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徒然と  作者: くろたえ
8/15

釣りに行った。竿を引いたのは何?/もしかしたら獲物だったかもしれない私達。

 ●小樽の海岸の一つ。

赤岩あかいわ」という場所がある。

崖を降り、(道がない)砂利の海岸までにゴロゴロとした巨大な岩の間を、上り下りして海岸までに辿り着く難所である。

 

 夏。海は夜釣りである。

夫とその友人と私の3人で行った。

釣れるのは、ニシンかホッケかゴッコか、もしかしたらヒラメ。

三人でバラバラになる。

夕日が落ちる。

落ちた先に赤暗い中に友人の影が小さく見えて、少しホッとする。

こちらはもう薄暗闇の中だ。


 夫も薄情にもさっさと自分の釣りをするために、行ってしまった。

行かないで欲しかった。

なんだか、何か分からないが怖かった。

 夜の海が怖いのは当たり前か。と思う事にしても、真っ暗で手元をヘッドランプが照らすのみ。

 時折、人の気配がするのは気のせいだと思いたい。


 例えば、横から誰かがのぞき込んでいるとか。

例えば、後ろを誰かが通り過ぎたとか。

例えば、ああ、夫が様子を見に来てくれたか。あれ?暗いな。ライトを点けていないの?

おかしいな?誰も居ないじゃないか。

そんな感じがしょっちゅう。


 クンっと竿が引っ張られた。

何かかかったか?

いや、根がかりかもな。

竿を持ち直し、リールを巻こうとした時、後ろから肩に誰かがのぞき込んだ。

息遣いまで聞こえる。

うわあっ。(パキン)近い!近い!誰だよ!

と後ろを振り返っても誰も見えず、ただ暗闇が広がっている。


 まっくらなのだ。

文字通りの真っ暗闇。


……さっき、何かがパキンといったな。

もう、竿は引いていない。

リールを巻ていると妙な感覚があった。

あれ?

竿先を確かめると、竿の先5センチ程が折れてしまっていた。

 先ほどの肩口に誰かの顔が近づいた気がして、バランスを崩したら折れてしまったらしい。

ヤバイ。これは、高い竿なのだ。

夫の持ち物はたいがい高い物だが、これは高い物なのだ。

冷や汗が出る。

 後ろをサワサワと気配がする。


「テメェ等のせいだからな」


後ろに向かって低く言い、誰も居ない闇の中を睨む。

 

 竿は夫に謝り倒して許してもらった。

そして帰り道に、車の中で夫が言った。


「さっきの場所さぁ。霊場れいじょうなんだよね。結構人居たね~」


「へ?」


「霊場だから、集まるんだよ~」


「なんだか、夫さんが来たかと思ったら、誰も居ないことが沢山ありました」


「そうそう。死んだ人だね~」


そんな場所に連れて行って、一人にしないでほしい。

私は怖かった。怖い正当な理由があったのだ。


その帰り道も、私が怖い思いをしたと聞いた友人が、嬉々として


「このトンネル出るんだよ~」


と楽し気に教えてくれるのが、この時ばかりは気に障った。


「そういうのは、通り過ぎてから言ってください!」


「あはははw」


イラっ。


北海道のトンネルはマジに怖いです。

そして、海岸が霊場になっている場所が沢山あります。


ちっくそーっ。もう行かねぇぞ。



●札幌から車で1時間もかからぬ場所に大自然がある。

定山渓。東京だと高尾山くらいのイメージかな。


早朝、渓流釣りに来た。

夫と夫の友人の男性2人と私。

皆、胸までの胴長を着こんでいる。まだ冷たい5月の半ば。

川を水の中を歩きながら、時折流されかけて上流へ上る。

上流を目指しながら、川の石の影、水流が溜まる場所、木が覆い被さったような場所にルアーを投げていく。

釣れるのは、イワナかヤマメ。

20センチほどのイワナを数匹。小さいのでリリース。


 山が深い。水は清く流れが強いが濁る事もない。

大自然にお邪魔させてもらっている人間が4人。

海ではさっさとばらけるが、川ではいつでもお互いが見れる場所に居るようにしている。


 くん。何だか妙な臭いがした。

犬の背中の臭いに似ている。脂臭い?初めて嗅ぐ臭いだな。


釣り場はあらか見て回ったので車の在る場所まで戻って、また上流を車で登り、そこで降りて釣り場を歩くと言う。

回れ右だ。

歩いた道を戻る。


 と。下を見た。

見付けてしまった。

自分たちの足跡の上に付いた、大きな足跡。

4つの丸を持つ横に長い楕円の足跡。4つの丸の先に釘で刺したような穴。爪の跡か。

手の幅15センチほど。

結構巨大な熊が、居たらしい。


 15分前の足跡の上に付いている。

私達は気付かなかったが、熊は気付いてそっと帰ってくれたのだ。

さっきの獣臭さは、熊だったか。

臭いを嗅いだとすると風下に私たちが居て、熊が気付かずに近寄り、音とかで気付いて引き返してくれたのだ。

皆でぞっとして、4人で団子になって帰った。

 車までは40分は歩かなければならない。どこかで、熊に見られている気配を感じながら恐怖の「大自然を満喫」させてもらった。


 渓流釣りの場合は、食べ物は持ち歩かないようにしている。

飲み物は持つが、袋を開けたようなパンや食べかけの何かは持ち歩かない。

車に置いてくる。


最初になんとなくの注意をされていたが、こういう事なのだと体の芯から納得をする。


15分前の自分たちの足跡の上に熊の足跡があったという事は、静かに音もたてずに消えてくれたという事は、50メートルも離れていなかったんだろうな。

と背筋が冷えた。


 早朝の山の肌寒さが日中の陽で暖かくなってきたが、妙に寒く感じた。

 

 山には熊が居る。去ってくれたが熊が居た。


 車に着いてから緊張が解けて熊の話題になった。


 足跡の大きさから言って、結構大きいだろう。

逆に若い熊じゃなくて良かった。2歳の若熊は、好奇心が強く最近の熊は人を恐れないから、ニアミスで恐怖か興奮して襲ってくることも考えられた。

と。


 ち、ちっくそーーっ!絶対にもう行かねえぞ!




固く心に決めた正午前だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 夜の海は怖いですね。 怖くない時もありますが怖き時は本当に怖い。 真っ暗で何も見えない時、波の音で安心する時もあれば 深い闇に飲み込まれてしまいそうな変な気分になる時も 海は深いな大きな …
[一言] 前話から続けて読ませていただきました。 ポスティングの恐怖……! 見えなくていいのがウッカリ見えてしまうのですね…… 隙間から目だなんて。ゾワゾワ…… 怖さのレベルが全然違いますが、小さい…
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