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初めての戦闘

「私」が初めて戦闘します。ゲームでは簡単なことが結構描くのが難しかったです。

 次の日、冒険者ギルドに行ってみると、既にゴリーがいて、声をかけてきた。

 「おう、来たか。情報が入ってるぞ。やはり、王様と王妃様は亡くなったようだ。王女様を帝国兵が必死で探している。それから、近衛騎士団長が城につかまっているらしいぞ。」

 『ケネス兄様が?助けなきゃ!』いつも明るく冷静に話していたレティシア姫が悲鳴を上げて叫んだ。

 レティシア姫の意識を抑え、ゴリーに尋ねた。

 「王族が皆殺しにされたのに、なぜ近衛騎士団長だけ生かされてるの?」

 「帝国はまだ国全体を占領しているわけじゃねえ。今回の王都侵攻はあまりにもいきなりすぎる。誰か裏切り者が手引きしたんだろう。だから、近衛騎士団長を責めて軍の情報を得ようとしてるんだろうぜ。」

 拷問されているってことか。私もあの優しかったケネス兄様が拷問されて殺されるのを見殺しにはできない。

 「何とか助けたい。手伝ってくれないか。」

 「お前ひとりで何ができる。俺だって手伝ってやりたいが、仲間の手前もある。冒険者として依頼を受けるってなら考えてもいいが?報酬は払えるのか?」

 私は、レティシア姫として結婚式に臨んだ時のネックレスと髪飾りを取り出した。

 「これでどうだろう。今は、貴族街が焼かれているのなら、略奪品が出回って値は下がっているだろうが、物はいいから、事態が落ち着けばそれなりの値にはなると思うが。」

 デニス王子との結婚式の思い出の品だけれど、背に腹は代えられない。ここはゴリーに頼るしか方法はない。

 「お前、何でこんなもの持ってんだ?お前の家はもしかしてものすごく偉い貴族様なのか?まあいい、何か事情があるんだろう。俺はお前の気性を知ってるし、お前が火事場泥棒をするような奴じゃねえのもよくわかってる。俺も自分の国が帝国に潰されて黙っていられねえ。近衛騎士団長を助けりゃあ、そいつを旗印にして兵を集めて帝国を追い出せるかもしれねえ。わかった、手伝ってやるよ。」

 助かった。でも、これからが大変だ。助けた後のことも考えないといけないし。

 「エリー、こんなことは言いたかねえが、おめえ、もう少し金目の物を持ってねえか?近衛騎士団長、あ~~言いにくい、団長でいいか、団長を助けた後どうするんだ?いったんはあの宿に連れて帰ったとしても、すぐ追手がかかる。逃げ出す算段をつけねえとな。それに行く宛てはあるのか?」

 ゴリーも同じことを考えていたようだ。何かつてはあるのだろうか。

 私は、持っていた宝飾品を机の上に出し、「とりあえずアルトア大公領へ向かおうと思う。まだ、帝国に占領されていないらしいし。」と答えた。

 話しているうちに思ったのだが、レティシア姫としての知識や考えが私と同化してきている気がする。どうしたんだろう。私がさっきレティシア姫の意識を抑え込んだことと関係があるのだろうか。

 「わかった。とりあえずこれは預かっていいか?いろんなところと調整して、帝国の目を盗んでこの街を抜け出せるよう考えてみよう。残ったらちゃんと返すから安心しな。まだまだ金はいるだろうからな。」

 なぜか、全財産に近いものを渡したのに不安はない。レティシア姫が信頼しているのがわかる。

 「そこそこの金になるなら、換金してきてもらえないか。」

 「わかった。さっきお前が言った通り相場は下がってるだろうが、何とかしてきてやろう。」

 そういうと、ゴリーはギルドを出て行った。

 「ゴリーは夕方まで帰らないよ。それまでちょっと魔物倒しに行かない?待ってるのも退屈でしょ?」

 ケリーが声をかけてくる。ケリーは真っ赤な毛が特徴的でスレンダーな20歳くらいのはしっこそうな女性。魔術師のローブがよく似合っている。回復術師のロンドも横でうなずいている。ロンドは寡黙そうな20代後半の男性だ。

