
その後も何度も通り過ぎたが、何も起こることは無かった。
あの時、何を言っていたのか気になったがずっと分からなかった。
それか、近いものを見つけた。
YouTubeで何となしに見たのだ。サンスクリット語の般若心経だった。
般若心経ではないかも知れないが、サンスクリット語では間違いないだろう。
サンスクリット語で経文を唱えられる日本人は遥か昔からどれだけの数が居たか。
古代インド語である。それが中国に渡り日本に来た。
中国で漢字での当て字が行われ、日本でも更なる改良がされた。
サンスクリット語で唱えられるのは、一部の宗教家、宗教学者であろう。
女性では可能だったか?
女性でサンスクリット語で経文を唱えられるのは居たのか。あれは若い男性だったか。
見たことを幽霊に詳しい人、二人に伝えていた。
1人は関東大震災とか東京大空襲で爆発した人じゃないか?と。
もう一人が言った言葉を思い出して鳥肌が立っている。
人柱だよ。
江戸城を取り巻くように、人柱か何かの結界が張られているからね。
ああそうか。
確認しようもないが、妙に納得できた。
しかし、立ち漕ぎで変な物に遭遇すると、まず手で払いのけたくなるが、不意にやってバランスを崩す。
「くっそう。おのれ。危ないじゃないか。
驚かせて自転車を転ばせるのが目的ではあるまいな?」
と勝手に危ない目にあったのを他人の責に簡単に擦り付けられる自分だった。