私は霊感ないから構わないでください。
ものすごっく、小さな怪異です。
引っ越し先で
●3階だから階段でも行けるが、エレベーターを使った。
待ってでも使った。
だって、ふと見あげた時に2階の階段の一番上に子供の座った影が見えた気がしたから。
それは気のせいだと、しばらくしてから再度階段を使った。
一階から上を見る。
うん。大丈夫。
階段を登る。
2階に着く。
2階の廊下を歩いて3階への階段へは早足になった。
3階への階段を急いで登り、ドアを開けて中に滑り込んだ。
ドキドキドキドキ・・・
大丈夫。付いてきていない。
2階の階段の手すりの下から、男の子が見上げていた気がしたが、あれはきっと気のせいだ。
●その夜は一人だった。
夫は仕事で不在。
キッチンで家事をしていた。
音楽もない静かな夜。
キッチンの壁の向こうは廊下とリビングだ。
「〇〇子ちゃん!」
女の子の高い声で私の名前が呼ばれた。
急いで声のした方に行く。
キッチンの裏からしたのだ。
誰も居ない。
この家には私しかいなかったから、当たり前だ。
声のした場所の近くにはスピーカーの上にポポちゃん人形が置いてあった。
このポポちゃん人形は、夫の前の奥さんとの子供が小さい頃に遊んでいたという。
夫の前の部屋にあったのだが、余りにおどろおどろしいほど汚かったので、洋服を洗いベタ付いた髪を洗い顔も濡れティッシュで拭ってやった。
身体は布製なので、全身は洗えなかったが、塩化ビニールの手足も拭いてから髪を整え服を着せたら可愛い笑顔になった。
それは、夫と付き合ったばかりの時だった。
それから一年経ったくらいだろうか?
「ぽぽちゃん。私を呼んだかい?」
応えはなく、スリーピングアイの目が揺れているだけだった。
私を「〇〇ちゃん」と呼ぶ人は多いが「〇〇子ちゃん」と呼ぶ人は居ない。
そこに誰も居なければ、やっぱりポポちゃん人形が私を呼んだという事だろうか?
抱っこして髪を撫でながら、人形に名前を呼ばれたかもしれない不思議に怖がろうかと迷った。
そんな事があったと夫に話した。
「ああ、今は機嫌がいいよ。前の汚かった時は怒っていたけれどね。挨拶とか遊んで欲しかったんじゃない?」
と言われた。
まあ、私の事を好いていてくれている様だから良いか。
そして、夫曰く、ポポちゃん人形に何か入っているとの事だった。
「何かって何ですか?」
「大丈夫。今は機嫌が良いし」
なんだろう?見えている人って、それが当たり前だからか、なんだか説明が色々と不足している気がするの。
●夫のアトリエは友人の事務所の二階の一部屋を使っている。
その建物は3階建てだが、3階部分は建築法とかで使用は出来ず、倉庫のように使われて普段の人の出入りはない。
人の出入りがないからこそ、何か幽かな存在がある様で、時折頭上から足音や階段を上り下りする音がしていた。
しかし扉は普段閉まっていて、直ぐに開けられるとしても、階段への入り口も閉ざされてネジで固定されている。
なので認識としては、3階には幽かな何かが居るかもしれないけれど、ただ居るだけだから気にする必要はない。としていた。
ある日。
夫は体調不良だったので私が一人で来て、夫から教わっていた油絵を仕上げようとしていた。
静かな夕方である。
「誰かいるの?」
女の声がした。
振り返っても誰も居ない。
アトリエの奥のリビングも電気を点けた。もちろん誰も居ない。
ふと見ると、いつもは閉まっている上への階段の入り口が少し開いている。
その暗がりに目を凝らす前に慌てて閉めた。
「誰かいるの?」って、こっちのセリフだよ!とか思う。
でも、怖いのでさっさと帰り支度をして電気を消し、1階の人のいる場所まで小走りに降りて行った。
そこで、女性同士でこんな事があったんだ~。きゃー。怖い怖い~っ。とかきゃわきゃわ騒いだら恐怖も消えた。
その帰り道考えた。
「誰かいるの?」の意味を。
こちらは、3階の何かを幽かな存在だと思っているが、その何かも、私等の存在を幽かに感じているのかも知れない。
同じ空間で別の次元が交差しているとか。
彼らには、私等が異質で不思議で恐怖なのかも知れない。
ニコール・キッドマンがクラシカルな美女だった映画「アザーズ」のように。
私は見えない聞こえない。霊感ないし。
なのに、ほんの時々、奇妙な事がある。
霊感がないからこそ怖いのかも知れない。だって、霊感のある夫に聞いてもだいたい
「ああ、大丈夫だよ。悪さはしないから」
で終わってしまうから。




