私はつかれたの
疲れたの。
憑かれているからね。
先週の夫との会話である。
夜の寝る前に椅子に座った時に思わずため息とともに言葉が出た。
「はぁー。疲れた」
じっと私を見る夫。
「そうだね。憑かれているからね」
考えを巡らせる。一応聞いてみた。
「疲労の疲れでしょうか」
夫が応える。
「憑き物の憑かれです」
またですか。
「お願いします」
夫が立ち上がり近づく。
「はい。後ろ向いて」
従う。首の後ろに手が当てられる。もう一方の手は額に。
夫の体温は高いのか、私が低いのか、この時の夫の手はとても温かい。
心で「あー。ホットアイマスクだぁ。首の凝りにも効くわー」とか思っている。
スァーーッという感じで温かさが首と目から入り込みの脳で融合し侵食される。
そんな数分。手を放す。目を開けると明るい視界に肩が少しだけ楽になっている。
「ありがとう。肩の凝りが楽になりました」
あきれ顔の夫。
「まあ、凝りも確かにありましたが、よくよく貴女は悪霊をのっけて来ますね」
「元からじゃないですよ?結婚してからだと思うんですけれど」
結婚する前には霊感が極小ということで何かに憑かれることはなかった。
結婚してから憑かれやすくなったということは、夫の臭いやマーキングのようなものが悪霊を呼び寄せて私をタクシーにしているのではないか?と考えている。
霊に憑かれている自覚はなかったが、鏡で見た時の自分の顔が青黒い歌舞伎の隈取のような文様が浮き出ていた時には驚いた。
歌舞伎の隈取というのは、ちゃんとした理由があったのだ。びっくり。
夫の霊力が高くて助かっているのだが、それゆえに呼び寄せている気が私はしている。
だから、マンションの一番奥の部屋なのに廊下側のキッチンのすりガラスに人の影が写るのは、きっと気のせいだろうと。と自分の中で答えを出しつつ、夫が戻ったら気を放って霊を散らしてもらおうと思ってしまうのは、それなりに今の環境になじんでもいるようだ。
ああ。
すりガラスに手を付けてこちらを覗き込まないでおくれよ。
その後、夫に
「誰かがこっちを覗き込んでいたんだよー。近寄らないようにしてくださいよ」
とお願いするも、
「別にいいじゃないですか。入ってはこないんだから」
と、取り合ってもらえなかった。
だから嫌なんですよ。見える人は、それが普通になちゃっているから。
っふうっ。