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東京湾・鉄山港

 英明はヴォクシーの助手席から『大日』を見詰めていた。


 今回も、娘達が危険な事をしているのに、自分は安全な場所にいる。妻を助け出すため、今起っている問題を終わらせるため、それは必要な事だ。頭では解っていても、やはりがゆいし己がない。


「また溜息を吐いていますよ」


 運転席に座る天城から指摘される。


「え、溜息なんて吐きました?」


 天城は苦笑した。


「ええ、さっきから何度も」


 全く気づいていなかった。


「お気持ちは解ります、ボクも無能力者ですから」


 しみじみと天城は言う。


「それより、前回は本当に申し訳ありませんでした。改めて、お詫びします」


 急に天城はかしこまった。彼女が言っているのは、今年の春に起ったつぼうちたける智羅教ちらきようがらみの事件のことだ。この事件で朱理は式神に襲われ肩に傷を負った。その時、英明と遙香はハワイ旅行に、そして悠輝は天城に協力させられて、朱理のそばに居なかったのだ。


「悠輝君が居たとしても、防げたかどうか怪しいですし、私と遙香も日本に居ませんでした」


 この件でも自分は何もしていない。


「今後、鬼多見をカルトがらみの問題に巻き込んだりしません。それは約束します」


「一人でやるんですか?」


「いいえ、他にも仲間がいます。鬼多見ほど、強力じゃないですけどね」


「あまりムチャをしないでください。あなたにもしもの事があったら、悲しむ人が大勢いるんでしょう?」


 天城は、はにかんだように微笑んだ。


「大勢いるかは怪しいですが……」


 その時、一台のワゴンが近づいて来た。警察車両のような黒と白のカラーリングだが回転灯や警視庁の文字は無く、代わりに『ロードセキュリティ』と書かれている。


「求道会の警備車両だ。真藤さん、申し訳ないですけど、ボクの話に合わせてください」


 ワゴンはヴォクシーの行く手を遮るように停車し、体格の良い三人の警備員が中から出てきた。彼等はヴォクシーに近づいて来て、一人は運転席側に、残りの二人は助手席側に立つ。


 運転席に渡った警備員の一人が窓をノックする。


「デートのジャマをするな!」


 窓を開けずに天城が怒鳴る。


「こんな所で何してるッ?」


 警備員が怒鳴り返す。


「だから、デートだって言っているだろ!」


「倉庫裏でかッ?」


「不倫デートなんだよ! わかったならサッサと消えろッ」


 何故か罪悪感を覚えながら、英明は天城に合わせてしかめっつらで頷いた。そして朱理の演技力が、自分の遺伝ではない事を確信する。


「とにかく、一旦降りろ」


「あんたがそれを命じる法的根拠は?」


「いいから早くしろ!」


 ついに警備員は怒鳴った。


「だから法的根拠を示せよッ。そしたら降りてやる!」


「開けろ!」


 警備員が乱暴にドアを叩く。


「おいッ、いい加減にしろ! 借り物なんだぞッ、傷ついたら弁償してもらうからな! 名前と所属を教えろッ」


 天城の抗議を無視して、今度は警棒を取り出す。


気付くと英明側の警備員も警棒を振り上げていた。次の瞬間、窓に打ち付けられ、ガラス全体にひびが入り破片が飛ぶ。警備員は更に警棒を振り下ろし、完全割れたガラスが英明に降りかかる。警備員が窓から腕を伸ばしてロックを外し、ドアを開けて英明を引きずり出す。


 とつに後ろを振り返ると、天城は引きずり出そうとする警備員に抵抗し、蹴りを入れていた。


 英明も抵抗しようと藻掻もがくが、もう一人の警備員が警棒を背中に打ち付ける。痛みで抵抗が弱まると英明を引きずり出した警備員も彼の顔面を殴りつけた。


「真藤さん!」


 天城は英明を助け行こうとしているが、自分側の警備員が邪魔をする。


 英明を一人の警備員が羽交はがいい締めにして、もう一人が警棒を振り上げた。何とか逃れようとするが、ガッチリと押さえられ力が入らない。すべもなく、警棒を握る警備員の腕を見上げる。


 その時、何者かが警備員の手首を掴んだ。次の瞬間、警備員の身体が宙を舞い、地面に叩き付けられる。


「大丈夫……じゃないですね」


 そこに居たのは佐伯一喜だ。


 不意に身体の束縛が緩む。振り返ると羽交い締めにしていた男が、膝から崩れ落ちた。


「あなたは……?」


 そこに立っているのは法眼によく似た人物だ。


「俺の父、えきけいげんです」


「助かりました、感謝します」


 ヴォクシーの反対側から天城が礼を言う。天城を襲った警備員も慧眼が斃したらしい。


「ありがとうございます。私は……」


「真藤英明さん、知っていますよ」


「あ、一喜さんからお聞きに?」


「いいえ、何度も会っていますし、迷惑をかけているのは家の莫迦娘ばかむすめと莫迦息子ですから」


 聞き覚えのある口調に英明はハッとした。


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