第九十七話 干渉、ギルティー、ペナルティー
証言1:シス。
「私は特に何もしてないけど、ミキが鈴香さんに何かお願いしていた姿を見ました!」
証言2:リコ。
「うちも何もしとらんで? そう言えばシスから鈴香が何か受け取ってた気がするなぁ?」
証言3:ミキ。
「もちろん僕も何も悪いことはしていないよ? 僕がパパを裏切るようなことするわけないじゃないか。お願い、信じて、トラストミー」
証言4:寺門 鈴香。
「ち、違う! 私はリコにちょっと精霊貸してくれって頼まれて! そ、そうだ、菖蒲が伊集院先輩と何かコソコソと話してたぞ!」
証言5:佐倉 菖蒲。
「な、なんのことかな……」
証言6:伊集院 灯。
「えー、いいじゃん、減るもんじゃないんだし。風物詩みたいなもんでしょ? ね? 綾小路さん?」
証言7:綾小路 穂乃果
「え、え? ま、まぁちょっとは見たいかなって思わないでもないけど……。あ、いや、違うの! そうじゃなくて!」
「神宮寺先輩、判決を」
「ん? あー、まぁ、なんだ」
判決を述べるように促すが、優しい神宮寺先輩は中々言葉には出せないようだ。
しかたない、先輩を手助けするのも後輩の勤めだろう。
牛乳を片手に俺は意を決して次の言葉を紡いだ。
「有罪ですね」
「いや、まだなにも「有罪の判決がおりました」
有罪。
そう、有罪である。
自分の行動のツケは自分で払う必要がある。
具体的にはその体で。
くくく……。
「なぁ、健。悟、なんかへんじゃね?」
「やっぱ達夫もそう思う?」
後ろでヒソヒソ声が聞こえるが関係ない。
俺はこれから大切なことを伝えなければならない。
ギルティーな彼女達に、その罪にふさわしいペナルティーを。
「とても忙しそうにしている人たちが居ます」
「「「「「「「はぁ……」」」」」」」
うん、ピンときていないようだね。
まぁこれだけでわかれと言うのは難しいだろうと俺は続ける。
「そこで君達にはお手伝いをしてもらいます」
「それだけ?」
シスが怪訝そうに聞いてくる。
まぁ、大仰に言っておいてお手伝いでは確かにそう思うのは仕方がないことだろう。
だが、俺は大切なことをまだ伝えていない。
ふふふ、楽しみだぜ。
俺は神宮寺先輩に耳打ちをすると休憩所を後にした。
次はコーヒー牛乳にしようと考えながら。
「そういうことね……」
「うちは普段とあんまり変わらんなぁ」
「これ、結構寒いね」
シス達が感想を口にしながら更衣室から出てくる。
身を包むのは赤と白、巫女服である。
「ん、こんな感じで大丈夫か?」
神宮寺先輩が能力で周囲の温度を上昇させる。
いくら室内とは言え、結構な薄着だし寒いのは仕方がない部分がある。
だが、これから動くのだから問題はないだろう。
「ちょっと恥ずかしいわね」
「伊集院先輩、似合ってますよ」
「ありがと、穂乃果ちゃんもよく似合ってるわよ」
シス達に続いて伊集院先輩達も更衣室からでてきた。
うん、素晴らしい光景だ。
「それで手伝いとは何をすれば良いのだ?」
「出来れば室内だと嬉しい……」
寺門は堂々としているが、佐倉は少し恥ずかしいようで自分の体を抱きしめていた。
何をするか、か。
さっき忙しそうにしていた巫女服グループはいつの間にかどこかに消えてしまっていた。
うん、どうしよう。
「ふむ、中々似合うものだな」
「神宮寺先輩」
「手伝い、か。ならば祭壇の周りを清めるのを手伝ってもらえるか?」
「祭壇ですか?」
「ああ、明後日予定している神事で使う予定なのだが」
人手が足りず、まだ清掃が出来ていないらしい。
尤も、普段から頻繁に掃除はしているので、そんな重いものではないらしいが。
しかし神宮寺先輩もわかってるね。
巫女服✕祭壇とか。
「えー、今お風呂に入ったばっかりなのに-」
伊集院先輩が腕を組みながら不平の言葉をこぼす。
腕の上に素敵なものが……、ごくり……。
い、いや、そうじゃない。
ともかく覗き、その咎はきっちり償ってもらうぞ。
「ああ、神無月。お前も手伝うんだぞ」
「え?」
「当たり前だろう。重い物を運ぶのは男の仕事だ」
「えー、今お風呂に入ったばっかりなのに-」
俺の頭上に平沢と山下ののげんこつが降り注いだ。
解せぬ。
「ばっか、近くで作業してたらラッキーがあるかもしれないだろ!」
「それはともかく、やっぱり女の子だけに仕事させるのは、ね」
「健、いい子ぶるなよ」
「がっつくと引かれるよ?」
「……、なるほど」
平沢は策士だなぁ。
考えてみればたしかにそのとおりだ。
俺は一つ頷くと先頭に立って歩き始めた。
「神無月」
「なんですか、神宮寺先輩」
そんな俺を呼び止める声。
早く祭壇の掃除をしたいのに。
なんせ神事に使うものだからね。
しっかり清めておかないと!
「祭壇は反対側だ」
Oh。
「いや失礼、それでは行きましょう!」
「あ、ああ。随分とやる気だな」
「そりゃあもちろん!」
なんたって巫女服だからね。
しかし、俺ってこんなに巫女服好きだったっけ?
リコの姿を見ても普段はなんとも思わないのに。
まぁいいか。
勢い良く扉を開けて祭壇へと続く石畳に一歩を踏み出す。
神宮寺先輩の能力のおかげで寒さは感じない。
俺達が一歩進むごとに石畳の上に積もっていた雪は溶け、蒸発する。
……、蒸発?
「足元が濡れていると危ないからな。水を蒸発させた後、すぐに熱を奪っているんだ」
「器用ですね」
そこまで細かく操作できるのか。
驚きながら横を歩く神宮寺先輩を見る。
「前はできなかったんだがな」
俺も成長しているんだ。
そう言って神宮寺先輩は俺を見て笑った。
いや、これ以上成長しなくても良いのではないでしょうか。
いつまで経っても追いつけないじゃないか。
「ま、後輩に負ける訳にはいかないのでな」
たまには勝たしてくれてもいいだろうに。
この人、地味に負けず嫌いなんだよな。
「いつか、土をつけますよ」
「楽しみにしていよう」
うん。
神宮寺先輩が卒業するまでに一勝する。
これを目標にこれからは頑張ろう。
新たな決意を胸に俺は祭壇に続く鳥居をくぐった。




