8話
時々不思議な夢を見る。
見た事もない、どこか遠い異世界の夢
目が覚めた途端、少しずつもやがかかっていくように忘れていってしまう
それなのにどこか懐かしい感じがする不思議な夢
(久しぶりに見たな)
どうやら昨日はあのまま眠ってしまったらしい。
おそらく先生が部屋までおぶって来てくれたのだろうが、
流石に高校生の俺を二階までおぶっていくのは大変だっただろうと申しわけなさが込み上げてきた。
(結局聞けなかった。)
昨日の放課後、俺は突然見たこともない魔物と魔族の眷族だという少女に立て続けに襲われた。
そしてそれを助けてくれたのは昔から知っている晃大兄ちゃん・・・先生だった。
正直今でも夢なんじゃないかって思っているのだが、逃げ回っている時についたと思われる小さな傷が事実である事を静かに証明していた。
そんな事を思いながら伸びをし、重い体を起こす。
カーテンを開けると、外はすっかり明るくなっている。
壁にかかった時計を確認すると、時計の針は正午を指していた。
完全に寝坊だ。
慌てて部屋を飛び出し
階段を駆け下りてリビングに入ると、ちひろさんがキッチンで昼食の用意をしていた。
「おはよう涼太。丁度良かったわ、今出来る所だったの。」
ちひろさんはいつもの調子で話しかける。
「晃大は授業があるから学校に行ったけど、涼太は疲れたろうから休みなさいって言ってたわ。学校には上手く言っておくからって。」
まったく昨日から世話になりっぱなしだ。
これは当分先生に足を向けて寝れそうにない。
昼食はパスタだった。ちひろさんの料理はなんでも美味しい。
ちひろさんは、いつも通りの穏やかな笑顔で俺が食べている様子を眺めている。
いつもと同じ食卓の情景、いつもと変わらないはずのリビング。
しかし、その一角には明らかに異質な物が横たわっていた。
「眠っているんですか?」
ちひろさんは少女の方をちらりと見ると、コクリと頷いた。
「ちひろさんは・・・、その、知ってるんですか?。」
恐る恐る聞いてみる。
「何が?」
「その、晃大兄ちゃんが・・・、魔法とか使えるって事とか」
ちひろさんは視線を下に外すと少し考えるような様子を見せた。
と、その時リビングの片隅からうめき声が聞こえた。
「っつ・・・。うぅぅ。」
眠っていた少女が目を覚ましたようだ。