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第九十四話 紙装甲

 確かにマスコミは居なかった。

 そして関係者しか居ないのも事実だ。

 だが、ゆっくりとはできなかった。


「もしや、貴方様は神無月殿ではありませんか?」


 ロビーに入ると、口元に蓄えた白い髭を貯えた老紳士が俺達、いや、俺へと話しかけてくる。


「え、はい、そうですけど」

「おお、貴方が! 一度お話をしてみたいと思っていたのですよ! おっと、自己紹介がまだでしたな、私は佐々木家当主、佐々木 晶(ささき あきら)と申します」


 俺達は集団で動いていたと言うのに、中々行動力のある人だな。

 そんなことを思いながら俺も自己紹介を返す。


「神無月という言葉聞こえましたが、もしや九頭龍の神無月殿がこちらに?」

「おお、鉄守! こちらの御仁が神無月殿だ!」

「私は鉄守 止(かなもり とまる)、こんな顔つきだが趣味は料理なんだ。よろしく頼むよ」


 精悍な顔立ちなのに、普段はエプロンを装備しているらしい。

 最近はお菓子作りに凝っているとか。

 ……、似合わないな。


 入り口で話し込んでいると目立ったのか、ロビーに散らばっていた大人達がぞろぞろと集まってきた。

 そしてあっという間に他の面々の姿が見えなくなってしまう。


「能力に覚醒してからわずか数ヶ月だとか? 素晴らしい才能ですな!」

「彼女達が貴方の精霊で? 三柱とも人型、いえ、一柱は半霊半魔でしたか?」


 彼らは俺に向かって口々に賞賛の声を上げる。

 しかしそれは周りの人、そして運に支えられたものだ。

 素直にその言葉を受け取るのは難しい。


「いえ、偏に神宮寺先輩を始めとする諸先輩方の指導のおかげですよ」

「この若さで驕らず、謙遜するとは!」


 鉄守さんが朗らかに笑う。

 それに合わせて他の大人達も首肯した。

 何だこの空気、少し気持ちが悪い。


「よくできた御仁ですなぁ。儂の孫に爪の垢を煎じて飲ましたいくらいですよ」

「いやまったく」


 それにしても、こんな風に囲まれるというのは中々しんどいものだ。

 それに口では褒めているものの、何となくではあるが見下している気配を感じる。

 まぁ当たり前か。

 彼らは大人で、俺はまだ子供なのだ。


「そういえばうちの孫娘も数年後には高校に上がるのですよ」

「ああ、私の娘もそうですな」


 佐々木さんがそう言うと、鉄守さんも難しい顔をしながら首肯を返した。


「そうなんですか、良い能力に覚醒できいるといいですね」


 最初に覚醒した能力が全てとは言わないが、かなり重要な事だ。

 これが戦闘向きの能力なら、早い段階からダンジョンに挑め、ランクを上げやすくなる。

 そしてAクラスに配属されたのなら冒険者になることだって夢物語ではなくなるのだ。


「ええ、それで神無月殿は覚醒の儀を待たずして覚醒したとか?」

「あー、まぁ、そうみたいです」


 居ないわけではないが、かなり珍しいというのも後から知った。

 というより、覚醒した時に気が付かなかったんだよな。

 普通は何かしらあるみたいなんだけど、俺は気がついたら覚醒していたというか。


 ちらっと横に立つシスを見る。

 入学式当日、置き去りにして拗ねられたのが遠い昔に思える。


「うちの孫娘にもそのあたりの話をしてもらえないかなと」

「おお、それは素晴らしい。私の娘にも是非」

「は、はぁ……」


 そんな訳だから話をしてと言われても困ってしまうんだが。


「あ、悟さん、こちらに居ましたか」

「いじゅ……、灯さん?」


 人混みをかき分け、伊集院先輩が俺の側へとやってくる。

 顔は笑っているが目が笑っていない。


 え、俺何かやらかした?


「探しましたよ?」


 そう言いながら俺の手を取る。

 握る手には力が入り、少し痛い。


「おや? こちらの綺麗なお嬢さんは?」


 白い髭をいじりながら佐々木さんが問いかけてくる。

 疑問の目線が俺に集中し、少したじろいでしまう。


「私は伊集院 灯と申します。こちらの神無月 悟さんの婚約者ですの」


 そう言って微笑む伊集院先輩と佐々木さん達の視線が交差し、一拍。


「……、これは失礼した。なるほど、伊集院家の」

「ええ。それで皆様ご歓談中の所割り込んで申し訳ないのですが、先に荷物を部屋へ置きに行きたいのですが」

「ふむ、それならボーイを呼べばよかろう?」

「……、いえ、到着したばかりですし、少し休ませていただければと」


 佐々木さんは朗らかに笑いながらボーイに向かって手を挙げようとする。

 しかし、伊集院先輩は苦笑しながらそれを断った。


「なるほど、ならば茶をご馳走しよう。良い茶葉が入ってな?」

「ああ、あれですか? 神無月殿、よかったな。かなりの珍品だぞ」


 佐々木さんの言葉に鉄守さんが乗ってくる。

 お茶、か。

 生徒会室でたまに神宮寺先輩が淹れてくれるお茶は美味しいんだよな。

 少し興味が惹かれる。


「それではお言葉に甘え「お誘いありがたいのですが、二人きりの時間を頂きたいと思うのですが」


 俺の言葉を遮るように伊集院先輩が断りを入れてしまった。

 そしてこちらを向き、軽く微笑む。

 しかしその目は笑っていない。


 ……、別にお茶に付き合うくらい良いのではないかと思うのだが。


「はっはっは、これ以上は馬に蹴られてしまいそうですな」

「いやまったく、それではまた後にでも」

「あ、はい……」

「それでは失礼しますね」


 少し強めに引かれる腕によろけながら、俺はエレベーターへと向かった。



「はぁー……」


 エレベーターの扉が閉まると同時に伊集院先輩が項垂れ、大きなため息をはく。


「えっと、大丈夫、ですか?」

「悟君さ……、ダメでしょ?」

「へ?」


 俺、何かやらかしたか?

 特に当たり障りのない答えを返していたと思うんだけど。


「もっと防御力上げないと、食い物にされちゃうよ?」


 いや、防御力的には俺、鉄壁だと思うよ?

 なんせ不壊属性付きの無敵のシステムウィンドウがあるわけだし。


「あーもー、何も理解してないって顔だなぁ……」

「伊集院先輩、ごめんね……?」

「んーん、シスちゃん達は仕方ないよ。逆に口出したら色々アウトだったと思うし」

「せやなぁ……」


 女性陣は意思疎通できているようだが……。

 なんか俺だけ仲間はずれで少しさみしい。


 エレベーターが目的の階に到着し、扉が開く。


「……、とりあえず部屋に荷物置いたら説明するわ」

「あ、はい、お願いします……」

「ほら、早く行こ」


 シスと伊集院先輩に腕をひかれながら俺は部屋へと向かった。

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