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第七十七話 花火、その火が落ちる前に

 ヒューン…… ドンッ!!


「たーまや~」


 日が落ちて、花火大会が始まった。

 人混みの中見ることになるかと思っていたのだが。

 俺達は今、丸いテーブルの上にで店で購入した食べ物を並べ、椅子に座っていた。

 伊集院先輩の実家がスポンサーをしているらしく、スポンサー席に座れたのだ。


 ヒュルヒュル~…… パパパッ!


「かーぎや~」


 俺の左隣では伊集院先輩が嬉しそうに手を叩いている。

 いつもはシスの指定席なのだが、今日は特別に譲ってくれたらしい。

 譲るってなんだ、譲るって。


 それにしても、いつもと違う顔がそこにあると思うと少し緊張する。


「ん? どしたん?」

「いえ、なんでもないです」


 花火に照らされた先輩の横顔を見つめてしまっていた事に、先輩から聞かれて気づく。

 思わずなんでもないと答えて、正面を見るとシスの後ろ姿がそこにあった。

 少し申し訳ない気分になってしまう。


 いや、別に浮気とかではないのだが。

 いやいや、浮気ってなんだよ。

 疲れてるのかな。


「綺麗だねー」

「そう、ですね」


 これで伊集院先輩が恋人とかなら、君の方が綺麗だとか歯の浮くような答えも出来るのだろうか。

 生憎と俺達はそんな関係にはない。

 なろうとしても立ちはだかる障壁(シスとリコとミキ)を越えれない気がするが。


 そんなことを考えながら、たこ焼きを一つ口の中に放り込む。


「熱っ!」

「あはは、たこ焼きって見た目以上に中が熱かったりするよね。はい、ジュース」

「あちち。ありがとうございます」


 伊集院先輩からジュースを受け取り口に含む。

 冷たいジュースが口を冷ましてくれるが、舌の先には少しの熱が残った。


 それにしても美少女に囲まれ、のんびりと花火を鑑賞する。

 少し前までは考えられなかった贅沢だよなぁ。


「神無月達も来ていたんだな」

「あれ、神宮寺先輩?」


 後ろから声をかけられ振り向くと、甚兵衛に身を包んだ神宮寺先輩が腕を組んでいた。

 若干疲れているような雰囲気だが、何かあったのだろうか。

 インタビューや記者会見、講演会への出席で忙しいのは知っているけれど。


 神宮寺先輩が疲れを隠しきれないなんて相当なのかな。

 おかげで俺達が平穏な生活を満喫できているわけだし、感謝しなければと思う。


「俺の実家もこの花火大会のスポンサードしていてな」

「そうだったんですか。俺達は伊集院先輩のお相伴に預かっているところですよ」


 そう言って俺は伊集院先輩の方に視線を向ける。


「そう、か」

「……、神宮寺先輩、こんばんわ」

「ああ、伊集院。……、元気そうで何よりだ」


 何この空気。

 二人の間に何かあったのだろうか。

 伊集院先輩の笑顔がこわばって見えるし、神宮寺先輩は急に無表情に切り替わる。


「それじゃすまないが俺は御暇(おいとま)させてもらうよ」

「え、一緒に花火見ないんですか?」


 てっきり一緒に見ようと言う流れになると思っていたのだが。

 この微妙な空気の原因によるものか?

 呼び止めると微妙に眉間に皺を寄せ、ため息をつかれた。


「はは、そうしたいのは山々なんだが、な。あー、これでも少し忙しくてな」

「そう、ですか?」

「また次の機会にでも誘ってくれ」

「はい、その際は是非に」


 ああ、楽しみにしていると神宮寺先輩は言い残し去っていった。


「えっと……」

「あ、このポテト美味しい! 神無月君、はい、あーん」


 聞くなってことか。

 俺は少し冷めたポテトを咀嚼しながら再び花火へと目を向けた。


 ちょうど仕掛け花火が始まり、黒いキャンバスにピンクのハートを描いていく。

 ピンクのハートがこれからの騒動を予見しているかのように揺らぐのだった。



「またね!」

「ミキ、元気でね……?」

「お疲れ!」

「おーう」


 綾小路達と途中で別れ寮へと向かう。

 伊集院先輩は今日は寮に戻るらしく、俺の一歩前を歩いていた。

 彼女の長い髪が、歩みに合わせて揺れ動く。 

 街灯の作り出した影に、煌めく髪のコントラスト。

 思わず見惚れて(みとれて)しまう。


「ねぇ、神無月君」


 だからだろうか。

 彼女の急な問いに思わず息を呑んだ。


「ちょっとだけ、甘えてもいいかな……?」

「え?」


 一歩前を歩く伊集院先輩の表情は見えない。

 しかし、震えるような声でのその一言。

 どういう意味なのだろうか。


「少しだけ、少しだけ助けてほしいの」

「……、俺に出来ることなら」


 思えば伊集院先輩には助けてもらってばかりだ。

 ここらで恩を返したいと思う。

 それに同じチームの仲間だ。

 損得勘定抜きで、助けたいと思うのは当たり前だよな。


「いつも助けてもらってばかりでごめんね?」


 振り向いたかと思うと、俺に近づきそんなことを言ってきた。

 随分と弱っているように見える。


「いや、むしろ俺の方が色々助けてもらってますし」

「そっか。うん、神無月君はそうなんだね」

「はぁ」


 微笑む伊集院先輩には、どこか寂しげな目をしていた。

 すぐに俺から離れて前を向いてしまったので、それ以上は何も聞けなかったが……。


 神宮寺先輩や伊集院先輩がトラブルに巻き込まれているとするなら、俺は全力で協力したい。

 それだけの恩を、俺は受けている。

 それに二人は身内みたいなものだ。


 そんなことを考えながら、沈黙の支配する夜道を歩いていった。



 その姿を見ていた者は、残念ながらたくさんいたらしい。

 そのことを俺は三日後、シスの持ってきた雑誌の記事で知った。


 「なんだこれ……」


 記事には『英雄色を好む?』の見出しとともに、俺達の写真がデカデカと掲載されていた。

 一応、顔はまともに写っていないが、見る人が見れば俺だとすぐわかる。

 そして、金髪の女性、伊集院先輩が俺にキスをしているかのように見える角度でその写真は撮られていたのだ。

 これがプロの仕事ってやつか。

 もっとまともなことにその腕を使えば良いのにと思ってしまう。


「一応伊集院先輩にも連絡しとくか……」

「あー、私からしておこうか?」

「すまん、頼む」


 俺から連絡するよりシスからのほうがいいだろう。

 そう考え、俺はシスに連絡を頼むのだった。

もう少しでキリの良い所まで行くので投稿ペース落としますね。

週2くらいに落とす予定ですー。

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