第九十二話 いざ、雪山へ
「お、もういたか。おはよ」
早朝、寮のロビーに降りるとそこには既に平沢と山下が準備万端で待っていた。
クリスマスパーティーの翌日。
今日から神宮寺先輩の家の別荘に泊まりで遊びに行くのだ。
尤も、俺は九頭龍として色々手伝わなきゃいけないこともあるみたいだけど。
「はよー。くぁー、ねみぃ……」
「何だよ、達夫。夜更かし?」
「緊張で昨日あまり寝られなくってよ。そういう健はどうなんだよ」
「あはは、実は僕もあまり寝られなかったよ」
照れくさそうに平沢が笑う。
俺もそうだが、二人共ウィンタースポーツは初めてらしい。
まぁ、だから昨夜クリスマスパーティーの後、皆俺の部屋に来てイメージトレーニングをしていたのだが。
今の俺の部屋にはインターネット的な環境が揃ってるからね。
なんせシステムウィンドウと侵食、それに幸運の能力を組み合わせればインターネット使い放題、しかも大画面だ。
縁結びでネット回線って結べるのね。
まぁ、縁といえば縁なのだろうけど。
セキュリティー的なものは侵食の能力で乗り越えれたし。
動画サイトや指南サイトを漁っていたら思いの外時間が経っていたんだよな。
一応日をまたぐ前には解散したのだが。
「女の子の前で恥かきたくないしよー」
「だよねぇ」
「おいおい、彼女居るのにそういうこと言って良いのか?」
それに俺のチームメイトにあまり色目使ってほしくないんだけどな。
仲間がそういう目で見られるのは正直あまり気分が良くない。
別に俺の彼女とかって訳じゃないからあれだけど。
「これは男のプライドの問題なんだよ」
「そうそう、彼女がいようがいまいが、そこは関係ないって」
「そんなもんかね」
いつも一緒に居るメンバーだし、最近ではそういったことは意識しなくなっていた。
うん、そうだよな、気をつけよう。
「ほんじゃ行こうぜ」
「楽しみだね」
「だなー」
寒風吹きすさぶ道を、俺達は学校へと向かう。
「ん? そのセーターってもしかして手作り?」
平沢が目ざとく聞いてくる。
よく気がつくな。
俺なんて手作りと既製品の違いがさっぱりわからないというのに。
「んー、そだな」
「私が作ったんだよ!」
むん、と胸を張ってシスが主張する。
「あ、やっぱり? 上手いもんだね」
「マフラーはうちやで!」
そして手袋はミキ作である。
おかげで全身モコモコだ。
流石に貰ったばかりのプレゼントを身に着けずに出かけるわけにも行かないからなぁ。
本当はウィンドブレーカーとか好みなんだけどね。
「それでは今日からよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
校庭で待っていた神宮寺先輩と合流、挨拶を交わす。
しかし、なんか意外というかなんというか。
「ん? どうした?」
「いえ、和服って珍しいな。と」
「ああ、一応な」
実家への帰省でもあるからと神宮寺先輩は言った。
休みの日でも制服姿なのにな。
そんなことを思っていると綾小路達もやって来た。
「あ、あの、おはようございます。それとお誘いありがとうございました」
「ああ、おはよう」
よく来てくれたと神宮寺先輩が朗らかに笑う。
和服姿とあいまって、とても渋かっこいい。
こういう人になりたいものだ。
「でも私達も参加して良かったんですか?」
「関係者じゃないですし……」
綾小路と佐倉が神宮寺先輩に問いかける。
「まぁ、多少増える分にはかまわないだろう。それに君達は神無月のチームのメンバーだろう? まったくの無関係というわけでもない」
「それなら良いんですけど。よろしくお願いしますね」
綾小路達はそう言うと神宮寺先輩に頭を下げた。
今回の参加者は平沢や山下の他に、うちのチームのメンバーを加えて総勢十一名だ。
思ったより結構な大人数になってしまった。
ま、少ないより良いよな。
「しかし楽しみだな! スノーボードにアイススケート、温泉もあるんだったよな?」
「寺門、そう言ってもらえると誘ったかいがあるよ」
「ゲレンデは関係者で貸し切りなのだろう?」
思いっきり滑るぞと言いながら、寺門は嬉しそうに手を握りしめる。
その横では少し目を伏せる佐倉。
「私、やったこと無いんだけど……」
「何、気にするな。初心者に教えるのは先達の義務だからな! 菖蒲には私がしっかりと教えてあげるよ」
「お手柔らかにお願い……」
軽くため息を吐きながら、佐倉は首肯を返した。
佐倉はインドア派だからな。
どちらかと言えばカマクラの中でのんびりしたいのかもしれない。
ダンジョンに潜ったりしてるから体力はあるけど、運動神経は良くはない。
「私も教えるよ! 鈴香程上手くは無いと思うけど、それなりに滑れるし」
「うん、鈴香だけだとスパルタになりそうだから助かる」
「えー、信用ないなぁ」
そんなことを言いながら三人はバスへと乗り込んでいった。
さて、俺も続くか、と思っていると腕を取られる。
横を見ると、いつの間にか伊集院先輩が居た。
「悟さんは私の隣、ね?」
「あ、はい」
そして彼女の腕には、俺とお揃いの銀のブレスレット。
偽りの関係とは言え、少し照れてしまう。
「むー」
「わかってるって、途中で交代しようね」
「ならばよし!」
シスの不満の声を軽くいなすと伊集院先輩は俺の腕を引いてバスへと向かった。
そんな俺の耳に山下達の不満の声が届く。
「彼女連れNGじゃなかったのかよ」
「悟だけずるい……」
いや、伊集院先輩は俺のチームメイトでもあるからね?
それに彼女じゃなくて婚約者だし。
関係ないか。
「はぁ、帰ってきたら機嫌とらなきゃな」
「こういう時少しめんどくさいよね」
贅沢なことを言いながら後ろからついてくる平沢達の声に、俺は思わずリア充爆発しろと言いたくなるのだった。
クリスマスはキング・クリムゾンされますた。