 私、剣なんか振ったことないけど大丈夫だろうか。不安に思っていると、頭の中でレティシア姫の声が聞こえた。

 「私がいるんだから大丈夫よ。それに、今のうちに練習しておいた方がいいわよ。私もいつまでこうして話ができるかわからないし。なんだか、実体化するのも力がすごくいるようになってきてるし、気を抜くとあなたに吸収されそうな感じがしてるのよね。」

 それは大変だ。今姫に見放されたら、どうしていいかわからない。

 「私の知識もスキルも全部あなたにあげるから心配しないで。でも、そのためにもケネス兄様を助けたいの。あなたの助けになってくれると思うわ。」

 どうせ帝国がローデシア王国ここにいる限り、私に安住の地はない。それに、レティシア姫が私のことを思ってくれているのがよくわかる。ここは近衛騎士団長を助けることから始めないと。

 「わかった。よろしく。しばらく戦闘してないから、足を引っ張るかもだけど。」

 「そうこなくっちゃ。あなたの腕は折り紙付きよ。足を引っ張るなんてありえないわ。じゃあ、掲示板見てくるね。」

 ケリーは明るくそういうと、依頼の貼ってある掲示板を見て、適当な依頼を見つけたのか、カウンターに行って手続きをしている。

 「受けてきたわよ。ウォーウルフの牙50本だって。すぐそこの森で倒せるし、ブランクが気になるんだったらちょうどいい相手でしょ?さ、お小遣い稼ぎ、行こ。」

 三人で街を出る。ギルドの会員証は身分証明書にもなるらしく、門衛にも何も言われない。

 しばらく歩いていくと森が見えてきた。

 「さ、さくっと倒すわよ。」

 「ゴリーがいないから各個撃破だね。私が魔法で釣るから、すぐに攻撃してね。」

 盾役がいないからというわけか。私は昔はまったMMORPGを思い出してうなずいた。

 緊張する。剣が汗で滑る。でも、自分がちゃんと役割を果たさないと、後衛が攻撃されてしまう。

 ケリーが魔法で攻撃し、こちらに向かってくる魔物に向かって走っていき、思いっきり剣を振る。

 ザシュッ!鈍い音がして、血しぶきが上がる。肉を断つ感覚が手に伝わる。

 ゲームなら、敵に切り付けて倒したら、敵が消え、アイテムやお金が落ちるが、現実はそうはいかない。魔物にとどめを刺し、牙を引っこ抜く。『魔石も取るのよ。胸のあたりを切り裂けば手に入るから。』お姫様らしからぬことをレティシア姫の意識が伝えてくる。なかなかスプラッタだ。

 あっという間に返り血で服も手も顔も真っ赤になり、剣を握る手が今度は血で滑る。

 ロンドが『洗浄』の魔法をかけてくれ、一気にきれいになる。魔法って便利!

 エリーの能力だろうか、思ったよりも体が動く。ただ、気持ちがついていかない。

 現代日本人にはかなりきついが、いっぱしの冒険者であるエリーがここで吐くわけにはいかない。こみあげてくるのをぐっと我慢して、何とか50本の牙を集めた。

 「顔色悪いわよ。どこか怪我でもした?ロンドに回復魔法かけてもらったら?」

 ケリーが言うのに首を横に振って断り、街に戻る。口をきいたらやばそうだ。

 「大丈夫?宿に戻って少し休むといいよ。夕方にギルドで会いましょ。ゴリーも戻るだろうし。そのとき報酬の分け前渡すわね。」

 ケリーにうなずき、宿に戻る。ロンドの洗浄魔法で体はきれいなのだが、血の匂いが鼻について気持ち悪い。

 「大丈夫?戦闘初めてだものね?前世では戦闘したことないの?」

 レティシア姫がぼんやりベッドの上に浮かびながら訪ねてくる。何だか前より薄くなっているようだ。

 私はうなずき、トイレに駆け込んだ。

 

 

 

読んでいただいてありがとうございます。

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