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第九十一話 期末テストと白い結晶

 外と中とを仕切るガラス窓には水滴が付着し、窓側の席の生徒のキャンバスへと変わっている。

 寒風吹きすさむ校庭では、落ち葉が舞い踊っていた。


「うー、寒い寒い」

「やっとストーブのスイッチを入れる許可が出てよかったよね」

「まったく、うちの学校変な所でケチだよな」


 そんな声が教室の隅から聞こえてくる。

 12月中旬。

 テスト期間に入り、漸くストーブに火が灯ったその日。

 分厚い雲に覆われた空から、その年初めての雪が舞い降りたのだった。


「悟、自信のほどは?」


 席に座る俺に、平沢がテストの自信を問うてくる。

 勉強合宿とかしていたわけではないどころか、別方向の特訓で毎日フラフラだったとは言え、それなりに勉強はしてきた。

 問題はないはずだ。


「まぁそれなりかな。そう言う(たける)達はどうなんだよ」

「同じくそれなりってとこかな。まぁ、万が一悪いと笑えない事態になるから、結構頑張ったからね」


 一年Aクラス、俺達九頭龍戦本戦出場組は色んな意味で目立っていた。

 なんせ史上初の一年生での本戦出場、その上二回戦進出までしたのだ。


「九頭龍戦本戦出場者がテスト上位落ちだなんて、大恥も良いところだしなー」


 俺の机に腰掛けた山下が難しい顔をしながら目をつぶる。


 無いとは思うが赤点なんて取った日にはどんな目に合うか。

 恐らく上位に食い込むまでひたすら補習地獄だろう。

 当然冬休みなど、無い。


「まぁ有名税の一つだと思って諦めるしか無いよね」


 平沢が諦めの混ざった声でそう呟き、山下が首肯を返す。


 今でこそ落ち着いてきたが当初はすごかったらしい。

 下手に外出しようものならマスコミだけでなく、一般の人にも取り囲まれて身動きが取れなくなったとかなんとか。


 らしいというのは、俺はそういう経験はしていないからだ。

 基本的に学校内で生活していたし、学園外部へ出かける際も大体送迎車両がついていたからね。

 車がない時はシステムウィンドウに乗って出かけてたし。


 システムウィンドウ万歳。


 とは言え、学校内部では普通に人との接触もあったはず。

 にも関わらず、色っぽい話が一切ないのは悲しいところだ。


 いや、平沢にも山下にも彼女が出来たんだっけ。

 うらやましい……。


 一度リア充爆発しろと言ったことがあったが、お前が言うなと本気で切れられてしまった。

 意味がわからない。


「それで、悟は冬休みはどこか行く予定とかあったりするの?」

「やっぱ愛しの婚約者様と旅行とか行ったりするわけ?」


 山下がニヤニヤしながらこちらを見てくる。

 そのニヤケ顔を見て、俺は一つ伝え忘れていたことを思い出した。


「あー、そういえば」

「「行くの!?」」

「ちげーよ。神宮寺先輩から冬休みに別荘来ないかって誘われててさ」


 別荘と言っても、神宮寺家の祭場に併設されている施設らしいが。

 近くにゲレンデや温泉もあるらしいから十分別荘といえるだろう。


「おー、いいなぁ」

「俺達も連れてけよー」


 肩を組んでくる山下達に鬱陶しいと思いながらも答えを返す。


「もちろんだ」


 鳩が豆鉄砲を食らったような顔とはこういう顔を言うのだろうか。

 二人共ぽかんと呆けること一秒。


「へ?」

「まじで?」


 再起動したが信じられないと口々に言い始める。

 いや、お前らが行きたいって言ったんじゃん。


「神宮寺先輩からお前らも誘っておいてくれって頼まれてたんだよ」

「おおー!」

「持つべきものは友達だな!」


 九頭竜戦の労いってことらしいんだけどね。

 生徒会長の引き継ぎが忙しくこんな時期になってしまったと神宮寺先輩は言っていた。


「あ、それって彼女連れてっても良いん?」

「流石にそれはダメだろ」


 神宮寺先輩の別荘に女連れ込む勇気があるのか?

 そんな思いを込めて半眼で山下を見つめる。


「だ、だよなぁ」

「ま、たまには男だけっていうのもいいでしょ」

「いや、悟にはシスちゃん達いるし」


 平沢の発言に山下が突っ込む。

 いやいや、シス達は精霊ですから。


「あーあとさ」


 と、他の参加メンバーについても伝えようとした所で教室の入口が開く音がして、水島先生が教室に入ってくる。


「ふー、教室は暖かいわね。ほらみんな席について、テスト始めるよ」

「はーい」

「んじゃまたな」

「おう」


 ま、いっか。

 別に何があるわけでもないし。


「さってと、頑張るとしますかね」


 俺は筆記用具を取り出し、回ってきた問題と答案用紙にかじりつくのだった。



「で、この結果と」

「あー、まさかの結果だねぇ」

「……、これは、なんて言えば良いんだろうな」


 職員室前に張り出された期末試験の順位速報。

 その上から三位まで、シス達が占めていたのだった。


 ちなみに俺は六位、平沢が八位、山下が十位だった。


「あぶねぇ、なんとか十位以内だ」

「ほんとギリギリだね、十一位と七点差じゃないか」

「次はもうちょい頑張るわ……」


 各学年六クラス、二百四十人。

 個人的には三十位くらいまでは上位といえると思っているのだが、上位十位までは別の場所に張り出されているところを見ると学校の意識としては十位までが上位と言う認識なのだろう。

 能力を鍛えると同時に、上位十位以内に入るほどの学業成績を収めなければいけないってしんどすぎる。

 俺は伊集院先輩達がちょくちょく教えてくれるからまだなんとかなるけど、独学で頑張っている平沢達は本当に凄いと思う。


「さ、これで後の心配なく遊びに行けるな!」

「だね。いざ、ゲレンデへ!」

「ほら、お前らあまり騒ぐな。確認終わったら教室に戻ってくれ」


 先生の言葉に大人しく従い教室へと戻る。

 後は終業式が終われば待ちに待った冬休みだ。


 っと、その前にクリスマスもあるか。

 皆でクリスマスパーティー、楽しみだな。

 プレゼントも用意しておいたし。

 喜んでくれると良いんだけどな。

キング・クリムゾン!

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