第八十六話 再会
「ん?」
憎たらしい秋山さんの笑顔から顔を背けたところ、窓の向こう側に人影を見た。
「何かありました?」
秋山さんが笑いながら問いかけてくる。
その時には既に人影はなくなっていた。
「いえ、今人影が見えた気がしたのですが」
「人影ですか? 今日は誰も居ないはずなのですが」
気のせいだったかな。
そう思っているとミキに袖をひかれる。
「パパ、招かねざる客が来たみたいだよ」
「招かねざる客?」
ミキの笑顔が少し怖い。
しかし、招かねざる客、ね。
システムウィンドウを開きマップを表示させる。
「はは……。秋山さん、動ける準備をしてください」
「え?」
「お客様のご来訪のようです」
マップ上には、紫のマーカーが表示されていた。
そしてそのマーカーの内、半数は俺達のいる部屋の出入り口へと向かって移動している。
もう半分は窓から見えない場所で止まったまま動かない。
「これは?」
マップを秋山さんにも見えるように動かすがイマイチ理解してくれていないようだ。
「赤いマーカーはモンスターを、青いマーカーは人を指しています。そして過日襲撃された際、ホムンクルスと思われる者は紫で表示されていました」
「な!?」
紫のマーカーの数はおよそ二十個。
だが、俺達だけを狙っているわけでもあるまい。
恐らく所長達の元にも襲撃者は向かっているはずだ。
「まずは所長達と合流しましょう」
「し、しかしどうやって?」
「窓には既に配置され、まだ塞がれていない出口は一つだけ。ならば選べる選択肢はそうありません」
「なるほど……」
正面突破、ですか。
と、顔を青くする秋山さんに俺は安心してくれと首肯を返す。
「ついて来て下さい」
システムウィンドウを展開、ボックスを形成するとその中へと乗り込む。
さて、いっちょやったりますか。
気合を入れ直し、更にシステムウィンドウを展開。
相手の方が数が多い、不意をつかないと追いすがられかねない。
「行きますよ」
返事を待たず、システムウィンドウを軽く浮かせる。
そして天井をぶち抜くと空へと舞い上がった。
「なあああああああ!?!?!?!?」
悲鳴を上げる秋山さんを乗せてシステムウィンドウは本館へと向かう。
ちらりと後ろを振り向くと、窓の外に居た人影が部屋へと突入するところだった。
「これで多少時間が稼げるでしょう」
「正面突破するんじゃなかったんですか!?」
え?
俺そんなこと言ってないし。
狭い場所で、複数の相手に、保護対象を抱えて戦闘なんて勘弁してもらいたいしね。
「ああ……、建物が……」
既に幾つか穴が空いていたのだし、今更一つ二つ増えた所で変わらないでしょうに。
細かいことをガタガタ言うより自分の身の心配をした方がいいと思うんだけどな。
マップを見ると青いマーカーが本館内、端っこの方に表示されていた。
なんとか表示圏内に入ったらしい。
そして彼らに近接して表示されている紫のマーカー。
「秋山さん、所長達は何階に居るんですか?」
「え、えっと第二研究室なので一階の奥かと……」
呆然としている秋山さんから所長達の居場所を聞き出す。
「わかりました。シス、ミキ、リコ、部屋に突入と同時に戦闘開始だ。頼むぞ」
所長達の保護が最優先だ、敵は無理に倒す必要はない。と彼女達に指示をする。
俺の指示に彼女達は各々了承の言葉を口にした。
「どっせい!!」
「あああああ!?!?」
本館の壁に穴を開け、爆音とともに屋内へと侵入。
本来なら相手に気取られないよう、静かに行きたいところだが既に接触されている、時間が惜しい。
警報が本館内部に鳴り響く。
部屋の入り口に陣取っていたホムンクルスをシステムウィンドウで横へと弾き飛ばし室内へと突入。
見ると室内に入り込んでいたホムンクルスの内の一体が、所長達に向かって手を伸ばすところだった。
「させねえ!!」
所長達とホムンクルスとの間に割り込むようにシステムウィンドウを展開。
伸ばされた手が切り飛ばされ、青い体液が所長たちへと降り注ぐ。
「きゃあ!?」
「な!?」
ギリギリだが、なんとか間に合った。
同時にリコが高速で室内を飛び回りホムンクルスの首を刈り取り、その体を床を貫通してきた植物の枝が貫く。
「無事ですか!?」
「悟さん!? これは一体何なんですか!?」
「話は後です! それよりも脱出を急ぎましょう!」
混乱している蛍さんにかまっている時間はない。
マップを見ると俺達に差し向けられていたホムンクルスが本館へと向かってきている。
あまり悠長にしていると再び囲まれてしまう。
囲まれる前に早く。
そう言おうとした所で轟音とともに俺達は暗闇に包まれた。
「な!?」
いや、よく見ると暗闇のカーテンの隙間から光が見える。
システムウィンドウのバックライトを強くし、明るくさせ暗闇を照らす。
「植物……?」
どういうことだ?
窓の外には植物の枝と思わしき物体が密集し、それが暗闇を作り出したようだ。
植物の壁、その隙間からわずかながら光が差し込んでいたらしい。
「ミキ?」
「ボクではないよ。ボクでは、ね」
てっきりミキがやったのかと思ったが違うらしい。
窓を開けて触るが、間違いなく植物だ。
しかしこんなことが出来るのなんてミキくらいなものだと思っていたが、そうでもないのだろうか。
「いやはや、こんなに早い再会になるとは、思ってもいなかったよ。これも運命なのかな?」
一体何が、と思っていると部屋の入口から声がかけられる。
聞き覚えのあるどころか、聞き馴染みのあるその声の持ち主へ俺は顔を向ける。
「ミキ……?」
そこには出会ったばかりの頃のミキの姿があった。




