第八十八話 1・2・3 どっかーん!
ツヴァイと呼ばれた少女。
彼女もまた、ミキと同じ顔をしていた。
「何しに来たかって? 決まってるだろう?」
そう言って彼女はこちらを見やる。
見れば見るほど瓜二つ、いや、瓜三つか。
「やぁ、僕はツヴァイ。そこでだらしのない姿を晒しているアインの、まぁ、妹みたいなものだ」
よろしく頼むよ。
そう言って彼女はこちらへと一歩踏み出す。
「……」
「おやおや、なんて視線を向けてくるんだい? もしかしたら僕が君の娘になっていたかもしれないのに」
「それ以上近づくな。歴史にIFはないんだよ。ボクと同じ顔で、同じ声でパパに話しかけないでくれるかい?」
ミキが剣呑な声で制止を呼びかけるがツヴァイは気にした様子もなく更にこちらへと近づいてくる。
「やれやれ。ミキって名前だったかな? ご主人様に尻尾を振って、みっともないことだ」
「はっ、良いように利用されている君達になんと言われた所で知ったことではないね。土に還れ」
ミキの言葉に呼応するように地面から木々が飛び出し、ツヴァイの腹を貫いた。
避けられると思っていたが、あっさりと刺さったな。
「この程度かい? 話にならないな」
ミキが勝ち誇ったかのように首を振る。
「この程度、ね。その言葉、そのままお返しするよ」
が、ツヴァイを貫いた木槍が根本から腐食、崩れ落ちる。
貫かれていた腹には既に傷はない。
服には穴が開いている事から、間違いなく突き刺さっていたはずだ。
回復されたということだろうか。
「まさかこの程度でボク達をどうにか出来るとでも思っていたのかい?」
「ふん、そんなわけ無いだろ?」
「へぇ? その強がり、どこまで維持できるかな?」
彼女の周囲の地面が泥へと変化していく。
その範囲は徐々に広がり、ミキが周囲に林立させている植物へと触れる。
「な!?」
ミキが驚愕の声を上げる。
彼女の視線の先を見ると、泥に触れた植物が腐り落ちていくところだった。
「ははは。搾りかすの分際でボク達の前に立ちふさがるなんて、百年早いよ」
ツヴァイが笑いながら一歩踏み出すごとに泥の範囲が広がり、植物は腐り落ちていく。
「なるほど、確かにモンスターとしての格は君たちのほうが上のようだ」
ツヴァイのほうが上位であると認めるミキの言葉には、しかして諦めの色は含まれていなかった。
しかし、ツヴァイは気づかず楽しそうに言葉を続ける。
「分かっていたことだろう? さ、諦めて彼をこちらに差し出してもらおうか」
「何を言ってるんだい? ボクはただモンスターってだけじゃないんだよ?」
俺の精神力がゴリっと削られることを感じる。
ミキが能力を発動したのだ。
「はぁ? 何を言って……、っ!?」
「わかるかい? 精霊としての能力、それも加味して実力ってわけさ。さぁ、今までのツケ、払ってもらおうか」
慌てて飛び引くツヴァイへミキが追撃の木槍を差し向ける。
さらにシスがシステムウィンドウを操作し、逃げ道を塞ぐ。
「ちぇえええすとおおおおお!!」
掛け声と共に上空から金色の弾丸が降り注ぐ。
いつの間にか上空に舞い上がっていたリコのかかと落としだ。
「くっ!」
ギリギリで躱されるもそれを見越していたのか、リコは落下の勢いを速度へと換えそのまま突貫。
ツヴァイの胸へ掌底を叩き込む。
「ごふっ!」
「がっ!?」
ツヴァイの吹き飛ばされた先にはアインが居た。
そして衝突、二人共地に伏せる。
「止めやっ!」
「!? リコ! 待つんだ!!」
「ひゃわ!?」
空中に飛び上がり、システムウィンドウを蹴ってツヴァイ達へと飛翔するリコをミキが操作する樹木が捕まえる。
「な、何すんねん!?」
生い茂る枝葉で受け止めたとは言え、かなりの勢いで突き進んでいたリコはかなりの痛みを感じたらしくミキに苦言を呈する。
が、それと同時にツヴァイのすぐ正面。
リコが突っ込んでいたらそこに居たであろう場所に光球が出現、爆ぜた。
赤い閃光と爆音を撒き散らす。
「な、何が……」
閃光に眩んだ目と、痺れた耳がなんとか相手の姿を捉える。
そんな気はしていた、種の数は四つだったのだ。
「惜しいね、まさか気づかれるとは思わなかったよ」
四人目が俺達の前に立ち塞がったのだった。
「さて、自己紹介は必要かな?」
「いや、必要ないな。名前はドライ、だろ?」
「そうだね。それじゃ殺し合いと行こうじゃないか」
そういうが早いか、ドライはこちらに向けて光球を飛ばしてくる。
一直線に飛んできた光球を防ぐべくシステムウィンドウを展開。
システムウィンドウの向こう側で爆発音を聞く。
かなりの威力らしく、地面が軽く揺さぶられた。
しかしこれ三対四か。
優位とは言えない状況になってきているな。
追撃戦のはずがどうしてこうなった。
爆発音が収まったのを確認し、相手の様子を伺おうとシステムウィンドウを不可視化する。
「ん……?」
そこには一つのクレーターと、砂埃の舞う空間のみが存在していた。
「は……?」
「え? もしかして……?」
「まさか逃げたん……?」
呆気にとられる俺、そしてシスとリコも同様だ。
「本当に、性格の悪い……」
唯一ミキだけが、悔しそうに歯噛みしていた。
なるほど、以前ミキが言っていたのはこういうことか。
殺し合いをしようと言っておいてすぐさまトンズラとは。
確かに、いい性格をしている。
「しかし、これどうしようか」
「ボク達がやったわけじゃないし、そもそも彼女達はここの研究所で目覚めたんだ。パパが気に病む必要はないよ」
「とは言えなぁ」
元々襲撃を受けたせいでアチラコチラにあった傷跡。
その傷跡は既に綺麗になくなっていた。
それはそうだろう、俺達の戦闘で吹き飛ばされたのだから。
まぁ、クレーターを埋めたり泥溜まりとなった地面を元に戻す程度はやっておこう。
「さて、とりあえず所長達のところへ行こうか」
「そうね、たぶん応援呼んでいると思うし、どう説明するかも考えなきゃ」
なお、応援は呼ばれていなかった。
後でわかったことだが有線回線は切断され、携帯電話は妨害電波により圏外になっていたらしい。
尤も、それから三十分後くらいに水島先生達は俺達の元へと飛んできていたわけだが。
「いきなりシグナルをロストしたから焦ったわ」
「もっと早く来るはずだったんだが、俺達も妨害にあってな」
活動を活性化させている不穏分子、神の従者。
これからも恐らく彼らとの衝突は避けられないだろう。
その時のため、俺も鍛えないと……。
水島先生に格闘技でも習うかな?




