際限なき未来について。
結局のところ、大志は異能持ちだった。
運動神経抜群であるが故に今まで大きなピンチに陥ったことのなかった大志は、異能の発動条件である『ピンチにいる』ことを生まれてから一度も満たせなかったのだ。だから異能を遺伝的に持っていても発現は起きなかった。
「本当は私、大志の異能知ってたんだ」
ある日、怪我がすっかり治った椎名はそう口にした。
「まだ私のお母さんが死ぬ前にね、大志のお母さんに頼まれたんだって。大志のこと。大志のお母さんも発動条件が難しかったらしくてね、だからきっと大志の異能の発現がまだなのは、そういうことなんだろうって。私が5歳ぐらいの時に言ってたの」
そう言う彼女は、どこか遠くを見つめるような顔をしていた。
とどのつまり、決して椎名は大志を実験のモルモットにしていたわけではなかったのだ。ただ才能に恵まれ、才能に押しつぶされそうになっていた15の子供だった。
***
とある夜のことだった。
またあの日のように、廃ビルの屋上に大志はいた。
今日は大志と椎名の他に、龍馬の姿も見える。
満点の星空を眺めて一日の終わりを悟る。
「大志、お前これからどうするつもりなん?」
龍馬はあぐらをかいて座っていて、ふと大志に目をやってそう言った。大志は水平線を見つめて仁王立ちしていた。
「俺はな!せっかく異能も手に入れたんだ!やりたいことをするさ!」
「へ~。具体的に?」
あの日。頭の片隅に沈めた願いをしっかりと思い出して大志は言う。
「この鳥かごの中から出る!!」
「わ~お。そりゃまた大胆だな!隔離されたクレーター地帯から出るってか」
「龍馬も来るか?」
「いや俺はいいって。石鹸出す異能だぞ?等身大で生きるのが俺の目標!」
「そっか。じゃ龍馬は龍馬で頑張れよ!……いつか大商人になってるの待ってるからな!」
「ははっ。よせって」
「椎名は?椎名はどうすんだ?俺は今住んでる家は出ようと思ってる。いつか椎名には恩返ししたいと思ってるんだけど、椎名は今後どうすんだ?」
不意に話を振られて、椎名は閉口した。
逃げるように目線を横に移せば……下を見れば今にも崩れそうな超高層ビル群があって、上を見れば満天の星空。
幾つもの流れ星が空に線を描いていた。
ばっと椎名が大志の方へ振り返ったとき、椎名の顔には優しい笑顔があった。
椎名の中で、とっくに答えは決まっていた。
だから――
一つ深呼吸して、
じっと大志の方を見て、
思いっきり口を開いて、
この言葉を綴るのだ。
「私はね……
ご愛読ありがとうございます!
ちなみに最後はミスで途切れてるわけじゃないです!
実は以前からかなり書き溜めてる作品があるので気が向いたら出そうと思います。