第八話 生徒会室の客間にて
生徒会室の客間のソファーは中々に座り心地が良い。
かなりいいものを置いているのだろう。
昼下がりのこの時間、暖かい日差しにこのソファーってかなり凶悪な組み合わせだと思うんだ。
具体的には昼寝したい。
昨日の疲れがまだ抜けきってないんだよね。
「ふかふかやわぁ……」
「このソファー、持って帰っちゃ駄目かな」
「駄目だろ……」
そしてシスとリコが俺の両脇でソファーに感動していた。
テーブルも、その上に置かれたティーカップもちょっとしたブランド品だ。
それにしても生徒会用の客間があるとか、生徒会の力の大きさを改めて実感する。
お、このクッキーも高級品じゃないか。
多分紅茶も良いものなんだろうな。
事情聴取の疲れを紅茶とクッキーで癒やせってことなのかな。
「さて、それでは改めて礼を言わせてもらおう」
「神宮寺会長、俺は自分の仕事をしただけですよ」
うん、俺がしたことと言えば警戒と補給だけだし。
俺は何もしていない。
ボス云々はシスが一人でやったことだ。
「ポーターがボスを撃破するのが仕事だと?」
「いえ、そういうわけでは」
鋭い眼光にさらされて思わず萎縮してしまう。
精霊の行動は能力者の意思とみなされるのが普通だからな。
俺は何もしていないとはいえ、俺がやったこととなるのだろう。
しかし、シスに少し申し訳ないような気がしてしまう。
「ちょっと、威圧しないでもらえますか?」
「ますたーいじめるなら容赦はせんで?」
しかし負けじと俺の両脇から反撃の声が返される。
半腰になりテーブルに乗り出して抗議をあげる二人。
「……、ちょっとした冗談だ。それに先程述べた通り、礼を言いたかっただけだ」
おお、神宮寺会長がたじろんでいる。
って、おい、君達、相手は目上の人なんだからそれくらいにしといてくれ。
「わっ!?」
「にゃっ!?」
とりあえず首根っこを掴んで席につかせた。
これではいつまでたっても話が進まないじゃないか。
「ごほん。君のお陰で優秀な部下を失わないで済んだ。これは生徒会にとってだけでなく、高校、ひいては日本に貢献してくれたといえる」
「あ、いえ、大げさすぎますよ」
「大げさなものか。彼らは二年の中では最上位の者なのだぞ? 卒業後は冒険者となることが内定している程だ」
「それはすごいですね……」
二年生で冒険者の内定が出るほどの実力者だったのか。
気安く接してきてくれたおかげで全く気が付かなかった。
そりゃそうか、戦力外の俺をお守りしながらダンジョンに潜れるんだもんな。
「理解してくれたか? それだけに君の功績は大きいのだ」
「はぁ……」
生徒会が云々ならともかく、日本がーと言われてもピンとこない。
いや、感謝の念はひしひしと感じるんだけどさ。
「それにそこの新しい精霊の件もある」
「あー、ダンジョンコア破壊したのはまずかったですか?」
シスの勢いに飲まれてコアを何となく破壊したが、許可とか必要だったのではないだろうか。
冒険者やダンジョン調査委員会のメンバーならともかく、俺はポーターとして参加していたわけだし。
「たしかにダンジョンコアが破壊されたことでダンジョンの調査ができなくなったのは痛いが、緊急避難だったことは理解している」
「それなら良かったです」
ちょっとほっとした、せっかく人助けしたのにコアを破壊したかっただけだと思われるのは辛い。
「それよりも、だ。あのダンジョンは恐らくレベルⅢだったと思われる」
「レベルⅢですか?」
レベルⅢって。
日本には九つしかなかったんじゃ?
それも国にしっかり管理されていたような。
「ああ、ほとんど間違いないだろう」
「しかし二十階層が最下層でしたよ?」
「稀に階層の少ないダンジョンが存在する。そういったダンジョンは階層が浅い分悪意度が高い。質の悪い罠が仕掛けられていたりな」
確かに授業で習ったようなトラップとは異質のトラップだったな。
だから引っかかってしまったのだが。
それにダンジョンのモンスターが自分の武器で退却路を塞ぐなんて聞いたことが無い。
「レベルⅡダンジョンのスタンピードが発生したなんて聞いていませんけど……」
そもそもレベルⅡダンジョンも各都道府県が管理しており、そうそうレベルⅢダンジョンが発生するはずがない。
レベルⅠは各市町村レベルの管理だから稀に発生してお茶の間を賑わせているけれど。
「恐らくだが、ダンジョンを神聖視している連中の仕業だろう」
「なんですかそれ」
「ダンジョンは神から与えられたものであり、神聖なものである。人間はダンジョンを攻略するのではなく、それを崇め、流れに身を任せるべきだ」
「……」
「そんな主張をする奴らが居るのさ」
それで、スタンピードの犠牲になれと?
ふざけてるな。
「それとこれがどうつながるんです?」
「新しく発生したダンジョンを隠匿し、自分達だけでスタンピードを処理する。そうすればどうなる?」
「……、誰にも気づかれる事なくダンジョンのレベルが上がります」
「そして高レベルダンジョンを作り、スタンピードを発生させる。これが連中の狙いだ」
「なるほど」
同じ人間とは思えない狂った思考としか思えない。
何を信じるかは本人の自由だが、それを人に押し付けないで欲しいものだ。
「今回はたまたまスタンピードが発生する前に対処できたから良かったが、手遅れになっていたかと思うとゾッとする」
「ですね……」
レベルⅢダンジョンのスタンピード、それは想像を絶する被害を撒き散らす。
俺はそのことをよく知っている。
乾いた喉を潤そうと紅茶を一口含みクッキーに手を伸ばす。
しかし皿は空であった。
……。
おい。
「能力値の検査と能力の確認は明日だったな?」
「ええ、今日は事情聴取のみでしたから」
結果的に誰も死ななかったとはいえ、危なく四人も死にかけたのだ。
軽く話を聞いて終了という訳には行かなかった。
神事省のお偉いさん達に半日問い詰められ、もう俺はいっぱいいっぱいですよ。
これがしばらく続くと思うと憂鬱だ。
「ともあれ、休みを二日とも潰してしまったな、この埋め合わせはまたいずれ」
「お構いなく。紅茶、ごちそうさまでした」
「次からはもう少し多めにお茶請けを用意することにするよ」
「スミマセン……」
神宮寺会長は苦笑いしながら空になった皿とティーカップを手に取り、給湯室へと向かった。
「なかなか美味なクッキーでした」
「そやな。ますたーにふさわしい茶請けやったな」
シスとリコが満足気に首を振る。
そうか、美味しかったか。
「その茶請け、俺一口も食べてないんだけど?」
有名ブランドのクッキー、ちょっと楽しみだったんだけどなぁ。
せめて一個くらい残してくれていても良かろうに。
「うっ……」
「そ、その、毒味をしたんよ! 変なものが混じってないか心配やったんや!」
「そうそう!」
「それで全部食べたと?」
「「ゴメンナサイ」」
「気をつけてくれよ……」
お前も大変だな? と言っているようにしか見えない会長の苦笑いが忘れられない。
あ、でも哀れに思って割のいいクエストを紹介してもらえるかもしれないな。
はは……。
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