ノクサスの野望
「貴殿どうしたんだ?さっきから様子がおかしいぞ。」
「色が戻らない・・・」
朝から美月の生命力が一向に戻らないことに翔也はそれどころではなかった。指を伸ばし薬指を見つめる。
「おいって!!」
突如アカリが肩を掴み顔を下から覗かせながら聞いた。
「どうした。指がなんか問題なのか?」
「なんでもない。」
説明するのもバカらしく適当な返事を返す。
「なんでもないことないだろ。話してみろ。話さない限り先へは進めんぞ。」
そう言うと掴んでいた肩を押さえつけた。
その力を上回るほどの余力は翔也には残っていなかった。
どうせ伝わらないと思ったがこれではらちがあかない。ボソボソと語る。
「この指の色あるだろ?これは生命力を示してて中指の部分が俺の恋人の色なんだ。」
「初めて見たな。」
アカリは翔也の手をとりまじまじと観察しだした。
「他のと比べて半分ぐらいまで減ってるだろ。今日の朝からずっとなんだ。」
「疲れてるだけなんじゃないか?」
「そんな疲れてるぐらいじゃ変わらない。昨日君と戦ったとき俺のものは何も変化しなかった。」
「貴殿さらっとショックなことを言ってくれるな」
「それに美月はヒーラーだ。自分で回復できる手段もある。なのに・・・」
翔也は考えれば考えるほど思考の沼にはまっていく。手がかり何一つない状態で現状何も自分にできることがない。負の感情に心が支配されていた。
「彼女もスキルを持っているのか?」
「あぁそれが?」
「だとするとノクサスのスキル狩りだ。」
「なんだそれ詳しく教えてくれ!!」
暗闇の思考の中突如現れた一点の光。美月に会うためのなんらかのヒントが掴めそうな予感を感じ興奮し、逆にアカリの肩を掴んだ。
「落ち着け。ノクサスすらもわからないのか?どうなってるんだその頭」翔也に掴まれた手をどかしながらアカリはノクサスについて話してくれた。
「強大な帝国ノクサスは他国から恐怖の目で見られている。国境の外にいる者にとって帝国は残酷な拡張主義を掲げる脅威であるが、その軍国主義の内側を覗けば、武勇と才能に敬意を払い、それを育てようとする、類稀な開かれた社会を目にすることになる。
現在の帝国の首都である古代都市は、かつて残忍で野蛮な部族であったノクサス一族によって占領されていた。四面楚歌にも等しいその状況で、彼らは積極的に外敵に戦いを挑むようになり、年々その領土を拡張してきた。この生存闘争が、ノクサス人を何よりも力を重んじる誇り高き民族へと変えた。ここでは様々な形で、力ある者が日の目を見ることができる。
社会的な地位や出自、出費、富などは関係なく、その適性を示すことさえできれば、誰であろうとノクサスの中で権力と人々の尊厳を手にすることができるのある。魔法を使いこなせるものは特に高く評価され、そうした人材の確保にも余念がない。帝国の繁栄のためにその特殊な才能を鍛え上げて利用するのだ。
そのトップに君臨するのが3人
予見の帝王『スウェイン』、
力の戦士『ダリウス』、
最後は素顔が誰にもわからない狡智『顔なし』
彼ら皇帝達。通称[トリファリックス]ノクサス帝国拡大のためスキルを持っている人、魔力を持っている物を集めているんだ。集めているって言ってもそのやり方はほぼ強制。
時には彼ら自ら収集に向かう。その左手のガントレットも見つかったら狙われるだろう。」
「ならノクサスの奴らか。」
「まだそうと決まったわけではないがおそらくは。」
「なるほど。」
どこに行けば会えるのかとおおよその見当がつき気持ちが晴れる。
「貴殿一人で行くのか?」
「もちろん。」
「相手はノクサスの皇帝達だぞ無茶がすぎる。いくら貴殿でも。」
「直接戦うわけじゃない。美月を救出するだけだ。」
「にしても・・・」
「俺は行くよ。ジンをやってから」
「わかった・・・お互い様だ。ジンを助けてくれたら私も行こう。私のスキルは役に立つ。」
「いいのか?」
「うむ。強くなりたいからな。」
「そうか。情報ありがとう。おかげでスッキリしたよ。すまない先を急ごう。」
「よかった。」
そう言うと翔也の直線上に立っていたアカリは反転し歩き始めた。
『もう少し待ってろよ。今すぐいく。』
翔也は空を見上げ積乱雲が立ち上がる地平線の彼方を眺める。
どこかにいるであろう美月のことを想っていた。