御伽の国
産まれたばかりの雛鳥。
深く深くまで落ちていく。
初めて見た美しく楽しい国。
破った殻を踏み潰しながら歩き出す。
こんなにも素晴らしい場所なのに孤独な雛鳥。
まだ思ったように羽ばたけず。
助けを求めるように甘えた声で鳴いた。
周囲の喧騒に掻き消された声は遠くに消える。
明けていく高い空に終わらないよう願った雛鳥。
自身の存在を確かめたかった。
産まれたばかりのこの美しい世界で。
聞き分けのない空は明けていくばかり。
寂しく消え入るような声で鳴いた雛鳥。
誰にも見てもらえないまま泣いた。
周囲の輪に馴染めないまま。
届かない声は遠くに消えていく。
月日が経ち大人になった雛鳥。
羽ばたけるようになり高く高く飛んだ。
見下ろした美しく楽しい国は小さく見えた。
こんなにもちっぽけだった。
大きな声で鳴いてみた雛鳥。
喧騒をかき消した。
周囲が揺れるように感じた。
初めて聴いた空気の鳴動。
震える羽で触ってみた雛鳥。
自身の存在を確かめてみた。
この国に存在していること。
この世界に存在していること。
旅立ちの時を感じた雛鳥。
悲しい声で鳴いてみた。
夢から覚めていったんだ。
遠くで嘲笑うように揺らめく蜃気楼。