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第八十話 お試しダンジョン

「それでは各班ごとに順番にダンジョンに入りますからね。お兄さんとお姉さん達にしっかりついていって下さいね」

「「「「はーい」」」」


 青空の下、元気な子供達の声がこだまする。


「それじゃ、手はず通りに」

「了解了解。お姉さんに任せなさい」


 伊集院先輩に耳打ちすると彼女は自分の精霊を顕現させる。


「それにしても、面倒見いいのね」

「見てられなかっただけですよ」

「そっか。うん。良いね」

「何がですか」

「別に。ふふ、さ、行きましょ」


 今回の作戦はこうだ。


 俺達は加奈多ちゃんの班、五班を引率しダンジョンへと入る。

 そこでわざとはぐれさせ、モンスターのふりをした精霊に襲わせる。


 もちろん、遠くから監視はしてるし先にモンスターは殲滅しておく。

 危険な目に合わせるわけにも行かないしね。


 伊集院先輩の精霊は蛇と兎みたいな姿だから、モンスターに変装するのに丁度よかったのだ。


「楽しみだね」

「ちょっとドキドキする」

「九頭龍の人がついてるから大丈夫でしょ」

「まぁね」

「……」


 加奈多ちゃん曰く、彼女達はわざとちょっと逸れ(はぐれ)る計画を立てているらしい。

 自分達だけでダンジョンを歩いてみたいだとかで。


 ダンジョンを甘く見ていると将来的にもあまり良くないだろうし。

 この場を借りてお灸をすえる必要もある。


 と言うか、知らなかったら本気で焦っていたかもしれない。

 今回はその計画に便乗させてもらうけどね。


 五班のメンバーは、それぞれの期待と思惑を秘め、順番を待つのだった。



「それじゃしゅっぱーつ!」

「「「「おー!」」」」


 俺達の番となり、意気揚々とダンジョンへと足をすすめる。

 こっそり後ろを見ると何やらコソコソと話をしている。


「次の曲がり角で……」

「うん、そしたら階段があるから……」


 事前情報通り、か。

 まぁ加奈多ちゃんが怒るのも無理はないな。


「リコ、ミキ、頼むぞ」

「任せといてや」

「うん、大丈夫。見つかりはしないよ」


 体が小さく隠れやすいリコと、植物を使ったカモフラージュが出来るミキを先行させる。


「コウ、ぴょん吉、行ってらっしゃい」


 それに合わせて伊集院先輩も精霊に指示を出す。

 何気に先輩の精霊の名前初めて聞いたけど、コウはともかくぴょん吉って。

 そう思ったものの、俺には他人のネーミングセンスにどうこう言える権利はないなと思い直す。


 そして俺達はその時を待った。



「行ったね」

「ええ」


 予定通り、彼女達は俺達と逸れ(はぐれ)、二階へ続く階段を降りたようだ。

 さてと、とりあえずゆっくりと後を追うとしますかね。


▼▼▼

▼▼


「へへっ、作戦通り!」

「やったね!」

「九頭龍って言っても大したことないね!」

「思ったよりあっさり行ったもんね」


 伊集院先輩の能力で彼女達の音声を拾っているが、調子に乗ってるなぁ。

 これは事前に止めてもどこかで暴走しただろう。

 うん、誘導してよかった。


「ねぇ、戻ろうよ……」

「このまままっすぐ行けば次の階段みたいだよ!」

「全然モンスターいないし、ダンジョン攻略できちゃうんじゃない!?」


 加奈多ちゃんの制止の声は無視される。

 そして更に奥へと行こうと言う声が上がった。


 おいおい、少し奥まで行くだけじゃないのかよ。

 土壇場での計画変更はろくなことにならないのに。


 と言うか、モンスターが居ないのは事前に俺達が殲滅していたからなんだけど。

 それも三階まで。

 探索範囲は一階だけの予定だったからな。

 そこから下はモンスターが普通に出現するのに。

 水島先生の説明もちゃんと聞いてなかったようだ。


「危ないし、怒られるよ?」

「うるさいなぁ、だったら佐々木さんだけ戻ればいいじゃん」

「それは……」

「ダンジョン攻略しちゃえば別に怒られないでしょ?」

「そうそう、九頭龍の人だってダンジョン勝手に攻略したことあるって言ってたし!」


 いや、あれとこれとは事情が違うのだが。

 説明がうまくなかったかな。

 少し反省だ。


「どうする? ちょっと早いけど三階に降りられる前にやる?」

「いえ、もう少し様子を見ましょう。それにミキの仕込みがまだ終わってませんから」


 戻り道を一部封鎖し、帰れなくするのだ。

 戻れないという事実が恐怖を煽ってくれるだろう。



「なんで!? なんでモンスターが階段上がってくるの!?」

「わかんないよ! それより次どっち!?」

「え、えっと右のはず!」

「そっち行き止まりになってるよ!?」

「なんで!?」


 よしよし、いい感じに混乱してくれている。

 全力で逃げ惑う彼女達を、赤いうさぎと黒い蛇が追い立てる。

 落ち着いてみれば結構可愛いんだが、恐怖と焦りが彼女達から冷静な判断力を奪っていた。


 俺はマップを確認しながら伊集院先輩に指示を出し、逃げ惑う彼女達を袋小路へと追いやっていく。


「ここも行き止まり!?」

「も、戻らないと!」

「でもモンスターがもう来てるよ!?」

「だ、誰か助けて!! お兄さん! お姉さん!?」


 潮時かな。

 そう判断し、俺達は姿を現す。


「はい、呼んだかな?」

「「「「お兄さん!?」」」」


 それと同時にシステムウィンドウを展開。

 追いかけてきた精霊との間に壁を作る。

 もちろん不可視化していないものをだ。

 そしてこの間に伊集院先輩の精霊は顕現を解いておく。


「逸れちゃダメじゃないか」

「よ、よかった……」

「助かったの……?」

「ごめんなさい……」


 安堵の表情を浮かべてへたり込む少女達。

 ちょっと脅しすぎた気がしないでもないけど、反省はしてくれただろう。


「ともかく無事でよかった。さ、戻るよ」

「はい……」



「……、ごめんなさい、佐々木さんの言うとおりだったわ……」

「うん、もっとダンジョンのこと先に勉強しておけばよかった……」

「ううん、私こそごめんなさい。皆楽しんでるのに空気読めてなかった」


 無事ダンジョンから撤退し、点呼を取っていると加奈多ちゃんの班の方からそんな会話が聞こえてくる。

 どうにか和解できたみたいだな。

 骨を折ったかいがあったというものだ。


 これから先は分からないが、とりあえずは大丈夫だろう。

 と、加奈多ちゃんが友達と離れてこちらにやってくる。


「お兄さん。ちょっと耳貸してください」

「ん?」


 なんだろうか。

 俺はしゃがんで彼女に耳を向ける。


 ちゅっ。


「え?」

「ありがとうございました!」


 そう言うと彼女は再び友達の元へと走り去っていったのだった。


 全く、ませてるなぁ。

 俺はぬくもりの残る自分の頬を、軽く撫でるのだった。


 その後の飯盒炊爨(はんごうすいさん)、ドラム缶風呂。

 そして翌日のハイキング、参拝。

 時折加奈多ちゃん達の様子を窺って(うかがって)いたが、あれ以降は仲良くやっている様だ。


 俺は肩の荷が下りた気持ちで帰りのバスへと乗り込み、そして最後尾の座席に正座するのだった。


これで第二章分に該当する部分が終わります。

次回更新は土曜日予定でその次は水曜日です。

週2回の投稿予定ですー。

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