ごめんね。 怖い話じゃないのよ。責任放棄。もう愛しているとは言ってはいけない。
あれから、2カ月がたった。
まだ、夫婦で会話に出そうになるのをハッとして止めている。
懺悔である。
我が家には猫が二匹居た。両方黒猫だった。
その内の雄のネコを手放して70日が経った。
手放したのは、同居のメス猫とのケンカが絶えなかった事。
一昨年の私の入院で、メス猫が分離不安症という心の病になり、私の姿が見えなくなると不安になり泣き喚く。だっこすると幼児退行するなど精神的に不安定になり、私は彼女に付きっきりになった。
オス猫は寂しかったのだろう。
そして、私を独り占めしているメス猫を憎んだ。
ケンカが絶えなかった。
オス猫の精神状態もおかしくなったのか次第に粗相もするようになった。
毛布を掛けなければ、羽毛布団にオシッコをする。大もする。
一生懸命にオス猫を可愛がり、小の粗相はおさまったが、大の方はおさまらず、彼が布団の上に乗ると一挙手一投足を見張るようになった。
フェロモンのスプレーを毎日布団にかけては、彼の粗相してしまうストレスを緩和させようとした。
それでも彼は私等が大好きだと、夜に寝る時は枕の間に寝ることを望んだ。
抱っこも大好きで、6キロ近くの大きな体で丸く腕で抱かれると何時間でも一緒に居ようとした。
そんな時に起こった。
布団の上で大をしようとしているのを見つけ、抱き上げトイレに入れようとした時、オス猫が私の目を引っ搔いた。
目から流血をした。
涙も混ざった血の筋が、顔に二本できた。
血が止まってから鏡で見る。
白目に赤い筋。近くの下瞼に5ミリほどの傷。顔の傷は広がるから出血が多くなるが、血の涙が頬を伝わり胸まで汚したので、結構な出血量だった。
夫が怒った。
彼は片目だ。その彼が、私の目を狙ったオス猫の存在を許さなかった。
数時間悩み、その後里親を探した。
翌日には3組、その翌日にはもう一組の里親候補が出た。
そこで受付を切って、その方々と話し、子供のいない夫婦に譲渡することに決めた。
「自分の子供だと思って可愛がります」
その言葉と、奥さんがずっと家にいるというのも安心できた。
その5日後に夫婦で来て、オス猫を連れて行った。
オス猫は4日間飲まず食わずで、5日目にご飯を食べ、その翌日の夜には布団に入ってきたと言う。人恋しかったのだろう。
10日前にソファーで寛ぐ、くーちゃん(オス猫)の姿を写真で送ってくれた。
今は家を空けることの多い御主人にも懐いてきたと言う。
もう大丈夫だ。
もう、彼は人の愛情を誰にも邪魔されずに体中で独占して安心している。
我が家に残った女の子は、一層甘え、おしゃまな女の子の様に夫には高飛車に、私には赤ちゃんの様に甘え、遊びをねだって夜には二人の間で眠る。
これで二匹とも幸せになったのだ。
オス猫は受け取った時には猫エイズだった。一か月以上里親候補が出なかったそうで、連絡を取ったら直ぐに家に来た。
猫エイズなら、沢山遊んで愛情をあげて、そして看取ってやろうと思ったのだ。
そうしたら、半年後の去勢手術の際の検査でエイズが陰性になった。どうやら母親がエイズだったようだ。
その幸運を夫婦で祝った。猫ボランティアの方にも報告をして一緒に喜んだ。
それらの事を思い出す。
ただ、オス猫が人を嫌いにならないで良かった。人の愛情を幸せそうに受けていて良かった。
ただ、私は猫を最後まで看取ると決めたのに、結局は捨ててしまった。
私は意味のない涙を止められないでいる。
悲しいが、人の(自分)せいで起きた事だ。
しわ寄せが猫に行ってしまったのが、ただただ申し訳なく思う。
ただ、男の子が人を嫌いにならないでくれたのだけは、本当に救われた。