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第八十二話 牽制

「皆さん知っての通り、九頭龍戦では我が校始まって以来の快挙を成し遂げました。九頭龍戦に出場した生徒を見習い、他の生徒もさらなる研鑽を続けるように頑張ってください」


 壇上では例によって校長の長話が繰り広げられている。

 そして、俺はいつもとは違う席でその話を聞いていた。


 各学年で能力、能力値、そして学力を含めた総合的な実力者が配置されるAクラス。

 今日から俺もそのクラスの生徒だ。



「悟、今日からよろしくね」

「ようこそAクラスへ、だ」

「ああ、こちらこそ頼む」


 校長の長い話が終わり、自分のクラスへと向かう途中平沢と山下に声をかけられる。


 こいつ、クラス委員長なんだよな。

 ショートホームルームで初めて知った。


 平沢曰く、Aクラスのメンバーは皆ランクⅡ以上の能力者で構成されているらしい。

 その中でも特に戦闘に向いている能力持ちである平沢と山下が九頭龍戦のメンバーに抜擢されたそうだ。


「悟が代表入りしたことに不満を持っている奴も居たんだけどな」

「だろうな」


 何故Fクラスの生徒が代表入りするのか。

 通常考えられないことだもんな、不満を持って当然だ。

 その分、枠が減るわけだしね。

 ホームルームでの自己紹介の時も微妙な視線が俺に向けられていたし。


「でも今はそんなやつ誰も居ないぜ」

「そうか?」


 山下が笑いながら間違いないと返してくる。


「そりゃそうだよ、あれだけ圧倒的な力を見せつけたんだ。文句があるならかかってこいって言われたら困るでしょ?」


 平沢の説明は納得行くものではあるのだが、ではあの微妙な視線は何だったのだろうか。

 好意的と見るにはいささか難しい視線だったと思うのだけど。


「あー、それはほら、ね?」

「悟、Fクラスでは当たり前だったかもしれないけど、その状態は初対面だと引くぞ?」

「え?」


 苦笑いしながら察しろと言ってくる平沢と、口元をひくつかせている山下の視線の先にはシスとリコ、そしてミキの姿。

 いつも通り、シスとミキが俺の両腕を取り、リコが背中に張り付いていた。


「たしかにそうだな……」


 当たり前になりすぎていてすっかり忘れていたが、精霊とモンスターとは言え三人とも美少女だ。

 それを侍らせていればそりゃ引くよな。

 むしろ嫌悪感を持たれても仕方がないと思う。

 そう考えるとあの視線はまだましな方だったのだろう。


「精霊ってことは分かっていてもさ」

「だよなー」

「あー、まぁ、そのうち慣れるだろ」


 自分が直すって選択肢はないんだね。

 と、平沢がため息混じりに呟くが仕方がないだろう。

 言ったって聞かないんだし。


「それに有名だからねぇ」


 平沢が眉間を指で抑えながら続ける。


「んー、それはお前らもそうじゃないか?」

「いや、いつも弁当じゃん?」

「弁当で何で有名になるんだよ」

「本気で言っているのか……」


 平沢に続いて山下も呆れた様にため息をつく。


「いつも綾小路さん達と一緒に中庭で弁当広げてるだろ?」

「ああ。でもあれチームメイトだし」


 ミーティングとかもしてるから、あの場は結構重要なんだよね。

 周りからどうこう言われても今更無しには出来ない。


 っと、もう教室だ。

 クラスが替わったせいで少し感覚がずれてしまうな。


「先輩の女子生徒は?」


 教室の扉を開きながら平沢が更に問いかけてくる。

 随分としつこいな、少しめんどくさい。


「いや、伊集院先輩もただのチームメイト」

「あら、婚約者に向かってただのチームメイトってひどくないかしら?」


 教室の中、俺の席には伊集院先輩が座っていた。

 ざわついていた教室に静けさが満ちる。


「伊集院先輩……、どうしてここに?」

「うちの両親が神無月君連れて来いってうるさくてさ」

「はぁ……、はい!?」

「放課後、時間作ってもらいたくて」


 いや、言わんとする事はわかるが、態々(わざわざ)教室まで来るって。

 それも他の学年の、女子が、だ。

 目立って仕方ないだろうに。

 せめて呼び出してほしかった。


「そ、それじゃまたな」

「あ、おい」


 平沢と山下が静かにフェードアウトする。


 待てよ、俺達仲間じゃなかったのかよ。

 そしてシスとミキも俺の腕を手放す。

 おい、その笑顔は何だ。


 そして奇異の視線が俺と伊集院先輩に集中する。


「とりあえず外に出ましょうか」

「あら、強引ね?」

「いいから」


 伊集院先輩の腕を取って立たせると廊下へと連れ出す。

 教室内から『まじかよ』『すげぇ』『羨ましい』といった声が聞こえてくるが、羨ましがられる事なんてなにもないぞ。


「それで、どうして態々(わざわざ)教室に?」

「んー。牽制、かな?」

「へ?」


 シスちゃん達だけだとちょっと厳しそうだったからね。

 そう言って伊集院先輩は笑うと踵を返し去っていったのだった。

 ……、何がしたかったのだろうか。


 俺が教室に戻ると、今度は誰からも視線が向けられなかった。

 不自然なくらいなまでに。


 触らぬ神に祟りなしということだろう。

 Aクラスに配属直後にこれとは。

 悲しくなってくるな……。


「よう、大丈夫だったか?」

「おかえり」

「……、なんだよ裏切り者ども」


 笑いながら俺に近づいてくる平沢達にジト目を返す。


「はは、許せ許せ」

「いやー、流石にあの中に混ざるのはちょっと無理があるよ?」


 そうかもしれないけどさ。


 俺はため息を吐きつつ自分の席へと着いた。


「そういえば、担任も変わるらしいよ」

「へー。この時期にか? 珍しいな」


 平沢と山下が不思議がっているが、俺はそうだろうなとしか思えない。

 だって、なぁ。


「はい、皆席についてー」


 その言葉と同時に水島先生が教室へと入ってきた。

 その手に以前俺が作った踏み台を持って。


「本日よりこのクラスの担任になることになりました。水島 瞳です。これからよろしくお願いいたします」


 数ヶ月前にも同じセリフを聞いた気がする。

 だが、あの時とは違って水島先生の瞳はそこまで濁っていなかった。

 むしろ喜んでいるようにも見える。


「前任の田中先生はFクラスの担任となりました。何かあったらFクラスまで行って聞いてください」


 なるほど。

 他人の不幸は蜜の味というわけか。

 Fクラスだと査定にプラスが付きづらいって前ぼやいていたし。

 性格腐ってんなー。


 ロングホームルームの間、水島先生はずっと上機嫌だった。

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