田園 弐
「コレ、持っていって」
遙香はバッグの中からネームホルダーを取り出した。カードを入れるところに真っ白の厚紙が入っている。いや厚紙ではない、何かを包んだ紙を長方形にして入れているのだ。
「ナンですか、これ? 英明さんの会社の入館証?」
刹那は眉根を寄せた。
「そんなわけないでしょ? あなたが欲しがっていたモノよ」
意味ありげに遙香が微笑む。
「あたしが欲しいモノ?」
改めて刹那はネームホルダーを色々な角度で見回した。
「パワーアップアイテムよ」
刹那が動きをピタリと止めて、期待の眼差しを遙香に向ける。
「パワーアップ? できるの、あたし?」
「パワーアップはするわよ」
「ど、どうやって?」
「手にこう持って叫ぶの、『変身!』って」
遙香は刹那から取り上げたネームホルダーを右手に持ち、左斜め上に突き出して、左手を拳にして左腰の辺りに付けた。
「はい?」
「『はい?』じゃないわよ、このポーズで『変身』って叫ぶのよ、大声でね」
「ジョーダンでしょ?」
「本気」
「いや、いやいやいや! ありえないでしょ、そんなのッ?」
刹那は顔の前で手のひらをブンブン振って否定した。
「ありえないも何も、あたしがそう決めたんだから仕方ないでしょ」
「何が『仕方ない』んですかッ? 師匠が別の方法にしてくれれば済むだけじゃない」
「イヤよ」
「イヤって……」
「御堂、力を手に入れるためには何らかの代償が必要だ」
真面目な顔で悠輝が諭す。
「いや、それって普通は努力とか、時間とか、お金なんかで、イヤな内容でも寿命とかでしょッ? 羞恥って何よ!」
「力を与えてくれるのが遙香なんだぞ、普通の代償で済むわけないだろ」
「姉を呼び捨てにするな!」
「お母さん、そこ、怒るところ?」
何とも緊張感の無い会話だ。
「とにかく力が欲しいなら、それを使いなさい。ちゃんとポーズを決めて、大声で叫ばないと発動しないから」
「何の罰ゲーム?」
刹那はガックリと項垂れつつもネームホルダーを改めて受け取った。




