第七十四話 金色の軌跡
リコの白い肌が小麦色に焼ける頃。
成果を見せたいからと模擬戦場についてくるように言われた。
これまであまり来ないでくれと言っていたのに、態々呼ぶということは相当に自信があるということなのだろう。
「今日はな、修練の仕上げっちゅーことで師匠と模擬戦する予定やねん」
「そ、そうか」
師匠ってなんだよ、師匠って。
いや、わかるけどさ。
なんかモヤッとするものがあるな。
複雑な思いを抱えながら俺はリコと一緒に模擬戦場へと向かった。
模擬戦場の中央。
座禅でも組んでいるのだろうか。
いつもより低い位置に水島先生の黒いツインテールが揺れていた。
揺れる黒ツインテールの背景は白い道着。
てっきりジャージとかを着込んでいるものだとばかり思っていたが。
「……、来たわね」
こちらを見ることもなく俺達の到着を察知したのか水島先生が声を上げる。
……、何となくリコの口元を抑え、少し待ってみる。
「あれ、違ったかしら。今度こそはと思ったんだけどなぁ」
何かしら気配がする度に言っていたようだ。
うん、そんな気はしてた。
「押忍! 師匠押忍!!」
「……、こんにちわ」
「え、あ。き、来たわね?」
今更取り繕っても遅いだろうに。
まぁいいや。
「いつもありがとうございます」
「ううん、私も好きでやってることだしね」
礼を言うと爽やかな笑顔をこちらに返してきたが、訓練中の狂ったような笑顔を知っていると何とも言えない気分になってしまう。
これが大人になるということなのだろうか。
「さて、早いとこ始めるとしましょうか」
「押忍!」
「さ、かかってきなさい」
「胸をお借りするで!」
無い袖は振れない。
そんな考えが一瞬よぎったが、戦闘音にかき消された。
ガンッ ザシュッ ギンッ シュパッ
茶色と黒の影が模擬戦場内を飛び交う。
二つの影が時折交差しては火花とともに何かがぶつかりあるような音が聞こえてくる。
え、なにこれ。
二人共徒手空拳だったはずなのに何でそんな音が?
それになんとか視認はできるけど、この速さって何よ。
水島先生は能力で強化されているのだろうけど、リコは一体……。
ガガッ ザッ シャッ
戦場音楽が模擬戦場にこだまする。
徐々にヒートアップするビートに俺もあてられているのか、リコが輝いているようにみえる。
茶色の影は閃光と代わり、ステージに金色の線を描く。
黒の蛇が光を呑み込まんと追いすがるが紙一重で躱す。
「そいやっ!!」
リコの回し蹴りが水島先生へと向かう、しかし単純な攻撃は余裕を持って躱される。
が、それがリコの狙いだったのだろう。
仰け反り躱した水島先生へ、尻尾の追撃が襲いかかる。
ガガッ
「くっ、やるわね!!」
だが、高速の打撃が尻尾を迎撃。
更に後ろ回し蹴りを放つと、リコの横腹に直撃した。
「キャンっ!!」
吹き飛ばされるリコ。
そして模擬戦場の中央に立つ水島先生。
リコは壁に衝突、そのまま地面へと倒れ込んでいく。
これは勝負あったな。
「まだやっ!」
しかし、既で踏みとどまると、倒れる勢いそのままに水島先生へと突貫する。
「いいわ、来なさい」
正面から迎え撃つ水島先生へ、金の弾丸が突き進む。
「「うおおおおおおおおおお!」」
水島先生の防御を貫かんとするリコ。
しかし崩せず。
勢いを殺されたリコの首元へ掌底が吸い込まれ――
「がはっ……」
――防御することも叶わず、リコは地面へと沈んだ。
「ぷはぁっ!!」
火照った体にキンキンに冷えたビールは最高に効く。
それが戦いによってもたらされた熱であればなおさらなのだろう。
「あー、もう、このために生きてるって感じ」
「幸せそうですね」
「神無月君も飲む?」
「高校生にお酒勧めないでくださいよ」
「じょーだんに決まってるでしょー」
ケラケラと笑いながら再び缶に口をつけ傾ける。
ゴクリゴクリと、気持ちよさそうな音とともにビールを嚥下していく。
その隣ではリコも美味しそうにビールを呷っていた。
見た目的にはアウトなのだが、リコは精霊だしな。
それに嬉しそうに尻尾を振っているのを見ると止めるのもどうかと思ってしまう。
「おー、リコちゃんいける口?」
「初めて飲んだけど旨いもんやなぁ!」
「でしょー?」
真偽は定かではないが、水島先生曰く、先生の流派は弟子が昇段した際等に杯を酌み交わす伝統があるそうだ。
……、ビールを杯というのはどうなのかと思うが。
まぁ、目出度いことがあれば呑み交わすと言うのは分からないでもない。
「それじゃ俺は先に帰ってるよ」
「え、あ、それじゃうちも……」
「水島先生、リコをお願いでいますか?」
リコもついてこようとするがそれは押しとどめる。
今日くらいは、ね。
「いいわよー。もしあれだったら私の家で面倒見るから」
「何から何まですみません」
「弟子のためだから気にしないで」
「し、師匠!!」
「リコちゃん!!」
ヒシッと抱きしめ合う二人。
その手にビール缶を握っていなければ様になったのだろうが、シュワシュワと音を立てるその存在が全てを台無しにしていた。
「うう……、頭痛い……」
次の日、リコは頭痛と吐き気に悩まされていた。
本人曰く修練の結果だそうだが、間違いなく二日酔いである。
だってアルコール臭いんだもん……。
「ほら、リコ」
「ありがと……、おいし……」
「それ飲んだら寝てなさいよ」
「はぁい……」
シスの作ってくれた大根の味噌汁のおかげか、半日後には回復していたが。




