そうよ、そこは事故物件
大島てるの事故物件サイトというのに、私の住んでいるマンションが載っていた。
笑うところだよね?
事故物件だとは知っていた。
内容は200×年に20代女性の飛び降り自殺。
築50年くらい経っているのに、結構最近なのね。
エレベーターは2基あるけれど、手前は動いているのに奥は止まっている。
止まっている方が暗く感じるのは気のせいだよね。
1階の奥の自転車置き場が怖いのは、単に灯りが届かないせいで雰囲気だけの事。
「あやし百話」で怪談を書き綴ったけれど、私自身は霊感が在るか良く分からない。
ほとんどの話が、自分が関係しても自分だけが見えなかった事が多い。
でも、住んでいるうちに、それこそ住めば都。
最初にあった先入観など日常の前では消えてしまう。
深夜のゴミ捨てだって、大丈夫大丈夫。(この辺りが少し大丈夫じゃない)
そんな感じで住んで2年が経った。
少し前の事である。
主人が友人との飲み会で遅くに帰ってきた。
お酒は強い人なのだが、喧嘩とか(負けないのは知っているけれど)財布落としたとか、海に溺れるとかあるので、時々しかない飲み会で度々やらかすので、無事に帰って来るまで安心できない。
と、その日はそんなに遅くもならずに帰ってきた。
仕事の話だったようだが、相手が余りにも無計画で、全部を押し付けようとしているのが丸わかりだったので、計画から抜けて帰ってきたと言う。
それを聞いて安心をした。何でも出来る人で今まで全部を被ってきたけれど、今は自分のために生きて欲しいから。
本人は辛口だけれど、懐に入った人は守ろうとして自分を削っちゃうからな。
とか思っていた。
そんで、寝ようとした時に話し出した。
「帰って来る時にさ、エレベーターに乗ったら押してない階に止まったんだよね。
そんで、知らずに降りて歩いていたら、廊下の向こうから二人の男女が来るわけよ。
男は黒と黄色のジャケット着ていた。女は特に覚えていないけれど、地味な印象だった」
「うん」
「通り過ぎた時に会釈をしたけれど、違和感を感じて振り返ったらさ、誰も居なかったんだよ」
「え?」
「はっきり人として見えたんだ。でも、振り返ったら消えていた。加えて俺が押しても居ない階に止まった。普通さ、エレベーターで押した階のボタンが光るじゃん?それもなかったのよ」
「え。それって」
「うん。死んだ人だった」
「俺さ、消えてくれないと幽霊だってわかんないんだよね」
「そんなにハッキリ見えるんだ」
「うん。普通に生きている人に感じた」
「違和感は何に?」
「こっちの会釈を無視したからかなぁ」
「サイトに載っていたのは若い女性だったけれど?」
「幽霊は中年っぽかったな。男の方が覚えているかな」
「何階?」
「4階。あれ?6階だったかな?」
「そこは覚えておこうよ」
「ああ、結局階段を登ったから6階だ」
「・・・これから6階通り過ぎる時緊張しそう」
「通りすがりとかなんか、結構いるからね」
「え?」
「だから、部屋の中とかも、たまに通り過ぎているって」
(いやーーーん!)絶句。
「いや、絵を描いている時、嫁ちゃんかと思ったら、知らない人が覗いていたりね」
(いやーーーん!)無言。いや、言わねば。
「ちゃんと、居座りそうなのとか、悪意ありそうなのとかは追い払ってくださいよ」
「そうそう居ないよ。ちょいって覗いていく感じくらいだから」
「十分に嫌です」
すぐこの間の会話。
そんな日常は要らないっす。
ちょっとドキドキしながら6階を通り過ぎるのを待っているが、相変わらず何もない。
なにか遭って欲しいわけでは全くない。
でも、思うのだ。
6階のエレベーターが通り過ぎる瞬間に、ガラスの向こうに男女の姿が在ったらどうしようって。