虫の知らせか辻占か
友人には予知というか虫の知らせが届くという。
その友人は学生時代からの数少ない友だ。
中年になった今、その友人とは、いつも会いたいわけではない。話したいわけでもない。
それでも数年に一度、時によっては5年に一度くらい「会いたいなぁ」と思う程度だ。
会いたいなぁ。と思っても、何か行動を起こすわけではない。ただ、数日おきにとかで、そんな思いが頭をよぎる。それでなくなることもある。なくならず、友人を思い出していたりする。
それが続くと、今度は会うための行動を起こそうとする。しかし、尻の重い私はなかなか動かない。やっと半月や1か月経ってからメールやlineで「よう元気か?」と送るのだ。
相手から翌日辺りに返信が来る。忙しいとか、怪我をしたとか、いつ頃ひまになるとか。
そうした連絡を一日に1通くらいでやり取りをして、数日後には何時いつに何処ドコにでも行きましょうか。そして、その後吞みましょうかになるのだ。
友人と飲んでいた。3年ぶりだろうか。
しばらく飲んで、近況報告などが終わって話したいことも伝え済んだあたりで友人が言った。
「どうやらさ。私はお前が連絡してきそうなのが分かるんだよね」
「ん?どういう意味」
「連絡を貰ったじゃん。その10日くらい前から雑踏の中の誰かの会話で、お前の名字や名前、お前を連想するものが耳に飛び込むんだよ」
「なんだそれ?」
「下校途中の子供の会話の中で、いきなりお前の名字が聞こえたり、雑踏の中でお前の住んでいる駅名とか、あだ名とか。男女<おとこおんな>(よく男に間違われている)とかね。耳に入ってくるんだよ。そうすると、ああ、そろそろ連絡が着そうだから、スケジュール確認しないとな。とか思うんだ」
「え~っ。分かっているんだったら連絡くれよ」
「まあ、近いうちに来ると思ったら、なんか待っちゃうんだよね」
そんな会話をした。
自分の生霊のようなものが彼女の元へと飛んでいるのを指摘されたようで少し恥ずかしい。
しかし改めて考えるとそれは「辻占<つじうら>」というものではないだろうか。と思い立つ。
「万葉集」などにも載っているので昔はポピュラーな占いだったようだ。十字路に立ち、偶然通り過ぎる人たちの言葉から先読みや神託を受けるのだ。
実際、今でも関西で辻占をしている神社がある。そこで読み取るのは言葉ではなく性別や服装、荷物はどのように持っているかなどで占っている。
西洋では十字路の悪魔が有名だが、「辻」というのは境目、境界であり他の次元から何かの力が滲みだしているのかも知れない。
その友人は霊感があるとかの話は全くないが、人も事も何もかも好き嫌いが激しく我<が>が強いと思ったが、結局はそれは彼女を守る事だったりしているので、勘が鋭いのだろう。
まあ、彼女にそんな力があったって、こちらから連絡をしなければならないのは、多分これからも変わらないのだろう。
東京から遠く引っ越してしまったので、会う機会はめっきり減ってしまった。
ならば、メールでもlineでもやればいいのだろうが、そういう仲でもないのだよなぁ。
ただ、元気でいてくれれば良い。そんな存在なのだ。
だから、勝手に「元気でいろよ」と願っている。