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第七十六話 風物詩

「ここっ!」


 シスが掛け声とともに引き金を引くと、ぽんっと言う軽い音とともに鉄の筒からコルクの弾丸が飛び出す。

 それは吸い込まれるように景品にぶつかると、景品を棚から墜落させた。


「お嬢ちゃんやるねぇ……」

「いえいえ、それほどでもありますけどね!」


 彼女の自慢気な顔と対象的に青くなっている的屋の店員。

 当然だろう。

 なんせ彼女の足元には現在、景品が積み上がっていたのだから。


「お姉ちゃん凄い!!」

「かっこいー!」


 子供たちからの声援を浴び、シスが満足気に腕を上げると歓声が上がった。


「ちょい、シス、腕下げろ。見えてる」

「え? あっ」


 なお、歓声を上げたのは周りで見ていたおっさんたちである。

 調子に乗りすぎたシスが悪いとは言え、ちょっともやっと来るな。


「それくらいで次行くぞ」

「え、でもまだ景品残ってるし……」


 根こそぎやるつもりですか貴女(あなた)

 他の子が遊べなくなっちゃうでしょ!


「うちもかっこいいとこますたーに見せたいんやけど」

「うー、仕方ないわね……」


 渋々ながらも景品をストレージに格納し、次の店へと向かう。

 当然次はくじ引きだ。

 リコならきっと大当たりを引いてくれるに違いない。



 と思っていた時期もありました。


「そんな……、ありえへん……、なんでや……、こないことが……」

「まぁ、元気出せ?」


 可哀想なくらいに落ち込んでいるリコが手に持つ三枚の札には、それぞれ九十九の文字が印字されている。

 ちなみに大当たりは百番以上だ。

 つまり、このくじには当たりが入ってないってことなんだよ!!


 まぁ分かってたけどね。

 くじっていうのはそういうのも楽しむものだし。


「こ、こうなったら不幸改変で……」

「やめい!」


 俺は慌ててリコを止める。

 こんなどうでもいいことでアカシックレコード書き換えるとか笑えないから。


「せやかてますたー……」


 店の前にかじりつくリコを見て店員も苦笑いしている。

 仕方ないな。

 教育も俺の仕事、そういうことなんだろう。


「あー、もう。ちょっとこっち来い」

「え、ますたー? 人目が無い所に呼び出して……、まさか……?」


 ちげーよ。


「優しく、してや……?」


 目を潤ませ、頬を染め、見上げてくるリコ。


 ゴスッ


 俺は彼女の狐耳の隙間にそっと拳を落とした。


「いたあああ!?」


 頭を抱えて蹲る(うずくまる)リコに的屋のくじについて教えてやった。


「そんなん詐欺やん……」

「まぁそうなんだけど、そういうのを子供たちが学ぶ場でもあるからな」


 一概に悪いとも言えないのだ。

 それにそういうのも含めて風物詩というのだから。


「むぐぐぐ……」

「ほれ、はぶててないで行くぞ。りんご飴食べるんだろ?」

「……、しゃーないなぁ。誤魔化されたるわ!」


 スキップするリコをつれてシス達と合流する。

 そこには袋いっぱいに金魚を詰め込み、満面の笑みを浮かべるミキが待ち構えていた。


「……、返してきなさい」

「な、なんでだい?」


 そんなに飼えない、というか、持って帰るまでに酸欠で死んじゃうから。

 その袋、水より金魚のほうが多いでしょ。

 ってかもう何匹か死んでないかこれ。


「死んだらストレージに入るし、問題ないと思うのだけど……」


 死んだ金魚食べるつもりかよ。

 ……。


「ちょっとこっち来い」

「え、外で、かい?」


 少し照れくさそうに、しかし嬉しそうについてくるミキ。

 お前もか。


 ドスンッ


「こ、これは効くね……」


 リコと同じように頭を抱えて蹲るミキに金魚は食用ではないことを教えると、衝撃を受けていた。

 一般常識に一部齟齬(そご)があるようだ。

 俺にとっては当たり前でも、彼女達にとってはそうじゃないんだよな。

 気をつけないと。


「確かに、食べるところも少なそうだしね」


 そうじゃないんだが。

 もういいや。



「おかえりー」

「すまん、待たせた」

「あはは、仕方ない仕方ない」

「ミキ、大丈夫……?」


 綾小路達の持つビニール袋を見ると、出目金と小赤が一匹ずつ入っていた。

 うん、これくらいが普通だよな。


 ん?

 あれ?


「伊集院先輩、それは……?」

「私金魚すくい苦手なのよね」


 たははっと笑いながら頬を指で掻く伊集院先輩の左手のビニール袋には、金魚といっていいのだろうか。

 袋の半分近くを専有する巨大な出目金が入っていた。

 なんでも一匹も取れなかった伊集院先輩に、店の人が特別サービスしてくれたらしい。


 サービスでこんなでかいの普通くれるか?

 まぁ、店員の気持はよく分かる。

 つい目が吸い寄せられちゃうもんね。

 持ってる人は得だよなぁ。


「あ、私フランクフルト食べたいんだけど」

「んじゃ行くか」


 しかし寺門の視線の先には行列が。


「あー、待たした詫びに俺が並んでくるよ」

「お、悪いね?」

「あ、なら私のも良い?」

「もちろん」


 綾小路達から代金を受取行列に並ぶ。

 ふぅ、少し疲れたかな。

 なんせあちらこちらから視線を感じるのだ。

 時々声も掛けられるし。


「お、あんちゃん、九頭龍戦に出てた子かい?」

「あー、まぁそうです」


 行列が消化され俺の番になると店のおっちゃんからも声をかけられる。


「なるほどなぁ。英雄、色を好むってやつか?」

「違いますから……」


 同じパーティーの仲間と精霊ってだけです。

 そりゃ皆可愛いから、誰かとって考えないでもないけどさ。

 でもそうなったらギスギスしそうだし。


「ははっ、謙遜すんなよ、色男! ほら、こいつはサービスだ。早く持って行ってやんな!」

「あ、ドウモスミマセン」


 タダでもらうのは少し気が引けたが、好意を無駄にするわけにも行くまい。

 フランクフルトを人数分受け取り、礼を言うと俺は皆の元へと戻っていった。


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