第八十九話 久しぶりのランクアップ
「またランクアップかい?」
「それも全部の能力が、か」
「中々珍しいこともあるものだね」
神宮寺先生達が口元に手を当てながらツインテールを揺らす。
研究所襲撃の翌日、神事課の準備室では臨時で俺の能力の検査が行われていた。
ミキの姉妹を撃退したおかげか、能力がランクアップしたのだ。
それも三つとも。
まぁ、九頭龍戦を乗り越えた辺りで覚醒度がSを越えていたし、時間の問題ではあったのだろう。
むしろ九頭龍戦でランクアップしていなかったのがおかしいくらいだ。
何が試練になるかは神のみぞ知るとは言え、不条理を感じざるを得ない。
「えーっと、『システムウィンドウ』がランクⅥ、『幸運』がランクⅧ、『侵食』がランクⅦ、ね」
「これ、もう冒険者としても通用するレベルじゃないかな」
「うーん、戦闘向きの能力が無いのがネックだけど。システムウィンドウは攻撃にも使えるし」
むしろ攻撃にしか使っていません。
あとは移動手段?
あれ、システムウィンドウって何だったっけ?
「あ、あと新しく出来るようになったことだけど」
「はい」
新たに発現した力。
それ次第では冒険者としても上級に行くことも可能なはず。
そうなれば、俺が知りたかった情報を得ることの可能性が上がる。
「まずは一番ランクの高い『幸運』ね」
思わず生唾を飲み込む。
なんせランクⅧだ。
強力な力が発現していてもおかしくない。
ちょっとよくわからないんだけど。
と前置きをしてから神宮寺先生は新たな力の説明を始めた。
「縁結び。だって」
「縁結び、ですか?」
あれか、素敵な恋人ができるようにとか?
いや、魅力的な力ではあるんだろうけど、俺が求めているものとは違う。
それに今は伊集院先輩の婚約者でもあるわけだし。
「うん、縁結び。運命線と運命線を結ぶ? なんかそんな感じ」
「……、何でそんなふわっとした説明なんですか」
抽象的すぎて理解できないのですが。
「そんなこと言われてもさ。私の能力だとランクⅧの能力を解析しきれないんだって」
能力に作用する能力は、対象となる能力のランクにその結果が影響される。
そう神宮寺先生は説明した。
「大体、学生がそんな高ランクの能力持ってる方がおかしいんだよ?」
「私達がポンコツってわけじゃないんだからね?」
「ちくわ大明神」
「そうは言われましても」
上がったものは仕方ないだろう。
それも上げたくて上がったわけじゃない。
巻き込まれに巻き込まれ、気が付けば、なのだから。
あとちくわ大明神ってなんだ。
「それから『侵食』だけど、他の能力を強化することが出来るようになってるよ」
「強化ですか?」
「そうだね、具体的に言うと覚醒度Gの今でも、同ランク以下の能力なら覚醒度を三つくらい上昇させられるかな。凄いよね」
神宮寺先生曰く、擬似的なパス、経路を能力で作り出すことで出力等を上げられるということだった。
「えーっと……」
覚醒度って結構サクサク上がってるから、凄いと言われてもあまり実感が無いのだが。
「あー、神無月君はあまりわからないかもだけど、普通覚醒度って数ヶ月頑張って漸く一つ上がるかどうかくらいだからね?」
「そういうもんですか」
「そうだよ! もー、少しは周りを見たらどうかな?」
神宮寺先生がため息を吐き、ツインテールを左右に揺らす。
周り、周りか。
神宮寺先輩や水島先生みたいな人達が印象深いが、たしかにクラスメート達は覚醒度を上げるのに四苦八苦していたような気がする。
一年生だからダンジョンに潜る機会が少ないからというのもあるけれど。
俺や綾小路みたいに毎週の様にクエストを受注出来るのは普通は三年生からだ。
二年生でも上位クラスはともかく、下位のクラスは月に一回程度みたいだし。
しかし、この能力の凄い点は単純に強化だけじゃないな。
覚醒度が上下することで変わる感覚、ズレ。
そう言ったものは対人戦では切り札になりうる。
覚醒度を下げるのであれば、相手はその地点を過去に通過しているのだからそれに合わせるだけだ。
しかし、逆に上げるのであれば?
当然経験がなく、戸惑うだろう。
そして実戦ではその一瞬の戸惑いが致命的な隙を生む。
さらに、長期戦では気づかれないよう一つだけ覚醒度を上げてやり、相手の消耗を増やすということも出来るだろう。
「最後に、ランクⅥにあがった『システムウィンドウ』だね」
「来た来た!」
横で大人しくしていたシスのテンションが上がる。
もう数カ月もランクアップしてなかったしな。
シスとしても楽しみだったのだろう。
「形状変更、そしてモニターが新たに発現していたよ」
「形状変更って前回のランクアップでもあった気がしますけど」
前回とは少し違うんだ。
神宮寺先生達はコップに手を伸ばしながら説明を続ける。
「前回はシステムウィンドウの大きさが変えられる様になっていたでしょ?」
「はい、かなり大きく出来るようになりました。使いどころないですけど」
「今度は形を変えれるようになったみたい」
形、か。
また使いみちのあまりない力が発現したのかな。
「あ、ほんとだ!」
シスがシステムウィンドウを展開、様々な形に変化させる。
「おー、ドーナッツ型にも出来るのか」
もはやシステムウィンドウの原型は存在していない。
システムウィンドウという名前の何かをシスがこねくり回す。
「あ、それに柔らかくも出来るみたい。ほら!」
「お、おぅ?」
シスがドーナッツ状のシステムウィンドウを左右に引き伸ばしす。
なんというか、輪ゴムみたいだな。
「あ、シス、ちょっち柔らかい状態で下にシステムウィンドウ展開してみてや」
「え、いいけど」
リコの要望に応え、シスがシステムウィンドウを床から三十センチほど浮かしたところに展開する。
「ていっ!」
その上にリコが飛び乗るとポヨンとはねた。
「あ、いいね。トランポリンっていうんだっけ? ボクもいいかな」
「どうぞどうぞ」
ポヨンポヨンと飛び跳ねる三人の美少女。
遊園地とかであれば絵になったのかもしれない。
しかしここは学校、そして足元にはトランポリンではなくシステムウィンドウ。
もうこれわけわかんねーな。
「……、続き、良いかな?」
「あ、はい」
ぽよんぽよんと飛び跳ねるシス達を横目に、最後の力の説明を受けた。
「犯罪には使わないようにね?」
「それこそシス達に殺されちゃいますよ」
システムウィンドウにカメラ機能的なものが追加され、システムウィンドウの正面の映像を別のシステムウィンドウに表示できるらしい。
今まで遠く離れたところだと操作の精度が下がっていたが、これからはある程度対応できそうだ。
不可視化と組み合わせれば盗撮し放題という危うさはあるが、俺には外付け安全装置があるからね……。
そう言ったことに使用したくても出来ない。
「ま、それもそうか。それじゃもう良いよ」
「あ、はい。ありがとうございました。ほら、行くから降りて」
「えー、もうちょっとだけ。な? ええやろ?」
神宮寺先生に礼を述べ、トランポリンと化したシステムウィンドウを畳む。
リコはギリギリまで飛び跳ねていたが、システムウィンドウを消すと同時に上手く地面に着地していた。
水島先生につけてもらった稽古のおかげなのかな。
後日、冷蔵庫で冷やされていた皿の蓋にシステムウィンドウが張られているのを見つけた。
シス曰く、ラップ代わりにちょうどいいらしい。
能力とは一体。




