第八十七話 再生
「え? なんで?」
ミキが二人いる?
どういうことだ?
「やぁ、久しぶりだね……。ボクとしてはその運命とやらを呪いたい気分でいっぱいだよ」
混乱する俺を差し置いて、横に立つミキが忌々しそうに吐き捨てた。
「おやおや、つれないことをいうね? 離れ離れになった姉妹の、感動の再会だと言うのに」
やれやれと入り口に立つミキ(?)は首を振るが、その表情には歓喜の感情が張り付いている。
ぺろりと舌で唇を舐める姿は、その幼い見かけに似合わずとても艶っぽく、しかしどこか薄ら寒さを感じさせる。
「それで、そこの冴えない男が君のご主人様というわけかい?」
「ボクのパパに向かって冴えないだなんて言ってくれるね。死ぬかい?」
「おお怖い、くくく」
ミキが睨みつけるが、軽く笑い飛ばされる。
「ミキ、こいつは?」
「彼女は……」
怒りの表情を浮かべたまま、ミキが口ごもる。
姉妹とか言っていたが、まさかいつぞやのドロップアイテムか?
「はは、言いづらいならボクの方から言おうか」
そう言うと彼女は一歩踏み出して俺の方を向く。
ここで初めて目があったが、その目からは恨みの念が伝わってくる。
「初めまして、いや久しぶりと言ったほうが良いのかな?」
戸惑う俺に彼女は言葉を続ける。
「ボクは君が使役している、そこのモンスターの姉妹だ。名前は、そうだな、アインとでも呼んでくれ」
「……、ドロップアイテム、か」
「察しが良くて何より。ならこの次の言葉はわかるよね、さようならだ」
そう言うが早いか、彼女は手を振り下ろす。
それと同時に周囲から一斉に木の枝、いや、木の槍が俺へと目掛けて殺到する。
が、当然のごとくシステムウィンドウに弾かれる。
メキリメキリと音を立て、砕け散る木槍。
「ま、この程度じゃ当然か。これはどうかな?」
続いて彼女の手元に花が咲いたと思うと金色の花粉が空中へと放出される。
しかしそれもストレージへと格納することで無効化する。
「おいおい、これもダメなのかい? ふぅむ。ホムンクルス共では力不足だし……」
そう言って首をくてんと曲げるアイン。
しかし俺達もやられてばかりでいるわけがない。
「もういい? ならこちらの番ね」
シスがそう言うと、小さめのサイズのシステムウィンドウが多数展開。
アインへと襲いかかる。
そして、彼女の首はあっさりと宙を舞い、鈍い音をたてて床へと落ちた。
「やった!?」
ガッツポーズするシス。
そしてシスとは対象的に頭に手を当てため息をつくミキとリコ。
まぁ、有名なセリフですしね。
「おいおい、随分と物騒な物を振り回すね?」
「え!? なんで!?」
きっちりとフラグは回収されるらしい。
アインの体が、首の元へと向かい、その首を持ち上げる。
おいおい、デュラハンか何かかよ。
アインは持ち上げた頭を首にすえ、軽く手でもみほぐす。
そして手を離すと、そこには切断された跡すら残っていなかった。
「全く痛いじゃないか。ボクじゃなかったら死んでいたよ?」
そうしたらどうやって償うつもりなんだい?
と言いながらアインが一歩後ろに下がる。
「まぁ今日のところはこれまでにしておこうか」
「逃がすと思っているのかい?」
ミキの操る木の槍がその体を貫かんとアインへと迫る。
その速度はアインの操作する木の槍に比べかなり早い。
当然のことながら強度も上回っているだろう。
「おっと!」
しかし、アインはギリギリの所でそれを躱す。
「まったく、もう帰ると言っているじゃないか」
「仕掛けるだけ仕掛けておいて、ダメだったらサヨナラなんて許すと思う?」
「それはそうだね、っと!」
木槍に続き、シスの操作するシステムウィンドウがアインへと襲いかかる。
だが、掠めるものの仕留めるまでは至らない。
「それじゃ、またね!」
そう言うとアインはいつの間にか開いていた木の壁から外へと飛び出した。
だが、このまま逃がすわけがない。
「秋山さん達はここで待っていて下さい! リコ!」
「わかっとる! ほないくで!」
俺達はアインを追って部屋を飛び出す。
壁をぶち抜いたからか、後ろから秋山さんの悲鳴が聞こえた。
「全くしつこいね。しつこい男は女の子に嫌われるぞ?」
門へと向かって走るアインが振り向きながらそう叫ぶ。
彼女の向かう先にはホムンクルスらしく集団がこちらへと向かって走って来ていた。
ホムンクルスを壁にして逃げるつもりか。
「逃げられると追いたくなる性分でな!」
アインの周囲へとシステムウィンドウを展開する。
この距離で移動しながらだと当てるのは難しい。
だが、足場にするくらいには出来る。
そう、リコの足場にならば。
当たり前だが、リコは空をとぶことはできない。
しかし、空中に展開されたシステムウィンドウを足場にすれば立体的に動くことが出来る。
「つぇいっ!!」
「っ!? この!!」
お互い走りながらだとシステムウィンドウを当てるのは困難だが、足場であれば細かい操作は不要だ。
なんせリコが合わしてくれるからな。
「ぐっ!」
リコの拳がアインの横腹に突き刺さり鈍い音を立てる。
それと同時にアインは苦悶の声を上げ水平に吹き飛ばされ、数回バウンドしてから水溜りに着水、漸く停止する。
俺はその隙きにシステムウィンドウを正面へと滑らしこちらに向かってきていたホムンクルス共の足を切り飛ばす。
完全に仕留めなくてもかまわない。
とりあえず足止めさえできれば十分だ。
ふらつきながら起き上がるアイン。
ミキと同じ顔でつらそうな顔をされると、俺も辛くなるんだがな……。
だが、こいつは敵だ。
仕方があるまい。
「やれやれ、見てられないね」
そう思っていると地面に水溜りが盛り上がり、人の形を形成する。
「……、ツヴァイ、何しに来たんだ?」
忌々しそうにアインが問うた相手は、これまたミキと同じ顔をした少女だった。




