表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/95

中野区

 いちかわあきのりは、今日の収穫をどう料理しようかと考えながら暗い帰り道を急いでいた。


 野党が会期延長を希望したが通らず今国会は閉会した。だが、次は彼が入手した情報で大いに荒れるかもしれない。


 市川は先程まで求道会の幹部のおいたつと会っていた。信者を取材するのはこれで六人目だが、一番の大物だ。芦屋首相と弓削朋美の密会写真とは比較にならないスクープになるだろう。笈田は経理部長をしているが、所謂いわゆるパトロンで、信仰心からではなく宗教ビジネスに興味があり入信、いや参入した。ところが、求道会は彼が予想していた組織と大分違っていたのだ。


 新興宗教であることは知っていたが、いかがわしい超能力や予言を売りにしない堅実な組織という認識だった。事実、日本求道会は真言宗から派生しており、勧誘の際にもオカルト的な内容を話すことはない。その代わり、有名芸能人や著名な作家、漫画家、そして政治家を広告塔としている。


 だが、それは表の顔だった。一部の幹部は異能力者で、人の心を操つることができる。広告塔にした人々の勧誘には、会長の泰介を始めとした異能力者が向かい必ず入信させている。笈田は超常的なことを信じていなかったが、彼らの起こす常識を越えた現象を何度も目撃し、現実に超能力が存在することを認めざる得なかった。


 だが、それは彼にとって些細な問題だ。笈田が投資した金額以上の利益を求道会はもたらしてくれたからだ、一五年ほど前に佐伯仏眼が加わるまでは。


 彼の異能は泰介に匹敵する強さで、組織内部ですぐに頭角を現し、わずか五年足らずで副会長になった。それから数年後の総選挙で民自党を全面的に支援し、政権奪取に一役買った。


 求道会の勢力も拡大し万々歳のはずだが、仏眼の台頭は組織にとって危険を孕んでいた。組織内部に彼を崇拝する派閥が生まれたのだ。それでも泰介が健在な頃は良かった。現在、仏眼と朋美の対立が激しさを増しているが、分裂すれば政界への影響も弱まってしまうため、次期会長を決めるという問題を先送りしてギリギリまとまっている。


  ただし、タイムリミットは近いか……


 解散しなくても来年は任期満了で衆議院総選挙がある。恐らくその後、求道会内部の権力争いが本格化すると笈田は見ていた。彼は今のところどちらに付くか決めていない。というか、彼の本音は脱会だ。


「どちらの派閥が勝つにしろ分裂はさけられない。そうなったら求道会にいるメリットは無い」


 だから市川の取材を受けることにしたという。国民の民自党への不信感が強まれば、泰介を欠いた状態で選挙で勝利することは難しい、野党がふがいなさ過ぎるのがネックだが。


 笈田は民自党が敗北したらそれを口実に脱会するつもりだ。


「今の状況で脱会を切り出したら、心を操られてどちらかに取り込まれるのがオチだ。だからオレに構うことができない状況を作り出して逃げるのさ」


 彼は海外へ逃亡するつもりらしい。大げさだと市川は思ったが、金づるを失わないために、カルトが何をするかは解らない。


 そんなことを考えながら歩いていると着信音が鳴った。スマホを取り出してディスプレイを見ると、先程会っていた笈田の名前が表示されている。何か、言い忘れたことでもあるのだろうか?


「もしもし、市川です」


「あんたがパパラッチの市川昭典か?」


 聞き慣れない男の声がした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