驚き
これから瑞希には大きな運命の変化が訪れるのですが、なかなかそこまで進みません。
もう少しご辛抱ください。
目が覚めると、部屋には誰もいなかった。
しかし、夢であってほしいという思いもむなしく、その部屋はわびしい一人暮らしのワンルームではなく、豪奢な広い部屋であった。
天蓋付きのベッドから降りると、鏡の前に立ってみた。
そこには昨日見たとおりの少女が立っていた。
長い金髪に紫の瞳の華奢な美少女・・・
本当にこれが私なの? そうだとしたら、レティシアとかいう王女様の意識はどこへ行ったんだろう?
私が追い出しちゃった?だとしても、戻す方法もわからないし、とりあえずしばらくはこのまま王女様として生きていかないといけないんだろうなあ。
ん~~~~、偽物だとばれたら死刑かなあ・・・怖!!!
ここは必殺!記憶喪失の術発動!!!
私は高熱のため脳にダメージを受け、記憶を失いました。はい、それでいきましょう!
そう決断した私は、改めて少女の体をじっくりと観察した。
深窓の姫君にしては、少しは筋肉もついているが、前世の私の鍛え上げられた体に比べればまだまだ鍛え方が足りない・・・というか全然ダメ。
今世界ってプロテインあるんだろうか?文化程度はどれくらいだろう。昨日の感じでは日本に比べれば遅れている感じがするけど・・・
プロテインとマシーンがあるといいなあ・・・
そう思いながら私は、テラスに出てみた。
「うわ~~~っ!」
ここはお城の高いところにあるらしく、テラスからは180度に広がる海が見えていた。
「きれ~~い!」
きらきらと日に輝く海は、透明度の高いコバルトブルーで、ごみ一つない白い砂浜と美しい対比を見せていた。
そういえば、王女様ってあくせく働かなくていいんだよね?これって、念願かなって三食昼寝付き?
私が子供をかばって死んだから神様のご褒美でここに転生したのかなあ。そういえば、あの子助かったんだろうか?真理愛は悲しんでるだろうな、あの子のことだから「私が誘わなければ・・・」って後悔してるんじゃないかな。ごめんね、私は元気に生きています、違う世界でだけど。
三食って考えたせいか、お腹がくぅっと鳴った。前世なら絶対、ぐう~~~~っだよねえ。お姫様ってお腹の鳴き方まで上品なんだ。
お腹空いたなあ・・・
そう考えていると、扉がノックされ、昨日の年配の女性が入ってきた。
「姫様、お目覚めでございますか。お腹がお空きになられたでしょう?お食事をお持ちしました。」
女性がそういうと、後ろの若い女性、確かリリーとかいっていたな、侍女っていうのかな?がことりとスープ皿をテーブルに置いた。
え?これだけ?お姫様って清貧なの?ここってもしかして貧乏国?その割に部屋豪華なんですけど。
「姫様は長くお眠りになっていましたから、最初は少なめにしないとお腹が驚いてしまいますからね。」
いあいあ、足りないでしょう、これ。これじゃあ逆にお腹空いちゃうよ。
「あのぅ、もしいただけるなら、パンと鶏の胸肉かささみをいただきたいんですけれど。」
「姫様、お腹がお空きなんですね。よろしゅうございました。では、マリア、ご要望を料理長に伝えてきてちょうだい。」
もう一人の二女はマリアというらしい。真理愛を思い出して、少ししゅんとする。
「姫様、私に敬語を使われるということは、まだご自分がだれか思い出せないのですね?」
私は、小さくうなづくと、悲しげに目を伏せた。
「おいたわしいことでございます。でも、私が付いております。ご心配には及びません。私は、女官長をしております、シルク・ソリッドと申します。ソリッド前侯爵夫人でございます。夫を早くに亡くし、姫様が赤ちゃんでいらっしゃったころからお世話をさせていただいておりました。」
ソリッド女官長は、50歳くらいのふっくらした、優しそうな目が印象的な女性。若いころはさぞかしきれいだったんだろうな。今でも、上品な美しさを発散している。でも、怒らせたら怖そうだ。
「昨日はあれから大変だったんですよ。姫様が気を失われた直後に陛下がお見えになられて、『主治医を呼べ~~~~!』って叫ばれ、姫様を抱えてうろうろうろうろ、落ち着いていただくのにものすごく苦労いたしました。先生も診察がおできにならなくてお困りになってました。」
どんな国王陛下なんだろう・・・なんだか軽そう・・・
「姫様が大丈夫そうなら、お食事の後で陛下に拝謁を。心配されていましたからね。(またあのような騒ぎをおこされるのはごめんこうむりたいですからね・・・)」
まもなく届いた、鶏の胸肉のローストとパンを食べた私は、お風呂に入れられ、二人がかりで磨き立てられて、ドレスに着替えさせられた。
白を基調にピンクのリボンやフリル、サッシュで装飾された、スカートがふわりとしたドレスに身を包んだ私が鏡に映っている。
「本当にこれが私なのかなあ。」
信じられない私が顔をしかめると、鏡の中のお姫様も可愛らしく顔をしかめ、にぃっと笑うと、お姫様も可愛らしく微笑む。
どうも本当らしい。こうなれば三食昼寝付き生活を楽しむしかない。
そう思い定めた私は、部屋を後にする。
自分の親に会うのに、アポを取って、お風呂に入って、盛装してってすごい大変そう。
「申し遅れましたが、お父君はこの国の国王であるオーガスト三世陛下、お母君は王妃であらせられるミレーユさまでございます。」
「兄弟はいないの?」
「姫様はおひとり子でいらっしゃいますよ。」
たった一人の跡取り娘が5日間も意識がなかったんだから、王様も焦るよね。大騒ぎするのもわかるかも。そう思った私は、軽い王様だと思ったことを反省した。この後、それをまた反省することになるのだが・・・
長い廊下をたどり、大きな両開きの扉の前で立ち止まる。
「王女殿下がお見えでございます。」
広い室内には、背の高い大柄な男性と、ほっそりした女性が何名かのおつきを従えて立っていた。
その横には、年配の男性が立っている。
「姫、もう体はよいのか?」
大柄な男性が声をかける。硬そうな金色の髪を短く切りそろえ、深い青い瞳がこちらを見ている。
レティシア姫によく似たやわらかい金色の髪に、淡いブルーの瞳の王妃様は、心配そうな顔をしてこちらを見ている。
「はい、ご心配をおかけし、申し訳ありません。」
「いや、よかった。姫も元気を取り戻したし、これで明後日の結婚式も無事に行えそうだな。」
は?結婚式?誰の?
「はい、明日には隣国ハイランド王国のデニス王子殿下もご到着の予定ですし、間に合って本当にようござました。」
横に控えていた年配のおじさまも口を添える。
いあ、ちょっとまって、見ず知らずの人と結婚とかありえないし。
「国王陛下、恐れながら、私はまだ記憶もあいまいで、デニス王子様のことも何も思い出せないのですが。」
そういう私の言葉を聞いた国王陛下が、
「何、問題ない。お前はデニス王子と会ったことはないし、記憶がなくても何にも問題はない。いあ、よかったよかった。」
そういうと、ご機嫌よく呵々大笑された。
お読みいただきありがとうございます。
長いのでいったんここで切ります。