第九十五話 雪上の弾丸
「ひゃっふー!」
「わわっ!!」
「とりゃあああああ!!」
皆さんこんにちわ。
俺は今、ウェアに着替えてゲレンデに居ます。
一番上からの見晴らしは最高ですよね。
そして俺の精霊たちはと言うと……。
「何あれ……」
「さぁ……」
「精霊様のすることはよくわかりませんなぁ……」
周囲の奇異の視線を受けながら、ゲレンデを爆走する彼女達。
彼女達はスキー板を装備しているわけでもなく、スノーボード板を装備しているわけでもなく、ましてやソリに乗っているわけでもない。
「能力の無駄遣いも良いところだなぁ……」
そう、彼女達はシステムウィンドウを球状にしてその中に乗り込んでいたのだった。
コロコロと雪面を転がり落ちる透明な球、もといシステムウィンドウ。
ポヨンポヨンと跳ねると同時に中から彼女達の歓声が上がる。
人にぶつかりそうになると、物理的にありえない角度に飛び跳ねて躱しているから危険はないんだろうけど。
そして一番下まで降りると浮き上がり再び頂上へ。
リフトの存在意義、全否定ですね。
「何あれ……」
ぼーっとゲレンデを飛び跳ねるシステムウィンドウを眺めていると聞き覚えのある声がした。
隣と言うにはやや下方。
加奈多って言ったっけ?
リコより少し身長の高い彼女。
前に会った時に比べても結構身長が伸びているのかな。
子供の成長は早いものだ。
そんな彼女との夏休み以来の再会であった。
「よっ、久しぶり」
「……、ナンパはお断りですよ」
「違うよ!?」
どこの世界に小学生にナンパする高校生がいるんだよ!?
だいたい、ここ関係者しか居ないんだよ!?
そんな所でナンパするとかチャレンジャーも良いところだ。
ナンパどころか難破、そのまま雪の中に埋められてしまいかねないだろうが。
「や、ここに居ますし」
「だから違うって!」
「……、ふふ、お久しぶりです」
「あ、ああ、久しぶり」
良かった、ただの冗談か。
「で、名前なんでしたっけ?」
おい。
「ふふ、冗談ですよ、山田さん」
「神無月です……」
この子、逞しくなったなぁ。
「はぁ。あぁ、そうだ、ちょっと時間いいかな?」
「別にかまわないですけど……」
そう言いながら一歩下がる彼女。
だから違うと言うに。
せっかくの再会だ。
彼女と少し話したいと思った俺は、ゲレンデの中ほどにある喫茶店へと向かったのだった。
「それにしても、君も関係者だったんだね」
「はい、お祖父様に連れられて」
そんなことを話しながらブーツにこびりついた雪を落とす。
扉に付けられたベルが来客を告げる音を鳴らす。
小洒落た喫茶店の中に一歩足を踏み込むと、暖かい空気が体を包み込んでくれた。
店員さんの案内で窓際の席につくとメニューを広げる。
窓の向こうで、シス達が転がっていくのが見えたが気にしない。
「さっ、遠慮せず好きなもの頼んでね」
「や、全部無料ですよね? 何自分でお金出すみたいな雰囲気出してるんですか」
そう、ここら一体の施設で提供されるサービスは全て無料と来ている。
これは注文せざるを得ない。
『ただ』、なんて魅惑的な響きよ。
いつもであれば、シスがポットに用意してくれているお茶を出すところなのだけどね。
今回ばかりは出番を控えてもらうよ。
「お代を払っていただいても結構ですよ?」
「や、それは勘弁してください」
注文を取りにやって来た店員さんが笑いながらそんなことを言ってくる。
「じゃ、これとこれ、それからこれを」
「……、本当に遠慮なしですね。人の目とか気にならないんですか?」
加奈多ちゃんが冷たい眼差しを向けてくる。
しかし仕方ないだろう、普段中々食べれないんだし。
「どうせ皆関係者だしな」
「そういう問題では……」
「加奈多ちゃんは頼まない?」
「っ! もぅ! わかりましたよ! 私はこれとこれで!」
やけくそ気味に加奈多ちゃんも注文を決める。
「はい、承りました。ふふ」
「どうされました?」
優しい目で笑みを湛える店員さん。
何か微笑ましいものでも見ているかのようだ。
「あ、いえ、失礼しました。仲、よろしいのですね」
「なっ!?」
「それでは暫くお待ち下さい」
頬を朱に染める加奈多ちゃんを置いて店員さんは奥へと戻っていった。
「ぐぬぬぬ……」
「まぁまぁ」
「神無月さんのせいじゃないですか!」
「え? そう?」
「今ならわかります! 神無月さんは間違いなくバカで下らないです!」
随分な言いようだなぁ。
まったく、誰がそんな言葉を教えたのやら。
「おいおい、大人のレディはそんなこと言わないぞ?」
「神無月さんが自分で言ったことじゃないですか」
「え? そうだっけ?」
言葉を教えたのは俺だった。
そう言えば、なんか前に適当にそんなことを言った気がする。
「……、大人は自分の発言に責任を持つものだと思うんですけど?」
「違うな。大人は自分の責任を上手く逃れるものだ」
そんな訳で今回も適当に流しておこう。そうしよう。
店員さんがそっとテーブルの上に置いてくれたパンケーキに、俺はナイフを入れる。
切り取ったパンケーキ、漂うバターの香り。
うん、たまらんね。
「最低ですね」
「かもな」
一口頬張ると甘みと暖かさが口いっぱいに広がる。
「汚いです」
「そうだな」
次はブルーベリージャムを試そう。
その次はホイップクリームだ。
「でも、ありがとうございます。おかげで何とか友だちができました」
「まぁ、そんなもんだ。きっかけさえあればな」
「聞いてたんですか……」
「……、このパンケーキ美味いな」
「そう、ですね」
その後、追加で運ばれてきた品々に舌鼓を打ちながら俺は加奈多ちゃんの話をのんびりと聞いていった。
と言っても、大したことはないのだが。
「またね」
「もう会わなくていいです」
冷たいことを言う加奈多ちゃんと別れ、俺はゲレンデを疾走するのだった。
なお、降りた所で待っていた伊集院先輩達にこってり絞られたのは言うまでもない。




