結婚式、そして・・・別れ
やっと結婚式にたどり着きました。
私は国王陛下と腕を組み、ヴァージンロードを歩んでいく。美しい白いウェディングドレスを身にまとい、長いトレーンを後に引き、6人の可愛らしく着飾った子供たちがヴェールを持って後ろについてくる。
隣を歩く国王陛下の目は真っ赤で、必死で涙をこらえている。国王の威厳を保とうという思いで必死に耐えているらしい。
荘厳な音楽が流れる教会の祭壇の前には、ローランド王国の大司教様と、白い礼装に身を包んだデニス王子が立っている。
美しいステンドグラス越しに降り注ぐ日の光に、デニス王子の金髪が輝き、今日も王子様はきらきら全開である。
デニス王子は、国王陛下から渡された私の手を取り、私の顔を見つめる。深い湖の底のような蒼い瞳に吸い込まれそうになる。
王子は、緊張する私の気持ちをほぐすように少し笑うと、一緒に大司教様の方に向かう。
「汝、デニス・エルネスト・ハイランドは、レティシア・エリザベス・ローデシアを妻とし、病める時も健やかなるときも、死が二人を分かつまで支えあい、ともに生きることを誓いますか。」
「誓います。」デニス王子が力強く宣言する。
「汝、レティシア・エリザベス・ローデシアは、デニス・エルネスト・ハイランドを夫とし、病める時も健やかなるときも、死が二人を分かつまで支えあい、ともに生きることを誓いますか。」
「誓います。」私がそう言おうと口を開いたとき、
バ~~ン! 大きな音がして、教会の扉が開き、一人の兵士が倒れこんできた。
「何事だ。神聖な結婚式の最中だぞ。」国王陛下が兵士をとがめた。
「て・帝国がハイランド王国に侵攻しました!」
兵士はハイランド王国の軍服を着ている。急いで伝令として知らせに来たのだろう。
教会の中は騒然となり、隣に立つデニス王子が息をのみ、ぎりっと歯を食いしばったのが見えた。
自分はもう私の夫として誓いを立てたローデシア王国の人間、勝手なことは許されないという思いと、祖国を蹂躙されているからには、すぐにでも駆け付けたいという思いがせめぎあっているのがわかる。
「デニス殿下、行ってください。」私はそう声をかけた。デニス王子は信じられないという目で私をみつめる。
「姫?」
「私のことなら心配しないで。あなたの祖国が蹂躙されるのを黙ってみているわけにはいきません。
お父様、そうですよね。」
私は初めて国王陛下を父と呼び、同意を求めた。
「そのとおりだ。そなたはもう私の息子。息子の国を蹂躙されて黙ってみているわけにはいかん。姉上も心配だ。我が国の兵士2000をつけるから、速やかに出立するがよい。」
「ありがとうございます、国王陛下。姫、あなたの誓いの言葉も聞かずに行く私をお許しください。必ず無事に戻ります。その時まで待っててください。」
王子はそういうと、私を抱き寄せてキスをし、マントを翻して去っていった。
「ご武運を。」そうつぶやく私の頬には大粒の涙がつたい、いつの間にか、王妃様が私の手をとって甲を優しくなでてくれていた。
付け焼刃で勉強した知識によれば、帝国とは、ローランド王国やハイランド王国の北側に位置するガーランド帝国という巨大な帝国で、皇帝は老齢のため、第一王子である皇太子が実権を握っており、非常に好戦的な性格であるとのことである。
でも、なぜ帝国はこの時期にハイランド王国に侵攻したのか、ローランド王国は大丈夫なのか?
私がそう考えた瞬間、見慣れない黒い軍服を着た兵士たちが教会になだれ込んできた。
近衛兵が、デニス兄様が、国王陛下が応戦する。
「姫様、早くこちらに。」ソリッド女官長に先導され、私はその場を離れた。帝国兵が追いかけてくる。護衛兵が、リリーが、マリアが、一人ずつ敵をひきつけ、私を逃がしてくれる。
私の部屋まであと少しといったところで、帝国兵に追いつかれた。
女官長が体を張って帝国兵に飛びつき、胸を刺されながらも帝国兵と刺し違えた。
「ひ、姫様。早くお逃げください。姫様のお部屋から城の外へ出られる隠し通路が・・・」
「伯母様・・・シルク伯母さま~~~~!」私の叫びに女官長がうっすらと目を開き、私に微笑み、そして目を閉じた。
一瞬で国を、夫を、親しい人たちを失った瑞希は、これからたくましく生きていきます。
今日はたくさん更新したのでちょっと疲れました。
楽しんで読んでいただければ嬉しいです。