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クライスラー300C リムジン

 空はリムジンのL字型をした座席の長い部分の端に座り、彼女の隣に朋美がだい距離を取って座っている。そして一番奥、運転席と助手席のうしろに真藤遙香がふんぞり返るようにして座りぶたを閉じていた。遙香は娘と連絡を取っており、朋美はスマートフォンで仏眼と交渉中だ。


「つまり代表代行は、真藤遙香を評議員二人と執行官数十名が居ても抑えられないということですな?」


 スマホのスピーカーから小馬鹿にしたような父の声が響く。評議員というのは空と雅俊のことだ。朋美の顔が怒りで青くなっている。


「ええ、その通りです……」


 だからあなたの姪の要求を飲むことにしました、と当て付けがましく続けた。しかし、遙香を取り込むことに賛成したのは朋美なのだ。たいすけが亡くなり弱まった求道会の求心力を回復させるためだが、想定外のバケモノだった。戌亥寺で警告を受けた時、素直に手を引くべきだったのだ。結果、求道会はとんでもない爆弾を抱えることとなり、空は己の判断ミスを激しく後悔している。特に自分は遙香に頭の中を監視され、考えていることが筒抜けだ。


「いいでしょう、真藤紫織には手出しをしません。私の息子が居るので大丈夫でしょうが、私自身も急いで戻ります」


「お願いします」


 朋美が食い縛った歯の隙間から声を絞り出すと通話は途切れた。


「よくできました」


 遙香に小馬鹿にしたように言われ、朋美は彼女を睨み付けた。それに対し遙香は余裕の笑みで応える。少なくとも、真藤遙香を求道会に引き入れようとしたことを後悔しているのは空だけではない。朋美はかつて感じたことのない屈辱を味わっている。しかも味あわせているのは、会長の座を争っている男とその姪だ。空への風当たりがより強まることは決定した。


  それでも最悪の状況は回避できた……


 少なくとも求道会の異能者は一人も失わずに済んだ。ただし、本部は使用できなくなってしまった。余りにもダメージが大きく、いつ天井が落ちてきたり床に穴があいたりしてもおかしくない。そのため、別の場所へ移動しているのだ。


 求道会は放送媒体を利用して人々の心を操り、世論や選挙結果をコントロールしてきた。しかし、会長の弓削泰介が亡くなってから異能力は弱まり、今までのような影響力を発揮できない。その穴埋めをするために、強力な異能者を探していた。そして複数の候補が挙がる中、圧倒的に強力な異能を持つと判断されたのが鬼多見法眼と真藤遙香の親子だ。因みに、遙香がつぶした智羅教ちらきようつぼうち親子も候補に挙がったが、弓削泰介の穴埋めにするには智羅教の異能者全員でも足りないと判断した。


  遙香一人でも、充分に会長の穴埋めになる。

  でも、抱え続けるにはリスクが余りにも大きい……


 やはり他の異能者を引き込むべきだった、人数が何人増えて手間や見返りが増えようとも。そもそも人質手法が大失策だ。遙香の反応を確かめるため、御堂永遠に『紅葉を見る会』の招待状を、芦屋総理を通じて送った。弱小芸能プロダクションにとって自社のタレントが総理大臣主催のイベントに参加できるのは大きなステータスになる。普通なら食い付くはずだ。しかし、遙香は完全に無視した。空は遙香が名声や金では動かないと判断する、彼女の能力を使えば金も名声も思いのままのはずだ。それをしていないのだから、総理大臣の権威も意味がない。もちろん、まともに協力しろと言っても断るのは解っていた。


 そして選んだのが人質作戦というわけだ。一応、協力を約束させたがとても成功とは言えない。求道会の参謀として、異能者に頼らずに政界に影響を及ぼす手段を考えるべきだった、このままでは求道会は遙香に牛耳られてしまう。


  父さんと海がいれば、会長代理と力を合わせて……


「あんたのパパと弟は仲が良いから、いつでも一緒にいられるだろうけど……」


 遙香は視線を朋美に向けた。


「お婆さんとは仲良くしていられるかしら? あたしを抑えるためには、三人がいつも一緒にいないとね」


 朋美が空を睨む。


  しまった!


 つい頭の中を監視されているのを忘れてしまう。精神防御については仏眼と海に訓練を受けていたが、遙香には全く役に立たなかった。この時点で空は完全に遙香に主導権を握られている。


 朋美が解除してくれないかと期待したが、何もしてくれない。仏眼か海に何とかしてもらおう。


「なんとかできればいいけど?」


 おどけた表情で言う遙香に、空は歯を食いしばった。


「連絡して海を呼び戻します」


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