森の中の家
明人は紫織と犬達と共に天城の別荘に身を潜めていた。この家は阿武隈川から東に一〇キロほど離れた森の中にひっそりと建っている。
「こんな遅い時間にゴメン。天城さんはこんな時に限って留守だし……」
「困ったときはお互い様。それに、そんな遠慮する仲じゃないでしょ?」
明人の言葉にその少女、佐藤瑠菜は笑顔で答えた。
「ありがとう。でも、相手はあの求道会だし、できる限り佐藤さんを巻き込みたくなかった」
瑠菜は明人の出身校、県立桑野高等学校の後輩で、ある事件をきっかけに知り合った。その事件は創立百二十年を超える桑高最悪の大事件となり、その後の入学者数にも影響している。そしてこの事件が、後のアークソサエティ壊滅の切っ掛けとなったのだ。
遙香から連絡があった後、戌亥寺に戻るか悩んだが、流石に安全とは言えない。それに法眼が殺られたという、行けば紫織に祖父の亡骸を見せる恐れがある。いや、本来ならそれを明人が確認すべきなのだが、その勇気が自分には無かった。師匠の死を受け入れる事ができなかったのだ。
明人は問題を先送りにすることに決めた。政宗と梵天丸が合流すると、一番近くにある檀家の家まで移動した。何かあった際に電話を貸してくれるよう頼んであったのだ。その家の老婆は明人が電話を貸してくれるように頼むと、何も聞かず連絡をさせてくれた。明人が電話をしたのは天城だったが、彼女は生憎仕事で郡山から離れていた。そこで彼女が送ってくれたのが瑠菜だ。瑠菜の運転するクルマで天城の別荘まで移動してきた。
「あたしのことより、あの子、だいじょうぶなの?」
瑠菜は奥の部屋に視線を向けた。そこでは膝を抱えた紫織がカウチに座っている。彼女を励ますように政宗と梵天丸が寄り添っていた。
「大好きなおじいちゃんが亡くなったからね……」
「そう言う先輩は平気なの?」
瑠菜が心配そうに顔を覗き込んだので、こんな状況なのに思わずドキリとした。
「どうかな……実感が湧かなくて。お師匠が死んだなんて信じられないし」
遙香も法眼が殺られたと言いつつ、殺されても死なないと言っていた。無茶苦茶な言いようだし、それが願望に過ぎないというのは解っている。それでも、法眼の亡骸をこの眼で見るまでは信じられない。
「明日、いやもう今日か……明るくなったら確認に戻るよ」
そこまで言って明人は大事なことに気が付いた。
「あ、こんな時間までゴメン、ご両親が心配してるよね? もう帰っても……」
「先輩、戌亥寺にはどうやって行くつもり? 」
「タクシーでも拾って行くよ」
バイクの免許は持っているが自動車免許は持っていない。従って、天城のキャンピングカーは使えないのだ。
「スマホ、持ってないんでしょ? それにここ、家電ないし。だいたい、隠れ家にタクシーを呼んじゃダメでしょう」
確かにその通りだ。かと言って、このまま瑠菜をここに置いておくわけにも行かない。
「親には、久々に帰ってきた友だちから連絡があって、泊まりに行くって言ってある。ちゃんと天城さんに、友だちのフリもしてもらったから安心して」
何を安心すれば良いのだろう。ただ彼女が居てくれるととても助かる。
「そう……それじゃ、甘えちゃおうかな」
「だからって、子供もいるんだしヘンなことしないでよ!」
思わず笑みがこぼれる、瑠菜がいると不思議と明人の心は安らいだ。




