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GIANT KILLING  作者: 向来すだち
2/3

目覚ましき力について。

だからこそそれはメシアが天から降ってきたようだった。


「フッ。くたばれ――ッ!!!」


目の前のこの男が炎を大志に向けようと声を荒げて手を突き出そうとしたその瞬間、不意に横からその男を拘束するものがあった。それは、ツタ。ツタが急激に成長しその男を縛ったのである。見間違うはずもない。この異能の持ち主は、椎名だった。


「大志、大丈夫だった?」


まるで何事もなかったかのように平然とした顔でこちらを見る椎名を前に、大志は腰が抜けた気がした。


「椎名…!なんでここに!?」

「……血が繋がってないとはいえ家族の危機に現れないほど私は馬鹿じゃない」


無表情にそう言ってのける椎名に目が奪われた。だがすぐに目はあの男に移る。僕らが会話している間に炎でツタを焼き切っていたのだ。


「てめぇ!何をしやがる!?私を!誰だと思っている!?新型ウイルス対策機構(N V M O)武力顧問の成瀬様だぞ!!こんなことをしてただで済むと思うなよ!!??このクソガキがっ!!」


怒りで真っ赤に。彼の頭は染まってしまったようだった。

そして。

炎で真っ赤に。火があたりの建物に飛び火してしまったようだった。

だが冷静に。そして大胆に。

椎名はこう言った。


「そう。それで席次は?」


「席次…?なんだそりゃ!俺は武力顧問の成瀬様だぞ!」


「……あんた。騙ったな?己の身分を」


「な、なんだと!?何を言いがかりをつける!!業務執行妨害の名のもとに、お前をぶっ殺すぞ!」


「……やめときな。席次ってのは武力顧問の中に存在する力の順位のこと。それを知らない時点で嘘だって、すぐ分かる」


「抜かすな!第一なぜお前がそんなことを知っている!?」


「……」


「どうした!!何か言えよ!!」


「……ここまで導入して分かんない?いい?私が新型ウイルス対策機構(N V M O)武力顧問、第7席次だからよ」


ただその言葉に、震えた。

大志も、そして成瀬と名乗るこの男も。

二人とも椎名の正体を知らなかったのだ。

決して椎名は大志に自分の職業を告げることはなかったのだ。だが体育祭で一位を取り、15の子供にして二人分の生活費を稼げるほどの存在。考えてみれば異様であることは間違いなかった。

そして椎名はこう続ける。


「正体を明かしたからには捨て置けない。あんた、覚悟はできてるね?」


「クソッ――!!異能持ちじゃねぇ奴を売れば高く値が付くと思ったのにッ!!」


「なるほど。奴隷商だったのね。罪状が増えて手加減しなくて済みそう」


その言葉と同時に。椎名は異能を展開する。椎名の異能・『Auxin(オーキシン)』は周りの植物を強制的に成長させ意のままに操る力。

速く強く――

金属のように頑丈な植物が、圧倒言う間に成瀬を再び拘束したのだった。


だがしかし――


あまりにも、相性が悪かった。

成瀬を拘束していた植物は再び炎によって焼き尽くされる。

さらには体育祭直後で異能使用回数が減っている。

普段は70ある使用回数も、今残っているのは21。対して敵の使用回数は、34。

このままでは何度攻撃しても炎で焼かれ、最後に負けるのは椎名の方――


敗北は必至か。


そう思われた。椎名にも、成瀬にも、大志も、その場にいた全員、そう感じ取っていた。

運悪くその場には三人の他誰もいない。

辺りの建物は既に大きく燃えていて、大志が助けを呼ぼうにも危なすぎる。

助けを呼べない。

せいぜい火事に気づいた近隣の人々が消火に来てくれるのを待つしかない。

トイレに行くと言ったきり帰ってこない龍馬も、石鹸を手から生み出せるという戦闘向きでない異能持ちだ。椎名が負けるような相手に勝てるはずもない。


敗北。


ただその二文字だけが眼前に迫った。

21、20、19……

異能使用回数はみるみる内に減っていく。

10、9、8……

焦りはみるみる内に増していく。

3、2、1…………0。


終わりは呆気なく訪れた。植物は全て灰となり、異能も使えなくなった。



「おいおいおいおいおいおいおいぃぃいいいい!!お前散々イキってた癖にその程度かよ!!武力顧問って本当か!!??笑えるなァ!!」



椎名の腹に、成瀬の拳が飛んだ。



「ほらよッ!!どうだこのッ!!痛ぇか!?痛ぇのか!?なんか言ったらどうだァ!!」



椎名の腕に、太ももに、成瀬の拳が蹴りが襲いかかる。だが椎名は一切言葉を発さず――ただ一方的に痣を増やされるだけだった。

そしてその光景を、大志はずっと見ていた。

涙を流しながら、それでもずっと見ていた。


『椎名が勝てない相手だ。俺が勝てるわけない』


そんな言い訳を。


『しかも周りが燃えてて助けに行こうにも行けないんだ』


永遠、永遠、唱え続ける。

なるほど、確かに一理あるかもしれない。ここで大志が下手に動いても、できることは何もない。それどころか敵を煽ることになって余計暴れだすかもしれない。今ここで大志がすべきことは、何もしないこと。ただそれだけだ。



……。



……。



……本当に、そうか?




