好恵の自宅
朱理と刹那が自宅で待っていると、三〇分も経たないうちに早紀が訪ねて来て、それから一〇分ほど後に好恵が帰宅した。
「そう、法眼先生が……」
今日一日に起ったことを刹那が掻摘まんで放すと、好恵が呻くように言った。
朱理は眼の前にあるショートケーキとアイスティーに視線を落とした。可愛くて美味しそうなケーキだが全く食欲が湧かず手を付けていない。それは刹那と早紀も一緒だ。好恵は半分だけ食べていた。朱理たちに食べるよう促したかったのだろう。結局、自分も食べるのを諦めたようだ。
「鬼多見さんに関する情報は無いの?」
「それがハッキリしないんです。生きてはいるみたいなんですけど……」
「どういうこと?」
朱理は首を左右に振った。
「母にも、よくわからないみたいです。たぶん、叔父の情報を知っている人が、近くにいないんだと思います」
遙香は人の頭の中を覗くのが得意だ。しかし相手が知らない情報は、当然読み取ることができない。
「叔父に直接呼びかけても、返事はありません……」
「そう……」
刹那たちも沈痛な面持ちで視線を落とした。好恵と英明が釈放されたのは朗報だが、悪い情報が多すぎる。紫織たちにも連絡が取れない。ただし、こちらは戌亥寺に何かあったら姿を暗ます事に決めてあったので、一時的に連絡が出来なくなるのは当然だ。もちろんこちらからも連絡はしない。紫織と明人の身の安全を守ると同時に、敵の手に紫織が落ちるのを防ぐためだ。どこから情報が漏れるか判った物ではない。
自分と母の所には空が来た、悠輝と刹那には海。ならば戌亥寺に行ったのは仏眼か朋美、あるいは両方だったのだろう。そんなことを考えているとチャイムが鳴った。早紀が立ち上がり、訪問者を中に招き入れる。
「お父さん!」
朱理は思わず駆け寄って抱きついた。
「ただいま。心配をかけたね」
父に抱きつくなんて何年ぶりだろう。英明は優しく彼女の頭を撫でた。普段なら嫌がるところだが、今日はとても安心出来る。
「ごめんなさい」
「どうして、朱理が謝るんだい?」
「だって、わたしとお母さんのせいで、お父さんは……お父さんと社長は警察に捕まって、それに、それにお祖父さんは……」
命を奪われた。
「それは違う」
「でも……」
「悪いのは求道会だ。あいつらに対して朱理もお母さんも、叔父さんだって何もしていない……。いや、叔父さんはどこかで怨みを買っている可能性はあるけど……。それでも、法をねじ曲げて逮捕したり、傷付けたり、命を奪うようなことをゆるしてはならないんだよ」
朱理は父の顔を見上げた。
「そう、永遠ちゃんは悪くないわ」
「社長……」
朱理は好恵に顔を向けた。刹那と早紀も頷く。
「だから自分を責めなくていい、ムリをしなくていいだ。悲しければ悲しんで、泣きたければ思い切り泣きなさい。それでいいんだよ」
「お父さん……」
何かが自分の中で弾けた。
「お父さん、わたし……」
涙が溢れてくる。朱理は子供のように声を上げて泣いた。その間、誰も何も言わなかった。朱理は涙が涸れるまで父の腕の中で泣き続けた。




