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戌亥寺・正面駐車場 弐

「おじさん、だいじょうぶなの?」


「ああ、少し休んだら験力も回復した。おまえの方こそ大丈夫か?」


「わたしは平気。紫織も、もうだいじょうぶ」


 妹に視線を向けると力強く頷いた。


「それより、後回しでいいって、どういうこと?」


「求道会が警察に罠を張っている可能性が高い」


「たしかに一理あるな。逮捕されるなり、重要参考人と称して監禁される恐れは充分にある」


 一喜が顔をしかめた。


「ここからは分れて行動しよう。一組目は、佐藤さんと明人を医者に連れて行ってくれ」


「医者に診てもらっても、どうにもならないよ」


 明人がフラつきながら助手席から降りてきた。


「そんな状態で言っても説得力がないぞ」


「治療できるのは自分で付けた傷だけだ」


「眼や鼻や、口から血を流していただろ?」


「あれは求道会の呪術でやられたんだ、物理的な傷じゃない。ダメージは残っているけど、出血は止まっているし、誤診されるだけだ」


「牧田先生なら心配ない」


 牧田は戌亥寺の先代住職から付き合いのある診療所の医師で、験力についても知っている。アークソサエティとの一件でも、とても世話になった人物だ。


「そうだけど……」


「休ませてもらうだけでもいい、おれたちが求道会を壊滅させるまで」


「残りのメンバーは、求道会に殴り込むのか?」


 呆れたような一喜の言葉に悠輝は首を縦に振る。


「御堂が言ったじゃないか、弓削朋美と雅俊がクルマの中で殺されたって。恐らく、仏眼は紫織のせいにするつもりだろうが、会長代理派は簡単に納得しないだろう。それにあいつも息子を失っている」


 悠輝の顔に不敵な笑みが浮かぶ。


 一喜は渋い顔で答えた。


「まとまる前に奇襲をかけるって作戦か。でも、それぐらい仏眼も予測しているぞ」


「ああ、だからまず姉貴を助け出す。あいつが何を用意しようが企もうが、基本的に姉貴がいれば何とかなる」


「まぁ、そりゃそうだが……。そもそも遙香と連絡が取れないんだろ? どこに居るのか判るのか?」


「こういう時にこそ、名探偵を……三瓶はどこだ?」


「天城さんなら、裏の駐車場にクルマを取りに行っただけだから、そろそろ……」


 英明の言葉が終わらないうちに、青いミニクーパーが駐車場に滑り込んできた。噂をすればだ。


「意識が戻ったか。それで、ハルちゃんの居場所を知りたいんだろ?」


 運転席から降りながら、開口一番、天城はいきなり核心を突いた。


「相変わらず、推理だけは大したもんだ」


「推理だけじゃない、全てが完璧だ! なぜならボクはてんさいめい……」


「で、どこに居る?」


 天城の言葉を悠輝は強引に遮った。


「ちゃんと最後まで聞け!」


「お前は口上が長いんだよッ。奇襲をかけるんだ、サッサと教えろ!」


「まったく、せっかちなヤツだ。ハルちゃんは、求道会が所持しているクルーズ船にいるはずだ」


 予想外の答えが返ってきた。


「その船は今どこだ?」


「東京湾の鉄山港に停泊している、出港してなければな」


「仏眼も一緒だと思うか?」


「いるだろうな。自分の眼の届かないところにハルちゃんを置いておくのは怖いから」


 悠輝は視線を落とした。


「そうだよな。姉貴がどういう状況で眠らされているかわからないが、勝手に目覚められたら厄介だ。特に朋美も海も居なくなった現状ではなおさらか」


「おまえにしてはいい推理だ」


「仏眼と空、さらに他の異能者が何人居ても、姉貴を眠らせ続けるのは難しいだろうな。でも……」


 降りてきた石段の上を見上げる。朱理も感じていた、猪山に在ったはずの力が消えている。それは封印された『鬼』の力だと法眼は言っていた。


「佐伯仏眼は『鬼』の力を手に入れたのかも知れない」


 朱理の言葉に悠輝は頷いた。


「そもそも『鬼』がどんな存在か正確には判らないし、その力を利用できるのかも判らない。ただ、それが出来たなら、朋美たちの異能力ちからは必要ないのかも知れない」


「じゃあお母さんも?」


「ああ、一番厄介な存在だからな。ただ仏眼がおれたち以上に『鬼』に関する情報を持っているとは思えない。鬼や魔物と呼ばれる存在の能力を利用する方法は知っていても、完全にコントロール出来るか、確信はないはずだ」


「冷静な判断力があれば、保険はかけておくわな。だからハルちゃんが無事でいる可能性は高い」


 天城の言葉に少しホッとする。


「とは言え、お母さんだからな。不用意に仏眼を挑発する恐れはあるし、仏眼が『鬼』の力を完全に制御している可能性だってある。どちらにしろ、急いだ方がいい」


「そうだね……。でも、どうしてクルーズ船にお母さんはいるの?」


「まず、求道会の本部はハルちゃんが破壊したから使用できない。都内には他にも求道会の施設はあるけど、本部と同じ、あるいはそれ以上にお金をつぎ込んだのがクルーズ船『大日』なんだよ。信者はもちろん政治家や資産家、あるいは日本や海外の国の機密に関するデータなんかもバックアップされているらしい。

 他にも一流ホテル顔負けの部屋や、訓練設備、あと武器なんかも積んでいるって情報もある」


 つまり、そのクルーズ船が求道会の第二の本部という事なのだ。


「クルーズ船には他にもメリットがある、離岸すれば巨大な監禁施設に早変わりだ。佐伯仏眼が会長代理派を洗脳し、求道会を完全に掌握するのに打って付けの場所ってわけさ」


「クルーズ船に信者全員を乗せられるんですか? 乗せられたとしても、求道会の信者は日本中にいるんでしょ。集めるのに時間がかかりすぎるんじゃ……」


「いや、全員を洗脳する必要はない、会長代理派の主要人物だけを仏眼に従うようにすればいいんだ。弓削朋美と雅俊がいなくなった今、求道会に仏眼を邪魔できる異能者はいないだろう。下級の信者はとっくに洗脳されているから、上の連中が右と言えばすなおに右を向くさ」


 今度は悠輝が朱理の疑問に答えた。


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