――『でも本当か?本当に俺たちはラッキーなんだろうか?屍の上に築かれた山頂で、素直に登頂できたことを喜べるものなのだろうか』




また犠牲者を増やして生き延びるってのか?




――『夜空に浮かぶ星は、手で掴むことも言葉で掴むことさえもままならない』




本当に自分は椎名を、家族を助けたいと言うことも、それを実現することも、何もできないってのか?




……。




そんなわけがない――ッ!!!!




今ここで椎名を黙って見とくなんて有り得ねぇだろ――!!!








「待て――ッ!!!!」


だから大志は、震えた声を。されど果敢な、力強い声で、思いっきり叫んだ。


「あ??」


成瀬は振り上げた拳を急停止させ、こちらに振り返る。


「なんだお前。まだ居たのかよ」


冷たく笑っていた。ずっと自分のペースで殴り蹴りを繰り返してたのを止められて……遊びを取り上げられて、気に障ったのだと感じた。そんなこいつに無性に腹が立った。こいつはこう続ける。


「てかお前さ。よくよく考えたら既に実験道具にされてたんじゃん。そうだろ?こいつが新型ウイルス対策機構(N V M O)武力顧問なんなら、異能持ちじゃねぇお前は研究対象だろ???ハハッ!!!バカみてぇだよな!反応からしてお前知らなかったんだろ???知らない間にまんまと釣られてたってわけ!?おもしれー!!こいつもクソ雑魚だったしお前はクソ馬鹿だったんだな!!こんなことってあるんだなー」


ヘラヘラと薄っぺらい言葉だけが並んでいく。

炎が顔の影を色濃く作り出していた。

もう涙は止まっていた。

代わりに浮かんだのは、闘志。

成瀬の煽りを、


「黙れ」


その一言で一蹴した。だが薄ら笑みを浮かべていた成瀬もまた豹変、真顔のままで、


「あ?なんだお前、やんのか?おいおいおいおいおいお前異能持ってねぇのに俺に勝てると思ってんのォ???」


そう語る。だから大志はこう言うのだ。椎名からもらったあの言葉を、しっかりと心に抱いて。


「正直、勝てるとは思ってないさ。でもな……血が繋がってない仲でもな。家族の危機に現れないような馬鹿にはなりたくないんだよ!!」


「そうか!!じゃあ死ね――ッ!!!」


成瀬の頬の数字が、5から4へ――

異能が使われた合図だった。

炎の渦が一瞬で大志を取り囲んだ。

その場にいるだけで肺が焼き切れそうだった。


「どうだ――ッ!!??

俺の『Ignis(イグニス)』は皮膚が焼き切れるほどの業火の渦を生む!!

……ってもう、生きちゃいねぇか。

ハハハハハハハハハッ………………………ハ????」




絶体絶命。

圧倒的なまでの力の差。

ちょっと身体能力が高いだけが能の大志は、蚊も同然の扱いだった。

だがその時――

成瀬がその場に見たものは、炎から無理やり脱出した大志の姿。そして、その頬に刻まれた、()()。1の文字だった。






案外、世界が変わるなら一瞬なんだ――


たったそれだけで勇気は滾り、


たったそれだけで人は急変し、


たったそれだけで力は溢れる。


西暦2089年、ある夕暮れ。


大志にそれは降ってきた。








能力名

 『GIANT(ジャイアント) KILLING(キリング)


能力

 ピンチになればなるほど力が増す。







「は?は?は?なんでお前が――なんでお前に数字が!!??お前異能持ちだったのか!??いやさっきまでそんな数字なかったろ!!なんでなんで――」


成瀬は急にパニックに陥る。知らないものへの恐怖は図りしえなかったのだ。

そして大志もまた驚いた。まさか自分に異能が宿るなど、思ってもみなかった。欲しいと憧れた、この異能を、今や自分が手にしている。待ち望んだものへの希望は図りしえないほどの希望を与えた。


能力使用回数はたったの1回。されど1回。


やるべきことは、ただ1つ。


こいつをやるのに、二回目は要らない――






「吹き飛べええええ――――――――――ッ!!!」






たった一発のパンチが成瀬の腹に当たったと思うやいなや――

その凄まじい力で、

その驚くべき速さで、

遥か50m先の建物まで一直線。

成瀬は吹き飛んでいった。

その勢いに風は吹き荒れ、辺りの炎は一瞬で消え去る。

それほどまでの、一撃。

大番狂わせの、一撃。

成瀬は遠くで気を失っていたようだった。


空がよく見える。

風で髪がなびく。

大志は椎名の元へそっと歩き、抱き抱えた。

彼女の顔には痣が無数に出来ていて、


「ごめんな。もっと早く動けなくて」


そう口にしたものの、どうしようもない気持ちで胸が一杯になった。

止まっていたはずの涙が再び泉のように出てくる。

でもそれを椎名は手で拭って笑ってみせるのだ。


「ううん。ありがとう」


――と。

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